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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
82/104

黒の系譜02-幕間03『門外街の泊まり木』

さぁ幕間はまだ続きます!


 カランカラン、と入り口に付けたベルが鳴る。来店の合図だ。


「うーっす、3人だけどいいかー?」

「いらっしゃーい! どっか適当に開いてるとこ座ってー!」


 看板娘がせわしなく働きながら答えた。


「あいよー」


 入ってきた冒険者風の男たちは周囲を見回すが、開いているのは別の二人組冒険者が座っている所だけ。

 しかも、


「ちっ、獣人と相席かよ」

「嫌なら、床にでも座ってろよ。人族」

「なんだと手前ぇ?」

「文句あんのか?」


 立ち上がって睨み合う両者。

 すかさずオレは両者の間に割って入った。


「はいはーい、ストーップ」

「げ、クロネコ!?」

「クロネコさん、だろ? お前クロネコさんバカにしたらただじゃおかねぇぞ!」


 そう、今ではすっかりオレの勇名(悪名とも言う)が冒険者たちの間に広まり、目が合うと逸らされるわ、声をかけようとしても逃げられるわ、肩に手をおこうものなら腰を抜かされるわ……ほんと何なのさ!


「あんたが火種になってんじゃない」


 わなわな震えるオレの頭の上にお酒の入ったカップが乗せられる。

 ケンカを見かねた看板娘のご登場だ。


「はいはい、ケンカしない。〝バートンの泊まり木〟でケンカは御法度。特に他種族同士のもめ事は厳禁。怖ーい、ネコにボコボコにされたくなかったら、仲良くすること!」

「すること!」

「お、おう」

「うっす!」


 仲良く、とはいかないが両者は矛を収めて大人しく席に着いた。

 うんうん、それでいい。

 〝バートンの泊まり木〟門外街店は今日も人々で賑わっている。


「クロネコ! レンホウ炒めあがりー!」

「はいはーい。……お待ちどうさまですー♪」

「あんがとよ! うんめー♪」

「ティム、イッカクジャケのチーズ蒸しできたわよー」

「ごめん母さん、今無理! ――お会計しめて12メニエニになりまーす♪ クロネコ!」

「はいはーい。どこのテーブルですか?」

「ありがとうございます。あそこの6人組の」

「りょうかいでーす!」

「クロネコちゃーん! お酒お代わりー!」

「真っ昼間から酒盛りとはいいご身分だなおい! 自分で取りに来い穀潰し!」

「お、おぅ//////」


 そしてオレは今日もせっせと汗水たらして働いている。

 なぜ、オレは働いているのかって?

 オレがここのオーナーだからさ!

 ……いやいやいや、オーナーなんですよ? 何で働いてるのさ!?


「ねぇ、ティム」

「黙って働きなさいよ! あんたここの責任者でしょ! 忙しい時ぐらい手伝ってよね!」


 ……いや、あの、オレ、オーナー……


「クロー! ガリネお代わりー!」

「だから自分で取りに来い……って、エミリーかい! のんきにご飯食べてないで手伝ってよ!?」

「ムリ、アタシこれから戦闘訓練(しごと)だしー?」

「ぐぬぬぬぬ……ひゃわっ!?」


 オレは背後からいきなり抱えあげられる。

 こんな蛮行が出来る人は数人しか知らない。


「お客様、当店はお触り厳禁となっておりますがー!?」

「ん、さーびす?」


 そんな事を堂々とのたまうルーさんに、オレは諦めのため息をつく。

 ま、誰が犯人かなんて感触で大体わかってたけどね!

 でもこのままじゃ仕事が出来ない(いや、ホントはする必要ないんだけど)。


「そんなサービスありま……」


 いや、待てよ?

 上手い事言ってルーさんにも手伝ってもらえばいいんじゃ……?


「……じゃあ、手伝ってくれたらもうちょっとサービスしてあげても」

「ん、注文」


 オレの言葉を聞き終える前に、ルーさんは注文を取りに行っていた。

 相変わらず何という行動力だ。

 しかし、相手は別に注文を求めていた人ではないので、かなり困惑している様子。

 どうする気なんだろうか?

 

「え、あ、じゃあお酒を……」


 とりあえず空気を読んで注文してくれた冒険者の男性だったが、ルーさんは注文を受けてもまったくお酒を取りに行く様子がない。


「ん」


 それ所かカウンターを指さし、


「せるふさーびす」


 などとどこで覚えたのかわからない魔法の言葉を口にした。

 いや、無理矢理注文聞いといてセルフサービスもなにもないでしょうに。

 本当に意味がわかって言っているんだろうか?

 オレが一言物申そうとすると、ルーさんはさらに。


「忘れてた。……この、ごくつぶし……!」


 ゴミムシを見下すような恐ろしく冷たい表情で冒険者を罵った。

 

「い、いや。それは別に言わなくてもいいんですから!」

「(ぷるぷる)」

「あぁ、怒っていらっしゃる!? そりゃそうでしょうよ!」


 あまりに不当な罵りを受け無言で震えている冒険者。 

 ま、まずい! このままではクレームが発生してしまう!?


「あ、ありがとうございまーす//////」


 罵られてお礼を言った男は、自らカウンターへ酒を貰いに行った。

 その様子を黙って見ていた周囲の男たちはコップの酒を一気に飲み干すと、


「つ、つぎはオレに注文とってくれ!」

「い、いや俺だ! 自分で酒取りに行くからオレに!」

「むしろ罵るだけでいいですっ//////」

「ん? この、ごくつぶし……!」

「「「「「あざーっす///////」」」」」

「もうやだこの冒険者たち!」


 オレは馬鹿な野郎どもは無視してさっさと仕事に戻ることにした。


「く、クロさん! 蒸かしモイできました!」

「はいはーい」


 オレは出来あがった料理を、客の元へと配膳する。


「はーい。おまちどうさ……」

「うっひょー! うまそー♪」


 ん?


「ミラ?」

「はい♪」

「どうしたの? エプロンなんてつけて……?」

「はい! 私も何か出来ないかとこうして調理場に……あ、いえ。けして手伝ったご褒美を期待しているわけではないのですけど////」


 待てよ、今ミラ、なんて言った?

 調理場? あれ、今オレたしかミラが作った料理を…………ままままま、まずい!


「お、お客さんだいじょ――」

「いっただきまーすべろ!?(びたーん!)」

「――うぶじゃなかったー!?」


 ミラの作った蒸かしモイを食べたお客さんが口から泡を吹いて倒れる。

 ここここ、こんどこそクレームが!?


「こ、こいつ……! なんて良い表情(かお)してやがるッ!?」

「え?」

「本当だ……まさかミラさんの料理は泡を吹いて倒れちまうほど旨いのか!? オレもひとくひゃごんっ!?(びたーん!)」

「ちょっと何やって――!」

「マジかよ! オレもしちゃべっ!?(びたーん!)」

「あぁ!? 次々と犠牲者が!?」


 オレはこれ以上犠牲者を出さないようミラと持ち場を交代、蒸かしモイ(危険物)は[アイテム]の奥底に厳重に封印した。

 クレームにならなくてよかったが、なぜこの人たちはこんなにいい表情なのか……うん、バカだからだな。


(しかし、モイを蒸かしただけであの破壊力……ミラ、恐ろしい子ッ…………!)

「あの、クロさん……」

「ミラ」

「は、はい(どきどき)」

「いい? ご褒美なんて初めからなかったんだ」

「そ、そんなぁ……」

「ごくつぶし……!」

「むほっ♪ ごほうびでーす/////」

「黙れ、獄潰し!」

「うっひょー♪」

「喜ぶな!」


 オレがどうしようもない客どもにぷんすかと腹を立てていると、カランカラーンと入店を告げるベルが鳴る。


「ごめん、ティム出て―!」

「はいはーい。いらっしゃ――」


 ティムが愛想笑いで入り口を見るが、すぐに表情をこわばらせた。


「……あんたたちは!」

「よぉ、開いてるかー? なんつってなぁ?」

「だぜぇ!」

「お、おぅ、よ……」


 入ってきたのは、あのはた迷惑なチンピラどもだ。

 今度ティムたちに近づいたらただじゃおかないといったのに……懲りない連中だな。


「……ふん!」


 すぐに反応したのはエミリー。

 だがエミリーも少しは成長したようで、無闇に飛び出したりせずに静かに相手の出方を伺っている。

 オレも同様だ。

 すぐにでもぶっ飛ばしてやりたいが、ここでケンカはご法度だ。

 自分で言った以上、ちゃんとそれは守らなくちゃいけない。


「……なんの用よ?」

「おいおい! 客にその言いぐさはねぇんじゃねえか? なぁ?」

「だぜぇ?」

「…………」


 チンピラは、ニタニタと汚い笑みを浮かべながら店にずかずか入り込んでくる。

 それどころかティムを壁に追いやり、ドンと壁を手で押した。

 うわぁ、初めて見た壁ドンがこんな汚いのなんて最悪だ。


「……ご注文は?」


 壁ドン(汚)をされたというのに、ティムはひるまない。

 それどころか男を睨み返している。

 その姿にチンピラはひゅーっと、口笛を鳴らした


「そうだなぁ……じゃ、この店全部、いただこうか? ゲヒャヒャヒャヒャ!」

「だぜ、だぜぇっ!」


 もう我慢の限界だったのか、エミリーがバン! とテーブルを叩いて立ち上がる。

 しかし、それより早く動いた人がいた。


「も、もうやめろ!」

「ぐえっ!?」


 チンピラ冒険者たちの一人、いつも『おうよ』としか言ってなかった魔術師の男が、壁ドン(汚)をしていた男を引きはがして投げ飛ばしたのだ。

 それにはオレ含め、ここにいる誰しもが驚いた。

 

「え?」


 ティムを守るように立ち塞がった魔術師男は、呆然と彼を見上げているチンピラ男に言い放つ。


「も、もうたくさんだ! こんな事やってなんになる!? 誰かを泣かせるのも、お前のわがままに付き合わさせられるのも、『おうよ』しか喋れないのも! もうこりごりなんだよ! 僕はこんなことするために冒険者になったんじゃない!」

「スカー! 手前ぇ、正気か!?」

「だ、だぜぇ!?」


 なんだ、仲間割れか?

 というより、あの『おうよ』って言わさせられてたのか。

 そんな事をわざわざ仲間に強いるとか、本当に訳の分からないヤツだ。


「手前ぇ、Dランク冒険者の俺様に逆らってただで済むと思うなよ! ガキ、お前もだ! 今度は二度と人前に出られないように……!」

 

 ともあれ、おうよ魔術師が出した勇気はこの場にいる全ての者の勇気を奮い起こした。


「それは困るな。ここの飯が食えなくなったら、オレは何を楽しみにすりゃいいんだよ?」

「奇遇だな人族。オレも全く同意見だ。さっきから聞いてりゃギャーギャー、うるせぇヤロウだ。飯が不味くなる」

「人族じゃねぇ、ブーモだ」

「いい名前だな。オレはヤガー、よろしくな」


 入店した時はあんなに一色即発だった相席テーブルの二人が、いつの間にかチンピラ男の両サイドに立っていた。


「て、てめぇら! なにす……」


 自称Dランク冒険者様は、ガタイの良い男二人に肩を組まれビビりまくりである。


「なーに、ちょっと外でお話しようってんのさ。ここじゃあケンカは御法度だからなぁ」

「そうそう、お外で仲良く〝話し合い〟といこうぜぇ♪」

「おいまて、やめ!」


 両サイドの男にがっしりと捕まれ、逃げ道を失ったチンピラは引きずられるように外へ連れていかれた。

 だぜだぜ言ってたもう一人も、他の席の冒険者たちに引きずられるようにして外へ連れていかれる。

 食堂内はガラン、として一気に静かになった。


『て、てめぇらなにす……あんぎゃー!?』

『だ、だぜ……ちょ、やめうっぎゃー!?』


 そのかわり外はちょっと騒がしくなる。

 きっとお祭り騒ぎでも始めたんだろう。

 気がつけばエミリーもいないが、エミリーも祭とかそういうの好きそうだから、きっと一緒になってはしゃいでるのかもしれないなぁ。

 

「は、ははは……」

 

 安全になって気が抜けたのか、魔術師の男はそのまま床にへたりこんだ。

 顔中に脂汗が浮いていて、彼の中でかなり頑張ったんだろうと分かる。


「あんた、どうして?」

「どうしてって……ぼ、ぼくは元々反対だったんだ、宿を壊すのも、君たちに迷惑をかけるのも。それなのに、ゲッスオときたら……」

 

 魔術師はティムに向き直ると、両手と頭を床に着ける。

 

「ご、ごめん! 君たち親子には酷いことをした! 謝って許されようなんて思わないし、明日ギルドにも出頭する。でも、どうしても謝りたかったんだ!」


 その見事な土下座にオレは内心拍手喝采であった。

 あそこまで見事なDOGEZAは前の世界でもそうそう見れないだろう。

 だがオレがどれだけ許したところで、問題はティムの気持ちである。

 そうあっさりと許せるのだろうか……?

 

「……いいわよ。そのおかげで、こんな良い店も手に入ったし、わたしも母さんも怪我とかはないし、今も守ってくれたし」


 ティムはややふくれっ面ではあったものの、魔術師を許したようだ。

 

「じゃあ!」

「でも、その代わり! 宿を壊した責任はとってもらうわ」


 ティムはお母さんに目配せして、了解を得ると奥の部屋からエプロンをとってくる。


「わたしたちにかけた迷惑料、全部込みで3000メニエニ! 全部払い終わるまでタダ働きよ! いいわね!」

「たかっ!」

「オーナーは黙ってなさい!」


 お、オーナーなのに……?


「そ、それで許してくれるなら、喜んで!」


 男は嬉しそうにすぐエプロンを着けた。

 まぁ、人手不足を解消しつつ、お店の不利益にもならない。

 中々の名裁きではある、のかな?


「あ、じゃあワタシはもう手伝わなくていいよね?」


 エプロンを脱ごうとしたオレだったが、その手はティムによって阻まれた。


「新人教育、よろしくね。オーナー♪」

「お、横暴だー!」

「よ、よろしくお願いします!」

「く、くっそー! ワタシの教育は厳しいからね! 覚悟してよね!」

「は、はい!」


 オレが半泣きになりながら料理の作り方を新人に教えていると、先ほど連れだって外へ話し合いに行っていた客たちが楽しそうに笑いながら帰ってきた。

 先頭に立って出ていった二人なんて肩を組んでいる。

 いったい、外で何が起きたんだろうね?

 当事者のチンピラ冒険者たちは帰ってこなかったので詳しい話は聞けなかったが、仲良く喧嘩でもしてきたんだろう。


「おかえりみんな! 聞いてちょうだい! 今日のお代はぜーんぶ、このオーナー様が出してくれるそうよ!」

「「「「おー!」」」」

「え、聞いてないよ!?」

「「「「「「クロネコさん、あざーっす!」」」」」」


 野太い男どもの声に、オレは目眩がした。

 くそぅ……これもう何言っても無駄っぽいじゃないか!


「えぇーい! わかった。今日はおごってやんよ! この穀潰しどもー!」

「「「「「「さっすが、うちらの女神!」」」」」」

「女神言うなー!」

「クロ、ガリネまだー?」

「エミリーはさっさと仕事行けぇー!」


 やれやれ、今日はまだまだ忙しくなりそうだ。


「さーびす、まだ?」

「あ、まだ引っ張るんですねソレ?」


 オレは店が閉店するまで、ルーさんに抱えられながら新人の料理指導を続けた。

 ……ぐすん。オレ、オーナーなのに。

と言う訳で、幕間の間はちょっと更新予定と次回予告はここに書いていくスタイルでいきます。

次回更新予定は土曜日! ……のよていですがみていです、はい。ががががんばるよ!

そして次回予告!

満月の夜の北の採掘場、そこは【ゴブリン討伐】のクエストがどうして起きたのかと言うほど静まり返っていた。ゴブリンを数匹仕留め、さらに奥へ進むとそこには……!

次回! 黒の系譜第2章幕間の4『ゴブリン討伐:ランクE』

そして、闇が動き出す…………乞うご期待!


※次々回が32話更新となります。そこで〝黒いふ第3章ルートのアンケート〟は締め切りとなります。詳しい事は9/20の活動報告をご覧ください。

あ、あんましアンケートが集まっていないだって? ……そうとも言う、かな? 

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