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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-37『紅の暴君』

ゴブリンの本拠地である鉱山内部へ単騎突入したクロ。

ゴブリンキングのいる所かと思い突入した場所はゴブリンの繁殖場だった。

殺され食糧とされている人々、嬲られ殺された女性や、生きたまま苗床とされた女性たちを見てクロは怒りを爆発。その場にいた全てのゴブリンを殺す。

生きている女性を救おうとするも、屈辱の日々に心を壊された女性たちは自ら死を選んでいく。

己の弱さに、救えなかった悔しさに、ゴブリンへの怒りに、クロは左手を天に掲げて『更神』と叫んだ。

……というのが『巣』でのお話です。

そしてここからがゴブリンキング戦。何故かゴブリンキングよりの第三者視点でお送りします。

 松明の灯りが揺れる洞窟の中にひしめく緑の影。


「ゴブゴブ?」

「ゴブブ!」

「ゴゴブブ!ゴブ!」

「ゴブッ! ゴゴブブ!!」

「「「「「「「「ゴブ」」」」」」」」


 ゴブリンリーダーの指揮で戦場へと送り出されるゴブリンは、もう数少ない。

 何百、いやひょっとすると何千という自らの兵を見送った〝王〟は退屈そうに物思いに耽っていた。


(ヌルイ)


 〝王〟は生まれながらにして〝王〟であった。

 〝王〟"として生まれるべく生まれ、〝王〟に為るべくして為った。

 そこに自らの意志があったかどうかは、今となっては定かではない。

 だが緑の軍勢の中で最強の強さ、賢さ、凶悪さを持ち合わせていた彼を〝王と認めぬ者は誰一人としていなかった。


(ヌルイ……ヌルスギル)


 この狭い洞窟の中で緑の軍勢のトップに君臨した〝王〟は当然それだけでは満足などしない。

 彼が求めたのは、ただ己がもっとも優れた〝王〟であるという事の証明だけ。

 ゆえに彼が外――人間の国への侵攻を決めるのに、さほどの時間は要しなかった。


(人間、ソシテ冒険者トハ斯クモ脆弱ナ存在カ)

 

 まず手始めに彼は、洞窟にやって来た冒険者たちを相手に戦力強化を行った。

 ゴブリンを惰弱な魔物と侮る愚かな冒険者を、罠に嵌め、血祭りに上げていく。

 戦闘経験を得る事でゴブリンたちの能力は飛躍的に強化され、中には思考能力、味方を動かす事を覚えたゴブリンも少しづつ現れた。

 そういった者たちはゴブリンリーダーとして小隊を率いるほど頭角を現していく。


(ヤハリ、人間モショセン()ラノ餌ニスギヌ)


 冒険者の中には稀にメスもいた。

 もともとメスの少ないゴブリンにとって他種族、特に母体の大きい人間は特に都合がいい。

 現に王が自ら孕ませたメスからは〝ゴブリン四天王〟という優秀な手駒が生まれた。

 それらは彼の王国の繁栄をより盤石な物とした。


(ダガ弱イ。アマリニモ弱スギル)


 しかし、四天王を産み落とした母体はすぐに使い物にならなくなった。

 あるメスは繁殖行為後に死に絶え、また別のメスは出産の際に発狂し、ゴブリンの幼体に腹を食い破られたメスもあった。

 結局、その後他のメスから四天王を超える個体が生まれることはなかったが、十分な数の駒を揃える事はできた。


(期ハ満チタ)


 進軍の最初の贄となった宿場町は、彼の緑の軍勢の前に散り芥のように消え去る。

 王は確信した。

 己の最優性を。

 だというのに。


(解セヌ……マダ巣ノ一ツ落トセヌト言ウノカ?)


 伝令に使わしたゴブリンによれば、人間の巣への進行は難行しているようだった。

 相当な強さの人間の個体、しかもメスが進軍を阻んでいるらしい。


(マァ良イ。ドレダケ駒を消費シヨウト、最後ハ余ガ出レバ良イダケノ事ダ)


 どれだけの力を持とうと、しょせんはメス。

 王たる自分の足下にも及ばないだろうと、王は笑った。

 それよりも興味があるのは、そのメスで駒を作ればどれだけ優れた個体ができるかという事だ。

 ともすればゴブリン四天王、もしかすると自分すら越える個体が……


(在リエヌ。在リエヌ……ガ)


 自分に匹敵する駒ならできあがるかもしれない。

 と考えるだけで、王は自信の猛りを押さえられなくなっていた。


「出ルカ」


 王は玉座から立ち上がる。

 この世の全てを貪るために。


「どこ行く気ダヨ? キング」


 見知らぬ声が響きわたる。

 周囲の武装したゴブリンの動きが騒がしくなるが、王は冷静にその声のする方を睨みつけていた。


(人間ノ雌?)

 

 王の間の入り口で壁に手を突いて佇むのは人間の雌だ。

 たった一人でこんな場所まで迷い込むなど在りえないだろう。

 よもやゴブリン四天王が負けたとも思えないが、なんにせよはっきりと分かることが一つある。

  

(極上ノ雌!)


 人間の容姿には興味のない王ではあったが、目の前のメスが他の人間のオスから高く評価されるだろうことは理解していた。

 艶やかな黒髪、幼さを残しながらも大人の美しさを持ち合わせた容貌、引き締まっているもののメスらしい起伏のある身体。

 そしてその瑞々しい肉体からは紅い炎が噴き出している。

 否、それは余りに純度が高すぎる故に可視出来るまでになった魔力の奔流。

 それこそ、目の前のメスが極上であるという証明。

 王は笑った。

 

(コレハ、余ノ物ダ)

 

 その笑みにメスも笑い返す。


「何、笑ってんダヨ」


 独特のイントネーション。

 恐ろしく感情の籠っていない声が、 


「ゴミクズのくせにヨォォォォォォォォォ!」


 突然豹変する。

 メスの叫び声に呼応するかのように身体から吹き出す魔力の爆炎が部屋を覆い尽くす。

 見えることは出来ても実体はない虚の炎。

 しかしそれは精神力の弱いゴブリンの魂を狩り取るには十分な威圧を持っていた。

 数対のゴブリンが意識を狩り取られ、地面に倒れた。


(ナンダ……コノ感情ハ?)


 ゴブリンキングの胸にどす黒い何かが渦巻く。

 昏く、どろどろとした、不愉快なモノ。

 その感情の名を、王はまだ知らない。


「あはは! 逝ったカ? 逝ってネェのもいるナ? そうでなくちゃつまらネェ。そうダロ? そうだよナァ? そうともサ!」


 笑いながら、怒る。

 ちぐはぐな感情を巻き起こす目の前のメスの手の中で、強大な何かが膨れ上がる。

 背筋に感じた初めての怖気(おぞけ)が、皮肉にも王の命を救う事になる。


「硬化ァ!」


 王が叫ぶと、全身の皮膚が変化する。

 シェルゴブリンの甲羅とは違う無機的な皮膚。

 鋼に近い硬質な表皮で全身を覆って、王は守りを固めた。


「先ず死ネ。[アース・ニードル]ゥゥゥゥゥゥ!」


 メスが手を壁に叩きつけた。

 弾ける閃光、激震が走る王の間。


「グゥッ!?」


 信じられない光景を目の当たりにしながら、それでも王は自身の意識を保つのに精一杯だった。

 針だ。

 壁から、床から、天井から。

 王の間のありとあらゆる所から無数の金属の針が縦横無尽に飛び出し、刺し貫き、針同士でぶつかって火花を散らせる。

 一瞬で王の間は針の間と化す。

 

「ゴギュ!?」

「ブギュ!?」

「ギュガッ!?」

「ギュッ!?」


 一瞬で串刺しとなる駒たち。


「ググッ! グガァハッ!?」


 全身を金属のようにした王の身体にもいくつかの針が届く。

 嵐のような針の乱舞が止んだ後、立っていたのは王とメスだけであった。

 

「ヒュー♪  さっすが、ゴミクズの親玉! しぶといったらありゃしナイ」


 口笛が針で満たされた部屋の中に反響する。

 続けてパチン、とメスが指を弾くと一瞬で全ての針は壁の中に戻っていく。

 

「ハァハァ……」

 

 針の抜けた穴から吹き出す己の血を見て、王はようやく認識した。

 目の前のメス――いや、敵が己の明確な脅威であると。


「……ま、その方がぶっ殺し甲斐があるんだけどナァッ!」


 メスの手の中に、再び魔力が集中する。

  

(マズイ……硬化!)


 瞬時に理解した王は穴だらけで使い物にならなくなった腕を筒上に硬化させる。

 それは大砲。

 弾を込め、内部で魔力を爆発させることで一瞬で相手の命を爆散させる王の必殺兵器。

 メスの魔術がどの程度の脅威なのかはわからないが、どんな魔術も術者を葬れば発動はしない。


「喰ラエッ!」


 王は周囲に転がっていたゴブリンの頭をもぎ取り、砲へ詰める。

 照準は初めから合わせていた。

 メスの心の臓を吹き飛ばすよう、王は叫び声を上げる。

 

「[バーン]!」


 王の腕から射出される頭蓋弾。

 だが遅かった。 


「[ファイア・ボール]ゥゥゥゥゥ!」


 メスもまた魔術を発動する。

 拳大の火の玉をなぜか自身で放り投げたメスに少し焦った王であったが、その顔には余裕が見えていた。

 メスもまた王の攻撃に焦って未完成なまま魔術を発動させたのだろう。

 あの程度の火の玉、王の砲弾の前にはガラス玉も同然。

 次の瞬間には血だまりに沈むメスの姿があるはずだった。

 しかし、


「たーまやー♪ ってナァ?」

「ア?」


 そうはならない。

 王の砲弾と小さな火の玉。 

 一回りも二回りも違うそれらが衝突した刹那――王の間が灼熱の炎で包まれた。


「バ、馬鹿ナ!」


 広がっているのは間違いなく魔力の炎。

 当然王の放った攻撃によるものではない。

 あの拳ほどの大きさしかなかった火の玉に、どれだけの火力が圧縮されていたというのか。

 身を焦がす炎を振り払いながら、王は信じられない物を見るようにメスを見る。


「あはははは! もう一丁喰らエ! [ファイア・ボール]ゥゥゥゥゥ!」

「グゥッ!?」


 そのメスが再び先ほどと同じように魔術を行使した。

 振りかぶってからの剛速球。

 対抗しようと咄嗟に砲弾を込めた王だったが、時すでに遅し。

 

「お前風に言うなら、〝ばぁーん!〟カ?」


 王の砲手の中へ小さな火球が吸い込まれるように入る。

 爆ぜる砲手。

 飛び散る肉片。

 

「グガァァァァァァァアァアァァァァアァッ!?」

「あはははははははははははははははは!」


 すさまじい爆音と叫びが王の間を震わせる。

 ぐしゃぐしゃにひしゃげた腕はもはや原型を留めていない。

 皮一枚でかろうじて繋がっている腕などあって無いような物。

 王は迷わず切り捨てた。


「ひゅー♪ 自分で切るカ?」

「グッガァッ……硬化!」


 血が噴き出す傷口を無理やり硬化して塞ぎ、王はニヤニヤと不敵に笑うメスを睨みつける。


「いいネェ……その眼。圧倒的強者を前にしテモ、まだ諦めちゃいないノカ?」

「グググググ……()ハ王ダ! ゴブリン共ノ王ニシテ、王タル事ヲ運命ヅケラレシ存在!」

「ぷぷぷっ! 自分の事〝余〟だっテ? あははははははははは! 今時ソレはナイ、ナイワー!」

「黙レ下郎メ!」


 王は跳んだ。

 一歩の跳躍でゆうに10メートルを駆け、一瞬でメスの前に立ちふさがる。

 頭を鷲掴みにしてメスを持ち上げ、王はその白い首筋へ牙を剥く。

 

「死ネェ!」


 首筋。生命の急所目がけ、王は鋭い牙を突き立てる。

 もはやそのメスを生かしておこうなどと言う考えはとうに捨て去っていた。

 王を弄する者。

 王の存在を脅かす者。

 王を超えるかもしれない者。

 そんなのあってはならないのだ。


「ふぁぁぁぁぁ……? 何だ、甘噛みでもしたカ?」


 首筋に牙を突き立てられながら、そのメスは欠伸をしながら平然と笑う。

 王は底知れぬどす黒い感情を再び味わった。

 咢にどれだけ力を込めても、メスの頭と胴が分かたれることはない。

 それどころか、くすぐったいとでも言うかのようにメスはポリポリと首を掻いていた。


「フグッ! フググッ!?」

「もう終わりカ? つまらナイ。なら――」

「フグゥ――」

「次はこっちダ! [シャドウ・ファング]ゥゥゥゥゥゥゥ!」


 強力な魔力の流れが頬をピリピリと刺す。

 次の瞬間。

 地面から現れた三つ首の獣の咢が、王の足を喰らう。


「ガァッ!?」


 三つ首の獣は王の足を引き千切り、そのまま地面へ溶け込み緑の染みとなる。

 右ひざから下を失った王はバランスを崩し、そのまま地面へ倒れる。

 喘いだ表紙に牙も離してしまったことから、無様にも平伏すような姿勢となった。

 それを笑うメスはさながら暴君。

 圧倒的力を持って、全てを蹂躙する暴君であった。


「いいザマだナァ? 王様ヨォ」

「マダ……! マダダァ! 硬化ァァァァァァァァ!」 

  

 王は吠える。

 己の引き千切られた足を逆円錐の槍へと代え、更に失った腕の代わりに無機質な棍棒を生やす。

 ドゥッ、と地面を蹴って一瞬で間合いを詰めた王は、目にも止まらぬ連撃で追い込んでいく。

 否、


「いいゼェ! オラどうしタ!?」

「グオォォオォォォォオォォォッ!」

「それがテメェの本気カ!? ハン! だったらテメェはゴミクズだゼ!」


 追い込まれているのは王の方であった。

 王がどれだけ責め立てようと有効打へは繋がらない。

 殴りつけようと、蹴ろうと、槍を突きつけようと、棍棒を振りかぶろうと、その悉くが逸らされ、いなされ、躱され、無効化されていく。

 焦り始めた王の攻撃は次第に煩雑になり、


「……っざけんじゃネェヨ!」


 王の拳はパシン、という音を上げて細い手に掴まれた。

 ギリギリ、と力が加わり王の拳がミシミシと軋む。


「これガ? こんなモンが王ダト? こんなクソ弱ぇヤツが!」


 それは怒り。

 

「アンだけの命を弄んだってのカ!?」


 王にはけして分かる事のないであろう、優しい怒りだ。

 

「ざけんじゃネェゾォォォォォォォォォォォ!」


 信じられないほどの握力で、王の拳は握り潰される。

 だが、


「弱イ、ダト?」


 王はそれに気づいていない。


「余ガ、弱イ? メス。貴様、ソウ言ッタカ?」

「アン?」


 なぜなら彼は自身に向けられた在りえない言葉に、全ての思考を占拠されていたのだ。

 未だかつて、王を弱いと罵った者はなかった。

 それは王が最強であるが故に、王を〝弱い〟などと思う存在がいなかったからである。

 王自身そうだと思っていたし、そうであるのが当然、いや自然であったのだ。

 それなのに。


「ぷっ! ひょっとして、知らなかったのカ?」


 目の前の圧倒的暴君は、容易く王を弄する。


「テメェは、クソ弱ぇヨ! オレの足元にも及ばネェ。そんなんで王だっテ? あはははははははは! おかしくてへそで茶が沸くゼ!」


 この時、初めて王は怒りという感情を露わにした。


「ホザケェェェェェェェェ!」


 心の底からの憤怒を拳に乗せる。

 潰れた拳を何度も、何度も憎き敵の顔へと叩き込む。


「余ハ王ダァァァ! 称エロォ! 平伏セェ! 余ノ前ニヒザマヅケェェェェェ!」

 

 自身の自信と誇りを汚されて、怒りに狂った王はなりふり構わず拳をふるう。

 

「アァ? それはこっちの台詞ダ、バーカ」

「ナ、ニヲ!?」


 しかし、目の前のソレは軽く鼻で笑い捨てる。


「ひ・ざ・ま・づ・け・ヨ! [|星に与えられし神々のグラヴィトン]」

「――ゴッ!?」

 

 余りに一瞬の出来事で、王にも何が起きたのかわからなかった。

 ただ気がつけば頭上からのしかかる強大な圧力(プレッシャー)で押しつぶされそうになっていた。

 必死で両手両膝を地面につけ耐えるが、その姿はまるで目の前の暴君に屈しているかのようだ。

 見上げると、ソレは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ギギギギギ! 貴様ァ、何ヲ!」

「ひ・ざ・ま・づ・け、ってんダロゴミクズがァ!」

「――ブゥ!ッ?」


 頭を踏み抜かれ、地面に顔がめり込む。

 頭蓋がミシミシと悲鳴を上げ、顔の穴という穴から血が吹き出す。

 しかし、そんなこと王にはどうでもよかった。

 もっと重要なのは、今自分が何をしているのかということだ。


「余ガ、王タル余ガ……」

「アァ? 何言ってんノ? 地面に埋まってるからよく聞こえませーン♪ あははははははは!」


 ――二度目の屈辱。

 一度ならず、二度までも王は暴君の前に頭を垂れている。

 こんな事が、許されていいはずがない。


「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」


 王は吠えた。


「うるっせぇーんだヨ、ゴミクズ! 鳴くならもっといい声で泣けヨォ!」


 暴君がもう一度王の頭を踏みつけようと足を上げた。

 その一瞬を、王は見逃さない。

 鋭く硬化させた爪を目の前の腹に突き立てる。


「ア?」

「終ワリダ。余ノ体内ニハ何百種トイウ毒ガ蓄積サレテイル。ソレヲ全テ貴様ノ身体ニ打チ込ンダ。ヤガテ貴様ハ悶エ苦シミ身体ノ内カラ腐リ果テル!」

「ぐ……がはっ!?」

「ザマァミロ! ザマァミロ! ザマァミロ! 王タル余ヲ愚弄スルカラダ!」

 

 王たる自分が毒などという矮小な俗物に頼らねば勝てぬとは。

 などという高尚な考えが思い浮かばぬほど、王は追い詰められていた。

 今はもう、どうやって一刻も早く目の前の脅威を排除するかということしか、考えられなくなっていたのだ。

 そう――


「なーんてナ?」

「バ、バカナ!?」


――王は、目の前の暴君に生まれて初めて恐怖したのだ。


「ナゼ生キテイル! ナゼ立ッテイル!」

「毒なんて効くカヨ。あんま舐めてっと、死なすヨ? まぁ、どのみちぶっ殺すけどナァ! あははははっははははは!」


 それは不幸だった。

 初めから胸に沸き起こる感情が恐怖だと知っていれば、生き延びる選択肢が万が一、いや億が一にも生まれていたかもしれない。

 しかしそれは幸いだった。

 それが恐怖と知らなかったから、王は最期まで王としての誇り(プライド)を守れた。


「それじゃ、そろそろ死ぬカ?」

「……死ナヌ」

「テメェの意思なんざ聞いてネェ。オレがテメェをぶっ殺ス。もう決定してんダヨォ!」

「王ハ死ナヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 王は自らの全身を硬化させ、暴君を討ち取らんと突撃する。 


「テメェが、テメェらが犯した罪はデカい」

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

「オレのオレによるオレ裁判で、テメェは有罪、死刑確定ダ! いーや、死刑でも生ぬるイ! [|混沌より出でて、虚無へ送る黒穴ブラック・ホール]」


 暴君の頭上に途方もない魔力の塊が収束していく。

 炎が、氷が、土が、風が、光が、闇が。

 様々な現象が起こり、混ざり合い、あるいは反発し合い、それでも無理矢理押し込められていく。

 そうして出来た深い闇は、全てを呑み込む災厄となる。


「――楽に死ねると思うなヨ?」

「ウォォォォォォ…………オォ!?」


 突撃してきた王を暴君は難なく片手で受け止める。

 そしてそのままゆっくりもう片方の手を伸ばし、


「じゃ、まずは死ネ」

「グブァッ!?」


 王の胸から魔核を抉りだした。

 魔核を失った王の身体を、暴君は容赦なく切り刻む。

 

「んでもって死ネ! 更に死ネ! も一つオマケに死ネ死ネ死ネェェ! あはははははははははは!」


 魔核を失い、四肢を切り裂かれ、頭を穿たれても猶、王はまだ息をしていた。

 ゴブリンの頂点に立つ存在は、生命力も並みではなかったのだろう。

 それが良い事だったのかどうかは、言うまでもない。  


「アリ……ェん………………」

「じゃあナァッ! 弱っちぃ王さんヨォ!」


 まるでゴミをゴミ箱に捨てるかのように、暴君は王だった物の残骸をぽいぽいっと災厄の中に投げ込んでいった。

 ボシュッ、と言う音だけ残し王――ゴブリンキングは塵と消えた。

 暴君は頭上に浮かぶ災厄の球を魔力で無理矢理圧縮し、手の平に収まるくらいまで小さくする。


「フン! 雑魚が調子に乗るからダ……!」


 黒い輝きを放つソレを、暴君は軽々と握り潰す。

 手の中から血が滲むが、暴君は痛みに顔を歪めるどころか、声を上げて笑った。


「あははははははははははははははは!」


 紅い涙を流しながら、狂ったように笑い続けた。

クロが更神すると一気に悪役っぽくなる不思議。

ちゃ、ちゃうねん。ほんとはもっといい子やねん! ただ感情が抑えられないから、やりたい放題暴れたい盛りなだけやねん!

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