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とりあえず状況確認です。
少女と出会ってから五分後。
俺は再び息を切らせていた。
「ま、待って」
なんとかそれだけ言うと足を止め、膝に手を付き肩で息をする。
目の前を走る少女は、魁人の言葉が聞こえたようで数メートル前で立ち止まると、振り返り戻ってくる。
「すみません。大丈夫ですか?」
「いや。……こっちこそ、ごめん」
それだけ言うのが精一杯だった。
あれから話をして、少女の住んでいる村まで案内して貰う事になったのだが、少女の足は速く、それから約三分の間、全力疾走だった。むしろ、よくついてこれたと自分では思っている。
というか、足速い。いつも森の中を走ってるからか。
なんとか息を整えようとするが、そんな俺に少女は控えめに声を出す。
「でも、急いでいるのです。早く戻らなくては」
少女は俺の心配をしながらも村を気にしているのか、目が今まで向かっていた方向を向いている。
先程の兵士の事か、それとも他に心配事があるのか。どちらにしても、急いでいることには変わりない。
「あと……どれくらいで……着くの?」
「今は、さっきいた場所から半分くらいです」
割と近い。
村は思ったよりも近い場所にあったようだ。
「方向は……こっちに……一直線で……いいんだよな?」
息も絶え絶えに正面を指差した。少女が向かって走っていた方角である。
「はい。最短距離で移動していましたから、方向は間違いないです」
「じゃあ、先に行ってくれ。俺は……体力が……戻ったら……追いかけるから」
「ですが……」
少女は迷っているかのように、俺に目を向ける。
「いいから。急がないと、ダメなんだろ。俺はすぐ、行くから」
それを聞いて、少女はうなずいた。
「わかりました。では、お気をつけて」
少女は軽く頭を下げると、背を向け走り出した。
やっぱり、速いな。
というより、さっきよりも速くないか。
今までは俺に気を使って遅めに走っていたってことか。
大きく深呼吸をする。
とりあえず、状況を整理しよう。
俺は息を整えつつ、思考を巡らせた。
先程までは少女と話していたり、走り回っていて考えられる状況ではなかったが、今は時間を無駄にしないためにも、状況の確認は必要だろう。
おそらくここは、俗に異世界と言われる場所だろう。
どこかのジャングルに瞬間移動した、なんて可能性も考えたがなかったか。
この状況は異世界に召喚された、ってことか。
状況が緊迫しすぎてなかなか現実味はないが、まず間違いないだろう。召喚よりは迷い込んだといったほうが正しいか。
言葉は通じるんだな。便利だからいいけど。
そこは何かの力なのか、それとも元々日本語と同じ言語なのか、確かめるすべは今のところない。
とりあえず落ち着かないと。戦争とか、状況が飛躍しすぎてる。
どう考えても俺一人の手におえるものではない。
自分の右手を見た。鎧を着た兵士を殴り飛ばしたのを思い出す。
あれ、チートってやつか? 普通の人間にはできないだろうけど、体力やそもそもの力は変わってない気がするんだよなぁ。
三分間の全力疾走などやったことはないが、いまだに息が整わないところを見ると相当無理をしていたようだ。足も太腿がやばい。
明日は間違いなく筋肉痛になるだろう。
いや、そんな事よりも考えなければならないのは、なぜ自分がここにいるのかということだろう。
ライトノベルなど全く読まないわけではない。そういった作品では、危険に陥った国の権力者――王様や皇帝のような存在――が業を煮やして勇者を呼ぶような作品もいくつかある。いわゆる王道の一つだろう。
だが、着いた場所は城や神殿のような場所ではなく、かなり深い森の中。
魔法使いや姫みたいな人もいない。
一応女の子と合うことはできたが、結構な時間歩き回った後だ。
意図があるのか偶然なのか、この森のある国は戦争中で、さらには森の外は敵の軍隊に包囲されている。
戦争を止めようとした神様みたいなのが呼んだとか。
……なくはないか。
それはそれでよくある展開だと思う。
とはいえ、俺にあるものはあのよくわからない力――武装した男を殴り飛ばしたこと位だ。それだけでどうにかできるような戦争だとは正直思えない。
「………はあ」
分からないことだらけだ。
今考えても仕方がないか。どうにかするしかないわけだしな。
俺は整ってきた息を確認しながらペットボトルのお茶を一口飲み、少女の村に向かって歩き出した。




