授業②
「おいおい、なんだよ。
今更隠し事はなしだぞ?俺が持っていた石からは俺を襲った由美って子の声が聞こえたんだ。
それと関係してるんだろう?」
シエナは突然石像の様になり黙る。
本当にそれについては話したくない様だ。
俺に彼女の口を割れる自信がない。
今の俺はあまりにも無知なのだ。
「あの由美って子は死んだのか?」
彼女はもうそれについては話すなと俺の目を見つめる。
さっきまでは丁寧に説明してくれたのに、今度は沈黙を決めてきた。
「その事を塔とかいう人達は知っているのか?」
「いいえ、それについては話さない方がいいでしょう。貴方のためにも」
なるほど、本当にやばい案件らしい。
触らぬ神に祟りなし、ここは沈黙が正解って事か。
だが、ここでひくわけにはいかない。
俺にだって責任感はある。
由美をあの石に変えてしまったのは俺なのは間違いない。
理論で勝てないのなら感情論で勝つしかない。
「とりあえず、あの石をもう一度見せてくれ。
俺が由美をあんな姿にしてしまったのなら、俺にだって責任はあるだろ?」
「私にも正直わからないのです……
人を石に変えてしまう業なんて聞いたこともないですし。
あの石をあなたに渡しても大丈夫なのか、神父の指示がない限りは……」
シエナは目を伏せ、暗い顔をする。
感情論なんてとんでもない。
こんな可愛い女の子を困らせる後ろめたさ。
これに男が感情論で勝つ事は不可能だ。
「その神父っていうのはいつ帰ってくるんだ?」
「それが連絡が途絶えてしまって……もうすぐ帰るとは言われてるのですが」
あの石については、その神父が来るまでは保留か。
「なぁ、これから俺はどうしたらいい?」
さすがに保護してくれるとは言え、ずっとこのままってわけにもいかないだろう。
「それはあなたが決める事です。保護するとはいえ、選択の自由はありますから」
来る者拒まず、去る者追わずって事かな。
俺を拘束する気は全くないらしい。
「それって俺が塔に行ってもいいって事かな?」
彼女は表情一つ崩さず
「えぇ、構いません」
そんな冷たく見放すかの様な一言が漏れた。
「ですが、一宿一飯の恩義という言葉がこの国にはあります。
貴方がそんな無情な人間ならそこまでの人だったという事だけです
ここを立ち去っても、惜しい人間とは思いません」
表情では読み取れなかった。
その言葉や語尾に何処か寂しそうな雰囲気が漂う事を俺は見落とさなかった。
もし、そんな事をしたら彼女はきっと悲しむだろう。
俺に失望したくないのか。
だから言葉も冷たい、見放す姿勢。
根拠はない、全て俺の憶測に過ぎない。
勘違いでもいいが、彼女の恩義には応えなくてはならないだろう。
「ごめん、しばらくはここに居させてもらえないかな
そのなんだ、シエナに恩返しというか何か手助けをさせてくれないか?」
シエナの表情から冷たい石像の様な影が消える。
胸をなで下ろす気分だ。
「本当ですか?そうですね。
まずは中庭の雑草取りをして花達への水やり、あとそれから礼拝堂の掃除――いえ
この敷地内の手入れをですね」
「今日、終わらせる内容で頼むよ。まだしばらくはお世話になるから」
急に淡々とした口調からどこか喜びに満ちた口調に変わる。
シエナはすごいわかりやすい素直な子なのかもしれない。
それを悟られるのが嫌だから、演技をしているのだろうか。
なんだ、感情の乏しい子と思ったが本当は良い子なんじゃないんだろうか。
「そのかわり、あの石を少し見せてもらってもいいかな?」
「それはダメです」
前言撤回、この子クソ真面目な頑固者だ――!




