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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-幕間02『巨人と鼠と看板ムスメ』

と言う訳で、2章ラスト間近の幕間第1弾です。

時間的には教会に行った日の午後のお話になりますね。

「たのもー!」

「じゃまするわ!」


 オレとエミリーは二人で自由街に来ていた。


「あん? なんダ、この間のガキじゃねェカ。けぇったけぇった! ここは(おんな)子どもの来る場所じゃねェってんダロ!」


 オレたちを見て鬱陶しそうに手を振った店主は、3メートルはゆうに越す巨体で単眼の単眼巨人族(サイクロップス)の男だった。

 身長150センチ弱(べ、別に鯖読んでないし!)のオレたちなんて、軽々と踏みつぶせるだろう。

 うん、ちょっとちびりそうです。


――そう、オレたちは鍛冶の技術を学ぶためにあの、しつれーな店主の鍛冶屋へと来ていたのだ。

 二人で鍛冶をするようになってから、色々と武器を作ってみたりもした。

 だが、出来る物はといえば相変わらず。

 全長2メートルの巨大なナイフ、果物ナイフサイズの両手剣、紙の様に刀身がペラペラで普通の人はまともに振ることさえ出来ない片手剣、肩たたきにちょうど良い大きさのフレイル(棒の先端にトゲトゲの球体がついたアレ)etc...(などなど)使い勝手に困るような武器ばかりだった。

 し、失敗作ちゃうわ! 

 

「なっとくいかない!」

「あぁん?」


 やはり見よう見まねの技術でどうにかなるほど鍛冶は甘くなかったということで、オレとエミリーはその技術を学ぶためこうしてやってきたのだが……さきほどの様子からもわかるとおり、ここの店主は相当な頑固親父なのだ。

 さて、上手く教えてもらえるのだろうか?


「女子どもの来る場所じゃないですって? そんなの誰が決めたのよ!」

「そーだそーだ!(エミリーの後ろに隠れながら)」

「んなモン、女子どもに鍛冶なんて出来ねェからに決まっテル! 危ねェから、怪我しねェ内にとっととけぇんナ!」


 やはりこの頑固親父、一筋縄ではいかなそうだ。

 こうなれば多少強引かもしれないが〝家事(かじ)の天災〟と呼ばれたオレの家事スキルを……。

 え、なに必要ない? あ、字が違う? デスヨネー。


「クロ、アレ出すわよ」

「駄目だよエミリー! いくら怒ったからってここで戦うのは……」

「アンタバカ? そうやって何でも力で解決しようとしてどうすんのよ。ほら例の未完成のナイフをだせってのよ」


 え、エミリーに言われたかないやい!

 オレはぶつぶついいながら[アイテム]から【巨人のナイフ(仮)】を選択して取り出す。

 ズン、と音がしてナイフが床に突き刺さった。

 それを見て目をカッ、と見開いたのは鍛冶屋の店主である。

 こわっ! 石にされるかと思ったよ……ちちちちびっとらんわ!?


「このナイフは……!」

「あ、ナイフだって分かってもらえた」


 店主は地面に突き刺さっているナイフ(全長2メートル)を軽々と抜くと、手にとってじろじろ鑑定し始めた。


「荒削りだが、間違いねェ。こいつァ、シュタイナーの作じゃねェカ」

「シュタイナー?」

「……北大陸(ノーザニア)随一と呼ばれる鍛冶工房の事よ」

「へぇ、詳しいね」

「まぁ、ね」


 店主さんはじろじろとナイフを眺めた後、ナイフを元あった場所にズン! と突き立てた。

 またちょっとちびるかと思いました。


「おいガキども! コイツをどこで手に入れやがっタ!」

「どこって……?」

「作ったわ。アタシたちで」

「ハァッ!?」


 店主の発した大声が突風となって吹き抜ける。

 吹き飛ばされるかと思ったが、エミリーに掴まっていたのでなんとか飛ばされずに済んだ。

 え、今の戦技とかじゃないよね!?


「作っただっテ!? 嘘つくんじゃねェゾ! シュタイナーの武具をおめェらみたいなガキが打てるワケ」

「打てるわよ。ずっと後ろで見てきたもの」

「見てきたって、誰の?」

「……親父の?」

「じゃあ、おめぇ、まさカ?」


 エミリーは不機嫌そうに頭を掻いて言う。


「シュタイナー工房現代表、フランクリンはアタシの親父よ」

「んなバカナ!?」


 再び店主のハウリング・ボイス(命名オレ)が炸裂した。

 対処の遅れたオレは今度は店の外まで吹き飛ばされる。

 ……正直に言って、少しだけちびりました。

 

「鍛冶師の娘とは聞いていたけど、まさかエミリーのお父さんがそんなに有名な人だったなんて……似合わないなー」

「うっさいわよ!」


 服に付いたほこりを払いながら、戻ったオレは素直な感想を言う。

 だって、有名な工房の娘ってことは、結構なお嬢様ってことじゃない?

 エミリーお嬢様…………駄目だ、全然イメージできない。


「……で、どうなの? ソレ」

「あ、あぁ。悪くはねェ出来ダ。だが良くもねェ。ずっと鍛冶仕事を見ていた奴が初めて見よう見まねで打ったモノって感じカ?」

「すご! ナイフ見ただけでそこまで分かるんですか!?」

「分かラァ。良い鍛冶師の打った武器には、鍛冶師の想いが乗っているからナ。こいつにャ、未熟だがそれがあるからナ」


 店主さんはエミリーをジロジロと眺めた後、ナイフを引き抜いて彼女に渡した。


()は?」

「まだ無いわ」

「え、エミリーじゃないの?」

「バカね。鍛冶師が武器持って()を尋ねたら、武器銘に決まってるじゃない!」

「エミリー……荒々しさを感じる良い名前じゃねェカ。コイツにぴったりダ!」

「ほんとだ!」

「どうしてくれんのよ! 本気にしちゃったじゃない! ってか荒々しさを感じるってソレどーいう意味よ!?」


 こっそり[アナライズ]してみると、武器名が【巨人のナイフ(仮)】から【エミリー】に変わっていた。

 名前が変わったばかりか、後ろの〝(仮)〟もとれている。

 おー、これは面白い。こうやって武器名は付けられるのか。


「まぁ、いいわ。それで、どうなの? これでもまだ女子どもに鍛冶は出来ないって?」


 むっつりとエミリーが尋ねると店主は頭を抱えながら笑った。


「いいヤ。悪かったナ嬢ちゃん。おめぇさんはいい鍛冶師になるナ!」

「ふ、ふん! 当然じゃにゃい//////」


 いつものようにツンデレったエミリーはさておいて、オレは本題に入ることにした。


「それで……えっと名前聞いてなかったや」

「モノベェ、ダ」

「モノベェさん。ワタシたちに鍛冶を教えてくれませんか?」

「な!? バカ言うんじゃねぇ。武器作りの腕は認めるが、シュタイナーの鍛冶師がなんでわざわざオレに鍛冶を教わる必要があるんダ! 鍛冶なら親父に教えてもらいナ!」


 確かにごもっともですがこの跳ねっかえり娘。絶賛家出中なのでそれは出来ないんです。

 なんて言う訳にはいかないよね? エミリー、どうするつもりなんだろう?


「アタシ、親父と喧嘩して家を出たの。だから親父に教わる事はできないわ」

「い、言っても大丈夫なの?」

「これから鍛冶の技を教わろうとしてるのに、嘘はつけないじゃない」


 め、珍しくエミリーが正論を言っている!?


「アタシに鍛冶なんてできないって言った親父を見返したい。そのためにちゃんとした鍛冶の技を学びたい。ううん、学ばせてください!」


 エミリーは珍しく頭を下げた。

 ツンデレ娘ではあるが、自分がやりたい事にはこうしてまっすぐになれるのがエミリーのいい所だ。


「ふん! オレは人に物教えられるような鍛冶師じゃねェサ」

「……クロ、アンタの使ってるナイフ出して」

「え? いいけど」


 オレは袋の鼠で購入したナイフを取り出す。

 ソレを見てモノベェさんはカッ、と見開いた。

 え、だから何なの?


「このナイフ、おやっさんの作よね?」

「……分かるのカ?」

「分かるわ。おやっさんがさっき言ったのよ? 『良い鍛冶師の打った武器には、鍛冶師の想いが乗っている』ってね。この無駄をいっさいそぎ落として、使い手の使いやすさを一番に考えた業物。こんな想いの入った武器。いえ、魂が作れるように、アタシはなりたい」

「おめェ……」

「お願いします!」

「わ、ワタシからもお願いします!」

「……………………フン!」


 モノベェさんは頭をかきながら店の奥へと入っていった。

 やっぱダメかと思ったが、モノベェさんは人間サイズの作業エプロンを持ってきてエミリーに押しつけた。


「甘ったれたこと抜かしやがったラ、すぐにおん出すからナ!」

「おやっさん!」

「オレの事は親方と呼ベ! いいな? エミリー!」

「わかったわ! 親方!」


 二人は拳を合わせて笑い合う。

 無事教わることが出来そうで良かった。

 ここはエミリーの仲間としてお祝いの品の一つでも送らねばなるまい。

 何か良いものは……


「あ、そうだ。じゃあお礼ってわけじゃないんですけどこれを……」


 オレは前に加工が出来なかった例の物を取り出す。

 オレが持っていても宝の持ち腐れだし、鍛冶師のモノベェさんなら有効に使ってくれるだろう。


「あン? 何だこりャ……?」


 あんまり堅すぎて加工する以前に切り離すことが出来なかった【ミスリルアダマン合金】である。

 

「ふ、ふざけんじゃねェッ! なんでミスリルとアダマンチウムがくっついてやがんダ!?」

「ごごごごごめんなさい!」


 本日三度目のハウリング・ボイスに吹き飛ばされそうになりながら、とりあえず怒られている理由がわからないオレは涙目で謝り続けた。


「こんなモン、どこで手に入れやがっタ!?」

「ち、地中から取り出したんですが……(ごにょごにょ)」

「地中だとォ!? バカヤロォ! 伝説の金属が地中に埋まってるわけネェだろうガ!」

「ひーっ! ごめんなさーい!」


 その後興奮したモノベェさんが落ち着くまで、オレは鍛冶の何たるかを延々と叩き込まれた。

 エミリーは少しもかばってくれず、むしろ『いい気味だわ♪』と楽しそうに笑っていた。

 やっぱり、オレこの人は少し苦手だ……。

 だが、何だかんだ文句を言いながらもモノベェさんは渡した合金からミスリルを切り離して二対の短剣を作ってくれた。

 弟子が弟子(ツンデレ)なら師匠も師匠(ツンデレだった。

 いい師弟コンビだよ。ホント。



―――――



 モノベェさんの所で鍛冶を習っているエミリーを残し、オレは一人自由街を歩いていた。

 オレはまだ他にも用事のある人がいたからだ。

 [マップ]で探すこともできないのでどうしようかと思っていたのだが、どうやら向こうの方からやってきてくれたようだ。


「どうも」


 オレは逆手に持ったミスリルの短剣を背後に忍び寄っていた男の首元に突きつける。


「チチチチ♪ おや今度は完璧に気づかれていたようでチな」

「まぁね」


 オレはニヤリ、と笑うと目の前に現れている[警告! 背後に不審な挙動の者アリ]と表示された半透明のウィンドウを消すようにイメージした。

 何を隠そう、オレの魔術[アラート・シグナル:指定した範囲内の危険を対象に知らせる]の効果である。

 

「随分と警戒されておいでなのでチね。門外街の気高き黒子猫(ノワーブル・キティ)さん? チチ♪」

「アンタみたいなのがいるからでしょ? チッカさん」


 そう、オレが探していた人物こそ〝袋の鼠〟の店主、チッカなのだ。

 短剣を降ろしたオレは、チッカから少し距離をとる。


「チチチチ、なぜ私がいると警戒されるのでチか? クローディア殿は、上客でいらっチャると言うのに?」

「だって商売敵でしょ?」

「あぁ、その話でチか」


 門外街で獣人の冒険者相手にも食堂や宿場を解放しているオレはチッカにとっては商売敵。

 値段もリーズナブルだから、結構な獣人冒険者がこちらに流れているはずだ。


「邪魔なんて事はありまチんよ? チチチ、商売の世界は食うか食われるか。客を取った取られたなんて、イチイチ言ってたらキリがありまチん」

「ま、そうなんだろうけど」


 本心から言っているのかは分からないが、胡散臭いこの男の考えることをすべて詮索していてもしょうがない。

 さっさと本題を済ませてお引き取り願おう。


「ま、でも。ワタシは仲良くしたいと思っているんだよ? そのための物も持ってきた」


 オレはタプタプと揺れる袋をチッカに押しつけた。


「チチ? はてこれは…………!?」


 糸のように細い目を、カッと見開いたチッカはわなわなと震えながら袋を手にする。

 どうやら、中身が何か気が付いたようだ。


「ここ、これはヤーヴァミルクではありまチんか!?」

「よければ、一口どうぞ}

「それでは一口(んぐんぐ)………間違いありまチん。これは、なんと極上のヤーヴァミルク!」


 ヤーヴァ牧場の目玉商品の一つ、ヤーヴァミルク。

 野性のヤヴァイコーンを倒して手に入れる物に比べ新鮮なため味の劣化も少なく、何度も採取が可能、それでいて入手リスクも比較的少ない。

 チッカの反応は上々だし、これならいける。


「気に入ってもらえたかな?」

「チチチ♪ えぇ、もちろんでチとも! あぁ、これでチーズが作れたのなら……」


 釣れた。まさか自分からその話を切り出してくれるとは思っていなかったので助かる。


「実はね、今ちょっと牧場を作ったんだけどそこの目玉の一つなんだ」

「チチチ♪ なるほど。あの頑強な柵に囲まれた施設は牧場だったのでチか……まさかヤヴァイコーンを飼育なんて、常人にはない発想でチな……もう一口飲んでもいいデチか?」

「いいですよ? でも、もしそれが毎日飲めるようになると言ったら?」


 ニヤリ、と笑ったオレの意図にチッカも気が付いたみたいだ。


「まままままさか!?」

「そ、お宅のチーズはウチでも人気なんだ。で、そのヤーヴァミルクをそちらに卸す代わりに、作ったチーズを売ってほしい。売値はそちらに任せる。どうかな?」


 チッカはしばし商人の表情になって考えた後、細い目をカッと見開いて笑った。


「チチチチチ♪ クローディア殿には商才がおありのようでチな」

「返答は?」

「とうぜん取引成立でチ。断わる理由がありまチん。チチチ、これからも良いおつき合いを……チチチチチチチ♪」


 細かい取り決めなどはまた後日ということにして、とりあえずオレは持っていたヤーヴァミルクの内の半分くらいをチッカに渡した。

 満面の笑みでソレを受け取ったチッカは、深く礼をしながら消えるように居なくなった。

 あれで商人だと言い張るのだからすごい。

 実は忍者かなにかじゃないのだろうか?

 いや、さすがにこの世界に忍者はいないか。


「さて後はあそこに寄ればオッケーかな?」


 オレはスキップふみふみ自由街を進む。

 看板娘の元へ。



―――――



 チッカと分かれた後、オレは元〝バートンの泊まり木〟があった場所を訪れた。

 そこは今でも瓦礫の山で、ティムたち親子は裏の納屋で寝泊まりしているようだった。


「何しに来たのよ。疫病神!」


 オレはここがこうなる事になった元凶とも言えるし、この反応も当然といえば当然だ。

 オレだって、できることなら店を元通りにしてお詫びもしたかった。

 だが、例の3人組がちょくちょくこの周辺をうろついているのを[マップ]で見て知っていたので下手なことはできなかったのだ。


「今日は、ティムに良い話を持って来たんだ」

「誰が聞いてやるもんですか!」

「ティムにも悪くない話だと思うんだけど?」

「二度とあんたには関わらないって決めたのよ!」

「それは困るなぁ。せっかく迎えに来たのに」


 聞く耳すらも持ってもらえずどうしたものか、と頭を悩ませたオレ。


「聞かせていただけますか?」


 しかし、意外な人物の言葉が場の空気を変える。


「母さん! こんなヤツの話なんて……!」


 以外にもオレを擁護してくれたのはティムのお母さん。

 あまりオレと話した事はなかったので、まさかオレを庇ってくれるなんて思いもしなかった。


「ティム、貴方もわかっているでしょう? この方は悪くない。悪いのは全部別の人だって」

「それは! でも!」

「それに、ね。言いたくはないのだけど、このままでは私たちは生きていけないの。ただでさえ宿はお客さんが居なくて稼ぎがなかったのに、その宿までなくなってしまったら、税を収めるどころか食べ物だって買えないわ」


 自由街に住む者は納税の義務が貸せられる。

 それは逆に、納税できなければ街を追い出されるということでもある。


「あの、ワタシがお渡ししたお金は……?」

「まだ手を付けていません……なかなか決意がつかなかったので」

「ほっ、良かった…………決意?」

「でも決心しました。……ティム、せめて貴方だけでも幸せになって」

「母さん……?」


 ティムのお母さんは、真摯な目でオレを見る。


「ティムをお願いできますか? ティムを幸せにしていただけるなら、この手切れ金もいりません」

「……………………えっと、何か勘違いされていませんか?」


 手切れ金て、どんな勘違いをしているのでしょうか?


「息子を、娶りにきたのではないのですか?」

「かかかかかかか母さん!?」

「ぶはっ!? ちちちち違いますよ!?」


 なんでそういう話に……あぁ、迎えに来たとか言っちゃったからか!?


「そうよ! 娶るとか、そんなんじゃなくてきっと奴隷に……このヒトデナシ!」

「もっと違いますけどね!?」


 女装させた少年奴隷とか、そんな偏った趣味オレにはありませんから!

 オレは咳払いを一つ、ちゃんと説明させてもらう。


「今日は、お二人を雇いに来ました」

「雇うって、やっぱり奴隷じゃない!」

「わかりました。夫に操を立てた身ですが、息子の為です。こんな身体でもよければ……」

「だから! 違うと! 言ってるでしょうに!」


 オレは地団太を踏みながら叫ぶ。

 どうして話をそっちへ持って行ってしまうのか?

 あれか? 大金を渡し過ぎて逆に不審がらせてしまったのか?

 しょうがないので、オレは懐から出した契約書を見せて、懇切丁寧に説明した。


「――というわけです」

「えっと、つまり宿屋兼食堂の働き手を募集してるってこと?」

「そう! 門外街で冒険者向けに始めたのはいいんだけど、まだまだ人手が足りないからスカウトしに来たの!」

「良かった。私は夫に顔向けができなくなるところでした」

「ワタシも誤解が解けてホント良かったです」


 オレは改めて契約書を見せて笑う。


「お二人なら経験もあるし即戦力になりますから、どうです? 悪い話ではないですよね?」

「どうもこうも……もうそれしか道はないじゃない」

「私も、喜んでお受けいたします」

「決まり! じゃあここにサインをお願いしますねー」


 二人はさらさらと契約書にサインする。

 ふっふふふ……かかったな!


「じゃ、契約完了。代金は5000メニエニになりまーす♪」

「はぁ? はぁっ!? ちょ、何の話よ!?」


 オレは契約書の一文を読み上げる。


「ティム=バートン並びにユリ=バートン。左の者たちは宿〝の経営権を5000メニエニで購入し(恐ろしく小さい文字で)〟働くことを誓う。ほら、しっか書いてるじゃない?」

「だ、だましたわね!?」


 騙すとは、人聞きが悪い。

 騙される方が悪いのさ!


「くっくっく……じゃあ、お代の5000メニエニ、そうですね。まずは前金として1000メニエニ、きっちり耳を揃えてお支払いいただきましょうか?」

「この悪党! そんなお金あるわけ……!」

「……金貨10枚。つまり、これでよろしいんですね?」

「あ、それ……」


 ティムのお母さんが出した皮袋は、宿が瓦礫の山となった時にオレが二人に渡した袋だ。


「はい。確かに1000メニエニありますね。残り4000メニエニは働きながら返してくれればいいですから。気長に待ちます」

「あんた、初めからこのつもりで?」

「はて、何の事かな?」

「……もし使い切っちゃってたら、どうするつもりだったのよ?」

「その時は……いやいや、だから何の事かな?」


 まあ使ってしまっていたら色々考えるつもりではあったけど、中身が使われることなくきっちり残っていたのでややこしくならなくて済んだ。

 じゃなくて、オレには何の事かさっぱりデスヨ。


「一応オーナーはワタシになりますが、お店の経営方針とかはお二人に一任します。もう あなたたちの物ですから」

「ほんと、驚くくらい用意周到ね……呆れちゃうくらいね」

「ご利用は計画的にってね」

「ふふふ……ありがとう。可愛らしい悪党さん」


 さてと、じゃあ二人にさっそく最初の仕事をお願いしようかな? 


「じゃあまず最初の仕事ね」

「人使いが荒いわね。オーナーだからって何様よ」

「ティム」

「はいはい。で、何をすればいいんですか? オーナー様」

「うむ、くるしゅうない」


 オレはとある看板を取り出す。

 猫の顔を模した看板であるが、文字は何も書かれていない。


「この宿屋なんだけど、まだ名前は付けてないんだ」

 

 吾輩の宿であるが、名前はまだない。

 べ、別にうまい事言ったなとか考えてないからね?

 ……あ、座布団は一枚でいいよ♪ え、ない!? そんなバカな!?


「だから名前を付けるのが最初の仕事。どうする?」

「どうするって……わかってて言ってるでしょ? ほんと、お節介と言うかなんというか」

「えぇ……本当に何から何までありがとう、優しいオーナーさん」


 ティムは綺麗な字で看板に文字を入れていった。

 カラン、と看板に付いていたベルがティムの想いに応えるかのように鳴った。

今回活動報告はお休みしますので、ここで次回更新予告です!

次回更新予定は水曜日! ……いけるかな? うん、よていはみていですので過度な期待はしないでください…………超がんばりますけどね!?

そして簡単に次回予告!

――ここは門外街、人々が賑わう酒場には色々な客がやってくる。獣人、冒険者、そしてDランク冒険者。その酒場の名は――

次回幕間第2弾、乞うご期待!

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