ナランの過去
私は幼い頃から一人ではなかった。
というのも、私は魔族の血筋らしいのだ。
そしてその魔族は力が強く、ずっと自分の肉体となれる子が生まれるのを待っていた。
そして生まれた私は、その魔族が憑くのに適していたらしく、故に私は一人ではなかったのだ。
その魔族は名をアイシュと言った。
アイシュは私の体を乗っとることはしなかった。
理由はわからない。
けど、いつも助けてくれた。
そんなアイシュに、私もいつしか心を許していた。
そんなある日のことだ。
「おい聞いたか?」
「何をだ?」
「最近魔人が出たんだとよ」
「魔人? それってあの、魔人かよ?」
「あぁ、魔族の魂を宿した人が、現れたんだよ」
と、その兵士たちの話を聞いて、おそらく自分のことだと悟った。
「ねぇアイシュ、さっきの話、私たちのこと?」
『いや違う。 魔人は体は人間で魂が魔族なのだ。 だからお前は魔人ではない』
アイシュは私の考えを否定した。
それと同時に、肯定もした。
『だが、お前がもし俺の力を使いたかったら、魔人になれないことはない』
「それってどういうこと?」
『考え方としては、お前の体を俺が使う。 もしくは、一つになる』
「ふーん」
よく分からないからいいや。
『それにしても……』
「どうしたの?」
『さっきの兵士たちの話が本当なら、ちと厄介だぞ』
「なにが?」
『魔人とは魔族の魂が何かを糧にした証明だ。 その糧が憎しみや悲しみ、悪いものならそれは良くないものだ』
「どうしたらいいの?」
『どうにかするつもりなのか?』
「え?」
『いやなに、いくら魔族の力が使えるといっても、所詮は人間。 いずれは死ぬ、それでもお前はその魔人をどうにかしたいのか? と、聞いたのだ』
「どうにかしたいって……」
訳じゃないけど、でも、憎しみや悲しみを持っているなら、助けたいと思う。
『その結果、お前が魔人になってもいいのか?』
「そのときは、何を糧にするの?」
『そうさな、お前の魔力を糧にするとしよう』
魔族である私の魔力は比較的高い。
「わかった。 それで、その人が助かるなら」
『いいだろう。 では、お前は心の中で目を閉じて百数えろ』
私はそれに従い、一から数え始める。
……九十八、九十九、百。
私は顔を上げた。
そして、目の前の光景に息を飲んだ。
そこに広がっていたのは、黒い霧と、倒れている人々、そしてまがまがしいなにかだった。
『言っとくが俺がやったわけじゃねぇよ。 あの魔人、かなりの力を持っていた。 そこに倒れている奴らも、その魔人の仕業だ』
背筋が凍りそうになるほど、ゾクゾクと、鳥肌が立つ。
これが、魔人化……。
『純血の魔族でもなければ、大抵の魔族はこの魔人化を使うことが多い。 魔人とは違い、こうやってお前に意識を返すことも出来るからな』
その日、私は誓った。
魔族である私の使命は、魔人を倒すこと。
――――――――――――――――――――――――
現代
「この力は……」
私の知り得る限りこんな力は……、魔王しかあり得ない。
「封印が全部解けたのかな? いや、あの剣に、溶かされたのかな?」
北の国の勇者が気になることを口にしているが、今の私の耳にはどうでもいいことだった。
「……、こんなの、相手が悪すぎる」
そこでようやく、ミサは口を開いた。
ゆっくりと私を指差して、一言。
「……、死んで?」
その瞬間だった。
嵐のように吹き荒れる風が刃のように向かってくる。
回避しようと体を仰け反らせると、その風が通った後がごっそりと消えていた。
「どうして……。 死んでって、言ってるのに!」
一発避けるのも苦労というのに、今度は風の刃が十も二十も出てくる。
何者なんだ、こいつ。
純血の魔族でもなきゃこんな……!?
風の刃が私に当たると思った瞬間、その声は響いた。
「そこまでだよ! ゼロリターン!」
風の刃は瞬く間に消え、えぐられた地面や戦いの後がなくなっていく。
「二人の勝負、大会の日に決着つけたら?」
「……」
「北の国の勇者、助かった」
「君も、体ナランに返した……」
「……邪魔を、しないで」
その声は、とても小さいのにはっきりと耳を通って頭の中に聞こえていた。
「ミサ、すまないね。 魔法を弾き、魔力を絶たせる剣。 『光剣』。 君の魔力を一時的に絶たせてもらう」
その剣はミサを切った。
が、ミサの体は傷つけずに魔力だけを切ったのがわかった。
「ゆっくりおやすみ。 ミサ」
たまたま読んでいただいたのであれば有難うございます!




