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卵の雑炊、サバの味噌煮づけ

お久しぶりです。気が向いたので出してみました

「そういえばナツメさん」

 午後修練場帰りのフルスはお気に入りのカレイの煮付けを箸で器用に身を解しながら白米と一緒にかきこんでいる。

 夕暮れ時、ナツメ達にとってはこの時間帯は

 頬袋にパンパンに食べ物をつまらせながら喋っているためナツメは思わずハムスターを思い出して口に手を当てて笑ってしまう。


「なんで笑ってるんですか?」

「いや……あまりにもなんか……ハムスターぽくってふふっ……そんなに急いで食べなくても誰もとりませんから」

「そうですか。私これと言って急いで食べてる訳では無いんですけどね。というかハムスターとは聞き捨てなりません。私ほんなに可愛くないです」

 口に食べ物が溜まっているせいかなんと言っているのか聞き取りずらい。それにしても面白い子だなこの子。

「え?ツッコムとこそこなの?」


 彼女は元からズレてはいるがこう見えても副団長なのだ。

 多分これが本来の彼女の素なのかもしれない。仕事では過労死寸前の騎士団長のリーズシャルテさんをサポートしているし、部下の面倒みも良いと聞く。リーズシャルテさんの体調管理もやっているとこの前言っていた気がするがほぼマネージャポジションに近いのでは?


「そういえばリーズシャルテさん今日来なかったね何かあったのかい?」


 仕事の手をとめる。持っていた包丁を置き、カウンター席に身を乗り出す。

 仕事人としてはやってはいけない事だが常連さんが来なくなると少し気になってしまうのも料理人として気になるのだ。

 フルスは口を動かしゴクリと飲みこむと麦茶をはさみ、口を開いた。

「さて問題です。この前リーズシャルテさんが食べていたものはなんでしょう」

「え?」


 ぴんっと人差し指をたててフルスはクイズを出してきた。

 クリっとした人懐っこい顔にはソースが口元についておりナツメは自分の口元をトントンと指で叩くようにフルスにソースがついていることを教える。

「あ、これは失礼」

 口元のソースを親指で拭き取りそのまま舐める。

「んでそのクイズなんだけど来てないこととなにか関係あるのかい?」

「大有です。この前はナツメさん特性のザッハトルテとドリンカーのコーヒーを飲んでいました」

「ん?うんそうだね。ちょっと作ってみたら思いのほか上手くできたからシャーリーや店にいるみんなで食べたね」

「アカネさんが言っていたんですけど生理を悪化させる食べ物に糖分が多いものとコーヒーはダメだと聞きました」

 フルスは目を半開きにして呆れた顔をする。

 その表情でナツメは何となく察しが着いたように『あっー』といって納得の声を出した。


「酷くなったんだね?」

「はい……もうダメだって言っているのになんで手を出しますかねあの人……」


 大きなため息をついたあと再びご飯を食べ始める。

 半ばやけ食いに近い食べ方だ。少年漫画の主人公のようにガツガツと料理を口の中に運んでいく。

 相変わらずハムスターのように頬袋がパンパンである。

『これは美味しいぞ!フルスもほら!』じゃないんですよ悪化するから食べちゃダメってアカネさんにあんなにこっそり言われていたのに全部食べたあげくコーヒー二杯も飲んでいるんですよ!?馬鹿なんじゃないんですかね」


「まあ……デザートを出されて自分だけ食べちゃダメってなかなか酷だと思うけど……」


 ナツメはここで言葉を濁す。

 いやさすがに馬鹿だよねなんて言えない。お客様である彼女だ。

 同意はしないが話を聞くことに徹底しようと決意した。



「いや~ほんとにおいひいですねカレイの煮付け。というかそんなことより」


 しかしこの子のリーズシャルテさんの扱いが酷くなっているのは気の所為だろうか?

 ナツメは苦笑しつつ『ん?』と返事をした。


「ここの店って何屋なんですか?食事屋にしてはやけにメニューが多いと思います。いや美味しいからいいんですけど」

「うーん。基本的にうちは定食屋だよ?

 まあ仕入れ状況によるかな。まあうちそんなに売れてないから仕込む量が少ないから色んな料理作れるのも利点だよね。でも最近お客さんが増え始めたから決まったメニューにしようかと思っているよ」

「カレイの煮付けはメニューに入るのか?」

「多分入らないね」

 その一言で脱力感が襲ってきたのかフルスは大きな音を立ててカウンター席に頭をぶつけた。

「だ、大丈夫!?」


 慌てて厨房からフルスの座るカウンター席に移動したナツメはグズり始めそうなフルスはもう既に鼻水と涙で顔面がぐしゃぐしゃだった。

「うう……カレイの煮付けが基本メニュー入らなかったら私……私……」

「前日までに言ってくれれば仕入れることは出来るから!というか来るなら用意しておくから大丈夫だよ!」

「え?ほんと!?じゃあ明後日もお願いしますー」

 にかーっと天真爛漫の子供のような笑顔を見せるフルス。

 本当にこの子は成人しているのだろうか。

 まるで甘え上手の子供のように頼まれると断れるのが難しい。いやそれはお客様の要望に答えるためと体が反応してしまうからか?

 うーんわからん。

 その時、店のドアを開ける音が店内に響いた。

「いらしゃいま……リーズシャルテさんじゃないですか」

 背中を向けて座っていたフルスはナツメの言ったことが有り得ないと思ったのか食べていたご飯を詰まらせそうになりながら後ろを振り向いた。

「や、やあ……テンチョー今日のおすすめは何かな」

「だんちょー!?え?え?なんで?なんで!?」

 すぐさま団長の傍に駆け寄り身体を支えるように二人はカウンター席に座った。

 お腹をおさえながらリーズシャルテは覇気のない弱々しい声で

「お腹がへってね……ところで今日はなんだい?」

「馬鹿なんですか!?馬鹿ですよね!?ベットで寝てて下さいって言ったじゃないですか!」

 叱るフルスの肩を強く握るのが分かるほどリーズシャルテは震えて力強く言葉を発した。

「お前だけ美味しいものを食べようなんてずるいぞ!私も連れていかないか!」

「子供かあんたは!!」


 どっちも見た目だけ大人なんだよなあとナツメは思ったが口にはせず見守りながら料理の支度をしていた。


「あ……ごめんなさいリーズシャルテさん。カレイがフルスさんの最後だったみたいで……」


 リーズシャルテはカウンター席に派手な音を立て頭を勢いよくぶつけた。


「リーズシャルテさぁん!!」

「だんちょー!?」

「カレイの煮付けがだべれないなら私……私……」

「大丈夫ですよいまかわりのやつ作ってますからお金は頂きませんから食べていってください」

「ふむそれなら頂こうか。ナツメ殿の事だカレイの煮付けより美味しいものが出てくるに違いない」

「あははは……」


 リーズシャルテさんといい、フルスさんもどうしてそんなに頭をぶつけるんだこの人たち。

 片手鍋に入っていた鯖の味噌煮の一部を取り出す。

 今日の賄いにと思ってた食材たちだ。

 まさかこんな所で使うとは思ってなかったがリーズシャルテさんが食べやすいように少しアレンジをするか。

 片手鍋に水、和風だしの素、胡椒、塩を加え沸騰。炊いた米をジャーからよそい、コトコトと優しく火がまた泡立ち始めたら溶き卵を全体に回すように加える。


 レードルで取りながら深皿に入れる。

 ふんわりと香る出汁の暖かな匂いに釣られたのかリーズシャルテてフルスはカウンターを乗り越して覗き込んでいた。

「それはリゾットか?」

「いえ、僕達の国の料理です。身体が疲れた時とか食べやすいですよ」


 フルスの質問に簡単に答え、簡単に盛り付けていく。


「できましたよ。卵雑炊のサバの味噌煮づけです」


 卵の柔らかな色味にサバの身が解されてちょこんと上に乗っている。隣には生姜とネギが添えられリーズシャルテのお腹を鳴らすのは十分な料理だった。


「さばというのは見たことの無い魚だな。どんな魚なんだ?」

「僕の故郷では最も食べられている魚の一つです。臭いがキツイですが適切な処理をすれば一番私の好きな魚かもしれません」


 やはり日本人ならサバの味噌煮である。もうこれを月一で食べないと気が済まないくらいナツメはサバの味噌煮を押しているのか目がものがったている

 リーズシャルテは『では早速』と言って、レンゲを手に取り、匂いをまず嗅いだ。

 味噌の濃厚な匂いとほのかに香るカツオの風味がふんわりと鼻を通り抜け口の中に想像させるであろう味の賛美を堪能。

 自然と口の中には唾液がじわりと滲み出てくる。

 木製のレンゲですくい、身を少し解し雑炊と一緒に口へと運んだ。

 まず最初に暖かな優しい味わい、そして米と米の間から味噌とさばと呼ばれる魚の旨みが雪崩のように口全体に広がっていくのがわかる。

 ああ……美味い。だが。


「やはりカレイの煮付けが一番だな」

「身体の調子が良くなってから来てください」

「ああ、そうするよ。けどこれはこれでとてもいい料理だ。食べやすくて美味しい。ありがとうナツメさん」

「いえ、どういたしまして」


 ニッコリと笑顔で返し、今日の営業はゆっくりと時間がたっていった。

もしかしたら更新が無いかもしれません買ってすぎて申し訳ございません

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