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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
77/104

黒の系譜02-28『門外街が変わる日』

前回のお話ですが、ちょと時間軸が前後したりしているますので深く突っ込まないであげてください。

※10/5改稿いたしました!

 後々日数計算が合わなくなりまして、日にちを変更いたしました。

・皇都へ来てから8日→6日

・炊き出しを始めてから4日→3日


 オレが皇都に来てから6日。

 今日も今日とて、オレたちはもはや日課となっている炊き出しをやっていた。


「はいはーい。順番ですよー」

「並んでくださいねー」


 暖かいクラムチャウダーモドキを受けとった人々からは感謝の笑顔が向けられる。

 炊き出しを初めて3日目。オレの地道な活動の成果もあって、徐々に訪れる人は増えていた。

 しかし、それは炊き出しだけのおかげではない。


「クロネコ! お客さんだよ!」

「はい?」

「あ、アンタがクロネコかい?」


 どうやら、今日も来たようだ。


「はい、そうですよ」

「あ、アンタ! なんでも病気を治せるってのは本当なのか!?」

「見てみないことには何とも……病気にかかっているのはアナタですか?」

「妻なんだ! 頼む! 診てやってくれないか!?」


 このように、『門外街のクロネコは病を癒す』という噂を聞きつけた人々が訪れてくるのだ。


「すみませーん、ヤッカリさん、ここお願いしてもいいですか―?」

「いつものだな? おう。まかせろ」


 オレは元料理人のヤッカリさんにこの場はお願いして、男の人に付いて行った。



―――――



「[メディック]……うん、大丈夫そうですね」

「ありがとう……本当にありがとう」

「いえ、病気は治りましたが、まだ万全ではありません。しっかりと栄養をつけて、それから体力も」

「ありがとう……だが、そうしてやりたいが食料を買うお金も、薬を買う金もないんだ……」


 がっくりとうなだれる男に、オレはニヤリと笑う。


「ならちょうどいいお話があります。奥さんのために働く覚悟はありますか?」

「し、仕事をくれるのか!?」

「当然です! ワタシだって別にただのボランティアでやってるわけではありませんからね?」

「あぁ、私で出来る事ならなんだってやるさ!」

「はい、いい返事です♪」


 オレは説明用のメモを取り出した。


「えっと、じゃあ旦那さんはどこで働きたいですか? 農場、ヤーヴァ牧場、錬金工房、冒険者育成コースを経ての冒険者、料理手伝い、色々ありますけど?」

「ど、どこがオススメだろうか?」

「そうですね……」


 オレは旦那さんの[ステータス]を確認しながら仕事一つ一つと照らし併せて考えていく。


「まず、旦那さんは魔力量がそれほどでもないようですから、錬金工房向きではなさそうですね」

「あぁ、魔術なんて生まれてこの方使った事が無い」


 錬金の課程でどうしても魔力が必要になってくる。魔力量が少なければ苦労するだけだろう。


「同じ理由で、冒険者も厳しいかな? あそこも魔力は必要だし」


 冒険者育成コースには一応戦士コースと魔術師コースがあるが、どちらも魔力は必要となってくる。それに冒険者は危険が伴うので、あまり妻帯者にはオススメしたくないな。


「となると料理、農場、牧場ですが……料理経験は?」

「情けない話だが……」

「じゃ、ペケと。ヤーヴァ牧場も割とハードだし、無難に農場かな?」


 ヤーヴァ牧場、名前の響きは長閑に聞こえるがそれは大きな間違いだ。

 だって飼育しているのは魔獣ヤヴァイコーン。

 幾らエミリーが力で屈服させてくれたから言う事を聞くといっても、それはある程度強い人に対してだけだ。弱い人相手だと強気に出て乳を絞らせてもくれない。

 下手すると攻撃を仕掛けてくることだってある。


「わ、私も妻も農村の出身だ! しばらく農業からは離れてたからどうかとはおもっていたのだが……!」

「全然! むしろバッチリですよ!」


 オレは農場に二重丸をつけた。

 奥さんは地下施設の治療室に運んでしばらく安静にしてもらうとして、旦那さんには明日ぐらいから農場に顔を出すよう話しておく。

 オレからも後で責任者のケーンさんに話ておこう。


「何から何までありがとう。クロネコさん、でいいのか?」

「あいあい。でも大事なのはこれからですよ? 奥さんの為にもがんばってくださいね!」

「は、はい!」


 オレは満足げに頷いてその場を後にした。


(さてさて、人が増えて大分施設も手狭になってきたな……となると、〝そろそろ〟かな? ふふふふふふ……♪)

「クロ、あんたわっるい顔してるわよ」

「失礼なことを言うと思ったらエミリーか。みなさんもおつかれー」

「「「「クロネコさん、ちぃーっす!」」」」


 オレがニヨニヨ笑いながら歩いていると、後ろから男たちを引き連れたエミリーに声をかけられた。

 確か狩りに言っていたはずだが、もう戻って来たのか。


「あれ、結構早かったね。で、今日はどうだった?」

「ま、普通ね。ヤヴァイコーンと、イッカクジャケ……食べられそうなのはそんなとこね。あとはサラマンデンデンとか、ミストードとかオーガードッグとか、不味そうなのが数匹かしらね?」

「(食べれるかそうじゃないかが基準なんて)さっすがエミリー!」

「ふ、ふん! ほめても何にもでにゃいんだからね//////」

「(褒めてないけどね)」

「ほら魔核よ! さっさと持ってきなさい!」

「「「「「さっすが姐さん、見事なツンデレっす!」」」」

「ツンデレ言うなー! (バキバキ!)」

「「「「「ぎゃー!? あざーっす!?」」」」


 エミリーには冒険者候補の育成、特に近接戦闘関係をお願いしている。

 エミリーはラムダさんに色々戦闘指南を受けていたから勝手がわかるだろうし、皇都周辺ではもう敵無しだし、一人で任せても大丈夫だろうと判断したのだ。

 まぁ、何かあったらすぐ連絡用の魔封珠[スターダスト・イレイザー(一発)]を打ち上げるよう渡してあるし、問題はないだろう。

 

「どう? 冒険者見習いさんたちの実力のほどは?」

「ま、そこら変の駆け出し冒険者よりはマシってとこかしら? まだまだアタシ抜きではけっこう危なかったりするし」

「ふむふむ……じゃあ登録はまだもう少し先だね。じゃあ引き続きお願い」

「まっかせなさい!」


 エミリーから冒険者登録しても大丈夫と判断された人は、ミケさんが出張登録しに来てくれている事になっている。賄賂としてヤヴァ肉とヤーヴァミルク、炭酸水を送ったら二つ返事で快く引き受けてくれた。

 やはり持つべきものは横の繋がりだね! 


「見てなさい! みんなすぐに一人でヤヴァイコーン絞め殺せるくらいにしてやるわ!」

「「「「「むりむりむりむり(オレと冒険者見習いたち)」」」」」


 ま、まあこっちはエミリーに任せておいて良さそうだな。

 ちなみに魔術関係はミラにお願いしてある。

 こちらは座学中心だけど、ゆくゆくは前衛の人たちと一緒に狩りに行って連携を学んだりとかも考えている。

 まぁ順調に進んでいるようで何よりだ。

 エミリーと別れ、オレは意気揚々と戻っていった。



―――――



「どーもー。ルーお姉ちゃんいますかー?」

「あ、クロネコさんだ!」

「クロネコのねーちゃーん」

「おねちゃ、あそぼー!」

「あそぼー!」

「わふっ!」

「はっはっは。これこれ、おねーちゃんは今日はお仕事できたんだよー?」

「「「えーっ!」」」


 施設の中に入ると、子供たちとワンコが元気に近寄ってきた。

 うんうん、良い子たちだアメちゃんを上げよう♪


「ん、休憩、大事」


 子どもたちの中心でワンコを愛でていたルーさんが、のんびりと言う。


「……ルーお姉ちゃんはもう少し働きましょうよ?」

「んーん、めんどう」


 オレは苦言を呈するが、あっさりと一蹴されてしまった。

 もういつものことだからしょうがないと思い、オレは言うのを諦めた。


「で、調合師さんたちはどうです?」

「ん、まだまだ」


 部屋の奥、新たに造られた〝錬金工房〟という部屋の中では、数人の人が額に汗しながら練金窯をかき混ぜていた。

 ルーさんには[練金]の技術指導をお願いしているが、やはりオレのスキルとは勝手が違って、一朝一夕でアイテムが出来るような物ではないらしい。

 こちらも冒険者同様長い目で見ていく必要がありそうだ。


「でも、ポーション、できた」

「あ、ホントですね。どれどれ……うーん、まだちょっと効果にムラがあるかもですね」

「ん、クロの半分くらい」


 まぁでも元のリカムポーションの半分うらいでも回復すればそれなりの効果はある。

 安値なら売れなくもない、かな?


「では、引き続きご指導お願いします」

「ん、おっけー」


 移動しようと思っていたオレだったが、そういえば大事な事を伝え忘れていたのを思い出した。


「あ、そうだ。今日の午後なんですけど、地下施設のみんなを連れて外に出てください。ちょっと大規模な工事をしますので」

「怪我人、どうする?」

「怪我人の方たちもです。まだ自由に動けない人は、後でエミリー隊にも応援を呼んでおきますので手伝ってもらってください」

「ん、おっけー」


 オレは軽く治療室の中を見て回り、寝ている人たちの様子を見て回るが、特に問題はなさそうである。

 今度子どもたちに紙芝居を見せてあげる約束をし、オレは地下施設を後にした。



―――――



「ふんふふんふふーん♪」


 オレは鼻歌なんて歌いながら炊き出し場で大きな鍋をかき混ぜていた。

 まだ食材が豊富という訳ではないので基本的に炊き出しのメニューはクラムチャウダーモドキ(長いのでこれからはクラチャムと呼ぼう)にしている。

 お肉がヤモ肉だったり、ヤヴァ肉だったり、お肉の代わりにイッカクジャケの切り身だったりはするが、ベースは同じ。

 レンホウ(ホウレンソウみたいな野菜)と炭水化物のモイの実(ジャガイモみたいな野菜)をヤーヴァミルク(強面牛の乳)で煮込み、チーズを溶かしいれた栄養価満点のメニューだ。

 作り方は至って簡単。

 一口サイズに切った材料をミルクを入れた鍋(練金釜)に入れて魔力を入れながら煮込み、仕上げにチーズを溶かすだけ。

 ね、簡単でしょう?


「あ、鍋はちゃん料理用の物を使っているので安心です」

「クロさん、誰に言っているんですか?」

「あ、おかえりミラ」


 街までお使いに行ってもらっていたミラが戻ってきたようだ。

 まだ施設は色々発展途中だから、パンとかチーズとか必要なものは買い足さないといけない。

 それに、今日はゲストを呼ぶようにお願いしてあったのだ。


「あら? いい匂いね。あてくしも少しもらってもいいカシラ?」

「おー。リーフィさん。お久しぶりです。それからお待ちしてました」

「ひさしぶりね、おちび。随分と元気にやっていたようね?」

「おかげさまで。はい、どうぞ」


 オレはクラチャムを器によそってリーフィさんに渡す。

 

「ありがと。……あら、わりといけるワ♪ おちび、これのレシピをシェラ商会(ウチ)に売る気はない? 結構いい儲けになるんじゃないカシラ?」

「残念ながら企業秘密です」

「そ、残念ね」


 まさか[練金]で作りましたなんて言えないもんなぁ。


「それで? 何であてくしは呼ばれたわけ? こう見えてもあてくし、けっこう暇じゃないのよ?」

「あー。その話ですね」


 オレはエプロンをしまって、大量の器を用意する。

 色々と話したい事はあるのだが、いかんせん今は食事の用意だ。

 料理が無いと、せっかくのイベントも盛り上がらないからね。

 ちなみにこの器はオレとミラが魔製珠で作りだした物なので、壊れても魔力に戻るだけという大変エコな作りになっています。


「お昼ご飯の後ちょっとしたイベントを行うので、それを見てもらってからでもいいですか?」

「イベント? 何かおもしろい事でもするのカシラ?」

「それはもう……ふっふっふ♪ きっと気にいって頂けるかと♪(ニヤリ)」

「良いワ、暇ではないけど付き合ってあげる♪(ニタァ)」

「お、お二人ともとても悪い顔をされていますわ……!」


 ぜんぜんそんな事ないよ? ふふふのふ♪


「じゃあミラ。ワタシちょっと準備があるから、後は任せてもいい?」

「は、はい」

「あとこれ。料理と一緒に配ってあげて、今日は特別だから」


 オレは持っていた炭酸ガリネを全てミラに預けた。


「く、クロさんがご自身からコレをみなさんにお配りするなんて……!? 一体何をされるおつもりなんですか?」

「そんなに驚くことかな?」

「あら、おじょうも知らないのカシラ? おほほ♪ これは余計に楽しみなってきたワ♪」

「おったのしみにー♪」


 オレはスキップ踏み踏みイベントの為の準備へと向かう。

 ついに、あの計画を実行に移す日が来たのだ。



―――――



「はーい、もう少しもう少し……すとっぷ! おっけーでーす!」

「「「「うっす!」」」


 指示どうりの場所に岩を動かしてくれていたエミリー隊のみなさんにお礼を言って下がってもらう。

 オレの後方では人々が料理に舌鼓を打ちながらこちらを興味深そうに見ていた。


「ふふふ……度肝を抜かせてやんよ」


 オレはニヤニヤとしながらだいたいの目印となる柵を立て、そこから中に入らないよう人々に指示を出す。


「じゃあまずは軽く……」


 オレは[アイテム]から【巨人のナイフ(仮)】を取り出して構える。


「重っ……!」


 チート身体能力のオレを持ってしてもこの重さ……こんなのまともに扱えるのはホントに巨人くらいだろう。

 まあ今は別に戦闘中ではないし、多少重くても振り回せれば問題はない。


「[リ・ジェネレート]をしつつの[[八咲斬(ハッサクギリ)]!」


 オレは瞬時に飛び上がり、巨大な岩を八つ裂きにする。

 10を超える巨大な岩を次々と[八咲斬]で切り裂いていくと、人々から歓声があがる。

 だがこれで終わりじゃない。

 ガラガラと音を立てて崩れる岩を見ながらオレは続けて唱える。


「[虚閃炎月斬レ乱(みだれぎり)]」


 宙を蹴って崩れる岩へ突撃、したかと思えば一瞬の内にオレは地面をえぐりながら滑って着地する。

 と、同時に岩の破片は更に細かくなり、炎を吹き上げて燃え上がった。

 どうだ! これが[虚閃炎月斬レ乱(みだれぎり)]の真の実力だ!

 強面牛戦では不発に終わったけど、一瞬で複数目標を切り裂いた上に炎上させるすごい戦技なんだぞ!


「ごほん。これで準備は万端、かな?」


 焼け落ちた岩は地面に落ちて小高い丘のようになった。

 それを[アース・ウォール]などを使って周囲の土と馴染ませていく。

 完全に混ざった所で、一連の流れで拍手喝采となっている人々へ改めて告げる。


「みなさん、驚くのはまだ早いです。これからが本番ですよ!」


 人々からどよめきが巻き起こった。

 無理もない、あれだけのパフォーマンスが前座なんて誰が思おうか? いや思うまい!


「ふふふのふー♪ では行きます……底上げ、浮上! [アース・ウォール]」


 オレはパン、と一度両手を合わせてから地面に両手をつく。

 いや、この動作に意味はないんだけどなんとなく、ね?

 様式美ってやつですよ。

 ともかく、オレが両手を地面につけると背後の丘が徐々に凹んでいく。

 と同時に。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!」


 この辺一体の地面が突然揺れ始めた。

 地震を心配する人々に、オレは安心するよう告げた。

 なにせこれは、


「あ、あれは地割れか!?」

「違う! あれは丘?」

「いいや、あれは……」

「壁、違う砦……?」

「違うよ! ぼくたちの家だよ!」

「クロさん……はぁ」

「まぁ、いつものクロよね」

「ん、しょうがない」


 地中からせり上がってきたのは他でもない、例の地下施設だ。

 いや、もう地下施設ではないからそうだな。『黒猫院』とでも名前を変えようか。

 そもそも地下に作ったのだって、略奪や強襲を警戒してだった。

 門外街の人々からそういった考えが減って来た今、もうわざわざ暗い地下に隠しておく必要もないからね。

 呆気にとられる人々の中でただ一人、


「ぶっ! ぶわーっはっはっはっは! ひーおかしい。おちび! あんた、ホントさいっこーだワ! ぶはははっはははは!」」


 リーフィさん一人だけ腹をかかえてて笑っていた。

 やはり剛胆な人だな。



―――――


 

 イベント終了後、観客たちは各々の所に帰って行ったが、オレとリーフィさんだけはこの場に残っていた。


「で、あてくしをわざわざ呼んだのはアレを見せるためだけカシラ? そうならさっさと帰らせて貰うんだけど?」


 ワイングラス(特注)に入った炭酸ガリネを傾けながら、リーフィさんは笑う。

 すごく様になってますね。


「いえ、あれを見せるのも一つですが別の用事もあります」

「何カシラ? さっきも言ったけどあてくしも暇じゃないの。用件は手短にね」

「これです」


 オレは懐からとある用紙を取り出した。


「これは……何カシラ?」

「まあまあ、一度目を通してみてください」


 リーフィさんは用紙を真剣な表情で読み、すこし驚いた表情を浮かべる。

 しかしすぐ表情を引き締め、商人の顔になると懐から眼鏡を取り出して内容を一つ一つ吟味しだした。

 うん、眼鏡をかけるとより一層〝できるオンナ〟って感じになるな、男だけど。


「なるほど。面白い事考えるじゃない。で、これをあてくしに見せてどうしようっていうのカシラ?」


 眼鏡をしまい、オレを推し量るように見るリーフィさん。

 何の事はない、オレは笑って見せた。


「当然、商談ですよ?」


 オレはもう一枚の同じ用紙――〝門外街開発計画書〟を取り出して広げる。

 

「リーフィさん。いえ、シェラ商会にこの計画に協力して欲しいんです」


 それこそが彼女(彼?)を呼んだ本当の目的。

 

「『門外街の住人を救い上げてくれ』なんて一方的なわがままは言いません。彼らが『這い上がってくる』ために手助けして欲しいだけなんです」

「へぇ……聞かせてもらおうカシラ?」


 リーフィさんの反応は悪くない、脈はありそうだ。

 確かな手応えを感じたオレは、今オレが着手している皇都改造計画の一つ、門外街開発計画を全て話した。



「なるほどねぇ。農場に牧場、それから練金工房に酒場兼宿屋、冒険者育成施設に生活弱者保護施設ねぇ。色々と手を出しすぎじゃないカシラ?」

「全部必要だと思ったまでです」


 農場、牧場は言うまでもなく食料事情の解決と非戦闘員の雇用確保のため。

 練金工房は回復薬の充実や、【賢者の土】などの必要アイテムの作成、販売による収入の獲得のため。

 酒場は食の充実と、獣人冒険者でも安心して宿泊できる施設の確保のため。

 冒険者育成施設は当然新人冒険者の生存率を上げることと、次代を担う未成年冒険者の教育のため。

 弱者保護施設は言うまでもない。


「で、あてくしたちに何をさせようってワケ?」

「シェラ商会さんには農場や牧場で採れた食料や練金工房で作ったアイテムの販売をお願いしたいんです」

「あら、わざわざウチで売らなくてもここで売ればいいんじゃないカシラ?」

「売る事だけが目的なんじゃないんです」


 確かに門外街で販売するのも考えてはいる。

 でもシェラ商会での販売を頼めば、リカムポーションなどの高品質な回復アイテムが広く流通する。

 そうなれば門外街の有用性も同時に広まり、門外街に対する人々の考えも改まっていくはずだ。

 そうオレは考えたのだ。


「へぇ……色々考えてるじゃない。いいワ、乗ってあげる」

「ありがとうございます。で、売値なんですが……」

「……ところで、この農場なんだけど。使ってる畑って、あてくしが耕した場所じゃないカシラ?」

「ぎくっ!?」


 実はこの農場、以前リーフィさんがトンデモ技で強面牛の群れを糧に作った畑を使っているのだ。

 い、いやだって肥やが何かは別として土の栄養は良さそうだったんだもん。

  

「あら? おかしいわねぇ。人様が作った畑を勝手に使うなんて、いいのカシラ?」

「い、いやぁだってあそこは打ち捨てられてたから……」

「いいえ。いつか使おうと思っていたの。それがまさかこんな農場になってるなんて。どうしたもんカシラ?」


 こ、これはやばいぞ。

 こちらに有利になるように話を進めたかったのに、なにやらまずい感じになってきたじゃないかしら?

 もしリーフィさんが土地の所有権を裁判で主張したら……確実に負ける!

 いや、裁判とかないだろうけど。


「そうね。じゃあ、こうしましょう。あてくしの出す条件が飲めるなら、その事はチャラにしてあげるし、協力もしてあげるワ」

「そ、その条件とは?」

 

 リーフィさんはニタァっと笑う。


「農場、牧場、練金工房の全経営権をシェラ商会(うち)に譲る。それでどう?」

「か、完璧な乗っ取りじゃないですか!?」


 なんて事だ、まさか畑をちょっと拝借しただけでこんな事態になるなんて……。


「あら、悪くないと思わない? だってオチビ、あんた経営なんてやったことないでしょう?」

「う゛、たしかにありませんけど……」

「難しいのよぉ、人を動かすって。それにあんた、色々と世界を回ってやることあるんじゃない? ずっとここに残ってやっていくワケ?」

「そ、それは後任を育成して……」

「だから、そもそもあんたが出来ないのに後任育成も何もないでしょが」

「ごもっともです……」


 リーフィさんから言われる正論の矢の雨に、オレは返す言葉もない。

 完全にリーフィさんのペースだ。


「安心なさい。シェラ商会(うち)は〝人に優しく〟がモットーよ。バカでお人好しな代表のせいでね。あんたがここまで築き上げた物をぶっ壊すようなヘマはしないワ」

「でも、門外街の人たちには優しくなかったじゃないですか」

「最近まで、アイツらは人ですら無かったのよ。皇都の考えではね。でも、あんたがあいつらを人にした。……なら優しくするしかないじゃない?」


 リーフィさんは呆れたようにほほえんだ。


「まったく。まさかホントに皇都を変えようとするバカがいるなんて思わなかったワ。うちの代表ですらとっくの昔に諦めたってのに。オチビ、あんたホント何者? まさか女神とでも言うんじゃないカシラ?」


 オレは笑う。


「いいえ、ワタシはしがないクロネコですよ」


 多分、褒められたるんだよね?

 ちょっと嬉しかったオレは喜びに耳をぴこぴこと動かした。


「じゃあ、商談成立ってことでいいですか?」

「もちろん。……あーあ、また忙しくなるじゃない。どうしてくれるのカシラ?」

「あ、じゃあお風呂に入ります? 疲れがとれますよ」

「いいワネ♪ オチビ、あんたも一緒に入る?」

「けけけけ、結構です/////」

「照れちゃって……恥ずかしがることないじゃない。オトコ同士♪」

「ぶふぉぁっ!? わわわわワタシはオンナです!」

「あら、そうなの?」


 いや、ホントは男ですけどそれを言えるわけがないし。

 ってか、なんでオレの事を男って……ホントにバレたワケじゃないですよね!?


「喋り方とか、立ち振る舞いとかオトコっぽかったから、てっきり同類かと思ってたワ」


 す、するどい人だ!

 これからはもっと女らしくするべきなんだろうか……男なのに。

 あれ? なんか涙がでてきた……しくしく。


「お、お風呂はこちらですぅ~(裏声)」

「何よくねくねして。気持ち悪い動きね」


 うん、オレに女らしくなんてやっぱり似合わないんだよ。

 別に負け惜しみじゃないからね!


――結局、お風呂に入ったあと牛乳を飲んで機嫌を良くしたリーフィさんは冒険者育成施設や弱者保護施設にも人を出してくれると約束してくれた。


(なんだかんだ口は悪いけど、結局リーフィさんもあの代表さんと一緒でお人好しなんだよなぁ)


 オレは牛乳で髭を作ったリーフィさんを見て、笑いながらそう考えていた。

本編に細かくは出てこないので門外街についてもう少し補足説明を。

農場はリーフィさんが耕した畑に賢者の土を混ぜて、前にエミリーが拾ってきたモイの実やレンホウの種、ピーナスの種なんかを撒いてあります。畑の肥し(強面牛)や賢者の土のおかげもあって恐るべき速度で成長を遂げました。その他、魔草を育てている区画と燻製用のクスクス草(隔離室で栽培)なんかも育てています。

牧場はエミリーがドン・ヤヴァイコーンを力でねじ伏せ、群のリーダーとなったことで飼育できるようになりました。主にメスからヤーヴァミルクを絞り、オスは少し可哀そうですが食肉となります。ただし元が魔獣なのである程度の力がなければ攻撃されます。行くと従業員が牛と戯れる(命を懸けて)姿を見ることが出来ます。

錬金工房は名前の通りですが、大量の巨大な錬金釜はクロがつくりました。

今は主にリカムポーション、解毒薬(ガリネ)、酔い止めなどを作っています。

ゆくゆくは魔製珠で魔力ドロップやポーションドロップなども作る予定です。

酒場兼宿屋は門外街で暮らす人々や冒険者の憩いの場となっています。

料理は農場や牧場からの直送品や、冒険者候補組の取って来た素材で作られるため絶品です。クロのエセ料理とは違い、元料理人さんが腕を振るっているのでかなり美味しいと評判です。看板娘の栗鼠族の女性は愛想が良くないともっぱらの噂ですが、それが良いとわざわざ罵られに行く猛者もいるようです。

そのうち可愛い制服を服飾の鬼さんにお願いする予定なので、ますます盛り上がる事でしょう。名前はまだありませんが、そのうち人に譲る予定なので名前はその人がつける事でしょう。

冒険者育成施設、といいますがあるのは黒猫院の中です。

近接戦闘をエミリー、魔術概念をミラ、未成年向けの紙芝居(ケーナさん作)はクロがそれぞれ担当する塾みたいな感じです。

ゆくゆくは卒業生が講師になっていく予定でしたが、リーフィさんが良い講師を派遣してくれそうな感じです。

黒猫院では家のない人や怪我人、身寄りのない子などが協力し合って生活しています。

ただお風呂は解放されているので誰でも入ることが出来ます。

上手い事調整して、魔封珠(アクア・ドロップ)に魔力を注げば水が出て、魔封珠(フレア・ミスト)に魔力を注げば熱が発生するようになっているので冷暖房はそこそこ整っています。

中にクロやミラたちの部屋と、執務室(とは名ばかりのだべり場)がある門外街の中心部です。

以上、長くなりましたがクロの門外街開発計画の補足でした。


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