師匠②
突如、暴走する竜也の業。
全身を纏う鎧は今にもはち切れんばかりに膨らみ始める。
「はぁっ!」
その腹に雷速の様な蹴りが入り、竜也の業は四散した。
まだ、治まらない鼓動に竜也は息を切らしうな垂れる。
「業が意思を持ち、使用者を襲うとはな」
師匠は胸を抑える竜也を支え立たせる。
「はぁはぁ」
「まだやれるな」
師匠は竜也を大丈夫か、などと心配せず修行を続けようとする。
「はい」と小さく呟く竜也。
「ちょ、ちょっと!今の状況わかってたの?またあなたあの時みたいになってたのよ」
部屋の隅に置かれた由美が怒声をあげる。
「わかっているさ、だからこそやらなくちゃ」
竜也は深く深呼吸をし、師匠の前に立つ。
「この力を制御しなければ前には進めない、いや進んじゃいけない気がするんだ」
「よく言った竜也、ここで泣き言を言うなら師事をやめていたぞ」
師匠は嬉しそうに竜也を褒め称える。
「はぁ~」と呆れ混じりのため息が由美から漏れる。
「由美、お前だって最初は弓矢を暴発させて泣いていたではないか。
やめておくか?と言った私に泣きながら続けるとほっぺを膨らましていたな。
自分は良くて他人にはダメなどという道理は教えてはおらんぞ」
「うっ」
懐かしいなと笑う神父。
由美は完全に押し黙ってしまった。
「師匠、俺はどうすればこの力を制御出来る様になれるんですか?」
「今と同じ事を繰り返せばいい、失敗すればまたお前の業を解除しよう」
「「は?」」と2人して呆けた声が出る。
「お前の業はお前を取り込もうとする、その声、衝動を抑え込むのだ。
失敗なら何度でもすればいい、失敗しなければ応用力は身につけられない」
「そうですね、失敗なら慣れっこですよ」
そして、再び竜也は業を纏い
そして、師匠に殴られ、蹴られるという行為を幾度も繰り返す。
両者の行動を由美はただ傍観する。
以前より長く業を発現したかと思えば、次は今までよりも短くなった。
長い、短い、平均
それを繰り返す。
業が暴走する時、由美もまた何かにまとわりつかれる感じがするのだ。
それはとても不快だった。
夜の海に沈められたような不安感、恐怖。
だが、そんな感傷よりも竜也の姿が目から離せなかった。
弱音を吐けなかった。
戒業の刻印は業を抑制し、強い衝撃を与えるだけで業を強制的に解除する効力を持つ。
それは精神力を大きく消費するという事だ。
それでも彼はまた立ち上がり、師匠の前に立つ。
もう常人ならば弱音を吐いてもいい頃合だ。
なのに、
「まだ、いいですか?」
なぜ、これほどまでに諦めが悪いのか
やめるという行動が嫌いなのか?
意地でもやめないのか?
やめるという事を忘れるほど没頭しているのか?
いいや、違う
彼は諦める事が嫌いなのだ。
彼の目にはその先の事しか見えていない。
諦めた自分と諦めなかった自分。
きっと彼は後者の自分を思い浮かべている。
そこにある成功を信じて、彼は再び立ち上がる。
「驚いたな、刻印が根を上げ始めるとは」
師匠は竜也に待てと号令をかける。
「あっ、刻印が」
竜也の刻印があわく光っているのである。
塗った時はもう少し強く光っていたはずなのだが
「そりゃ、そうよ、もう何時間も修行してるんだから」
由美は呆れた様に拗ねた声を出す。
「そ、そんなにやってたのか?」
「仕方がない、今日はここまでにしよう」
「明日もよろしくお願いします」




