黒の系譜02-36-4『決着:ゴブリンアイドル』
やってきました正義の味方!
誰が呼んだかその名前、天に代わって悪を討つ。
人呼んで…………パピヨンマスク!
おルーが怖いぐらいの笑顔でゴブリンピエロに怪しい薬を飲ませている。
「うっげ……おルーってばえっぐいワ。あれならいっそ一思いに殺ヤっちゃってくれた方がマシなんじゃないカシラ?」
あ、一匹逝った。
ホント、あの娘ってば普段あんなに無表情なくせに、ああいう時だけ楽しそうな顔するんだから……末恐ろしいワ。
「……あんたも、あてくしが相手で良かったんじゃないカシラ? ゴキブリンブス?」
「フン! 余裕ブルノモイイゴブケド、モウ限界ナンジャナイゴブカシラ?」
「まっさか」
あてくしは腕を滴る血を振り払って、杖を優雅に構える。
「アイドルイノチー!」
「アイドルフメツー!」
ちっ、またなの?
あてくしは、武器も持たずに突っ込んできたゴブリンどもを杖で転ばせ、すぐに距離を取る。
「「アイドル、バンザ――!」」
地面を転がっていたゴブリンの腰にくくりつけられていた爆弾が爆発する。
十分距離の取れなかったあてくしは爆風で弾き飛ばされ、地面を転がった。
「惨メゴブ! 無様ゴブ! ブスノオ前ニオ似合イゴブ!」
配下のゴブリンをイス代わりにして、優雅に人間の血を啜るゴブリンブス。
はっきり言って最悪最低なブス野郎ね。
「部下に爆弾くくりつけて特攻させておいて、自分は高見の見物ってワケ? あんたホントいい性格してるワ。見た目がブスで、性格までブスなんて救いようがないんじゃないカシラ?」
「フン、ブスガ何言ッテモ、僻ミニシカ聞コエナイゴブ!」
「そっくりそのまま返してやるワ、おブス」
「黙ルゴブ、ブッスー♪ ゴーッブッブッブ♪」
ゴブリンブスは、見下すようにあてくしを見ている。
やっぱムカつくわー、こいつ。
「ソレニィ、コイツラハ自分カラアタクシ様ニ従ガッテルゴブ! アタクシ様ニ、命ヲ差シ出シタゴブ!」
「「「「「アイドルサマー! イノチー!」」」」」
「ソレガ、狂信者ッテモンゴブ♪」
「アイドルのためなら命すら投げ出せる、ねぇ?」
ま、確かにそういう連中もいるって聞いた事があるワ。
あてくしが南方大陸で見た〝K-emo〟とかっていうアイドルグループにも、熱狂的なファンとやらがいたものね。
でも、こいつの部下どもの場合はぜんぜん違うんじゃないカシラ?
「ホントよく言うワ。自分に自信がないくせして」
「……何ノ事ゴブ?」
パリン、と持っているティーカップを握りつぶしたゴブリンブスは、より一層醜く顔を歪める。
やぁね、カップは紅茶を相手にぶっかける道具であって、握り潰す物じゃないのに。
「そのままの意味だけど、言ってもいいのカシラ?」
「ソレヲ言エト言ッテルゴブ!」
「そう怒るんじゃないワ。只でさえブスな顔がもっとブスに見えるワ。だから、あんた――」
あてくしは最初から気がついていたワ。
「――魔術でなきゃ周りのゴブリンを従えられないんじゃないカシラ?」
「――ッグ!」
おっかしいと思ったのよ。
こいつらゴブリン変態……あら間違えちゃった♪ ゴブリン変異体が人間の言葉を喋れるのは別として、なんでこいつの〝ファン〟連中まで流暢に人の言葉を喋るのかってね。
いくらおブスのファンだっつっても、わざわざ人の言葉で〝アイドル〟だの〝イノチ〟だの〝カミカゼ〟だの言う必要はないもの。
「あんた、自分がアイドルなんだってあてくしたちに思わせたくて、わざと人間の言葉で喋らせたんでしょ? 魔術で操って?」
「……チッ、勘ノイイブスゴブ!」
図星みたいね。
この甘ったるい臭いは多分[チャーム]系の魔術、人間には効かないみたいだけど、恐ろしく広範囲に渡って魔術を公使しているようね。
ずっと血を飲み続けていたのも[チャーム]持続による魔力の消費を補給するため。
あんまり動かないのも、集中を保つため。
「つまりあんたは何もしてないようで、女王蜂としてずっと働き蜂どもにに命令を出し続けていたってワケね。さっすが醜い魔女はやる事があくどいワ」
「デ? 種ガ分カッタカラドウシタゴブ? アンタニアタクシ様ノ[催眠愚・哀奴隷]ガ破レルゴブ?」
「……ふん」
「無理ゴブヨネ? 出来タラトックニヤッテルゴブ!」
「ま、そうね」
生憎とあてくし、解除魔術系統はさっぱりなのよねぇ、魔法服の系統が違うしー?
普通の魔術も、最低限生活に必要な物しか使えないしー?
「ゴブゴブ♪ ナラ、オ前ノ死ハ変ワラナイゴブ! ファンドモ、聞クゴ――」
「でもね」
「ア?」
「だから、あんたは負けるの。というより、もう負けてるんじゃないカシラ?」
というか、勝負になってすらいなかったんじゃないカシラ?
「見なさい!」
あてくしは、雑兵ゴブリンどもと戦っているバカな連中を指差す。
「お前らー! クロネコさんの為に命かけるぞー!
「「「おー!」」」
「でも死ぬんじゃねぇぞー!」
「クロネコさんを悲しませないために!」
「クロネコさんを笑顔にするために!」
「ハァハァ……く、クロネコたんに罵ってもらうわなにするやめ、ぼきは仲間……ぎゃぁー!?(ドカドカドカドカ)」
まぁ、一部本物の馬鹿は置いておいて。
「こいつらはね。あのおちびのために自分たちから集まってんのよ。魔術で言いなりにするしかできないあんたは、魅力でもう負けてんの!」
「アタクシ様ガ、魅力デ負ケテルゴブデスッテ!?」
「そして、おちびの下僕はあてくしの下僕も同然! だから当然おちびの勝ちはあてくしの勝ち! お分かりカシラ!」
「「「「「…………えー?」」」」」
なによ、何か文句でもおありカシラ?
「アタクシ様ガ負ケテイルゴブ?」
「そうよ言っているじゃない? おーっほっほっほっほ♪」
「アリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブアリエナイゴブ…………」
あら、おブスったら目を血走らせてどうしたのカシラ?
酷い顔が余計に酷く……もう見れたもんじゃないワ。
「ソウゴブ。アタクシ様ガ魅力デ負ケル? ソンナノアリエナイゴブ!」
「往生際が悪いおブスね。……美しくないワ」
「オラァクソ下僕ドモォ! ソコニイル人間共ヲ、皆殺シニスルゴブゥ!」
「「「「「「「アイドルサマノタメニー!」」」」」」」
ゴブリンブスの合図で、残っている80弱のゴブリンファンどもが、腰に爆弾を巻き付け始める。
あれ全部に特攻させる気カシラ?
ホント、どこまでも美しくない奴ね。
「欠片一個、塵一ツ残スゴブナ! コレデ最後ゴブ! 行クゴ――」
「ホント、最後まであんたのブスは治らなかったようね」
あてくしは一粒の種をピン、と弾いて軽く杖で突く。
種はすぐに芽吹き、葉をつけ、根を広げていく。
幕の最中にあらかじめ撒いて置いたたくさんの種にその根が触れると、種は同じように芽吹き、葉を広げ、そして花を咲かせる。
戦闘で荒れ果てた草原の一角に、一瞬で花畑が広がった。
「どう? 綺麗でしょ?」
「ナナナナ、何ヲシテイルゴブ! 突撃スルゴブ! アタクシ様ノ為ニアノブス共ヲ殺スゴブ!」
「イノチー!?」
「アイドルサマー!?」
「バンザ……バン…………」
「無理よ。だって、動けないんじゃないカシラ?」
咲き乱れた花々は養分を求めて近くにいる|ゴブリン(肥料)にまで根を伸ばす。
根を張られ、魔力を吸い続けられた狂信者どもには、もうまともに抵抗する力も残ってるんじゃないカシラ?
「コ、コノ役立タズド――ゴビュ!? イタイイタイイタイタイイタゴブ! ドウシテアタクシ様ガ!?」
「あら? あんたみたいな救いようのないおブスでも、花には好かれるのね?」
「ゴ、ゴヒュ! ウ、ゴケナ………!」
「良かったじゃないカシラ? そんなあんたでも好きになってくれる物があって。……たとえ栄養としてしか見られてなくてもね?」
にしても、ホント植物ってすごいワ。
荒れ果てた大地にも根を張り、地中深くまで根を張って水を吸い上げ、命の花を咲かせる。
まるであいつらみたいね。
「に、にげろー!?」
「あばばばばばばばば!?」
「リーフィの姉御には絶対近づくなー! 養分にされるぞー!?」
「い、生きたまま肥料になるのはゴメンだ―!?」
一度は荒れ果てていた門外街に見事に笑顔の花を咲かせたおちび。
(あの子ってば案外本物の…………なんて、考えすぎカシラ?)
「タ、タスケ……」
体中に根を張られ花を咲かせながらも、部下のゴブリンに救いを求めて手を差し伸べるゴブリンブス。
でも、残念。
「ゴ、ゴブ!(バシン!)」
その手は無下に振り払われる。
「ナ!? ドウジ、デ!? 助、ゲナイゴブ!?」
当然よね?
魔力が吸い取られ、集中も途切れた今おブスの魔術はとっくに効果切れ。
正気に戻った低能なゴブリンどもに、生存本能以外の感情があるはずないワ。
「哀れね。しょせん、あんたの〝美しさ〟なんて、その程度だったのよ」
「イ、イヤゴブヨ! アタク、シ……様ハ………ウツ、ク…………苦ルシ……!」
「あらやだ、まだ生きてるのね? しぶといったらないワ」
「タ、タス……アタク……サマ……ナ、ニモシテ……ナイ、ゴ」
『自分は何もしていないから助けろ』ですって? どの口が言うのカシラ?
花に包まれてやっと少しは見られるようになったかと思ったのに、ホントどうしようもない奴。
「無理よ。だって」
あてくしは、ゴブリンアイドルの頭上に咲いた美しい花を愛でながら言う。
「こんなに美しい花を、散らせるわけにはいかないじゃない?」
「ウツク……アタクシサ……ウツクシ……ナレ…………」
「別にあんたの事は言ってないんだけど……」
「ウツク…………」
「幸せそうだし、まぁそれでいいワ」
そのままゴブリンアイドルは静かに命を散らせた。
皮肉なもんね。安らかな死に顔が、一番美しいなんて。
「それにしても……綺麗ね」
一面に広がる花畑は、風に乗って花弁を舞い上がらせる。
なんて、綺麗な光景なのカシラ?
「ッキッシャー!」
――あの化け物みたいな花さえいなければ。
「ギャー!? で、でっかい花がー!?」
「あ、アレは[オーク・イーター]!?」
「な、なんだってそんな凶悪な魔物が!?」
聞いたことがあるワ。
北大陸に生息している魔花[オーク・イーター]。
淀んだ魔力を吸い続けることで咲く狂気の肉食花。
オーク・イーターと言いながら割と雑食で、たしか……
「キッシャー!」
「たぁーすぅーけぇーてぇーッス!」
「け、ケーン!?」
人間も襲うんだったカシラ? ってか、襲ってるワ。今まさに。
たくさんのゴブリンの血肉やら魔素やらを吸いすぎたせいで、魔物化したのね。
あてくしったら……しっぱいしっぱい♪
「キシャー! キシャー!」
「ぎゃー!?」
「たすけてえぇぇぇぇぇぇ!」
「やばいぞ! アイツ、オレたちを食う気だ!」
「逃げろォー! 死ぬ気で逃げろォー!」
器用に触手を使って次々と獲物を捕獲していく魔花……なかなか面白い絵面ね。
絵に残しといてあとでおちびにも見せてやりましょう♪
「キシャー!」
「(パシャパシャ!)……うーん、もっとインパクトが欲しいワ」
「リーフィさん! そんな事やってないでた――うぎゃー!?」
「ケリッヒィィィィィィィィィ!」
「ナイスよ! タイトルは『ハゲの悲劇』いただき(パシャパシャ!)」
「オレははげてねぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「チクショォォォォォォ! お前ら! ゴブリンなんざ後回しだぁ!」
「まずはあのバケモンみたいな花が先だぁ!」
「ケーンの仇なのーーーー!」
「い、いや。まだ自分死んでないッス」
「ふぅ……なかなかいい絵が撮れたワ……あら? 意外に手こずってる?」
やぁねぇ。
せっかく誰も死なずに済んだのに、このままじゃ死人がでちゃうじゃない?
それはさすがに寝覚めが悪いワ。
「まったくもう……」
しょうがない。ここは一つ、何とかしてやりましょうか。
ったく、ドイツもコイツも面倒をかけてくれるワ。
「さて……お? あんた、魔術師ね?」
「おうよ……じゃなくて、はい。一応」
「赤の魔術は使える?」
あてくしは質問しながら魔花の根本付近をよーく観察する。
たしかあの辺に…………あったった♪ あそこね。
「ふぁ、[ファイア・ボール]くらいなら……」
「上出来! 今から言う辺りに[ファイア・ボール]を打ち込んでくれないカシラ?」
「おぅじゃなくて。はい……」
触手を伸ばして暴れ狂う魔花の根本付近、たくさんのゴブリンがいたあの辺りには、
「よーく狙うのよ……」
「――の精霊よ、火を〝玉〟にして敵に――」
「――今よ!」
「[――〝放て〟! [ファイア・ボール]」
さっきのゴブリンどもが使えずに終わった大量の爆弾があるのよね。
「キシャ――?」
火の玉が命中した瞬間、まばゆい光が弾け。
ドッゴォーン、というすさまじい爆発が巻き起こった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「オーッホッホッホッホ♪」
「ひ、ひぇーっ!?」
「し、しぬぅー!?」
「あ、これ死んだッス」
「ケーン! 諦めちゃダメなのー!」
「オレ、生きて帰ったらクロネコさんに……」
「ケリッヒィィィィィィィッィィィ!」
幾つかの爆弾は地上では爆発せずに、爆風で空高く舞い上がり、空中に数多の爆炎を生み出す。
まるでそれは……東大陸で見た〝ハナビ〟みたい。
咲き乱れていた花々も爆風で乱れ散り、燃え上がり、今までに見たことのない幻想的な光景を作り出していた。
「やっぱ、花は散り際が一番美しいワ♪ そーだ、これも絵に残しといて代表と奥様に送ってやりましょう。きっと生で見れなかったことを悔しがるワ♪(パシャパシャ!)」
「しょ、消火ー! 青の魔術使える奴は消火急げー!」
「ベニィ……今夜の晩飯はチーズが喰いたいッス……がくっ!」
「ケーン、割と元気なの」
「うぁっちぃ!? だだだだ誰かオレの髪をまもってくれぇー!?」
「おい誰か! ケリッヒの頭が燃えてるぞォー! 頼む消火班急いでくれぇー!」
あてくしは二度と見れないだろうこのバカ騒ぎを絵に収めた。
こんな愉快な事、またいつ見れるか分からないものね。
「…………女って怖ぇ……」
「あら? こんなにウツクスィーあてくしを捕まえて怖いとは失礼な奴ね? ――そんなに死にたいのカシラ?」
「す、すゃせぇーん!?」
あてくしが一睨みすると失礼な魔術師は尻尾を巻いて逃げて行った。
ホント失礼しちゃうワ!
(さってと。でもこれでこっちはあらかた片づいたんじゃないカシラ?)
おじょうも、おじゃりも、おルーもとっくに戦い終わってたのね。
今は呑気に口を開けて突っ立ってるワ。
まったく、戦い終わってるならさっさと応援に来なさいっての。
人助けは、あてくしの仕事じゃないんだから。
(……あとはおちび、あんた次第よ。せいぜい死なないようにがんばんなさい)
外したマスクを指にかけてクルクルと回しながら、あてくしはお節介なおちびさんがいるであろう方向に笑う。
(まったく、今日のあてくしは柄にもない事してばっかり。これもぜーんぶ、あのおちびのせいね)
でも、そうね。
こういうのも、たまにはいいのかもしれないワ。
はい。正義の味方って言うより悪の女幹部みたいでしたね(汗)
その後、火は消化班の決死の活躍により無事に鎮火しました。
リーフィさんの大活躍のせいで〝奇跡的に死者が0名〟という結果になったそうです。




