表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
79/104

黒の系譜02-30『門外街の女神』

女・神・降・臨!

果たしてクロは女神を騙しきれるのか!?

そして眼鏡はどうなるのか!? 

 宵闇の門外街に舞い降りた女神モーミジヤ。

 女神は神々しくもオレに問う。


≪クローディア様、私が来た理由。お分かりですね?≫


 ここからが、勝負。

 オレは目の前の小さな命たちを守るために白を切ってみせた。


「ワタシ、何か悪いことでもしたかな?」

≪言ったはずです。死者を蘇らせる行為は禁忌だと。よもや忘れたわけではありませんよね? 他ならぬ貴女が考えた天界の法(システム)を?≫

「そりゃ、覚えているよ」


 この世界における〝天界〟というシステムとは?

 それは世界の均衡を保つため、例えば〝蘇生〟、或いは〝人体精製〟など、世界に良くも悪くも大きな影響を与える存在に干渉、必要に応じて〝天罰〟としてペナルティを課すシステムである。

 普通は天使と呼ばれる存在が現れる筈なのだが、なぜかオレの場合に限ってご丁寧に女神が御光臨されるのだ。

 うん、理由は想像がつくから言わないけど。


「でも、どうして今回のがそれに抵触したのか分からないな。ワタシは死者の蘇生も、人体の精製も行っていないはずだけど?」

≪白々しい言い訳です。そこのワ……子犬が証拠ではありませんか≫

「わふ?」


 指を指された黒い子犬は『なんのこと?』とでも言うように首を傾げた。

 少女も一緒に『わふー?』と首を傾げる。

 あぁんもういちいち可愛いなぁ!

 ごほん……ではなく! オレは恍ける。


「なんで? この可愛らしい子犬が証拠になるの?」

≪そこの可愛らしいワンち……子犬には既に命を落とした少年の魂が入っていますね? いいえ、故意に入れたはずです≫


 来た。


「さぁ、存じ上げておりませんね?」

≪下手な演技は不要です。私は全て見ていました。貴女が魔術でそこに滞遊していた魂を魔核に封じ込めたのも、その状態で魔獣契約を行使したことも≫

「酷いな。プライバシーの侵害だ」

≪残念ながらこの世界に貴女の世界の法律は通用しません≫

「ぶーぶー」


 ここまでは想定内だ。


「ま、確かにオレは近くに浮いていた魔素の塊みたいなのを魔核に閉じこめたよ?」

≪では決定ですね≫

「まぁ、ちょっと聞いてよ。でもね、それは別に死者蘇生を計ったとか、そう言うんじゃないんだ」

≪……聞きましょうか?≫


 かかった。


「さっき契約に使おうを思った魔核なんだけど、つい事故で中身の魔素が抜けちゃった物なんだ」


 これは本当。

 料理をしていたときに、何故かエミリーが持っていた魔核を転んだ拍子に鍋へイン。

 あわてて取り出してみると、中に入っていた魔素が若干抜けていた。

 それを元にして魔封珠の発想に至った訳だけど、この中途半端に魔素の抜けた魔核はそのまま取って置いたのだ。


「で、契約を行おうと思って取り出したんだけどそこで気がついたんだ。『果たして魔素が半端に抜けているこの魔核で契約が行えるのか』ってね」

≪ほほぅ……≫


 これは半分本当。

 魔素が半端な魔核で契約が出来るか疑問に思ったのは本当だけど、出来ないかもしれないと分かっていてオレは取り出したのだ。


「そしたら、ちょうどいい魔素の塊が近くに浮いているじゃないか! これはちょうどいいと魔核に入れて、後はごらんの通りかな?」

≪では、あくまで偶然だと?≫

「そう言うこと。近くにあったのが少年の魂なんてオレは全く知らなかったし、使ったのもほんとたまたま、偶然だよ」


 これは完全にブラフだ。

 近くにあるのが少年の魂かもしれないと、オレは思っていた。

 その上で、どうすれば女神相手に誤魔化せるか考えて、この方法を取った。


≪なかなか、おもしろい言い訳ですね≫

「違う、って言ってるよね?」


 女神は、オレの真意を探るように真剣な眼差しでオレを見つめる。

 なぜこんな回りくどい言い方をしたのか。

 それは詐欺師が人を騙す時、全てを嘘で偽るのではなく、真実の中に嘘を織り交ぜるという話を聞いたことがあったからだ。

 まるっきり嘘話だと騙されない人でも、真実の中に混ざった嘘には気づきにくいと言う。

 果たして、詐欺の常套手段は女神に通用するのか?


≪残念ですが≫

(ダメか……!)

≪それはひゃぅっ!?≫

「へ?」

≪こ、こらおやめにゃ! くす、くすぐはぅん!≫


 身をよじって変な声を出す女神にオレが首を傾げると、理由はすぐに分かった。

 女神の足下でちょこちょこ動き回る物体。

 他ならぬあの黒い子犬だった。


「わふぅ(ぺろぺろ)」

≪やめ! おやめんさぁん! な、なめちゃだめぇん!?≫


 女神に興味を持った子犬が、職業柄(?)素足の彼女をぺろぺろとなめ回しているのだ。

 恐いもの知らずの子犬……恐るべし!!


「こら! クロマル! おねさん、困ってるでしょ。なめちゃ、め!」

「きゅぅん……」


 少女に叱られた子犬はしょんぼり顔で大人しく少女に抱えられた。

 それにしてもクロマルて……黒いからだろうか?

 も、もうちょっと他の名前はなかったのかなぁ。

 なんかその名前だとオレが怒られてるみたいな感じに……

 と、ともかくコレはチャンスだ。


「ご、ごほん。ご覧ください。このようにこの子犬はもう完全にあの少年とは別の存在です。でなけりゃ見ず知らずの女性の足なんて舐めないでしょう?」

≪ハァハァ……ワンちゃん恐そるべし……。ですが、そのようですね。確かにあの少年とは完全にとは言えませんが、別個体と言えるでしょう。はふぅ……/////≫

「じゃあ!?」


 女神は大きくこれ見よがしにため息をつく。


≪今回だけ、本当にこ・ん・か・い・だ・け! ですからね! もう次はないと思ってくださいよ!?≫

「(前もそう言ってた気がするけど、まいいか♪)やったー!」

「よくわかんないけど、やったー♪」

「わふー♪」


 オレは少女や子犬と一緒に喜びのダンスを踊った!

 女神は微笑ましく見ているが、何も起きなかった!


≪(まったく。久しぶりに会えるから緊張してきたというのに……パパさまったら)≫

「ん? 何か言った?」

≪いいえ、なにも! (ぷぃっ)≫


 かなり計算違いもあったけど、何とかうまく誤魔化せた。

 それにしても、女神は何を怒っているのだろうか?

 あ、あれか? 忙しいのにオレが変なことで呼び出した上に、結局無駄骨に終わったからか?

 だったら、ねぎらいの言葉の一つくらいあってもいいのかもしれないな。


「わざわざお忙しいところ、ご苦労様です」

「ごくろーです!」

「わふん!」

≪べ、別にパパさまのためじゃないんですからね!≫

「ぱぱさま言うな」


 女神はぷんぷんと怒りながら、天上へと戻っていった。


≪たまには、ままさまにもメールしてあげてくださいよ! 寂しがってるんですから!≫

「あいあいー」

「じゃーねー、きれいなおねさんー!」

「わふー♪」

≪はぅ///// さらばです。素直で可愛らしい子どもとワンち……子犬よ♪≫


 満面の笑みで女神が去ると同時に空は明るみ始め、山陰から日が昇り始める。

 さてそろそろオレも戻らなくてはみんなに心配をかけてしまうかもしれない。


「じゃあ、お姉ちゃんはいっちゃうけど、二人で大人しく待ってられる?」

「うん! クロマルと待ってる!」

「わふ!」


 ハハハ、もうその名前は決定なんだね。

 オレは子犬のクロマルを撫でながら『この子を守ってあげてね』と言った。

 何故か二人が『わふー♪』と答えたので、オレはおもいっきり抱きしめていた。


「可愛すぎるやろー!」


 周囲に誰もいないことを確認し、ゆっくりと扉を閉めたオレははぁ、と一息ついた。


(とりあえずは時間がある時に様子を見に来るとして……でもやっぱり誰かについていてほしいなぁ)


 ぼんやりそんなことを考えるも、眠くてあまり頭が回らなくなってきた。

 適任者はまた探すとして、今日は早いとこ戻って寝よう。

 オレは欠伸をかみ殺しながら帰路に就いた。





―――――





「――おい! おい、聞いているのか!?」

「……あぁ、すみません。どうも働きづめだったので少しぼんやりしていました」


 オレは目の前のカッカしている眼鏡の神官、ギースに笑いかけた。


「まったく。知っているのか、知らないのかはっきりしないか。お前と違って僕は忙しいんだぞ!」

「お互い大変ですねー」

「貴様のせいだろが!」


 オレの気のない返事がギースをさらに苛つかせる。

 さてさて、だがあの日のアレを誰かに見られていたとしたら、少し厄介だな。

 まずは軽く探りを入れてみよう。


「アナタは、その事について詳しい話をご存じなんですか?」

「いいや。人伝(ひとづ)てに聞いただけだ」

「ふむ。じゃあその教えてくれた人っていうのは?」

「敬虔なモーミジヤ教徒だ。僕自ら洗礼してやった信徒だ。嘘をつくはずがない。いいからさっさと答えないか」


 コイツが洗礼、待てよ?


「それって、あの広場での〝公開洗礼〟の事ですか?」

「そうだ。それこそ、あの時の男が今朝方駆け込んできたのだよ。『門外街に女神がご光臨されたと噂になっている』とな。それにしても、貴様のような下賤の輩でも知っていたか? 生憎サインなどという俗な物は用意していないぞ?」

「いいえ、結構ですから」

「そうか? まぁ、僕も手を煩わさなくていいならそれにこしたことはない、ふふん!」


 とか言いながら、ドヤ顔なのがムカつく。

 有名人気取りなのか、聖人気取りなのか。

 どっちにせよ、あの行為について全く罪悪感を持っている様子がない。

 この男は、アレがどう言う術か知らないのだろうか?


「で、さっさと答えろ。お前は、女神の光臨に関して何か情報を持っているのか?」

「そうですねぇ……」

「まだ渋るか! もういい、時間の無駄だった。そもそもこんな場所に女神がご光臨されるはずなどなかったんだ」


 少し焦らしすぎたか。

 思った以上にせっかちな男だな。女子にモテないぞ?

 ではなく、みすみす禁術の情報を持っている男を逃す気はない。


「知っていますよ」

「……何だって?」

「ワタシは、女神光臨の噂について情報を持っていると言ったんです」

「……女神に誓って、嘘偽りないな?」

「もちろん」

「言え」

「いいえ、ただでは教えません。条件があります」

「ちっ……言ってみろ」


 コイツが乗ってくるかはわからないが、ここは大人の取引といこうじゃないか。

 目には目を、歯には歯を、情報には情報を。

 等価交換の原理ってやつだよ。

 

「答えてほしい事があります。それに答えていただけたら、こちらもお答えいたします」

「貴様、黙って聞いていれば先ほどから生意気にもほどがあるぞ!」

「そうだ! 分をわきまえよ獣人! ……ギース殿、このような者の戯れ言を聞く必要など」


 ギースは二人を手で制した。


「聞こう」


 ふふ、なかなか理解のあるヤツじゃないか。

 教会の神官(オレの敵)でなければ、こういう奴は嫌いじゃないんだけどな。


「アナタの洗礼魔術、あれはどのように習得しましたか?」

「それを聞いてどうする?」

「いいえ、ただの学術的関心です。ワタシ、これでも考古学者なもので」

「考古学者だと? それが真実(まこと)かはわからんが、考古学者を語るとは、道理で変わり者なわけだ」


 おや、考古学者を知っているのか?

 この世界では随分マイナーな職業、むしろいないんじゃないかとすら思っていたのに。


「貴様如きにと思っていたが、気が変わった。教えてやろう」

「そりゃどうも」

「ギース殿!」

「それは教会の秘法だったはず!」

「女神の手がかりを得るためだ。仕方ない」

「「ですが!」」

「黙っていろ。洗礼魔術[ブレイン・アウト]。アレの習得法だったな?」

「はい」


 ギースは懐から一冊の分厚い本を取り出した。確かあの場でも広げていた本のはずだ。

 まさかこの中に……?


「アレは教皇猊下から賜った術だ。術、というより僕が見たのは何かの魔導書の一端だったが」

「……つまりどういう事ですか?」

「今ので分からんとは、学が足りんな。教皇猊下の持っていた秘法を読む許可を頂き、習得したのだ」


 ギースはパラパラと本をめくりながら話す。


「じゃあ、その本がその秘法とかってヤツですか?」

「違う。これはモーミジヤ教の聖典だ。どうにもあの術の事を考えると激しい身体不調が起こる。それを紛らわせるためにこうして聖典を暗唱し、精神統一しているんだ」


 なるほど、ここにその禁術の書かれた一端――つまりは魔導書のページだろうが、それはないと言う事か。

 となれば、所持しているのは教皇?

 なぜクロードと敵対しているはずの教皇が禁術なんて……


「その教皇さんは、どうやってその術を?」

「さあな。それに関して正確な情報は持っていない。不確かな情報を取引に持ち出すほど僕は愚かではないさ」

「そこを何とか!」

「聞きたいなら、そちらもそれ相応の物を寄越せ」


 なるほど、『こちらはちゃんと情報を出した。お前も情報を出せ』と言いたい訳か。

 なかなかどうして頭の固い奴だ。融通が利かない石頭はモテないぞ?

 ぱたん、とギースは威圧的に本を閉じた。


「さぁ、納得のいく答えをもらおうか?」


 やれやれ、少々癪だが向こうがちゃんと情報を寄越した以上、オレも正直に答えねばなるまい。

 

「いいでしょう。では、付いてきてください」

「ここではダメなのか?」

「見た方が早いし、納得してくれるでしょう?」


 むしろ見なければ納得してくれないだろう。

 〝女神光臨〟とかいうしょうもない噂の真実を。



―――――



 と言う訳で、オレたちは黒猫院を出て少し人が賑わう辺りへとやって来た。

 オレたちに気が付いた人々が、次々と周りに集まってくる。


「おー、クロネコさんにミラちゃん! 今日も見回りかい! お疲れさん!」

「クロネコさんにミラちゃんおつかれッス! 後でちょっとウチ来てもらっていいッスか? ベニィがいつもお世話になってるからご飯をご馳走したいって言ってたッス!」

「なんだい、じゃあ今日はウチで飯食ってかないのかい? ってかたまには客としておいでよ。いつ、来ても働いてってんだから」

「いや、お前が働かせてんだろ……って、なんだ今日は連れが多いじゃ……男連れ!?」

「あ、あのクロネコさんが男連れだって!? 雨だ、今日は雨が降るぞ!」

「お、おいアンタ! 誰だか知らんが、悪いことは言わん。そのヒトはやめとけ! アンタの為だ!」

「い、命が惜しいならやめておいた方が良いッスよ! ミラちゃんも止めてあげて欲しいッス!」


 というか、ねえ。ちょっとオレに対する評価がおかしくない?


「騒がしい奴らだ。一体、ここが何だって……!」

「見て分かりませんか?」


 誰も彼も楽しそうに笑っている。


「……ふん。以前より民の暮らしがマシになったのは、理解した。これが貴様の功績だと言うなら、評価してやらなくもない。だがそれと女神に何の関係が……」

「――でよ、オレ思ったんだわ。この人が天使、いや女神かってな……ほぁっ!? くくくくクロネコさん!?」


 そんなジョークを言いながらやってきたのは、エミリー隊のエース、ケリッヒさんだ。

 ダイゴローヘアーを風になびかせ、肩には今日の収穫であろうヤモチョウを携えている。

 ちょうど狩りから帰ってきた所だったらしい。


「おはようございます。何のお話をされてたんです?」

「いや、それはハハハハ……」


 オレは[耳を澄ませて(猫耳カチューシャの能力:遠くの音も良く聞こえる)]いたので聞こえてはいたのだが、あえてそんな意地の悪い質問をする。


「聞いてくださいよ。この野郎、毎日毎日クロネコさんのことを『天使だ』とか『女神だ』だとか……ホンと耳にタコができるってーの」

「お、おまっ! 本人の前でその話をすんじゃねぇよ!?」

「まぁでも実際そうだけどな」

「ちげぇねぇ。クロネコさんがここに来なかったら、オレたちもとっくに野垂れ死んでたぜ」

「クロネコさんは、オレたちの救世主でさぁ」

「女神、ってのもあながち間違ってねぇな」

「女神クロネコばんざーい! ってかぁ!」


 みんな口々に人の事を女神だの天使だの囃し立てる。

 うん、わかってはいたけどこっぱずかしいね。

 オレは真っ赤になった(色まで変わる)猫耳をパタンと閉じながら咳払いした。 


「ごほん//// ということです」

「は? ……おい待て。まさか!? まさかとは思うが……!?」


 おかしいと思ったんだ。

 女神がお小言を言いにやってきたのは、オレが皇都へやってきた日の深夜から早朝にかけて。

 しかし広場で男が洗礼を受けたのは、その日の昼過ぎ、男が噂を聞いたのはさらにその次の日の朝の事だ。

 少し時間関係が噛み合わない。

 もし最初の女神降臨が誰かに見られていたなら、もっと早く噂になっいてもおかしくない、と。

 まあ実際の所、噂の女神が本物の事かオレの事なのかははっきりしないが、誤魔化す分にはこう言っとけば十分だよね。

 え? 女神降臨の話をしてやらなくていいのかって? なんで?

 『情報には情報』?

 『等価交換』?

 オレ、錬金術師じゃなくて考古学者だからよくわかんなーい♪


「つまり、門外街で噂になっている女神とは?」

「ごめんなさい。多分ワタシ」


 いや、『とんでもねぇ、あたしゃ女神だよ?』なんて言うつもりはないが、そう言う事にしておくのがベストなんだろう。

 貧困に喘いでいた人々を救った救いの女神。

 そんな表現が噂が噂され、曲解された結果、

 

 『門外街に女神がご光臨された』


 というとんでも話になってもおかしくもなんともないしね!


「ふ、ふざけるな! ではお前が持っている情報というのは……!」

「うん、多分誤解だよ? って事。情報は情報でしょ?」


 ギースは眼鏡を指でクイッ、と持ち上げる(リアルでやってる人初めて見た)、軽く息を吐いて呼吸を整え、回れ右をして歩きだした。


「帰るぞ。本当に時間の無駄だった」

「うん、でしょうね」


 あんまりな態度であるが、気持ちは分からないでもない。

 ご愁傷様でした。

 でも、どうしてそんなに女神の光臨を気にかけて……教会の人間だからか?

 それにしたって、やたら執着しているように思えるが……


「どうして、そんなに女神にこだわるんですか?」

「ふん、もうお前にくれてやる情報などない」


 ありゃ、これは相当がっかりさせてしまったらしい。

 まぁ、言いたくないなら無理に聞き出すつもりはないけどさ。

 ホントならコイツの持っている『禁術の入手に関する不確かな情報』とやらも手に入れておきたかったが、まあしょうがない。

 今回はこの辺が引き時か。


「そうだ、女」


 ぴたっ、と急停止したギースはミラをびしっと指さす。


「私でしょうか?」

「お前がミラ=イーノッドか?」

「はい、そうですが……?」

「言われた宿にいなかったから無駄に探したじゃないか。そもそも宿が無いと言うのはどういう事だまったく!」

「あぁ、申し訳ありません。あの、もしかして?」

「伝言だ。『いつでも貴女の都合の良い時に教会へ来てください。貴女の幼なじみより』だそうだ」

「イリアお姉ちゃん……はい。ありがとうございます」


 イリア、という人が教会にいるというミラの知り合いか?

 なるほど、信頼できる人物とは聞いていたけど、ミラの幼なじみだったんだ。


「用件は伝えたからな」


 ギースはむすっとしながら帰っていった。

 どういう奴かはいまいち掴めなかったが、案外悪い奴ではないのかもしれない。

 イケメンのくせに女の子にはモテなさそうだけど。イケメンのくせに。

 オレは大股で帰っていく眼鏡の神官を見ながら、彼の言っていた言葉を思い出す。


『アレは教皇猊下から賜った術だ。術、というより僕が見たのは何かの魔導書の一端だったが』


 大分話の裏が見えてきたぞ。

 あの眼鏡が言う事が仮に真実なら、その教皇とやらが一連の事件を陰で操っている可能性がある。

 禁術。

 従僕の首輪。

 万呪の黒石。

 これらにもし教皇が関わっているとなれば、世界がひっくり返るくらいのスキャンダルだろう。

 その辺も含め、ミラの幼なじみさんには色々と聞いてみよう。

 オレはとりあえず『女神』とか『天使』とかは恥ずかしいので言うのをやめるよう人々にお願いして回った。

 結果、いつの間にか人々に浸透していた『気高き黒子猫(ノワーブル・キティ)』というこっぱずかしい二つ名の存在を知る。

 いや、女神とか天使とか天女とか猫姫とかに比べればまだマシだけれども!

 オレは『有名人も辛いんだなぁと』ずいぶん的外れな事を考えていた。

メガミは去り、メガネも去りました。

色々と物語が動き始めていますが、次次話からまた少し幕間を挟みます。

そうです、幕間開けから怒涛の2章ラストまで超展開が色々あります!

ちょっと鬱も挟みます……押しつぶされないよう作者も頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ