第十話 ネズミ
ネーライクに到着すると、ハミューゼンの指示のもと三組に分かれることになった。
一組はネーライクに在住する撤廃の会の同志を郊外に呼び集める役割を持つ。さらに一組はハミューゼンが率いる傭兵集団で構成され、交渉材料として人質にとるウァンリオン博士を襲撃拉致する。
そして最後の一組は先に砂漠の霧船内部へ侵入し、機関部などが破壊されていない事を確認する仕事を任された。
マーシェはネーライク郊外、海にほど近い位置にある停船した砂漠の霧船を遠くから確認する。
停船し、その代名詞ともなった蒸気を噴き上げていない霧船はその全体像が見えていた。
所々に赤錆が浮いているものの、勇壮な船体は鉄色に輝いている。王都ラリスデンからネーライクまで乗ってきた海水運搬船と酷似した形状ではあるものの、船体下部には車輪のようなものが付いている。何より、海水運搬船よりもはるかに巨大で、こんなものが数百年も砂漠を走り回っていた事が信じられない。
マーシェは砂漠の霧船を取り囲む傭兵たちや警察官を見回す。
「馬鹿しかいないわね」
冷めた目で傭兵たちや警察隊の警備網の穴を見て、肩をすくめる。
こんな事なら、旧市街で縄張りを見張っている暴力団の方がよほど警備に向いている。少なくとも、力で従わせてしまえばこんな穴ができるはずもない。
なにより、警備網は単独で潜入されることを念頭に置いていない。ここ最近における撤廃の会の派手な集団破壊活動を踏まえれば当然の配置かもしれないが、マーシェから見れば楽観主義の馬鹿にしか見えなかった。
「見たいものしか見ないで失敗するのも同じなのに、向こうは定職についていて、私はテロリストか……」
感傷を振り切るように、マーシェは蒸気機甲の具合を確認してから闇夜に紛れた。
マーシェが身に着けている蒸気機甲は戦闘用のかなり無骨な物だが、製作者が技術習得のために伊達な亀甲模様の象嵌が施している。
年齢も性別もばらばらで、なおかつ複数の傭兵団で構成されている警備網をすり抜けるのに、マーシェの蒸気機甲はうってつけだった。
傭兵たちは誰もがどこか別の団の人間だとマーシェを判断して素通りさせる。
時々怪しんで声を掛けてくる傭兵に対しては、警察側への報告をするために向かっている言えば通してもらえた。
「警官へのお使いかよ。下っ端は大変だな」
警察側との軋轢が垣間見える同情を掛けられて、マーシェは不審に見えない程度の愛想笑いを返す。
そんな風にいがみ合っているからあっさり通してしまうんだと、潜入する側ながら説教してやりたいくらいだ。
警備網の外縁を固める傭兵たちを抜けたマーシェは、警察たちが固める地点を迂回するように霧船へ近付く。
警官はさほど数が多くないためか、あるいは外縁を囲む傭兵たちを警戒しているのか、点在するように警備テントを張っていた。迂回するのはさほど難しくない。
旧市街で何度もやってきたように、マーシェは姿勢を低くして音も立てずに死角を縫って進む。
「――傭兵共が霧船の部品を盗みに入るかもしれん。絶対に目を離すなよ」
テントの中から部下に命じる声が聞こえてくる。
マーシェは足を止め、霧船を見上げる。
「えっと、どこから入ればいいのかしら」
ポケットから一枚の紙を取り出し、中身を読む。
別れ際にハミューゼンから渡されたこの紙には霧船の大まかな全体像に加え、甲板にあるという乗客の乗り入れ口、貨物室への入り口の位置と複数ある排気管が図示されていた。
しばらく紙を見つめた後、マーシェは霧船を見上げる。
「……なんでこんなに詳しく知ってるのよ」
砂漠の霧船が拿捕されたのは三日ほど前だと聞いている。その間、ハミューゼンはマーシェ達と共に海水運搬船に乗っており、外から情報を仕入れる方法などないはずだ。
ならば、霧船が拿捕される以前から、ハミューゼンは全体像を把握していたことになる。
学のないマーシェにも分かる異常だった。
少し悩んだマーシェは紙をポケットにしまいこんで霧船の排気管に向かう。
建物で言えば二階建ての屋根にも相当する高さにある排気管を見上げ、周囲に人影がないことを確認する。
小さく息を吐き出したマーシェは蒸気機甲で強化した脚力で跳躍し、船体の僅かな凹みに手の指を掛けてさらに上へ体を持ち上げる。
左手の指が三本、排気管の縁にかかった。生身であればすぐに体重を支え切れずに真っ逆さまのはずだが、マーシェは蒸気機甲を稼働させて体を持ち上げる。
排気管の中に転がり込み、目撃者がいないか外の様子を窺う。警官たちには特に変わった様子はない。彼らの視線は全て傭兵たちに向けられているようだ。
個人で潜入する可能性を想定していないとしても周囲にもっと目を配るべきだろうに、とマーシェはため息を吐いて排気管の奥へ向かう。
ハミューゼンから渡された霧船の全体図には、どの排気管から潜入するのが機関部への最短距離なのかも書かれていた。
明らかに霧船の内部構造を理解していなければ描けない図にマーシェの困惑は深まった。
そして、実際に奥へ向かえば図に書いてある通りの場所に安全弁が存在していた。
小柄とはいえマーシェが歩いて来れるほど太い排気管だけあって安全弁も大きなものだ。安全弁を蒸気機甲で強化された腕力に任せて持ち上げ、マーシェは排気管の外へ出る。
自分がネズミにでもなったような気分でマーシェは周囲を見回し――即座にその場を飛び退いた。
「ちっ」
マーシェが立っていた場所に高反発ゴム弾を撃ち込んだ二十台後半の女が舌打ちする。手元には蒸気を噴き上げる拳銃を持っていた。
素早く周囲を見回したマーシェは無言で戦闘態勢を取る。
平行にいくつもの金属の管が並ぶ広間。床の付近には巨大なフィバツの死体がいくつか転がっている。
さらに目を向ければ、マーシェに蒸気式拳銃の銃口を向ける女とモノクルを着け大きなステッキを持った老紳士、最後に、左腕をすべて金属義手にした灰髪の老人がマーシェに対して戦闘態勢を取っていた。
金属義手の老人がマーシェの出てきた安全弁を見て眉を寄せる。
「ふむ、ハミューゼンの奴、どこまで知っているのじゃろうな」
安全弁からマーシェに視線を移した老人は腰から鞭を取り出す。
「儂はラフダム。蒸気機関規格化運動会の会長をしておる。ハミューゼンが直接乗り込んでくると考えて、ウァンリオン殿にここの警備を申し出た者じゃ。そこのネズミよ、ハミューゼンの居所を知っておるな?」
マーシェは老人の言葉に苦笑する。同じことをした場合にドラネコ呼ばわりされる知人を思い浮かべ、ネズミ呼ばわりされる自らとの落差に自嘲したのだ。
さてどうしたものか、とマーシェはラフダムと名乗る老人とその仲間らしい二人を警戒しながら考える。
警察が敷いていた警備網の内側であるこの霧船の内部空間にただの傭兵が入れてもらえるとは思えない。相当の凄腕として信用を勝ち得ているか、そもそも傭兵ではないのか。いずれにせよ、まともに戦うのは得策とは思えなかった。
そもそも、なぜ機関部ではなくここに陣取っていたのか分からない、とマーシェは広間を見回して気付く。
研究者たちが取り付けたのか、あちこちの配管との間に渡されたロープとそこに提げられたカンテラの明かりの中、断絶している巨大な配管が見えた。ラフダムたちもその配管の出口を警戒し、いつでも奇襲を掛けられる立ち位置だ。
どうやら、マーシェが侵入した配管はラフダムたちの予想とは微妙に違っていたらしい。
マーシェの視線で考えを読み取ったのか、ラフダムが眼を細める。
「その様子を見ると、配管が内部で断絶していた事は知らないようじゃな。とすれば、ハミューゼンの奴は内部の状況も知らずに排気管へネズミを送り込んだか。派手に動く前には情報収集を欠かさぬはずの奴にしては実に奇妙じゃな。まるで本来の霧船の内部を知っているかのようじゃ」
ラフダムが片手をあげると、仲間の二人が配管の上を移動し始める。夜の空気に含まれる水分が結露した金属の配管の上は滑りやすく、二人の動きはさほど早くない。
「あのネズミを捕えよ。おそらく、ハミューゼンから霧船の全体像を記した図を渡されておる。奪い取れ」
「了解!」
全体図が入っているポケットを押さえるような愚は犯さなかったが、マーシェは正確に持ち物を見破ったラフダムの洞察力に驚く。
その隙に距離を詰めたモノクルの老紳士がステッキの柄を握りしめ、横に振り抜いた。
マーシェは後方に跳躍してステッキを躱し、背後にあった別の配管へ着地する。直後に女が蒸気式拳銃で発砲するが、蒸気機甲で覆われた左腕を射線上に置いていたため事なきを得る。
「この娘、相当にケンカ慣れしてるわね」
女が拳銃の蒸気圧を回復させながらマーシェを警戒する。
「同感ですが、所詮は喧嘩殺法です。捕えるのにさしたる苦労もない」
モノクルの老紳士が年齢を感じさせぬしっかりした足取りで跳躍し、マーシェが足場にしている鉄配管に着地する。
「それにしても最近の子供は発育が悪いのかいまいち性別が分かりませんね。まさかとは思いますが、貴女も男の子であったりするのでしょうか?」
「……育ちのせいで発育が悪いのは自覚してるけど、その質問は失礼よ?」
デリカシーがない、とマーシェに指摘されても、モノクルの老紳士は堪えた様子もなくステッキを構える。武骨なそれは内部に刃が仕込んでありそうだが、抜く気はないようだ。
「ようやく口を開いてくれましたか。では、もう一つ質問をいたしましょう。投降してくださいませんかな?」
「嫌よ。そっちこそ、この場は引いてくれないかしら。手荒な真似はしたくないの」
「これは異なことを。撤廃の会のテロリストの言葉とは思えませんね」
じりじりと距離を詰めてくる老紳士に、マーシェはすり足で後ろに下がりつつ言い返す。
「私は機械を壊しているけど、人を殺す気はないわ。邪魔するなら無力化するけど」
「出来るとお思いで?」
分かっていた事だがどうやら対話の余地はないらしい、とマーシェは諦めて――構えを解いた。
無防備になったマーシェに対して、老紳士が一息に距離を詰める。一切の躊躇がないその動きは荒事に慣れているからこそだろう。
しかし、次のマーシェの一手を読めるはずもなかった。
すっと、マーシェは足を踏み外しでもしたように鉄配管から滑り落ちる。
床までの距離を考えれば自殺行為だったが、会話中ずっと周辺の配管の位置を覚えていたマーシェは鉄配管を支える巨大な金具が足元にある事を知っていた。
金具を掴んで落下速度を殺すと、足を振り上げて別の配管に着地する。
気付いた老紳士が飛び降りてくると同時に、マーシェは蒸気機甲の力を使って跳躍。先ほどの逆再生でもするように金具を掴んで元の鉄配管に着地した。
下に置いてかれた老紳士が目を見張るほど、鮮やかな動きだった。
「……どこのサーカス団に所属されていたのですか?」
老紳士の皮肉には肩をすくめて、横合いから女が撃った高反発ゴム弾を右腕の蒸気機甲で弾く。威力の弱い高反発ゴム弾で有効打を与えられる部位など、市販の物よりも無骨な蒸気機甲を身に着けている小柄なマーシェにはほとんどないため、狙いを予測するのは難しくない。
表情を変えることなく対処して見せたマーシェに、女が口笛を吹く。
「銃で狙われた事があるって感じの余裕ね」
「経験豊富なの」
「あら、羨ましい」
皮肉をぶつけ合い、マーシェは走り出す。
いつの間にか、ラフダムと名乗った老紳士の姿が見えない事に気付き、一所にいるのは危険だと判断したからだ。
もとより、ハミューゼンから受けた命令は砂漠の霧船の機関部が破壊されていないかどうかの調査だ。渡されている紙に描かれた図と照らし合わせて問題がない事を確かめさえすれば、潜入がばれても対応できると言われている。
ハミューゼンとしても、マーシェにそれほど期待していないのだろう。その身軽さは潜入などで発揮されるが、潜入した先で複雑な事が出来るほどの判断力がない。
マーシェの眼には応急修理を施された階段と踊り場、霧船内部への通路が見える。構造からして広間と通路の間に扉があったようだが、いまは取り除かれていた。
マーシェが戦闘を放棄したことに気付いた女が追跡しながら発砲してくるが、マーシェはことごとく配管の陰に隠れてやり過ごした。
蒸気式拳銃は蒸気圧で弾丸を撃ちだす関係で連射が利かない。圧が回復するまでの時間さえ読んでしまえば、これほど遮蔽物に恵まれた環境で恐れるような武器ではなかった。
配管の迷路を駆け抜けて、マーシェは霧船内部の通路へ上がる階段の踊り場に着地する。
しかし、通路の奥に今まで姿が見えなかったラフダムが立っているのを見て足を止める。
「霧船そのものを奪取するための情報収集がネズミに課せられた命令か。ハミューゼンらしいと言えば、らしいのじゃが……」
ラフダムの独り言を聞き、マーシェは背筋に寒い物を感じた。完全に行動を読み切られている。
それどころか、階段を駆け上がって来るモノクルの老紳士や配管の迷路の中に姿を隠している女の三人に完全に挟まれている状態だ。
マーシェはラフダムを見る。
「私の身柄の確保が目的にしては博打よね。私が逃走するとは思わなかったの?」
「使命感だけはあるように見えたのでな。もっとも、撤廃の会の活動に使命感を持っているようには見えん。娘、貴様の考える使命は撤廃の会でなければ果たせぬ類のものじゃろうか?」
「撤廃の会でも果たせない類のものよ」
「……職か」
「分かったらどいてくれないかしら? 淡水動力なんて絶対に見過ごせないのよ」
「致し方ない。ここで捕えることにしようか」
「初めからそうすればいいのに」
言って、マーシェは足を振り上げて蒸気機甲を作動させる。
足を振り下ろした先は通路前の階段踊り場。応急修理が施されていたとはいえ、高出力の蒸気機関による破壊を目的にした踏み抜きに耐えられるはずもなく、踊り場はあっさりと倒壊して広間の床に落下する。
階段を駆け上がっていたモノクルの老紳士が崩落する踊り場を見送って眉を顰めた。
マーシェは踊り場を破壊すると同時に通路へ着地し、膝を曲げて余分な蒸気を放出した。
「これで挟み撃ちは出来ないわよ」
「退路を自ら断ったようにも見えるのじゃがな」
「おじいさんの後ろに退路があるじゃない」
「勇ましい事だ」
呆れたように言って、ラフダムは右半身を引き、機械化された左腕を突き出すように構える。
この期に及んでも引く気はないらしい。
マーシェは床を蹴ってまっすぐにラフダムに駆け寄った。
ラフダムが左の金属義手を袈裟がけに振り降ろす。戦闘用に作られているのか、その振り降ろしは目で追うのも難しいほどの速度だ。
しかし、マーシェは金属義手を突き出すのではなく振り下ろしたことに違和感を覚え、ラフダムが体で隠している右手に注意を払う。
蒸気機甲を身に着けているマーシェ相手に総金属製とはいえ義手を振り下ろすのは有効打を狙いにくい。それくらいならば突き指の心配もない突きで腹部なりを狙う方が効率がいい。
突きをしない以上、隠している右手が本命。
ラフダムの振り降ろしを片腕の蒸気機甲で受けつつ逸らす。視線はラフダムの右手から外さない。
ラフダムが受け切られた左腕を引き戻しざま、肘を引き付ける。金属義手の稼働に使われている蒸気が噴き出し、マーシェの視界からラフダムの右手を隠した。
蒸気で隠れた右手に銃が握られている可能性を考え、マーシェは半身に構えているラフダムの背中側へ小さくステップを踏む。
直後、ラフダムが予備動作もなく左足でマーシェの右腕を蹴りあげた。
「――っ!?」
マーシェはラフダムの動きで悟る。左足も完全な金属義足なのだ。
内部に人体を有する蒸気機甲であれば筋肉を痛めないように最低限必要な予備動作があるが、金属義足にはそれがない。
追撃を警戒して後ろへ飛び退くマーシェにラフダムが右手を突き出す。マーシェの読み通り、右手には蒸気式の拳銃が握られていた。
カンッと金属同士を打ち合わせる蒸気式拳銃の発砲音に、マーシェは顔を庇う。
ラフダムが放った銃弾は読んでいたようにマーシェの腹部へ食い込んだ。
与えられた衝撃でこみ上げる吐き気をねじ伏せ、マーシェは床に足が付くと同時に蒸気機甲を作動させてラフダムにとびかかる。
発砲直後であれば蒸気式拳銃は使えない。ならば、反撃するには今しかない。
「覚悟は認めよう」
冷静に、冷徹に、ラフダムは呟いて左手を正面に向ける。
ラフダムの左手にはピンを抜かれた蒸幕手榴弾が握られていた。
金属義手であれば、握ったまま蒸幕手榴弾を作動させても自らに影響がない。直接敵対者の体に押し付けてしまえば、吹き出す高熱の蒸気で相手に火傷を負わせる事もたやすい。
だが、ラフダムにとって誤算だったのはマーシェがあまりにも蒸幕手榴弾を見慣れていた事だろう。
脳裏に蒸幕手榴弾を頻繁に使う友人の顔が思い浮かび、マーシェは即座に自らの左拳を握り込む。
蒸気機甲の補助を受け、生身では決して出せない高速で放ったマーシェの左拳は正確にラフダムが持つ蒸幕手榴弾に打ち付けられる。
バンッと破裂音がして、蒸幕手榴弾が金属片と水と蒸気石とに砕かれて効果をなくす。
目を剥くラフダムに、マーシェはすかさず蹴りを放って左の金属義足の関節部を破壊する。
体勢が崩れたラフダムの左義手を取ったマーシェは両腕の蒸気機甲でひじ関節を破壊して無力化し、ラフダム本人を引き倒して胸を踏みつけた。
「……ふむ、参った」
床に散らばる蒸幕手榴弾の破片を横目に見て、ラフダムが降参する。
「して、娘よ、どうするのじゃ。会話した感触では、人を殺すようには見えないが」
「殺しても私の不利益になるだけだからね。とりあえず、あなたはこの近くの部屋に軟禁するわ。こう見えても、縛るのは得意なのよ」
冷えるからと巻いていた黒いマフラーで縛り上げたラフダムを通路の奥の部屋に引っ張り込む。ラフダムの金属義手を動かしていた海水を取り上げて黒いマフラーに掛けてからさらにきつく縛り上げた。
これで、広間の二人が助けに来ない限りラフダムはマーシェの後を追えないだろう。
救援が来る前にハミューゼンから命じられた仕事を終わらせるため駆け出そうとした時、ラフダムが声を掛けてきた。
「ハミューゼンの目的は何じゃ?」
「知らないわよ、そんなもの」
ラフダムに応えて、マーシェは今度こそ霧船の機関部に向けて駆け出した。




