神父
煌々と照りつける太陽に目を細めながら花壇の世話をする。
梅雨ももうすぐ終わりなのか。
雨を吸収して日に照らされて成長した雑草を摘んでいく。
あれから、おれはこの教会で雑事をしている。
庭園の端で鼻歌を歌いながら洗濯物を干す彼女を横目で見る。
彼女との共同生活はそれなりに上手くいっていると自負している。
異性との生活は経験があるので戸惑う事は少ない。
お互いを尊重出来れば問題など起きるはずがないのである。
だが、しかし、だがな
「面白みがないんだよなぁ」
独り言が出る。
こう脱衣所で思わず衣服を脱ぐシエナとばったり遭遇とか
何かの拍子で転んで二人で抱きしめ合ってしまう。
そういうハプニング的なモノが、若い男女が屋根の下にいるんだから。
そういう展開がないものなのか。
神の家で過ごす者に相応しくない煩悩を考えてしまう。
「竜也さん?」
「はい!!」
急な声に驚きと焦りで瞬時に声がした方向に顔を向ける。
洗濯物を干し終り、空カゴを両手に持つシエナが立っていた。
「大事な話があるので、私の部屋へ来てください」
神妙な面持ちで話しかけてくる。
「あぁ、わかった」
まだ短期間だが彼女の癖というものがわかってきた。
日常会話は柔らかい口調だが、大事な話の時は真面目な口調と態度を取るのだ。
彼女は後ろを振り返り歩いていく。
俺も急いで園芸道具を片付ける。
「なんだ?」
何か柔らかいモノが落ちた様な音がした。
それは間違いなくシエナが歩いていった方向からだ。
「お、おい!」
そこにはシエナが地面に倒れていた。
まさか、本当にコケるとは……
シエナは四つん這いになり、下半身をこちらに向ける様な姿勢になる。
その姿に思わず、心臓が大きく高鳴る。
「おい、だいじょうぶか?」
倒れていた体を抱き上げる。
シエナの身体は軽く、指に揺れる感触は柔らかだが
驚く程、冷たかった。
「っ!シエナ具合が悪いのか?返事をしろ!」
彼女は顔を赤く染めて、息苦しそうに呼吸が不安定になっている。
「はあっ……はぁ……んっ」
意識が戻ったのか、うっすら目を開ける。
「竜也さん?あれ?私、どうして?」
「おいおい、具合が悪いな……ら?」
急に何かに突き飛ばれて地面に尻餅を着く
一体何が起きたのかとシエナの方を見ると
「大丈夫か、シエナ?雑事など私が帰ってからやると言っただろうに」
そこには背中に十字架の刺繍がされた革ジャンを着た骸骨がシエナを介抱していた。
骸骨男はポケットから液体の入った瓶を取り出し、彼女に飲ませる。
「っ――神父?あぁ、申し訳ありません。薬を節約したのですがダメだったみたいです」
それに対して骸骨男は「馬鹿者め」とシエナを叱りつけている。
「誰だ!あんた……」
その瞬間、俺は胸ぐらを掴まれ宙に浮く。
骸骨男はその瞳のない目で俺を見つめてくる。
「貴様か、噂の純粋種は。あの程度で尻餅を着くとは情けない、受け身を取るぐらいの事はしてみろ」
そう言って俺を立たせ、背中や尻を叩いて着いた汚れを叩き落とす。
こいつは何者なのだろうか。
それにしても急に突き飛ばすとは無礼な奴だ。
「急に突き飛ばしてすまなかったな
シエナは身体は丈夫ではないのでな、万一の事を思えばこそだったのだ」
「シエナはそんなに身体が弱かったのか?」
愕然とした、そんな子に俺は面倒を見てもらっていたのか。
だが、そんな様子はなかった、いや隠していたのか?
「竜也、神父、ありがとうございます。もう大丈夫です」
シエナは身を起こし、立ち上がる
よかった、先程より顔色も呼吸も普通になっていた。
いや、待て
今、骸骨男の事を神父と呼んだ?
「待て、シエナ 今この人を神父と呼んだ?」
シエナは「はい」と頷く
「初めまして、藤村竜也 大体の話はシエナから聞いている
私の名はジーク・ブリュンヒルデ ここの神父をしている者だ」




