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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-33『ゴブリン無双』

※言うほど無双してませんでした。

 門の前で集合したオレたちは、戦場となっている北の平原を見据える。

 戦闘はまだ始まっていないものの、まさに〝一触即発〟といった様子。

 互いににらみ合っている両者が、いつ動き出してもおかしくない。

 オレたちも、準備を急ごう。


「エミリー、街の方はどう?」

「全員、黒猫院に避難させたわ。守りはエミリー隊の連中に任せてきた」

「おっけー」


 エミリーにはケーンさんたちと一緒に街の人たちへの説明と、避難誘導をお願いしていた。

 黒猫院には食糧の備蓄もあるし、万が一があっても数日位なら籠城できるはずだ。

 エミリー隊の人たちが守ってくれているというし、おおきな問題はないだろう。


「ルーお姉ちゃん、回復アイテムはどのくらい出来てました?」

「ん、ぼちぼち」

「少なくはないけど、多くもないってところですね」

「ん」


 ルーさんには少ない時間でできうる限りの回復アイテムを集めてもらった。

 材料があればオレもすぐに作れるのだが、畑の魔草はもう薬にしてしまっている。

 ある分全て作って。大体300あるかないかくらい。

 これが多いのか、少ないのか……何にせよ大事に使う事にしよう。

 

「ミラ、魔封珠はどう? 上手くいった?」

「はい、クロさんの指示どうりに設置して、結界魔術は作動させてきました。まさか私が儀式魔術を発動できるなんて……」

「うん、一応魔力があれば誰でも使えるんだけど結構魔力を使うから……一番魔力量が多いミラだからお願いできたんだけど、疲れたよね? ごめんね」

「いえ! 魔力ドロップもたくさん頂きましたから大丈夫ですわ!」

「なら良かった」


 ミラには黒猫院に結界を張るようお願いしていた。

 魔封珠に[エー・ティーエフ]を込めた物と[サンクチュアリ]を込めた物を陣を描くように配置、魔力を注ぎ込むことで強力な魔術結界を作動させたのだ。

 一応出入り口だけ開けてはいるが、そこはエミリー隊が守っている。

 ゴブリン程度の魔物になら簡単には突破されないだろう。


「ですが、トラップ用の魔封珠は設置しませんでしたわ。下手に設置して味方が巻き込まれても困りますので」

「うん、その方がいいね。じゃあ余ったのはミラが使って」

「はい」


 一応トラップ用に[ファイア・ボール]や[アース・ニードル][エア・スクリーン]なんかを封じ込めた魔封珠も用意したんだが、ミラの言うとおりエミリー隊の人とかが巻き込まれたら大変だ。

 完全な籠城戦にでもならない限りは必要ないかもしれない。


「よし、みんなの方は大丈夫そうだね」

「で、あっちの方はどうなワケ?」

「うん、戦場の様子なんだけど……」


 平原の皇都側に陣を構える皇国軍、とは名ばかりの義勇軍。

 その末尾、軍の最後尾に隠れるように、ゴテゴテした鎧を着飾った男が馬上で吠えている。


「良いかぁ! 貴様らは義勇軍として選ばれたのだ! 皇都を守れるために戦えることを誇りに思え!」


 鼓舞された人々の表情は暗い。

 そりゃそうだ。

 この場に自ら志願してやって来た人がどれだけいるのだろうか?

 義勇軍なんて言っているが、実際はただの街人の寄せ集め。

 簡単な鎧を無理やり着せられただけの素人軍に対するのは、魔物のくせに無駄に統率の取れているゴブリン軍。

 こう言っては何だが、勝ち目は火を見るより明らかだ。


「想定はしていたけどここまでとは……ねぇ、やっぱり無理に付いてこなくても……」

「クロ。言うのはボヤってもんよ!」

「エミリーちゃん、それをいうなら〝野暮(やぼ)〟ですわ」

「そーとも言うわね!」

「んーん、そうとしか言わない」

「わかった。じゃあもう何も言わない」


 オレが無言で出した手に、皆が手を重ねていく。


「じゃあ、さっきの仕切り直しで。いくよ? えいえい!」

「「「「おー!」」」」


 高く突き上げた拳に誓う。

 オレたちは、ゼッタイに負けない!


「出陣んんんんんんんんんんん!」

「「「「「「お、おぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」

「「「「「「「「「「ゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブ!」」」」」」」」」」


 戦場で怒号が巻き起こる。

――開戦だ。

 

「ワタシたちも行こう!」


 オレたちも戦場へ躍り出た。



―――――



 それは戦闘と呼ぶにはあまりに一方的すぎる蹂躙だった。

 

「ひ、ひぃっ! くる、くるなぁ!」

「ゴブゴブ、ゴブー!」

「ぎゃー!?」


 あちこちで義勇軍の人たちがゴブリンに襲われている。

 普段まともに剣を握ったことが無い人々にとって、命を守るための武器も鎧もただの重たい金属の塊にすぎない。

 当然すぎるほどの戦力差だった。


「させないっ!」


 オレは戦場を駆け抜けながらゴブリンを一爪のもとに切り捨てる。


「そこの人!」

「ひっ、お前は……!?」

「なるべく数人で固まる! 一対一で厳しいなら数人がかりで相手をすること!」

「は、はひぃ!」

「ミラは怪我した人の回復を!」

「はい!」


 出来るだけ分かりやすく指示を出しつつ、オレは周囲のゴブリン共を斬り伏せていく。 


「――彼の者を〝治せ〟。[ヒール・リング]」


 ミラの身体から溢れた光が、血まみれで横たわる男の傷をふさいでいく。


「うぐぁ……これは、治療魔術? あんた、神官なのか?」

「いいえ、通りすがりの冒険者ですわ」


 ミラには怪我人の治療にあたってもらう。

 ポーションの数には限りがあるし、回復が必要な人はかなりの数いる。

 少し大変だとは思うが、貴重な回復魔術の使い手であるミラにはそちらに回ってもらった。

 それでもやはりミラ一人ではきついので、治療をした人にポーションを渡して治療班を編成してもらう。


「ルーさんはミラの援護を!」

「ん、紡ぐは〝黒〟、〝影〟で〝牙〟を描き――」


 ルーさんにはミラたちのサポートをお願いした。

 ミラの方へ敵が行かないよう時間稼ぎをしてもらう。


「――敵を〝噛み砕け〟……[シャドウ・ファング]」


 ルーさんの影が伸びて膨れ上がり、獣のような(あぎと)を開ける。


「ゴギュ!?」

「ブギャ!?」


 2体のゴブリンを噛み砕いた影の牙はそのまま地面に戻っていき、緑色の血の染みを広げた。


「ゴブブ!」

「ゴブ!」


 ゴブリンの標的がミラから今度はルーさんへ移る。


「さ、させない!」

「ひぃ、くるなぁー!」


 ただしルーさんも詠唱中は無防備になるので、数名の義勇兵で陣形を取って守ってもらう。

 

「エミリーは……」

「だらっしゃー!」

「言うまでもないか」


 エミリーには特に指示はしない。

 まぁ、あんまり難しい事言ってもしょうがないからね。


「まぁーだまだぁぁぁぁぁー!」

「ゴビュル!?」

「ゴ、ゴッブー!?」

「ゴゴブゴブ!」


 そしてそのエミリーは敵の群のド真ん中で大暴れしている。

 並み居るゴブリンをちぎっては投げちぎっては投げ……

 いやいや、いくらエミリーで相手がゴブリンでもさすがそれは危ない。

 オレは襲われている人を救助しつつエミリーのもとへ駆ける。


「やってるねー!」

「来たの?」

「助けは必要?」

「冗談!」

「だと思った!」


 オレたちはゴブリンを倒しながら背中越しに笑い合う。


「なんなら、また勝負する? アタシが余裕で勝っちゃうけど(バキィ!)」

「ゴビュ!?」

「いいけど……でもワタシ100から先は数えてないよ(ザシュッ!)」

「ビュゴ!?」

「ふふん♪ ならアタシの勝ちね!(ドカ!) アタシは200から先は数えてないわ!(BACOON!)」

「ブゴゴーン!?」

「それは別に勝ってるとは……はぁ、まあエミリーの勝ちでいいよ」

「トーゼンね!」


 今はツッコんでられるような状況じゃないし、渡そうと思ってたものもあったからちょうどいいし、そう言う事にしておいてあげよう。 


「じゃあ、はいコレ」

「なによ、これ?」

「優勝賞品?」


 オレは持っているポーションドロップと魔力ドロップをあるだけ渡す。

 いつものエミリーならツンデレって『そんなのなくてもヨユーよ!』とか言い出しそうなので、賞品って言っとけば素直に貰ってくれるだろう。


「あんがと♪」

「大事に使ってねー。あ、あとコレも」

 

 それからとっておきの魔封珠を渡す。

 以前エミリーからもらった[オーガードッグ]の魔核で作った魔封珠だ。


「なによコレ?」

「秘密兵器だよ。ピンチになったら使ってね!」

「ピンチになんかならないわ! ……でもまぁ、いちおー貰っといてあげるわ!」

「はいはいツンデレツンデレ」

「ツンデレ言うな!」

「で、使い方なんだけど「あ、敵!」を「だらっしゃー!」して「ふふん! らっくしょう!」だから! ……って、聞いてた?」

「聞いてた聞いてた! おっけー、ピンチになったら使うわ!」


 ホントにちゃんと聞いてたのかな、今ので?

 まぁ、使い方自体はそんなに難しくないし、大丈夫っちゃ大丈夫だろう。


「んじゃ、さっそく一つ」

「もう使うの? ホント大事に使ってよ!」

「わーってるわよ! 必殺ちょぉーっぷ!」


 ポーションを噛み砕いたエミリーが手刀を振り下ろすと、そこから発生した真空の刃がゴブリンを切り裂いていく。


「ワタシも負けてらんないね。……長時間持続回復、最大魔力、[リ・ジェネレート]」


 かなりの魔力を消費して[リ・ジェネレート]を発動する。

 これでかなりの時間持続的に体力は回復し続ける筈である。

 魔力ドロップを飲み込んで、魔力を回復しつつオレは爪を構える。


「からの、[ブレード・スピン]!」


 旋刃の独楽となって緑の群に突入したオレは戦場を真緑の返り血で染め上げていく。

 スキルアシストの解除とともに、すぐさまオレは次の戦技を発動する。


「からの[ワイルド・ラッシュ]!」


 オレは止まることなく戦技を発動し続けた。



―――――



「ゴブブ!」

「っ、[ムーン・スラッシュ]」


 振るった腕から発生した衝撃波が、ゴブリン10匹くらいを纏めて切り裂いていく。

 肩で息をしつつ戦場を見回すが、どこを見てもゴブリンゴブリンゴブリン……


「はぁはぁ……ホント、何匹いるんだよもう!」


 もう何百というゴブリンを倒しているはずなのに、一向に数が減らない。


「ゴブ!」

「ちっ!」


 呼吸を整えていた一瞬の隙をついて、背後に接近していたゴブリン。


「クロ! 後ろががら空きよ!」

「ゴブルバ!?」

「……ありがとエミリー」


 一発貰う覚悟はしていたが、エミリーの援護のおかげで助かった。


「クロ、へばってんの?」

「全然! ……って言いたいところだけど、少しへばってるかな」

「アタシは全然よ! 背中貸してあげるから少し休みなさい」

「うん、ちょっと借りる」


 エミリーの背中にもたれかかって、少し息を整える。

 でも疲れているのはオレだけじゃない。


「――っ! [ヒール・リング]!」

「――〝吹き飛ばせ〟 ミラ、ふぁいと。[エア・ブラスト]」

「くそぉ! 何匹いるんだよぉ!」

「ぜはぁぜはぁ……」


 ミラとルーさんも、他の兵たちもみんな、ちょっとずつ参ってきてるようだ。

 

「まずいね」

「大丈夫よ。女は度胸っていうでしょ?」

「……実はワタシ男なんだ」

「……え?」

「……って言ったら?」

「……そうなの?」

「ち、チガウヨ?」

「そ、ならいいわ」


 エミリーの言葉にもいつものツンデレが足りない。

 やはりエミリーも口には出さないものの疲れているようだった。

 

「どうしたもんかねぇ」

「あーらあら? もしかしてお困りカシラ?」

 

 戦場に凛とした声が響く。

 敵も味方も戦場にいた誰もが、その時だけ戦いを止め声がした方を振り向いた。

 いつの間にかそびえ立っていた巨大な樹木の上で、月をバックにポーズを取っている。

 誰かが叫ぶ。


「あ、あれは誰だ!?」


 白いレオタードのような衣装を淡い黄色のケープやチューブトップドレス、パレオ風のオレンジのスカートで隠した派手な格好は、一度見たら忘れられないくらいのインパクトがある。

 そのシルエットに戸惑う誰かが漏らす。


「魔物……? 違う人だ」


 頭には麦の穂をイメージしたような髪飾りが付いていてまさに魔法少女といった出で立ち。

 おそらく魔法少女なんて言葉を知らないであろう人からすれば、それは余りに奇異に映る事だろう。 


「ただの人じゃない! あの身のこなしはただ者じゃないぞ!」


 そしてそんな格好が似合うおと……似合う人なんて、オレたちは一人しか知らない。

 

「パピヨンマスク、参上カシラ?」

「いやリーフィさんでしょ?」

「リーフィよね?」

「リーフィさんですわね」

「ん、フィー」


 オレたち4人の多数決の結果、満場一致でリーフィさんだと可決されました。


「パピヨンマスクっつってんでしょうが! オシオキされたいの!?」


 言いながらリーフィさんはビシッ! とポーズをとる。

 この人、割とノリノリである。

 オレ含め、その場にいる全員が思っていた。

 アレはヤバい(色々な意味で)と。

 

「畑の肥しにしちゃうゾ♪ の方が良かったかしら?」


 そんなオレたちの考えなどつゆ知らず、自称パピヨンマスクさんはノンキに決め台詞を考えていた。

 その事にツッコめる猛者は、この戦場には誰もいなかった。

※紛らわしい書き方で申し訳ないです。『無双はしてるんですが、無双してる部分の表現は割愛されました』という意味でした。

 

 

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