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そして俺は宝くじを買わなくなった

作者: 紺コネル

あああああ、俺は自分が嫌で嫌で仕方がない。

気がつけば俺はもう、35だ。

今は家で自宅警備員をやっている。

両親は高齢で俺を産んだため、今年で75歳と、80歳になる。

二人ともヨボヨボで最早どっちがどの年齢か忘れてしまった。


俺の人生がドン底に落ちた転機は15年前に遡る。

18から働き始め、20でアルバイトをやめる決心をした時からだ。

当時のアルバイトは給油所の兄ちゃんだった。

当時は親二人が底辺だったこともあり、高校を卒業して直ぐに働くと決めていたのだった。親は大学や専門学校に通わせるお金もなかったのだ。

それに加えて親父は、知人の連帯保証人になっており、案の定騙されていたと言うわけだ。俺が物心つく頃には借金返済に終われていて、はじめて気がついたのが20で仕事を辞めたときだった。

当時の俺は無知で何も分からなかったが、今なら親に自己破産を勧めていただろう。

これだけで俺ら家族は救われるはずなのだ。


しかし、それを差し置いても俺は救いがたい人間だった。

専門学校に行くため必死に貯めた貯金150万余りを全てパチンコに使ってしまったのだ。マジで阿呆である。

思えば最初の頃は良かったのだ。1日で20万勝った時もあったのに今ではお袋の目を盗み財布からお金を抜き取る日々に変わっている。

マジで最低の親不孝男だ。

最早ギャンブル中毒で、死なないと、この蟻地獄から抜け出せなくなってしまっているのだ。


こんな俺だが、親には感謝している。

親父に借金があると知ったときは自分でも怖いくらい両親を罵り罵倒したが、それでも俺が困った時には絶対に見捨てなかったのだ。


こんな子供でゴメン。

過去に戻れたら自分を殺してやる。

そして、俺と両親を見限った弟に謝罪するんだ。


そう考えていると、急に世界が暗転した。


カーっ

日照りが眩しい。物凄く暑い、まるで初夏の暑さだ。


そして、昼だ。


あれ?

先程まで夕方だったのにどういう事だろう?

俺は暑い日差しのなか肌着、Tシャツ、チェックの長袖、そしてマフラーを着込んだ状態で玄関の前につっ立ってた。


何だこれ?などと考えていると急に玄関が空いた。


「もうたくさんだ、皆して兄貴兄貴兄貴!兄貴の事ばかり庇いやがって!あいつがどんなにクズかわかってるはずなのに!俺はもうここを出ていく!」

ガラッと空いた瞬間、出てきたのは13年前の弟だった!


「あ、え?」

思わず変な声が漏れてしまった。

向こうも俺に気が付いたようだ、が、不審がってる。

そりゃそうだ。こんなに暑いのに不精ひげを蓄えたおっさんが厚着してつっ立ったてるんだもん。


「あんた何?兄貴の親戚か?顔が似てるけど?」

思いっきり親戚と勘違いされた。


「ち、ちが、ご、ゴメン、あ!」

久しぶり会話だった。

『弟との』という意味では無く、本当に約1ヶ月ぶりに人との会話だったのだ。

が、まともに喋れもしなかった。


そんな俺を見ても意に返さず弟は淡々と語った。

「俺はもうここの家とは関係がないんで、用事があるなら中の人と勝っ手にどうぞ!」

そう言いながら足早に逃げるようにその場を去っていってしまった。


呆けてしまった。

中の人って……、チラッと中を覗くと若かりし頃の俺と目が合ってしまった。


ここで、また世界が暗転した。


夕方、俺は汗をビッショリかいている、明晰夢かと思ったが、どうやらそうではないらしい。

先程、弟に謝ったこともちゃんと記憶しており、13年前のあの日、弟が家出する際に妖精のおっさんと目が合い、消えていったのを(しっか)りと覚えていたからだ。


あの時の妖精が俺だったとは、驚きである。

余りにも不審な格好をした妖精のおっさんだったため、忘れるわけがない。

あの時、妖精のおっさんが一瞬で消えたことを親に話すと、二人に押さえ付けられて病院に連れていかれた。勿論、精神の方である。


ここでも俺は俺自身を憎々しいと思ったが、今回はその事を改めなければならないと、思い止まった。


ここで、俺にはある特殊能力を保持していることに気が付いたのだ。

タイムリープだ、映画とか小説とかでよくあるやつだ。


これはあれだ、歴史改竄(れきしかいざん)ってやつが俺には出来るらしい。

「チート級の能力、デュフフ!」

おっと思わず声が漏れてしまった。

俺は辺りを見渡した。ペットボトル、何ヵ月も放置された衣類、食いかけのピザ、カップ麺のカラ、大人用のオムツなど、ゴミの山だ。

部屋の外には俺が先程食った食器が置かれてあるであろう。いつもお袋が準備してくれているのだ。


よし、部屋の中には誰もいないな、などと確認し歴史改竄をどう実行するか考えることにした。


タイムリープという超絶チートを手に入れた俺は、現時点で俺を殺すのは無し、と決めた。

そしてこの俺の惨めな人生を花々しくするために俺のちっちゃい脳みそで有らん限り考えた。

出た結論はこれだった。


俺はギャンブルが好きだ。これはもう洗脳レベルと言っても過言ではない。

多分だが人生を一からやり直したとしてもそれは変わらないだろう。

そして、歴史を改竄して、幸せを手に入れた場合、俺の能力、タイムリープが残っている可能性は低い。


前回はたまたま殆ど俺に影響の出ないようなリープだったため、まだ能力は使えるはずだ。そして、今回のリープで俺が幸せになればこの能力は消えると見た。


よって、一回こっきり。

ギャンブルみたいで俺は好きだ。


そう、ギャンブル、俺はギャンブルが好きなのだ。そして一番大儲け出来るギャンブルとは何か?

それは、公共の宝くじである。

俺は15年前からのミニトロ、トロ6、トロ7など全ての当たりくじをプリントアウトした。

トロ7などは最近からなので、かなり数は少ないが、これだけあれば一生遊んで暮らせるはずだ。

「デュフフ、勝ち組」

おっとまた声が漏れてしまったようだ。


準備は整った。

では15年前に行ってきます!


場が暗転する。


!ここは15年前の給油所か。

流石俺、もうここまで来ると天才的だ。

給油所のデザインが昔に戻っているので分かりやすくて助かる。

どうやら日は落ちていて給油所にはライトが照されている。

夜9時頃であろうか、給油所から見覚えのある人物が歩いているのが見えた。

ボサボサの髪、チェック柄のYシャツ、俺が好んで着ていたやつだ。右手には花を持っていやがる。

だとすると、間違いなくあの日だな。俺が退職した日だ。


早速俺はやつに近づき話しかけた。

「おい、君、ちょっと話があるんだが」

何故だろうか自分自身に話し掛けるとスラスラ話せる。親近感が沸くからであろうか?

やつは少しビクついているが俺は構わず話し続けた。

「これから君の人生を変える出来事が起こる。君はこれから自宅に帰るが実家ではヤクザが待ち構えている。君は左の後ろポケットにある給料袋を奪われてしまうが、

なに、落ち込むことはない。これが君の人生を変えてくれる」

そう言ってプリントを差し出した。


が、やつのは馬鹿にしたように笑った。

「はは、おじさん頭大丈夫?俺が給料貰う所でも何処かから見てたのかな?もしかして窃盗しようとしてる?」


やつは、かなり警戒しているが勝てると思っているのだろう。俺が何かしたら取り押さえるつもりのようだった。

そもそも、20歳と35歳では体力の差が違う、俺は、分厚い脂肪におおわれ、そして相手は全盛期の俺なのだ。

15年前は必死で働いていたので筋肉もそれなりにあった。それも今では全て脂肪に変わり、グレードダウンしまったのである。

勝てるわけが無いので、俺は昔話を始めることにした。


「君は昔6歳の頃、学校から帰る途中でウンコを漏らしたことがあるよね、10歳の時には放課後、好きな女の子の縦笛をコッソリなめた、13歳の時によろめいて机にもたれ掛かり、クラスのアイドル瑞季(みずき)ちゃんのお尻を触ったことがあったね、それからキモブタとアダ名を付けられたが、あの時は本当によろけただけだったんだよね」


ーーー

ここから20歳の俺に切り替わります。


俺は驚愕した!

全て俺しか知り得ない事実だったのだ。

特に後半、10歳の時に縦笛をなめた罪悪感から、ああいう事は絶対にしないと誓った矢先だったのだ。

テスト用紙の返還で名前を呼ばれ立ち上がったときによろめいてしまった。咄嗟に手を出したらそこがクラスのアイドルのお尻だったと言うわけだ。

最前席でもあったため皆が目撃していた。そして、付いたアダ名がキモブタだった。


それを知っていると言うことはこの人は神様かもしれない。

不細工でデブで髭がボーボーでかなり臭いけど、内心少し親近感もあったので俺は神の助言を聞くことにした。

「それって何なの?」

複数枚のプリントを指差して聞いてみた。


神はこう答えた

「これは宝くじの当りくじ番号だ。これがあれば君の人生は大幅に変わる。180度だ!」

「君のご両親は、不幸なことに今から連帯保証人の借金を支払わなければならなくなる。自己破産という手もあるが、全て自力で返そうとする。そして、相当な時間がかかってしまい、君は専門学校に通えなくなってしまうんだ」

「でも大丈夫、この番号があれば君は億万長者の仲間入りだ!」


神様は喜々として語りだした。まるで我がことのように。

そして、このプリントを渡して消えてしまった。


プリントの中身は「未来の年月日」と「くじの名前」、そして「数字の羅列」だった。

俺は神様の予言が正しいのか確かめるべく帰路につくのであった。


結果、予言は正しかった。自宅に着くとヤクザが待ち構え、二三発殴られた上にお金を奪われた。

イッテー、これは先に言って欲しかった。


後は予想通り、親父がたくさんの借金を抱えたあとだった。

俺は親父やお袋を罵ったが、そこまで強くは怒れなかった。でも、怒っている振りをして自室にこもった。


このくじが本物かどうか確かめるために番号を控えたのだ。

結果は明日分かる。


次の日、控えた番号と新聞を見比べる。

ミニトロ、3、11、12、24、30


全く同じ番号だった!

確定だ。本物!

俺は驚嘆した!

この1つしか調べていないのはトロ6、トロ7が、まだ販売されていないためだ。


俺は早速ミニトロを購入した。

ミニトロは来週だ!


来週、ミニトロは外れていた。

「どういうことだ?」

どこをどう見比べても外れている。

おかしいと思い、あのプリントを調べてみたら何故か一致していた。


「? 俺の書き間違いか?」


仕方がないので来週もミニトロを購入することにした。

勿論一口だけだ。今度は書き写しではなく直接現場までプリントを持っていき購入した。

この行為は危険なので本当はしたくなかったが。


が、今度も外れてしまう。

「どういうことだ?これは偽物か!?」

プリントをみると何故か数字が変わっていることに気が付いた。

「何だこれ、何でプリントと当たり番号は一致してるんだ?俺が購入した番号は見事に外れているのに!?」


もしや!?


俺はまたミニトロを購入した。

今度は徹夜だ。

自分が購入したくじとプリントをじっと見比べる。トイレも極力避けたいので水も飲まない。


~~

どれだけ時間がたっただろうか。

眠い、気が付けば当選発表当日の夕方4時半だった。

その時である、漸くその現象が訪れた。

プリントの当たりの数字が消えて別の当たりの数字に変わっていく。

明らかな改竄である。


薄々感づいていた俺は落胆した。

未来は変えられないように出来ているのか、はたまた胴元が不正をしているのかは定かでは無かったが、くじが当たらないということだけは判明してしまったのである。


これではどうすることもできない、俺は自分の人生を恨んだ。





15年後


「あんた、その不精髭目立つから剃った方が良いんじゃない?」

母は告げる。


「そうだな、徹夜続きで剃るのを忘れてたよ」

そう言うと俺は顎に手をあてた。


俺は昔と比べると少しガッチリした体型になっていた。週一でジョギングもしているので体力もついていた。


何が変わったわけではないが、ギャンブルにだけは手を出していない。

公共の宝くじでさえ改竄出来たのだ。パチンコなどは容易に出来てしまうのだろう。結局のところなにも持ち合わせていない凡人が機械相手に勝つことなど不可能なのだ。一時期パチンコにはまっていた俺だったが、あの日以来スッパリとやめることが出来たのだった。

そして、あの日の神様の助言はけっして忘れないだろう。あの日、神様が言ったひと言、「自己破産」と言う言葉だった。

あの発言がなければ今の俺は存在しないだろう。それほどまでに的確だったのだ。


親父が自己破産したお陰で借金を払うこと無く俺が専門学校に通うことができた。このお陰で俺は今ではシステムエンジニアになっている。

不精髭が生えているのは連日の徹夜のせいだった。


弟は俺より優秀で大学を出て、今では弁護士になっていた。

愚弟にも程がある。


今でもあの未来のプリントはとってある。でも、今日までの日付しか載っていないのだが。

もしかしたらこの日から神様がやって来たのかもしれないな。

風の噂で公共の宝くじの当たりくじは誰も選んでいない数字から選ばれると聞いたことがあるので書いてみました。

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