第6話:過去との邂逅
窓の外を眺める。
窓の景色は、次々と移り変わる。
そのどれもが初めて見る物で、新鮮だった。
私は、一時帰宅の許可が下りたため、家に帰る途中だった。
これから私が見るものは私にとって、初めて目の当たりにするもので、
そして、私にとって、懐かしい記憶となるものになる。
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「これがわたしたちのお家だよ」
鈴に肩を抱かれながら車を出る。
そこにあったのは、何の変哲もない家だ。言ってしまえば両隣もこんな家だ。
なつかしさも何も感じなかったけれど自然と身が引き締まる。
家の中に入っても、感想は特に変わらなかった。
キッチンがある。テーブルがある。テレビがある。ある程度調べた、「一般家庭」のビジョンそのまま。
「これが我が家よ、由依」
「・・・これが・・・私の家・・・」
「まぁそんな特別な家じゃないし、すぐ慣れるよ」
ここで今までは暮らしていたのか・・・そう頭では理解していても、いまいち実感はわかない。
そもそも、私の記憶では病室での生活しか記憶にないから。
消化器官も調子を取り戻し、普通の食事が食べられるようになっているので、
家では皆でお菓子を食べながら、かつての私について教えてくれた。
中学生の頃の私は演劇部で、その手の大会にも出場していたらしい。
クラスでもそれなりに仲のいい友達は多く、よく遊んでいたグループがあったということも聞いた。
勉強は人並みだったけど、運動はあまり得意ではなかったことも。
そんな話を聞きながら、
小一時間ほどゆっくりした時、ふとお母さんが口を開いた。
「そろそろ、行ってみる?」
「どこへ?」
「あなたの部屋よ」
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私の部屋。そう。これが今日の私の本当の目的。
私が過ごしてきた記録の、記憶の集合場所。
部屋のドアに手をかけ、
私は今、過去の私と向き合う。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ドアの先に待ち受けていたのは、淡い色の小物で彩られた、かわいらしい雰囲気の個室だった。
「これが、私の部屋・・・」
一歩、また一歩と歩み進め、辺りを見渡す。
ドレッサーの棚には、いくつかの化粧品が置いてあった。今は化粧の方法も覚えてはいないけれど、
同じようなものがいくつかあるし、いろいろ拘っていたのかもしれない。
ん?未開封で全く同じものが3つもある・・・どうゆうことだろう。
机には、様々なノートや教科書が置いてあった。そのうちの一つを手に取って中を見てみると、
要点がカラフルに色分けされた、可愛らしくもわかりやすいノート。
たまに、よくわからない生き物のラクガキみたいなものもあったけど、これは一体なんの動物をモチーフにしたものだったんだろう。
机横の壁には賞状と、写真が飾られていた。県の演劇コンクールの賞状だ。写真はその時撮られたものであろう、私らしき人物と、友達だと思う子たちの集合写真だった。
でも、写っていた友達たちは誰一人、思い出すことは出来なかった。
この満面の笑みも、今の私の記憶には残っていない。
今度はベッドの方へ行ってみよう。
「あっ・・・」
突然足が何かに引っかかり、体勢を崩して私はベッドに倒れ込んでしまった。
「大丈夫!お姉ちゃん!」
すぐに鈴が飛び込んでくる。
「だ、大丈夫・・・」
まだ、筋力が回復しきってないせいか、突発的な反射行動はまだとれない。今回も、倒れた先にベッドが無かったら、ちょっと危なかったかもしれない。
ベッドから身を起こし何に躓いたのかと床をみると、そこには小さな宝箱のようなものがあった。
「これは・・・?」
その箱の中を見てみると、そこには、ブレスレットが一つ入っていた。
「あ、それ、お姉ちゃんがいつも大切につけてたやつだ」
ブレスレットを指さして鈴が言う。
「これを?」
「うん。学校に行くときは毎日つけてたし、学校じゃない時も外に行くときはよくつけてたよ」
よく見れば、それはところどころ汚れていてかなり使い込まれていた。
私はそのブレスレットを腕に嵌め、ベッドから立ち上がった。
「うん、今日はもういいや。戻ろう」
部屋を後にする。
部屋から持ち出したこのブレスレットは、私と私を繋ぐ、何か大切なものな気がした。