黒の系譜02-31『教皇の影』
決意表明! 作者、小説大賞に挑戦します!
という決意を込めてのやらないやらない詐欺。
というわけで、オレたちはミラの幼なじみさんに会いに教会へとやってきたのだが、
「ミラ=イーノッドと申します。レイリア=マグガーデンさんに会いに来たのですが……お取り次ぎ頂けますか?」
「レイリア様にですか? ……少々お待ちください。確認して参ります」
教会の入り口に立っていた神官兵さんはやたら不審そうにオレたちを確認した後、奥に入ってなにやら上司らしき人と話し合っているようだった。
その上司らしき人『確認してまいります』と、教会の中へ入っていく。
なんかすっごく警備が厳重なんですけど、どう考えても怪しまれてるよね?
「……エミリー、今度はなにやったの?」
「あら? それを言うならアンタよクロ。また、なんかやらかしたんじゃないでしょうね?」
「HAHAHA、まっさかー。エミリーじゃるまいし?」
「そうよね。アタシもアンタじゃあるまいし、なーっんも、やってないわよ?」
「なにさ!」
「なによ!」
「お、お二人とも! ケンカはダメですわ!」
「ん、っどっちもどっち」
オレたちが互いに罪の擦り付けあいをしていると、それなりに偉そうな老神官がものすごい形相でやって来た。
オレたちをギロギロと睨みつけ、ふん! と鼻息を鳴らす。
歓迎されていないことがはっきりと分かるが……わ、罠とかじゃないよね?
そう考えると冷や汗が止まらない。
「お前たちが……? レイリア様のお知り合いだと?」
「はい。同郷の幼なじみ、ミラ=イーノッドと申します。この度は皇都に参りましたので、ご挨拶だけでもと思ったのですが」
ミラが丁寧に礼をしてなにやら書簡を取り出す。
どうやらスーサ領主であるチェスターさん直筆の身分証明書だったようだ。
一通り内容を確認し終えてなおこちらを睨みつける老神官は、もう一度フンと鼻息をならし『ついてこい』とだけ言った。
「(しつれーな奴ね。ミラって領主の娘なんでしょ? なによあの態度!)」
「(その領主の娘を呼び捨てなエミリーは?)」
「(アタシはいいのよ! ほら、親友だから?)」
「(はい、光栄ですわ♪)」
いつの間にか仲良くなっていた二人。
多分この間の貴族街での一件もあって一層仲良くなったんだろう。
相手がエミリーっていうのはアレだけど、友達が増えるっていうのはいいことだもんね。
「何をしている! 教皇猊下はお忙しいのだ! さっさとしないか!」
「あ、はい。申し訳ありません」
慌てて謝ったミラだったが、それよりもオレは今の言葉の意味を考えていた。
(『教皇猊下は忙しい』? って、ミラの幼なじみさんと何の関係が?)
オレがその言葉の意味に気が付いたのはミラの幼なじみさんに面会する直前になってからだった。
だってまさかそんな可能性、考えてないじゃない?
―――――
「久しぶりね。ミラ、元気だった?」
「は、はい」
教会のかなり奥、なんか一番偉い人が座るんだろうなぁ的なイスにミラの幼なじみさんはにこやかに座っていた。
「ルーミアさんもお久しぶりです。私のこと覚えてらっしゃいますか?」
「ん、リア、おっきくなった」
「それはそうですよ。私ももう大人ですからね」
レイリアさんは淑やかに笑う。
ミラの髪の色と似た銀色の髪。比べるとやや青みがかった美しく長い髪は彼女の神秘的な美しさを一層引き立てている。
そしてかなりお高そうな分厚いローブに隠れているが……間違いない。
あの膨らみ。間違いなくアレはメガトン級だ。
わかりやすく戦闘力的な数値で表現すると、オレを0基準として、エミリーが5、ミラが40で、ルーさんが55くらい。
しかしレイリアさんはざっと、63はあるな。うん、胸囲、もとい脅威の戦闘力だ。
「貴女たちは、ミラのお友達?」
「は、はひ!」
「親友よ!」
変な事を考えていたので変な声が出てしまったオレに対し、エミリーはやはりいつも通り堂々たるものだ。
こう言うときはエミリーのこの図々しさが羨ましくもあるよ。
「くすくす……面白い子たちね。ミラ?」
「はい。自慢のお友達、そして大切な仲間たちですわ」
「ふふ、ちょっと妬いちゃうわね。元幼なじみとしては」
「いいえ。私は今でも大切な幼なじみだと思っていますわ。イリアお姉ちゃん」
「ありがとう。ミーちゃん」
ここに通された時こそ気圧されていた様子だったが、すっかりミラとレイリアさんは昔の関係を取り戻せたようだった。
笑いあう二人の表情はどことなく幼く見える。
「では、改めて自己紹介しましょうか。私はレイリア=マグガーデン。ミーちゃ、……ミラの幼なじみよ」
微笑んだレイリアさんの横で、老神官が咳払いをしてオレたちを憎々しげに睨みつけて言う。
「そして、この皇都の象徴。教皇猊下である。無礼な言葉は控えよ、哀れな子らよ」
そう、ミラの幼なじみこそモーミジヤ教の最高地位。教皇だったのだ。
……マジですか?
いきなりトップのご登場じゃないですか?
……大丈夫なのかな、色々と。
「いいのですバルト郷。彼女たちは私の友なんですから」
「しかし!」
「いいのです……久しぶりの友との再会です。申し訳ありませんが少し席を外していただけませんか?」
レイリアさんお言葉に、明らかに不服な顔をさせながらも老神官は『御意に』といって部屋を出ていった。
ドンドンとわざとらしく足音を立てていったので、相当ご立腹でいらっしゃるようだ。
「あの、良かったのですか?」
「いいのよ。あのおじさんときたらいっつも『教皇猊下は淑女であれ』だの『食事の時は口をあけすぎるな』だの『信徒との面会中は欠伸をするな』だの、堅苦しくってしょうがないの。私だって人間なんだから、欠伸もすればおならもするわ」
「お、お姉ちゃん///////」
「あら、ごめんなさい。ちょっとはしたなかったわね?」
レイリアさんは『んー!』と背伸びをしたあと、頭にかぶっていた長くて重たそうな神官帽をイスの上に置いてゆっくりと降りてきた。
な、なんていうかすごく綺麗な人だけど、おっとりしているというか、のんびりしているというか……とても〝教皇〟って感じはしないなぁ……
「久しぶり、ミーちゃん。すごく会いたかった」
「イリアお姉ちゃん。お元気そうで何よりです……!」
ひし、と抱き合う二人。
互いの呼び方や態度から、何となく二人の関係の良さが見受けられる。
「ルーお姉ちゃんも」
「ん、リア、おっきくなった……ちょっとさみしい」
ルーさんとレイリアさんも抱き合って再会の喜びを分かち会う。
待てよ、この流れから察するに、もしや?
「あなたたちも、よく来てくれたわね」
「ど、どーいたしまして///」
めずらしく少しはにかんだエミリーを抱きしめたあと、レイリアさんはオレの方へ。
「(どきどき)」
「貴女もね」
「(来たっ!)」
あの、メガトン級バディ、が眼前に迫る。
そのやわらかさは未知数。
想像するだけではなぢが……いかんいかん。
(オレは紳士。そう、紳士なんだ。しんし、しんし………………よっしゃばっちこい!)
受け入れ態勢万全なオレにすっと、近づいてきたレイリアさん。
どきどきと待ち構えるオレに手を伸ばしたレイリアさんは、
「ありがとう(なでなで)」
オレの頭、特に耳付近を撫でくり回した。
「…………………………どういたしまして」
あっれ―? ちょっと想像と違ったよー?
たしかに手はすごく柔らかいけど、なんだろうこの……期待が大きかったゆえの虚しさは……!
(べ、別に残念とかは全然ないんだけどさ! ないんだけどさ!)
オレは顔で笑って心で泣いた。
「でも、まさかあの本の虫でひきこもりのミーちゃんにこんな可愛らしい友達ができるなんて……お姉ちゃんうれしいわ(なでなで)」
「お、お姉ちゃん! それは昔のことで……」
へぇ以外だなぁ。
ミラは確かに本とか読みそうなイメージはあったけど、小さい頃はインドアだったんだ。
今の行動的なミラからは想像もできないなぁ。
「そうかしら? 最後に手紙をくれたのは……たしか半年くらい前だったかしら? そのときの手紙には確か『いつか偉大な魔術師様が私を迎えに』なんて夢見る少女のような……♪(なでなで)」
「おおおお姉ちゃん!? なななにをいって!?」
「ぷふーっ、ミラって案外子どもっぽいところもあんのね!」
「ん、おとめちっく」
「そうなのよー? ちっちゃい時なんて物語に出てくる悪者に恋しちゃったりなんかして。『わたし、くろーろ様のお嫁さんになる』なんて……可愛かったわねぇ♪(なでなで)」
「だからお姉ちゃん!」
「あらあら、ごめんなさい(なでなで)」
クロードのお嫁さん、それはつまり……うん深くは考えないでおこう//////
というよりレイリアさんいつまで撫でてるおつもりですか?
「もう!」
色々自分の過去の恥部を晒されたミラは拗ねてレイリアさんからオレを取り上げた。
「あら残念」
名残惜しそうにするレイリアさんだったが、彼女は優しく微笑むとミラの頭も優しく撫でた。
大人しくされるがままのミラは、心地よさそうにしている。
「貴女も大きくなったのね」
「はい……」
しばらく再会の余韻に浸った後、オレたちはせっかくだからとテーブルを囲んでお茶会を始めた。
ミラやイリアさん、ルーさんの昔話を聞きながら、リカムティーを飲む。
なかなか有意義なひと時だった。
「それにしても驚きました。まさかイリアお姉ちゃんが教皇様なんて……」
「私も二か月前に前教皇フロリシア様に任命されたばかりで……私自身まだ実感も何も無いの」
二か月前となると、本当につい最近だな。
その間はミラもあまり皇都へは来ていなかったらしいし、教皇が変わったって言う噂を聞かなくても無理はないな。
「フロリシア様のご隠居があまりにも突然の事だったから、少し教会内もバタバタしていてね。正式な発表もまだだから、私が教皇だと知っている皇都の民はほとんどいないでしょうね。まぁ、今となっては教皇はただの象徴だから、別に誰だって構わないと言うのが本当の所ではあるのだけど」
「でもそれは……」
「あまりにあんまりですね」
「でもね、私は嬉しかったのよ? 教皇様に自分がやってきたことが認められたのだと思うと嬉しくて、恐縮はしたけど、象徴は象徴なりに一生懸命頑張ろうと思っていたのよ」
「でも実際は違った?」
オレの言葉にイリアさんは悲しそうに笑う。
「ええ。どれだけ私が声を張り上げようと、手を尽くそうとしようと、王家が許可しなければ何もできない。〝象徴〟なんて聞こえはいいけど、実際はただの〝お飾り〟っていう表現の方が正しいかもしれないわ。私は教会の尖塔のてっぺんにあるモミジ飾り……いえ、モミジ飾りと屋根を繋いでいる支柱くらいの存在でしかないの」
「そんなことありませんわ! イリアお姉ちゃんはあんなにも人々の幸せを願って……!」
「ありがとう、ミーちゃん」
ふむ……『教皇はただのお飾り』というレイリアさんの言葉が本当なら、一連の騒動を真に影で操っていたのは王家、ということになるんだろうか?
レイリアさんはミラの幼馴染で、話してみた感じの印象も悪い人には見えない。
むしろちょっとぽわぽわしていて、逆に見ていて心配になるくらいだ。
そんなレイリアさんが人を騙すとは思えないけど、ロリエルが命令を受けたと言う教皇は時期的に見て間違いなくレイリアさんだ。
無関係と言う事はないだろう。
「ごめんなさいね。暗い話になっちゃって」
「いいえ! イリアお姉ちゃんがこのようなことになっているなんて知らず……もっと早く皇都に来ていれば……!」
「いいのよ。ミーちゃんが気にする事じゃないわ。教皇になるっていうのは私が自分で決めたことなのだから――そういえば、今日は何か聞きたいことがあって来たのよね? こんな私でも答えられる事があるなら、何でも答えるわよ」
やや自虐的になってしまったレイリアさん。
今の立場に納得できてはいないが、どこか吹っ切ってはいるようだ。
やや心苦しくもあるが、今日は情報を手に入れるために危険を覚悟でやってきたんだ。手ぶらでは帰れない。
少し気は引けるが、探りは入れさせて貰おう。
「数日前、スーサに聖女が現れたという噂をご存じですか?」
「えぇ。人伝てではあるけれど。ふふ♪ そういえば『とても可憐な少女に違いない!』とロリ
エルが声高に叫んでいたわね……思えば、あれが私の教皇としての初めての任だったわ」
ロリエル。
その名を呼んだ彼女はとても残念そうな表情だった。
どうやら彼女もメイジン村で起きた一連の騒動を聞き及んでいるらしい。
「ロリエルの事は……?」
「えぇ。新しくメイジン村の配属になった神官から報告を受けているわ。村人たちが一部始終を見ていたと言うから間違いはないのでしょうね。教会の者が魔に魅入られるなんて……とても残念だわ」
オレはおもむろに懐からアイテムを取り出す。
今はすでに力を失っている魔のアイテム【万呪の黒石】。
それを見て、レイリアさんは悲しそうに目を伏せた。
間違いない、彼女はコレを知っている。
「ロリエルはこれを使って異形へと姿を変えました。何かご存じありませんか?」
「クロさん、それは」
「大丈夫」
ミラと話しているときの表情も、自分の想いを話していた時の顔も、ロリエルの名前が出た時に見せた憐憫の表情も。
そのどれにも嘘はないと、オレは信じる。
いや、信じたい。
だからこそ、彼女に聞くのだ。
オレたちが、真実を知るための手がかりを知るであろう彼女に。
「それを知っていると言う事は貴女が?」
「はい、ワタシがロリエルを討ちました」
「そう、貴女には辛い役目を押し付けてしまったのね。ごめんなさい、そしてありがとう彼を救ってくれて」
「いえ、ワタシはロリエルを救えませんでした」
「いいえ、貴女は闇に呑まれた彼の魂を救ったわ。彼が大きな過ちを犯す前に」
レイリアさんは、静かに祈りをささげた。
やはりこの人は【万呪の黒石】と、コレの作用を知っている。
「コレをご存じなんですね?」
レイリアさんは口を動かし何か言おうとしているようだったが、絞り出すように出た言葉は、
「……お答え、できません」
あまりにも曖昧な回答だった。
いや、『知っている』でも『知らない』でもなく、『答えられない』と言った時点でそれはもう答えているようなものなのだが。
それにしても答えられないとはどう言うことなのか?
「その〝御祝の告石〟について、答える事を私は許されていません」
「ミシュクノコクセキ? ちょっと待ってください。これの名前は……! いえ、それより許されていないというのはどういうことなんですか?」
「……お答え、できません」
「レイリアさんの意思ではないんですか?」
「お答え、できません」
「一体誰が禁じているんですか!?」
「お答え……できませんっ……!」
おかしい。
先ほどまでとは明らかに様子が変だ。
快活だった表情は苦悶に沈み、朗らかだった口調は淡々と事実だけを伝える機械のようになっている。
「イリアお姉ちゃん? どうし……」
「来ないで!」
首元を押さえ、拒絶の意を示すレイリアさん。
いや待て、首元だって!?
ちらり、と彼女の首元に黒い物が見えた。
背筋がぞっとする。
その忌々しいアイテムを確認したからだけではない。
背後から、異様なプレッシャーを放つ何者かが迫ってきていたからだ。
オレは背後をキッ、と睨む。
やって来たのは、男。
「おや、お客人とは珍しい。レイリア様のお知り合いですかな?」
カツカツカツ、と石畳の上を優雅に歩いてくる――豪華なドレスローブを纏い、纏められた銀髪を翻す壮年ながら逞しい体つきの男。
「ザッハーク、殿……」
「これはこれは! 何とも可愛らしいお嬢さんたちだ。このお方たちはどこのどなたですか? お答えいただけますかな?」
ザッハーク、と呼ばれた男はレイリアさんに問いかけた。
いや、その聞き方は〝問いかけた〟というより、答えるように〝命令した〟ようにも見えた。
「私の幼なじみとその友人です。皇都へ来たので挨拶に来てくださいました」
「それはそれは! レイリア様のご友人であられましたか!」
ザッハークはオレたちを値踏みするように見て、さも愉快そうに笑った。
「申し遅れまして、わたくしこのフィリル・ダリア皇国の宰相を仰せつかっております。ザッハーク=ヒルメスと申します」
宰相、と言う事はコイツが噂に聞く悪徳側近か。
なるほど道理で、厭味ったらしい笑い方をしているはずだ。
「以後、お見知りおきを」
ミラでもルーさんでもなく、わざわざオレに向けて差し出された手。
さきほど感じたプレッシャーといい、この男、やはり何か変だ。
微かな違和感と共に、とても嫌な予感がしたオレは手を握り返さず、小さく[アナライズ]を唱える。
しかし、オレの魔術は発動することがなかった。
――警告。[アナライズ]の効果はこの場にかけられている[×××××××××]によって無効化されました。
オレの魔術が阻まれたという[オラクル]が脳内に響く。
魔術妨害空間を作る魔術……まさか!?
――クローディアは[×××××××]を思いだそうとした!
――しかし[×××××××]は封印されている!
「うあっ!」
脳を襲う強烈な痛みに、オレは確信する。
「おや、どうかされましたか?」
ザッハークが、オレに触れようと手を伸ばす。
「さわら、ないで!」
オレはその手を払いのけ、後ずさった。
コイツは、キケンだ。
「おやおや? 初対面だというのに嫌われてしまいましたかな?」
「申し訳ありません。く、この子は過去のトラウマからあまり人族の男性を良く思っていなくて」
「これはこれは! とんだ失礼を」
ミラが機転を利かせてくれたおかげで、誤魔化せた。
だがオレの頭痛は止むどころか増すばかり。
――クローディアは[×××××××]を思いだそうとした!
――しかし[×××××××]は封印されている!
このままここに留まり続けるのはあまりに危険すぎる。
「どうやらかなりお加減が悪いようだ。よければ治療室をご利用されませんか?」
ザッハークは笑う。
「――そこでなら魔術も利用できますよ?」
あぁ、コイツは気づいている。
オレが魔術を使おうとしたことに。
「(ミラ、アイツは危険だ)」
オレはミラにだけ聞こえるように言う。
驚いた表情を浮かべ息を飲んだミラは、オレを抱き上げるとレイリアの方へ向かって頭を下げた。
「レイリア様。連れの気分が優れないので今日はもうお暇いたします」
「……そうですか、少し残念ですが致し方ないですね」
「おや、治療院に寄って行かれないのですかな?」
「その治療院にトラウマがあるのですわ」
「これはこれは! わたくしとしたことが、親切のつもりが余計なおせっかいだったようですな」
「それではレイリア様。どうかお元気で」
「えぇ、ミラも気をつけて。それから、貴女のお友達にも女神のご加護があらんことを」
ミラはレイリアさんに別れを告げると、後ろを振り返らずに歩きだした。
その表情はとても悔しそうだった。
―――――
教会を出て黒猫院まで戻ってきたオレたちは、人払いを済ませて作戦会議をする。
「クロさん、お加減は?」
「うん、大分よくなった、かな?」
「クロがここまでになるなんて……アイツ、なんなの?」
「わからない。でも……」
「ん、危険があぶない?」
「はい、それもかなり」
オレは魔術で素性を探ろうとしたが、魔術が防がれた事。
そしてそれはおそらく禁術による効果で、使用者であろうあの男がそれに気づいていたという事をみんなに告げた。
「それから、レイリアさん。一瞬だけど、首元に黒い物が見えた」
「首に黒い物、ですか?」
「待ちなさいよ、それってまさか!?」
「そ、エミリーもよく知ってるアレ」
メイジン村で見た黒い首輪。
【従僕の首輪】とかいう他人を奴隷にするイカれたアイテムが、恐らくだがレイリアさんの首にも装着されていた。
そしてその装着者は間違いなくあの男。
「ザッハーク……この国の宰相とか言ってたけど、実際はもっととんでもない奴だよ」
「イリアお姉ちゃん……」
「ミラ、しっかりする」
「わかったわ。じゃ、アイツをぶっ飛ばせばバンジー解決ね! そうと決まれば……」
オレは飛び出そうとするエミリーの首根っこを掴む。
「まだダメ」
「また『ダメ』なの!? あの時もこの時もダメダメダメダメ……アンタそればっかじゃない!? じゃあ、いつになったらいいのよ!」
「ゴメン、もう少しだけ待っててほしいんだ」
明確な敵は分かった。
情報も少しずつ手に入って来た。
でも、今度は圧倒的なまでに力が足りない。
「エミリーちゃん、今は我慢しましょう」
「だって、ミラはレイリアさんを助けたくないワケ!?」
「助けたいですわ。でも、だからこそです。イリアお姉ちゃんを助けるために、他の大切な仲間を危険に晒したくないのです」
そう藪の中にいるのは、間違いなく中二病黒魔導師級の危険な相手だ。
冗談が通じ無さそうな分、性質の悪さはさらに上を行くだろう。
そんな相手に万全でない状態で挑んだ所で、返り討ちに会うのは目に見えている。
「幸い、なのかはわからないけど、アイツはワタシたちに手を出してこようとしなかった」
それが負けない自信があるからの余裕なのか、向こうもオレを見極めあぐねているのかは分からない。
だが向こうから手を出してこない限り、下手にこちらからも手は出さない方が良い。
――今は、だけど。
「クロさん、何か策があるのですね」
「策って言うほどでもないけど、アテはあるかな?」
向こうが禁術を使ってくるなら、こちらも禁術で対抗すればいい。
どれだけ強大な力を持とうとも、こちらが本家。
本気の勝負で負けてやるつもりはさらさらない。
「クロさんに、危険はないんですね?」
「うん危険はないよ」
代償はあるが、そんなの人の命に比べればさしたるものではない。
「じゃあいつなのよ!?」
「その時に話すよ」
「……ゼッタイよ?」
オレは苦笑いだけして答えなかった。
戦いの時は決まっている。
次の満月は2日後。
オレは、自分の小さな拳を握りしめた。
と、いうわけで次話から数話幕間を挟みます(爆)
登場人物は、モノアイ、男の娘、Dランク冒険者……ま、まともな奴がいない?
……と思いましたが、まともな人の方が少ないのが黒いふでしたテヘペロ♪




