黒の系譜01-07『よくわかる異世界教室〝倫理〟』
倫理、というより宗教学? 魔術基礎ですかね?
歴史ではミラさんの熱が入り過ぎて長くなること請け合いなのでスタッフに編集されました。
ちょっとめんどくさいかもですが、魔術とかその辺の考えはまとめても長くなりそうなので読んでいただけたらいいな……今回はあとがきにまとめもないです……もうしわけない!
※12/11修正いたしました!
2時間目は〝歴史〟この世界の誕生から今までの発展の歴史を教わった。
が、あまりに長かったので割愛。
……べつに長すぎて途中意識失ってたとかではないよ?
と、ともかくわかった事をまとめると以下のようになった。
・1日は24時間で1週間は7日(ただし曜日の言い方は違う)。1か月は4週間28日で、1年は13か月の364日。
・大陸の位置づけや主要国家などはオレが考えたものと大まかには変わらないが、村々や統治者などは微妙に変わっている。
・現在の文明レベルは大体中世ヨーロッパくらい。ただし、精霊魔術を用いた家具が発明されており、少しずつながら一般家庭にも精冷庫(冷蔵庫)や卓上炉(コンロ)のような物が普及している。
・町では上下水道がほぼ整備されており、地方の村でも浄化魔法の使える神職が常駐しているため、飲料水からの感染症などの心配はほぼない。
・病院や学校などの施設は大きな町にしかないが、どの町にもある教会がその役割をはたしているらしい。
・どの町にも冒険者ギルドの支部があり、適正があれば誰でも冒険者になることができる。
以上。
生活レベルはそこそこ高く、ギルドや教会のおかげで都市間の連携も取れているようだ。
すべて聞き終えるまで結構時間がかかったので、少し休憩をはさんで次は宗教観など〝倫理〟の授業になった。
3時限目〝倫理〟では宗教観や魔術について説明してくれるとの事だった。
「では、ここからがおそらくクロ様の今後に大きくかかわる事かと思いますので良くお聞きいただきたいのです」
オレがどういう事か尋ねると、ミラは静かに一冊の本を取り出した。
「ぶっ!?」
表紙にはあの、痛い格好をした在りし日のオレと〝黒の系譜〟というタイトルが堂々と描かれている。
「こ、これは……?」
完璧に見覚えがあるが、記憶喪失という前提があるのであえて知らないふりをする。
いや、記憶から抹殺したいのはたしかだけど。
「私の愛読書でもあります」
「へ、へぇ……」
胸に抱え恍惚の表情を浮かべるミラ。
これが愛読書だなんてこの娘……そう言えばさっきの歴史の授業でもクロードのくだりになるとやけに熱が入って時間をかけていたな。
うん、本人としては嬉しいような悲しいような微妙な気持ちだ。
「で、でその本がどうしたの?」
「この本の著者にして偉大な魔導師クロード=ヴァン=ジョーカー様については先ほど軽く触れましたが」
いや、全然軽くないから!
比重的に歴史5割、クロード5割くらいの感じで話してたから!
「あれだけ偉大なクロード様ですが、あのお方を心良く思わない者もまた多いのです」
なんでも偉大な魔導師様とやらは神にケンカを売ったらしく、教会勢力からは背教者とされているとか。
うっわ、教会って全部の町にあるって言ってたぞ? 大丈夫かオレ? ってか何してくれたんだティー様!
「で、でもそれがオ、ワタシと何の関係があるのカナ?」
まさかこの子オレの正体に?
いや、それはない。
もしばれたなら熱狂的ファンのこの子が本人を前にしてこんなに冷静でいられるはずがない。
「クロ様の使われている魔術、あれは教会が言うところの〝旧魔術〟と言うもので、場合によっては使うだけで罪に問われる事があるのです」
「なんだってー!?」
ミラの説明を要約するとこうである。
今一般的に使われている魔術はクロードが使っていた魔術を元に作られた〝新魔術〟と言う物が正しき法である、とは教会の弁。
一方でクロードが使っていた魔術は〝旧魔術〟と言われ、教会には異端とされている。教会の宗派によっても考え方がまちまちらしいが、共通して良い顔はされないとのことだった。
「それもあそこまで高レベルの魔術を無詠唱でやってのけるのですから、もし教会の者に目を付けられれば、間違いなく異端審問にかけられるでしょう」
「そんなにすごい魔術なの、アレ?」
彼女の前で使った魔術といえば防御魔法の[アイギス」、回復魔法の[フル・ヒールリング」、あとは[ディスペル][メディック][キュア・ボディ]くらいか?
どれもRPG的にはよくありそうなもんだけど。
「まずそうですね。初めに見せていただいた防御魔術ですが、白の系統であそこまで高い防御力を誇る魔術は見たことがありませんね。それこそクロード様の伝説の中で少し記述のある魔術ぐらいしか」
「ハハハ……」
うん、アレは滅多なこと使わないようにしよう。
「それから回復魔術ですが、あのように病を完治させる魔術など例がありませんし、そもそも回復魔術自体が珍しいものなのです」
「なんで?」
RPGなんかではヒールとか基本中の基本だが、この世界では違うらしい。
珍しい理由の一つ目は適正、これがないとそもそも扱えないらしい。そしてその適正をもって生まれる者は他の魔術に比べてごくわずかだという。
そして次に習得方法、今現在フリーで活躍している回復魔術の使い手はほぼいない。
というのも教会が〝女神の賜うた奇跡の技〟として知識と技術を独占しているらしい。
しかも何年も教会で修行し、認められて初めて習得できるというとんでもない苦行が必要なため、途中で挫折する者も多いという。
「そんな魔術をその年で、しかも高レベルな魔術をやはり無詠唱でとなると……」
「そりゃ確かに不自然だ」
うん、アレもあんまり人前でほいほい使わないようにしよう。
「あ、一つ聞いても良い?」
「はい、なんでしょうか?」
「さっきからちらちらでてくる〝無詠唱〟ってどういう事? なんとなく想像はできるんだけど」
オレが訪ねると、ミラは見せた方が早いですね、と言って手のひらを出す。
「〝白〟よ、〝球〟なる形を為して、明かりを〝灯せ〟。[フェアリー・ライト]」
ミラが唱え終えると、彼女の手のひらの上に微かに輝く光の玉が浮かび上がる。
ほんのりとやわらかく暖かい光だ。
「おー」
「これが〝詠唱〟です」
クロ様に比べれば大したことない魔術なんですけどね、とミラは照れながら説明してくれる。
詠唱とは、意味ある言葉を紡ぎ魔術を発動する方法である。基本は〝属性〟〝形状〟〝用途〟などを述べたあとキーとなる魔術名を呼ぶことで発動できるらしい。
それも単語を羅列するだけでは駄目で、きちんと意味が通るように唱えなければならない。
だから魔術師の中では、如何に詠唱を短くできるかと言う事が研究されているそうだ。
ちなみに属性の概念はオレの考えた設定がそのまま生きている様で、炎は〝赤〟、水は〝青〟、地は〝黄〟、風は〝緑〟、光は〝白〟、闇は〝黒〟と分類したはずだ。
「高度な魔術になればなるほど、意味ある言葉をたくさん詠まなくてはならないためどうしても詠唱が長くなってしまうのです。ですが、クロ様は魔術名を唱えるだけで魔術を発動できるご様子」
「あぁ、まあ。そうなるかな?」
ティー様によれば、オレは自分で作った魔術は好きなように使えると言っていたし、その辺の効果なんだろう。
……でもそうなると、逆に詠唱して魔術とか使えるのだろうか?
たしか[フェアリー・ライト]って魔術は作った覚えがないし、試してみよう。
「[フェアリー・ライト]」
何も起こらない。
やっぱり、オレが作ったわけではない魔術はスペルワードを唱えても使えないようだ。
「ええと、〝白〟よ? 〝球〟なる形を為して? 明かりを〝灯せ〟? [フェアリー・ライト]?」
頭の中に光る玉をイメージしてみる。
カッ!
「うわぁ!?」
「きゃわ!?」
オレの手のひらの上にできた光の玉が弾け、辺り一面が光に包まれた。
体に衝撃などはないが、強烈な閃光で目がチカチカして前が全く見えない。
「み、ミラ大丈夫!?」
「は、はい。少し目が眩んだだけで……クロ様は大丈夫でしょうか?」
「お、ワタシも大丈夫ちょっと待ってて……[キュア・ボディ・オール]!」
オレが唱えると一瞬目が温かくなるような感覚がして、視界が回復していく。
ミラも問題なく回復したようで良かった。
「アハハ……あれは〝フェアリー〟なんて可愛らしいものじゃなかったね」
「初歩魔術ですらあの効果……やはりクロ様はすごいですわ」
オレが作ってない魔術は使えない。
詠唱すれば発動できるが、効果が規格外。
うーん、魔術は少し練習してからじゃないと何が起きるかわからなくて怖いな。
「それにしても、クロ様は魔術をいったいどこで習得されたのでしょうか?」
「それは、えっと……うっ、思い出そうとするとあたまがー(棒読み)」
「あぁ! 無理に思い出そうとなさらなくて大丈夫ですよ!」
ミラから水差しの水を受け取って飲み干すオレ。
大丈夫、落ち着いたと伝えるとミラは安堵の表情を浮かべる。
うん、罪悪感がハンパない。
でもまさか『オレが作りました』とも言えない。
「うん、魔術は徐々に時間をかけていこうと思う」
「はい、それがいいですわね」
こうして3時限目の講義が終わった所でいい時間となったので昼食を取ることになった。
――クローディアは[フェアリー・ライト]を覚えた!
――クローディアは[キュア・ボディ・オール]を思い出した!
とか言ってRPGな気分を味わってみる。
※クローディアが途中居眠りしていたためノートは人に見せられません。
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