夢の話
【とある廃校の下駄箱にあった手記】
俺は大学一年のごく普通の学生だ。
ある日の夜中に先輩に呼び出された。
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最近、僕は妙な夢に悩まされている。
今日はそんな夢について話そう。
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気づくと、僕はとある廃校の廊下にいる。
一歩歩く毎に不気味な音をたててきしむ木製の床を歩いて行く。
左手の方に教室が連なり、右手側に窓がある。窓の外は墨汁でも覗いているかのように黒くて何も見えない。
だが、僕はそんなこは気にせずに歩いて行く。
急がないと。
僕は少しだけ急いだ。
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え?走れば良いって?
僕もそうしたいさ。でもねあの夢の中ではなぜか走れないんだよ。
なぜ?って言われても僕には分からないな。
さ、続きを話そうか。
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そんなこんなで僕は急いて歩いた。
異様に長い廊下を歩いて行くと後ろから水音が聞こえてきた。
ぴちゃん、ぴちゃん
びたっ、びたっ
急がないと。
ぴちゃん、ぴちゃん、
びたっ、びたっ
だんだんと音が大きくなる。
ああ、やっぱりか。
僕はそう思った。
いつもこの夢の終わりはこの音に追い付かれた時だ。
ぴちゃん、ぴちゃん、
びたっ、びたっ
大きな音だ。すぐ後ろにいる。
僕は思わず振り返った。
そこには、
黒い塊があった。
窓の外のような墨汁のように黒い塊。
ソレは僕を見てニヤリと無い筈の口を歪めた、気がした。
ソレが僕に重なると同時に僕の視界は暗転した。
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え?そこからどうなるのかって?
どうもならないさ。目が覚めるだけ。
こんな夜中に呼び出してそれだけかって?いやいや、それだけじゃないんだ。
実はさ、夢に出てきた廃校。【天津小学校】って言うんだけど、俺の母校なんだよね。
もう廃校なんだけど、気になるからこれから行ってみようと思ってね。
え?俺はやだって?
いやいや、別に一緒に行こうとは言ってないとも。
ただ、僕が【天津小】に行ったってことを知っておいてほしかったのさ。
それじゃ、気をつけて帰ってね。
ここの代金は僕が払っておくから。
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それが、先輩との最後の会話だった。
天津小に行った先輩は帰って来なかった。
警察には天津小に行ったって言ったけど、結局ただの行方不明として片付けられた。
俺は今、その天津小の校門にいる。
あの日、先輩に何があったのか。それを確めるために。
俺は先輩と違って誰にも話していないが、俺が帰らなかった時にここに誰かが探しにきたらわかるように下駄箱にこの手記を残しておこう。
この話は、私が実際に見た夢を元にいくらか脚色し、加筆しています。