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精霊戦記  作者: 天仁
8/9

1-7

かなり間が開きました。すいません。

と言っても、どれくらいの人が待ってくれてるかわかりませんが。


それでは、7話目です。

 獣道を進み、ある程度森が深くなった辺りでルウは足を止めた。


「ここにいくつか薬草が生えているので、それの採取をお願いします」


 ルウは笑顔で俺にそう促す。


「ここって村からそんなに離れてないよな」


 その場所は村から徒歩三分程の場所にあった。

 といっても、周りは木々に(おお)われ、普通に森の中なのだが。

 ルウは一度辺りを見渡しうなずいた。


「そうですよ」


「ここにあるの?」


「はい。この辺りには擦り傷や火傷(やけど)に効くものが自生しています」


「……取りに来たのは熱を下げるような、病気に効くものじゃないの?」


 俺の疑問にルウは軽くうなずいた。


「はい。そのつもりだったのですが、カイトさんが手伝ってくれるのなら持てる量も変わってくるので、種類も増やして取って置こうかと思いまして」


「でも、俺は籠なんて持ってないぞ」


 両手を広げ何も持っていないということをアピールする。


「それなら大丈夫です」


 ルウは周りに生えていたツタを何本か剣で適当な長さに切ると、パパッと網目のように編んで簡易な籠を作り、俺に差し出してくる。


「これを使って下さい」


「ありがとう」


 ツタでできた籠を受け取り、裏表を確認する。ツタ同士を紐のように結んでつなげてあるだけだが、簡単には(ほど)けそうにない。


 あまり大きくはなく、量はそんなに入らないだろうが、それでもないよりはましだろう。


「すげえ器用だな」


「時折言われます」


 ルウは褒められて嬉しいのか、少し誇らしげだ。


「それで、傷に効く薬草を集めればいいんだよな?」


「はい。お願いします」


「どんな形のやつなんだ?」


「……」


 フードの影に隠れたルウの目が、すぅっと細められる。


「カイトさんはこの森には薬草を取りに来たと言っていたとお母様から聞きましたが、薬草の形は分からないのですか?」


 しまった。

 そういうことになってるんだった。


「……薬草を取りに来たと言っても、商人には珍しいやつだけしか教えて貰ってないんだよ。俺はそもそも薬草なんて、依頼を受けるまでは興味なかったし」


「そういうものですか?」


「そんなもんだろ」


 別におかしくはないと思うが、この世界の基準が分からないのでなんとも言えない。

 ルウは少し考える素振りを見せた後、しぶしぶといった感じで納得する。

 薬草を取りに来たってことに関しては疑われているな。


「分かりました。では、こちらを見て下さい」


 ルウはそう言ってしゃがみ込むと、〝茎が枝分かれして先が丸くカールしている草〟と、少し離れた位置にあった〝四方に別れた葉が左右に一つずつ成っている草〟を、根本より少し上の位置で摘み取って立ち上がると、その二本を俺の前にかざした。


「この2本がカイトさんに取っていただきたい薬草です。それぞれが傷と火傷の薬になります。分けて集めておいてくれるとありがたいです」


「ああ、わかった。その二つだな」


 俺はルウが手に持った薬草を受け取った。

 俺とルウの両手が当たって、そういえば女の子の手に触れるのは初めてだと思い緊張する。正確には先程も手首を掴んではいるが、とっさに掴んだので意識していなかったこともあり、何も思わなかったのだ。

 今回は余裕があるためかつい意識してしまう。


「それでは宜しくお願いします。わたしは別の薬草を取ってきますから」


「了解」


 手に触れたことで意識がそちらに向いていて、一瞬そのままスルーして地面に視線を向け薬草を探そうとするが、すぐに我に返りルウのほうへ向き、背中を向けていたルウを呼び止めた。


「ちょっと待った!」


「なんですか?」


 ルウは振り返りはしたものの、呼び止めることは予想していたのか、さして驚いた様子はない。


「別の薬草って、場所を変えたりしないよな?」


「いえ、そのつもりです」


「認めるの早!」


 躊躇なくうなずくルウに驚いてしまう。


「ごまかしたりとかしないのか?」


「下手にごまかしても意味はないと思いましたので」


「そうか?」


 俺は首を傾げ、ルウがごまかそうとした時のことを考えてみる。

 俺が問い詰めて、ルウが素知らぬ顔でそれに応対する。俺はもちろんルウにも引く気がなさそうなので、ずっとそれの繰り返し。

 確かに意味無いし、時間の無駄だな。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。とりあえず話を戻そう。


「それより、何で俺を置いていこうとするんだ? 俺、一応護衛だよな?」


 ルウはどう説明したものかと考えているようだったがそれもほんの数秒で、すぐに顔を上げて口を開いた。


「これから行く場所なのですが、欲しい薬草はそこにしか生えていません。なので取りに行きたいのですが、ここからは村にとって大切な場所で、カイトさんについて来られると困るのです」


 表情は真面目なものに変わり、冗談ではないのだと訴えている。

 事情はよく分からないが、とりあえず気になった部分を聞いて見る。


「村にとって大切っていうのはどういうことだ?」


「そのままの意味です。それ以上は部外者には説明できません」


 昨日会ったばかりなので部外者というのはその通りなのだが、ストレートに言われるとさすがに傷つく。


「……やっぱり俺のこと信用してない?」


「どうしてそのような話になるのですか?」


「護衛としてついてきたのに、ついて来られると困るっていうのはないんじゃないか?」


「無理やりついてきたのはカイトさんでは?」


「でも、護衛がいれば安心なのは事実だろう?」


「それはそうですが、なぜそんなについてこようとするのですか?」


「それは、ルウが心配だから」


 それを聞いたルウは一瞬驚いたように目を見開くと、軽く頭を下げる。


「それは、ありがとうございます。ですが、やはり一緒に行くわけにはいきません。これは(おきて)で決められていることなのです」


 ルウはそこで一度言葉を切ると、左右に視線を向けて辺りを見渡す。


「ここは村からも近いですし、何かあればすぐに戻れます。護衛と言うなら村のほうをお願いします」


「でも……」


「それに……」


 ルウは真剣な表情のまま俺の顔を見る。


「ルイート帝国と関係ないことは昨日の一件で理解しています。ですが、それとは別に嘘をついていますよね?」


 俺は言葉を詰まらせる。

 おそらく森に入った理由のことを言っているのだろう。


「もしかすれば、これから向かう場所があなたの本当の目的かもしれません。そのような人を連れて行くことはできません」


 ルウは俺から目を逸らすことなくそう言った。

 その場所は部外者に狙われてもおかしくないくらい大事な場所ということか。


 おそらくだが、俺が怪しくはないという確証でもない限りルウはその場所に連れて行こうとはしないだろう。

 とはいえ、本当のこと言うにも『異世界から来ました』なんて信じて貰えるとは思えない。

 だが、薬草を取りに来たという他に理由なんて思いつかない。たとえ思いついたとしても、嘘だとばれればどうなるか。


 見たところ、ルウはあの村ではかなり信頼されているようだ。そんな彼女に見放されれば、武器を持った兵士が大量にいる中で村から追い出される。下手をすれば、村の人達に吊し上げられる可能性もある。

 そう思えば俺はうなずくしかなかった。


「……わかった」


 ルウは安心したように一息つくと、俺に聞いてくる。


「これからどうします? 村に戻ってランニングしますか? それとも、この場所の薬草を取っていて貰ってもいいですか? けがの薬も切れそうなのは事実なので」


「じゃあ、薬草を集めとくよ」


「お願いします」


 ルウはぎこちない笑みを浮かべた。


「では、行ってきますね」


 そう言うと、森の奥へと走り去っていった。


「行ってきます……か」


 まったく信用していない人間に言う言葉じゃないよな。たぶん。

 俺はその場にしゃがみ込み、言われた薬草を探し始めた。


 坦々とした作業の繰り返しに慣れてくると、別のことを考える余裕が生まれてくる。

 さっきの話、村を出る前に言ってくれれば、俺もその時に諦めたんじゃないだろうか。

 でも、あの時は半分脅したみたいになっていたし、言える状況でもなかったのかも。


 それにしても、隠す必要があるような場所か。

 あの口ぶりだと、よほど大切な場所のようだ。

 誰もが欲しがるような何かがあるとか。

 だとすれば、村に伝わる財宝でもあるのかな。


 そんなことを考えつつ取り続けていると、二種類の薬草がツタの籠にある程度の量が溜まった。

 それがちゃんと左右で種類別にわかれていることを確認した後、俺は立ち上がり一息つく。

 この二つってどれくらいあればいいんだろう。

 状況が状況だし、取れるだけ取って置いたほうがいいだろうな。


 そう思い辺りを見回していると、右側から微かな足音が聞こえた。

 ルウかと思ったが、あれからおそらく二十分程。

 目的の場所がどれだけ離れているかは知らないが、こんなに早く戻ってこられるのだろうか。

 まさか、ルイートの兵士か。

 森には精霊の加護がかかっているらしいが、兵士が現れる可能性がないとは言い切れない。

 それ以前に俺は部外者だから、精霊にしてみれば守る必要などないのかもしれない。

 俺は両手に拳を作り、身構えた。


 とはいえ、ルウや村の人という可能性もある。

 慎重に相手を見極めなければならない。

 そして、がさっと草を踏む音と共に、



 一人の少女が現れた。



「え?」


 予想外な人の登場に俺の思考は一旦停止する。


「ん?」


 突然現れた少女のほうはいきなり人に出くわして驚いたのか、目を見開き硬直する。

 だが、彼女はすぐに我に返ると俺のほうへ近づいてくる。

 そんな彼女は、落ち着いた様子で口を開く。


「人がいたのか」


 俺は状況に頭がついて行かないまま、微笑を浮かべそう呟いた少女のことを観察する。

 おそらく年齢は同じくらい。

 膝あたりまで伸ばされた銀色のストーレートヘアーに真紅の瞳。

 服は黒いワンピース。足には同じく黒いロングブーツ。

 今の俺が言えることではないが、深い森の中を歩き回るような格好ではない。

 そして、首には透明な水晶玉がついたペンダントをかけている。

 背丈は俺と同じか少し低いくらいで、体形はスレンダー。


 問題はこの少女は何者かということだ。

 見た目は兵士にはまったく見えない。昨夜の兵士は鎧を着ていたが、目の前の少女は普通の服だ。

 それなら村の()かとも思ったが、たった一人で今の森に足を踏み入れるだろうか。

 何とか戻ってきた思考を巡らせ、そこまで考える。

 そんな俺を見て、少女は首を傾げた。


「どうかしたのか? 固まっているぞ」


「え? ああ、ごめん」


 俺はとりあえず考察を中断する。


「何か用かな?」


「いや、用というわけではないのだが、あまりに動かなかったものだから心配でな」


「そう。ありがとう」


 そんなに動いてなかったか。でも、心配してくれるとは優しい娘だな。


「えーと、村の人かな? ここで何してるの?」


「村? 良く分からないが、散歩をしていた」


「散歩? その格好で?」


 予想外の答えが来た。

 俺の問いに、少女は顔を下に向け自分の服を見た。


「何かおかしいのか? お気に入りのワンピースなのだが」


「そういう意味で言ったんじゃないんだけど」


 今は服装のことは置いておこう。本人がいいならそれでいいだろう。

 それよりも、先程村のことで首を傾げたってことは、やはり村の人ではないのか。


「話は変わるけど、散歩でなんでこの森に?」


「うむ。この森は木々が神秘的で綺麗だと聞いてな、実際に見てみたくなったのだ」


 それだけかよ。それが本当だとしたら、かなりマイペースだな。

 一瞬ルイート兵の策略かとも思ったが、こんな目立つ人間を使うとも思えない。


「ここは今、危険地帯だけどよく入って来れたね」


「危険? 何かあったのか?」


 やっぱり知らないのか。

 でも、あきらかに(ここ)って目的地を決めて来ているようだし、当然この世界の人間か。


「実は今……」


 俺はこの森が敵国の兵士に囲まれていることを()(つま)んで説明する。

 なんか立ち位置が変わってるだけで、デジャヴを感じるな。

 事情を説明し終えると、少女は目を瞑り何かを考え始めた。


「どうかした?」


「いや、そのようなことが起きているとは思いもしなかったのでな。……戦争か」


「森に入る時はどうしたの?」


 その問いに答えるためか、少女は目を開けて俺を見た。

 少女と俺の身長はほとんど変わらない。

 そのため、お互いの顔が向き合う形となる。

 長い髪に気を取られて良く見ていなかったが、整った顔立ちをしていて、かなりの美形だった。

 そんな少女に見つめられ、少し緊張してしまう。


 少女のほうはというと、緊張で目を逸らしてしまう俺とは逆に、子供のようにも見える無邪気な笑みを浮かべ自慢げに胸を張り、胸元に手をやり水晶玉を軽くつかむ。


「それはこの……」


 少女は何かを言おうとしたが、彼女の言葉はそれだけで途切れた。

 どうしたのかと様子を(うかが)って見ると、少女は突然何かに気づいたように明後日のほうへと目を向けた。


「“ひ”が騒いでいる」


「ひ?」


 首を傾げる俺とは対照的に、少女の顔色が変わっていく。


「……こちらに、近づいてくる」


 そう呟くと、少女は今まで見ていた方向に背を向け歩き出した。


「おい、どうした。何かあったのか?」


 俺が問いかけると、少女はこちらに顔を向ける。

 その表情は先程の笑顔とは打って変わって真面目なものだった。

 そんな少女は俺を目の中に捕らえると、静かに口を開いた。


「そなたもここから離れたほうが良い。ここにいては危ない」


 少女は言いたいことだけ言うと、再び歩き出した。


「は? おい、何を言ってるんだ!?」


 唐突に態度の変わった少女をおかしく思いながらも、地面に置いたままの籠を拾い、後を追った。

 少女は俺がついて行くのを確認すると、「行くぞ」と言って走り出した。


「ちょっと待て」


 ルウと会った時もこんな感じだったなと思い出しながら、後について走る。

 少女はルウとは違い人間離れした速さではなく、一定の距離は開いたままではあったが、それ以上離されることもなくついていける。

 だが、俺は少しスピードを速め少女と並走する。


「なあ、何でいきなり走り出したんだ?」


「逃げるためだ」


「何から?」


「“ひ”だ」


「ひ?」


 さっきも言っていたが、いったい何のことだ。


「どこに向かってるの!?」


「分からない」


 俺の問いに、少女は左右に首を振る。


「それ、大丈夫なのか? この先にさっき説明した兵隊達(やつら)がいる可能性だってあるぞ!」


「大丈夫。そんな気がするのだ」


 少女はこちらに顔を向け、笑みを浮かべる。自信を持っているようだ。

 俺はその笑顔にうなずきながらも、多少の不安が残る。

 どこからそんな自信が持てるんだ。


 というか、場所移動したらルウと落ち合えなくなるんじゃないか。

 とはいえ、森の中を女の子が一人で走り回らせるのも不安だし、それ以前にすでに元の場所に戻るなど道が分からず不可能だ。もう、はぐれないようついて行くしかない。

 元々ランニングをするつもりだったとはいえ、昨日から走ってばかりだ。

 ルイートの兵士と出くわしませんように、と心の中で願いながら足を動かした。


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