第4話:家族らしく
家族ってなんだろう。
血のつながり?絆のつながり?家のつながり?記録のつながり?
何が途切れたら家族でなくなってしまうんだろう。
私が家族としてあるには、どうすればいいんだろう。
まだ、家族でいていいのかな・・・
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「それじゃあ・・・だめ・・・かな・・・?」
私は、家族でありたい?
わからない。
記憶のために、利用しただけなのかもしれんない。
実際、母親も、父親も、目の前の妹だって、初めて見る顔だし、
でも、私からすれば、会う人会う人すべて初対面で、そこに優劣は存在しない。
けれど、目の前にいる、この少女は絶対に悲しませるわけにはいかないと、本能が告げている気がする。
思えば、母親の問いかけにも、正直に答える事は出来なかった。
この罪悪感こそが、私がこの家族である証拠なのかもしれない。
だから、
この賭けは絶対に成功してほしいと願う。
「お姉ちゃん・・・」
妹がつぶやく。
私に出来る事は、祈る事だけ。
「やっぱり、お姉ちゃんだ」
「やっぱり・・・?」
私は記憶をうしなっているから、かつての私の事はわからない。それでも、妹には、何か思うところがあったのだろう。
「前のお姉ちゃんも、そうやって、どうにもならない事でも、何とかしようって頑張ってくれたから・・・」
「昔の事、忘れてても、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだなあ・・・って」
なるほど・・・それが、「私」なのか・・・
過去の私でもない、今の私でもない。
全ての「私」の共通の真実。
彼女は過去を振り返るような眼で私を見ている。
私には過去は無いけど、彼女が見ている過去は、今の私にも存在する。
その事実は、今までで最高の安心感を与えてくれた。
「・・・・・・ありがと」
「?」
確かにいまの話の流れで「ありがとう」はちょっと不自然だったかもしれない。
でも、それくらいは許してほしい。過去を知らず、今の私すらもよく理解できていない。そんな孤立感を払拭してくれたのは、六依鈴。 "わたしの妹"なのだから。
「お姉ちゃんはやっぱりおねえちゃんだったって、父さんと母さんに伝えてくるね」
「うん、おねがい」
そう言うと鈴は部屋から出て行った。
ここからは私にはどうにもできない。まだベッドから出る事ができないから・・・
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かなり待ったと思う。
まだ家族は戻っては来ない。
ふと時計を見ると、まだ五分しか経っていなかった。
ただベットの上で座って待っているという行為は昨日も今日も何度も行っていたが、
この五分は特別長く感じた。
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さらに十五分後
家族三人が部屋に戻ってきた。
「由依・・・」
「・・・」
「お姉ちゃん」
三者三様の反応。
「鈴から聞いたけど・・・やっぱり皆の事は覚えてないんだな」
と父親が続ける。
「それでも、由依は由依だったって・・・」
母親が繋ぐ。
「由依にとっては自分たちは他人かもしれないけど、俺たちにとってはやっぱり由依は大切な家族だ。だから・・・」
「もし由依がその気なら・・・思い出は、作り直せるから・・・」
確かに、私にとって皆は、今日初めて会った人だった。
知らない顔、知らない声、知らない臭い。すべてが知らない尽くしだった。
なのに、皆が悲しむ顔は見たくなかったし、笑顔を見ていればこちらも自然と暖かくなる。
記憶は無くても、やっぱり血は繋がっているんだと感じている。
「思い出は・・・作り直せる・・・」
私は今までずっと過去の私ばかり気にしていた。
未来の事なんか、これっぽっちも考えて無かった。
消えた20年間の事しか見ていなかった。
確かにそう。過去が消えたとしても、未来を作れなくなったわけじゃないよね。
「うん、だから、これから、新・六依家としてやっていこうよ」
「新・六依家・・・ふふっ」
思わず笑ってしまった。笑う場面だったのかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
でも、無意識だった。
新しい家族、もちろんその答えは、
「はい・・・よろしくお願いします」
「まずはその敬語をやめようか、家族なんだから」
「うん・・・お父さん、お母さん、鈴」
新・六依家、結成。