具現
――夢を見た。
おれの今までの人生を振り返るような内容だ。
愛人を作って逃げ出した父親の後ろ姿。
いつからか心が壊れ宗教に溺れ失踪した母親の生気のない顔。
両親に捨てられた俺。
ある日出会った彼女。
彼女との同居生活は上手くいっていた。
だがあの日、会社の研修を断っていればと今も悔いている。
「ただいま――……っ!」
アパートの玄関を開け、そこにあった異臭と吊るされた彼女の亡骸。
なぜ俺だけがこんなに目にあうのかと泣き叫んだ。
この世の全てが憎くて仕方なかった。
だが傷つくのも傷つけるのも恐れ、ただ耐えるだけの人生。
それでも救われる日が来ると信じて耐えてきた。
それでも、最後に残ったのは燃えたぎるような憎しみだけだった。
俺が何をした!
こんな目にあう為に生まれてきたのではない!
人は幸せになる為に、それを探求する為に生きてるはずだ!
それがなんだ、この様は!
家族も恋人も夢も全て、失い続けてきた!
欲望のままに生きるのが正しかったのか?
だが、そこに俺が望んだモノはあったのだろうか。
確かめる術はない。
もう、それも叶わない。
後悔だらけの人生。
俺にはもう何もない……
「これがおれの人生か」
そうつぶやき、目が覚める。
目を開けた瞬間、まぶたにたまってた涙が流れる。
小波の音が聞こえ、身体を起こす。
「あれ?海?」
綺麗な丸い夕日は海岸線に頭を沈めませようとしている。
人は死んだら海に還る。
そんな事を聞いた覚えがある。
「おっ目が覚めた?」
少年の声が聞こえ、その方向に顔を向ける。
そこには褐色の肌の邪気のない笑顔で立つ少年がいた。
後ろに束ねている特徴的な長い白髪が潮風になびいている。
「君は誰だ?おれは死んだのか?なんでここにいる?」
「俺はお前だよ、もちろん生きてる。俺も目が覚めたばかりでね、よく理解はしていない」
「どういうことだ?」
生きているという事以外は意味がわからなかった。
状況が把握できていない今、とてもこの少年を構える心境ではない。
俺はあの化物に会って意識を失ったんだ。
この子もなにか関係しているのか?
「なに?その不満そうな顔は?質問には全部答えたんだけどな。
それにしてもあの化物が俺に形を与えてくれるとはな。
おかげでお前から出れたんだ。どうだ、この姿?」
あの化物が形を与えた?お前の中から出れた?
「おっようやく理解出来始めたみたいだね」
目が見開く心臓の鼓動が大きくなり始める。
その様子が面白いのか、少年はニコニコしながら語る。
「さぁ新しい人生を始めよう 今度こそおまえの望む生き方をしよう」