黒の系譜02-36-2『決着:シェルゴブリン』
それではエミリー戦ですが、エミリーの身に異変が……!?
ミラの起こした大爆発を見ながら、アタシは肩で息をする。
さすがに、あんだけ戦った後で全速力ダッシュはくるわー。
「……オ前ノ仲間、怖エーゴブナ。エロエロエロエロ……」
「ぜーはー……アタシも、たまに怖いわ。って汚いわね! エガチャン、エガチャン!」
クロに教わった汚い物を寄せ付けないための呪文を唱えながら、アタシはなんちゃらゴブリンを睨んだ。
ホント、自分で技を使いながら目を回すなんてバカな奴だわ!
「……で、アンタ。そっからどうするつもり?」
「コ、コレハ作戦ゴブ!」
全身が分厚い甲羅になったせいで、ソイツは自分で起き上がることも出来ず倒れたまんま。
こんなバカな奴、ホントはらくしょーなハズなのよ?
なのにコイツときたら……!
「ってか! ホント、アンタやる気あんの!?」
「ゴブ? 何ガゴブカ?」
「アタシは硬くて攻撃できない! ソッチは手も足も出ない! これじゃ勝負がつかないじゃない!」
「ウ、ウルサイゴブ! オレハ負ケナケレバイイゴブ!」
負けなければいい?
確かにそうかもしれないけど……
「負ケナケレバ、キング様ガナントカシテクレルゴブ!」
「うっわ……だっさ!」
コイツ『クロを倒す』とか『最強』とか言っておいて結局それなの? とんだ根性無しじゃない。
(でもこのままだったら、アタシも同じ事よね)
多分アタシがコイツを倒せなくても、クロは一人で全部何とかするはずだわ。
でもミラだって、ボロボロになりながらあのいけ好かないゴブリンを倒したわ。
ルーミアも本気を出せばあんな数が多いだけの奴らは楽勝だろうし、リーフィの相手なんて完全に役不足ね。
「このままじゃアタシだけ……そんなのさすがに悔しいじゃない!」
だからコイツは意地でもアタシがぶっ倒す。
(アイツが――クロがすっごい奴だってのはわかる。アタシもその事はもうあきらめたわ)
けど、せめてアイツの背中ぐらい。
ううん、アイツだけじゃない。
ミラも、ルーミアも、リーフィも、黒猫院の連中もみんな!
大好きなバカどもの背中ぐらい守れなくて、何が仲間よ!
「(だったら、どうにかしなきゃね!)」
『エミリーはもっと、頭を使いなよ』
だからソレはさっきダメだったって……ん?
(『頭を使う』? あ、考えろって事か。なんだ、それならそうと言いなさいよねー。でも考える、か……)
あんまし得意じゃないけど、勝つためにはしょうがない。
背に腹わたをぶちまけろ、ね。
(そうね、アイツの甲羅をぶち破るのは無理。コッチの腕が持ってかれるわ。何か良い方法は……そういや、さっきクロになんかもらった気がするような……?)
ポケットをまさぐってみると、あった。
真っ赤な色の大きなドロップ。
中身がなんなのかは分からないけど、この形、色。
間違いなくドロップだわ!
「とりあえず飲んでみようかしら?(パクッ、ゴクン)」
……あれ、何も起きないわね?
アイツ、フリョーヒンでも渡してきたんじゃないでしょうね?
「ゴブ!? コ、魔核を喰ッタゴブ!?」
「あ、魔核だったのね、アレ」
魔核、ということはクロがいっつも使ってるフロマージュとか言うヤツね。
使い方は確か………………………………食べる?
違う違う……アイツいつもどうやって使ってたっけ?
「ねぇ、アンタどうやって使うか分かる?」
「分カルワケナイゴブ!? オ前ヤッパ馬鹿ゴブ!」
「バカって言うな! ってか、使い方分からないアンタの方がバカじゃない!」
「リ、理不尽ゴブ!? ソレヲ言ッタラ、オ前ダッテ知ラナイダロウガゴブ!」
「違うわ! 知らないんじゃなくて聞いてないのよ!」
「似タヨウナモンダゴブ!」
でも困ったわね……ううん、わかんないなら考えても無駄ね。
まったくクロのヤツ、ちゃんと使い方説明してから置いてきなさいよ、もう! でも、クロからもらったアイテムが使えないんじゃ、他の作戦が必要ね。
「作戦作戦…………………………(ぷしゅー!)」
「オ、オーイ? ナニ黙リ込ンデルゴブ?」
「あーもう!」
「ビクッ! ビ、ビックリスルゴブ! イキナリ大声ダスナゴブ!」
「うっさい! うだうだ考えてもわかんないわよもう考えるの終わり! アタシらしくない!」
そうよ。天才のアタシが考えて答えが出ないんだから、そもそも小細工なんて必要ないのよ!
「作戦名『普通にぶっ飛ばす!』」
「コ、コイチ本物ノ馬鹿ゴブ!?」
アタシには拳一つあればいい!
正攻法、真っ向勝負でじゅーぶんだわ!
甲羅が硬い? んなもん、きっと気合が足りなかっただけよ!
『腹に力入れて――』
「腹に力入れてぇー!」
親方の言葉が頭の中に響く。
『――打ちやがレ!』
「うぅーっつ! すぅ………………はぁっ!」(ドッゴーン!)」
「ゴ、ゴブ!?」
アタシは全身の気力をお腹に集中するイメージで力を入れる。
お腹のあたりがじんわりと熱くなって、そっから全身に力が漲ってくる。
「ふふん♪ さっすが親方! なんか知んないけど、コレなら行ける気がするわ!」
「ナ、オマ!? 獣人ダッタゴブカ!?」
「は? アンタ何言ってんの? アタシはどっからどー見てもハーフドワーフじゃない!」
「イヤイヤイヤ! ドッカラドウ見テモ、人狼ゴブ!?」
ワー何とかがなにかは知らないけど、アタシが獣人なワケないじゃない。
やっぱ、バカには付き合ってられないわ。
「さっさとぶちのめ――アレ?」
驚くほど身体が軽い。
こういう時はなんて言うんだったかしら……そうそう『背中の鐘が取れたみたい』ね!
まるで背負ってた鐘を降ろして身体が軽くなったみたいで、アタシは気付けばもうなんちゃらゴブリンの後ろにいた。
「ド、ドコ行ッタゴブ!?」
目の前には分厚い甲羅。
でも硬いからなんだってのよ。
甲羅が硬いんなら、とにかくおもいっきり全力でぶん殴ればいいだけよ!
「ここ、よっ!(ドッゴォ!)」
「ゴブフッ!?」
ガコォ、と鈍い音がしてゴブリンの甲羅が凹んだ。
あんなにたくさん殴ってもびくともしなかったのに……
「やっぱ気合は大事ね!」
「ゴブァ!? バカナゴブ! コンナパワー、サッキマデトマルデ別人……」
「どぉっせぇーい!」
拳が通じるなら、後はもうコッチのもんよ。
パンチ、パンチ、パンチ、たまにキックで、またパンチ、パンチ。
あんなに硬かった甲羅が面白いように凹んでいく。
アタシ、絶・好・調!
「サ、最強ノオレガ!? オレノ最強ノ甲羅ガ負ケルゴブ!?」
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ…………!」
「コ、硬化! 硬化! 硬化! 硬化! 硬化! 硬化!」
甲羅をボコボコにするけど、すぐにまた新しい甲羅を作っていく甲羅ゴブリン。
でも無駄よ。無駄無駄! も一つおまけに無駄無駄よ!
「だぁーらっしゃあーーーーーーー!」
「ゴブルッ!?」
バキィン、とものすごい音がして甲羅にヒビが入る。
そのまま一気にヒビが全身に広がり、全部の甲羅が砕け散った。
ガラガラと胴体の甲羅が砕け落ちると、その下から現れたのはえらい貧弱な身体だった。
あんな中身だったら、そりゃ全身甲羅になったら重くて動けなくもなるわ。
もっと筋肉つけなさいよねー。
「でも超チャンス! もらっ――」
「サ、サセンゴブ!」
「いぃっ!?」
がら空きの胴体にドぎつい一発をぶちかまそうとしたアタシだったけど、少し大振りになりすぎたみたいね。
パンチが遅くなったせいで、すぐに再生した甲羅ゴブリンの甲羅で腕を挟まれた。
痛くはないけど、これじゃ動かせないじゃないのよ!
「ふぬぅ! ぬーけーなーいー!」
「ア、当タリ前ゴブ!」
「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………!」
「ゴブゴブゴブ! コノママ腕ヲヘシ折ッテヤルゴブ!」
「はずしなさいよ!」
「外スワケナイゴブ!」
「はずさないとぶん殴るわよ!」
「外シテモ殴ラレルゴブ!」
「あたり前じゃないの!」
「理不尽ゴブ!?」
腕をギリギリと締め付ける力が強くなっていく。
でもまぁアタシの腕は、驚くくらいにぜんっぜん何ともない。
その代わり、師匠から受け継いだ大事な籠手がミシミシと悲鳴を上げている。
「アタシの腕は別にどうなったっていい! でも、この魂を壊させるわけにはいかないっての!」
「馬鹿ゴブ! 腕モ、籠手モ、仲良ク一緒ニヘシ折ッテヤルゴブゥ!」
腕を押しても引いても甲羅はビクともしない。
このままじゃ本当に籠手が……そんなの絶対ダメ!
「だったら!」
アタシは持てる力全てを腕じゃなくて、足腰に集中する。
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「ゴブ!?」
押しても引いてもダメなら、
「ふん!」
「ゴブ!? マ、マサカ!?」
「も、持ち上げる、までよ……!」
「ナ、ナンテ馬鹿力ゴブ!?」
「初めから、そう、言ってるじゃないの!」
くぅ! 結構重たいじゃない!
さすがのアタシでもちょっときついわ。
「でも! ここで気合いを見せなきゃ! 女じゃないッ! クロ、技使わせてもらうわ! ほう、きゃくっ!」
アタシの振り上げた足に、力が集まるのがわかる。
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
踏み込んだ地面がドォン! と爆発し、アタシの身体がものすごい勢いで空へ発射される。
「ゴ――」
アタシは大砲の弾みたいに、空へ打ち上げられていく。
「――ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」
ホントに大砲の弾になったみたいに、身体が熱い。
(でも、いけるッ!)
身体だけじゃない。
アタシの拳が炎みたいに熱く燃えている。
「ゴブブブ!? 熱ッ!? アッツイゴブ!? 何ゴブ!? 甲羅ノ中デナンカ燃エテ!? ゴブブブブブブ!?」
きっと、アタシの想いが師匠から譲り受けたこの籠手に宿ったんだわ。
「タ、堪ランゴブ!」
アタシの熱い想いに耐えきれなくなったゴブリンは甲羅を開け、アタシの腕を解放した。
バカなヤツね。
どんだけ硬い甲羅に隠れても、中身は貧弱な身体。
『どんなに防御の堅い相手でも、必ず隙がある。そこを突くのです』
腕一つ分開いたそこは、隙以外のなんでもないわ!
「お腹がガラガラよ! だぁらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「コ、硬――」
慌ててお腹に甲羅を作ろうとするゴブリン。
「遅いっての!」
でも今のアタシの拳はそれよりも速い!
炎の拳ががら空きの胴体に突き刺さり、貧弱な身体を抉る。
「――カブルヒュル!?」
甲羅の内側で、アタシの拳が爆発する。
甲羅の穴と言う穴から炎が吹き出し、全身の甲羅が内側から弾けた。
真っ黒焦げになったヒンジャクゴブリンに、アタシはヨーシャなく拳を打ちまくる。
「うーりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃーー」
「ゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴッゴゴ――」
何十、何百という拳の嵐を叩き込んでやる。
だんだん元の形が分からなくなってきたけど、まだ最後の一発が残ってる。
「うっりゃぁぁぁぁぁ!」
「――ギュルブギェフゴボルビュッ!?」
渾身の一撃で顔面をぶん殴ると、ゴブリンは派手に回転しながら地面へと一直線に落ちていき、バッコーン、という大きな音と土煙を立てて地面にぶつかった。
大きく窪んだ地面の中心には衝撃でぐちゃぐちゃに潰れたゴブリンが……
「気持ちわるっ! ……でもま、こんなもんね!」
アタシは落下しながら、勝利のポーズを取った。
「大勝利!」
さてと、でもここで問題が一つあるのよね。
「……これ、着地できるわよね?」
結構かなり下の方にある地面を見て、アタシは首を傾げる。
ま、ここまで飛べたんだし、その逆も何とかなるでしょ。
たぶん?
エミリーが食べちゃった魔封珠は[オーガードッグ]の魔核に[ヒャック・バイ・キルトン]という魔術がかかっています。これは使用者の力が一時的に何倍にも引き上げられる代わりに、効果が切れると逆にしばらく力が半分以下になってしまうという魔術が込められていました。
それを食べた状態で使ったもんだから、あんな効果になったようです。
エミリーはまだ自分の変化に気が付いていません。おバカなので。
というわけで、次回はルーさんです。




