第3話:わたしと家族
私には家族がちゃんといるらしい。
でも、私は4年以上寝ていたし、しかもそれ以前の記憶が無い。
そんな私は、六依と呼ばれた家族の一員と言えるのだろうか?
----------
私の過去を伝えるのは、家族と会った時にするというので、
とりあえず、今、私の体はどうなっているのかだけ聞いた。
担当医曰く、今の私は、事故以前の記憶がなく、
体も当時から成長らしい成長を見せていないらしい。
そして、そのどちらも原因ははっきりしておらず。治し方もよくわからないとも言われてしまった。
あと、4年以上寝ていたため体のありとあらゆる機能が衰えていて、正常に動作できない状態ということも。腕が上がらなかったり、声が出しづらいのはこれが原因らしい。
こちらはリハビリでなんとかなるらしい。
体が成長していない・・・?
つまりそれはどういうことなのだろう・・・
翌日
今日は私の家族が病院に来ると聞いた。
私には妹が一人いて、とても私を慕っていたらしい。
私は期待半分、不安半分の気持ちで待っていた。
もしかしたら、これがきっかけで記憶を取り戻せるかもしれない。
たとえ無理でも、頼れる人が増えるかもしれない。
でも、私が過去を忘れてしまっていると聞いて、家族はどう思うだろう。
4年以上待ち続け、その結末が記憶を失った私。
顔も知らない私の家族に、私はなんと声をかければいいのか。
解のない問いを前に、私は窓の外を見る。今日は曇りだった。
昨日のような青空は消え失せ、灰色の雲が外を支配していた。
-------------------------
「君のご家族がいらっしゃったよ」
担当医が病室に入ってくる。
続いて、初めて見るそれなりの年の男女。
そして、私そっくりの顔をした少女が入って来た。
皆、神妙な顔つきをしている。自然と空気が引き締まる。
「由依・・・!由依!」
「お姉ちゃん!」
父親らしき人と、私そっくりの妹だと思われる二人が飛びついてくる。
「君が記憶を失ってしまった事は、もう皆に伝えてあるよ」
と医者は言う。
だけど、私ははにかんだまま、別の反応を示すことは出来なかった。
知識では知っている。でも、やっぱりこの人達は今の私の中では、初対面。
まっとうな家族らしい反応なんて、できるわけがなかった。
「本当に・・・昔の事、覚えて無いの・・・?」
と母親、多分。
「・・・・・・ごめんなさい」
それしか言えなかった。質問にたいして、肯定すらできなかった。罪悪感に勝てなかった。
けれど、その反応は最悪の返事だったのかもしれない。
「・・・っ!」
声も出せぬまま、母親は部屋を飛び出して行ってしまった。
「待て、千尋!」
それを追いかけて父親も出て行ってしまった。
「あっ・・・あの・・・」
かける言葉が無かった。今、何を言ってもきっと逆効果になってしまうだろう。
「お姉ちゃん・・・」
残ったのは妹だけだった。確か六依 鈴だったと思う。
「えっと・・・鈴さん・・・だっけ」
「うん・・・やっぱり、本当に覚えてないの・・・?」
純粋な視線。すでに重くなりきったはずの空気がさらにもう一段階重くなった気がする。
すでに罪悪感で死にそうになっている私だけれど、嘘をつくわけにはいかないし、
けれど、これ以上悲しませるわけにもいかない。
このまま家庭が崩れてしまえば、私には頼れるものが無くなってしまう。
「・・・ごめんね。やっぱり、何も思いだせない・・・」
・・・でも、
「それでも、もしわたしがあなたのお姉ちゃんであると、信じ続けてくれるなら・・・」
・・・たとえ、記憶が戻らなくても、
「お姉ちゃんらしく、振舞おうって思ってる・・・」
・・・それが、今私にできる、最善のフォローなんだと、
「だから、あなたのお姉ちゃんがどんな人だったか・・・教えてくれる・・・?」
・・・これだって、相当な賭けだったと思う。
もし、妹が見ている「お姉ちゃん」がかつての私だけだったとしたら、
私はそれのまがいものでしかないし、そんなもの、到底認めてくれるハズがない。
「それじゃあ・・・だめ・・・かな?」
私の、第二の人生、最初の大博打。