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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-26『門外下街』

 ミラの頑張りもあって、予定より早く目標数の【ヤモチョウの羽】をゲットできたので、オレたちは日が暮れる前に宿へ戻ることにした。

 ただしその前にミラたちには見せたいものがあったので、オレは三人を門外街のある場所へと案内する。


「クロさん、いったいどちらへ?」

「何よここ? なんもないじゃない?」

「ん、ゴミ山」


 門外街の少し外れの方。

 人がまだ多い東の城門近くではなく、ゴミや瓦礫の山となっている南側の寂れたあたりに、オレが見せたいものがあるのだ。


「いいからちょっと見ててよ……あった、これこれ♪」


 オレは目印に立てておいた棒の根本付近をよーく探す。


「んーっと……発見! うんしょ……!」


 明らかに自然に開いたものではない地面の穴に、オレは手を突っ込んで持ち上げる。

 パカッ、と地面がフタのように開くと、他の三人は声を上げて驚いた。

 うんうん、実にいいリアクションだね。


「な、なんですか、これは!?」

「ん、きょうがく!」

「んっと、秘密基地?」

「おー! なんかいいわね、そういうの!」

「でしょ♪」


 オレはミラたちを中に通してから、周囲に誰も居ないことを確認して静かに扉を閉めた。


「じゃ、行こっか」


 オレは懐から[フェアリー・ライト]を込めておいた魔封珠を取り出す。

 ほんのり輝いていて、暗闇を照らすにはちょうどいい。

 足下に気をつけながら、オレたちは地下へと降りていった。



―――――



「く、クロ、これ……天国?」


 ルーさんがそういうのも無理はない。

 なぜならここには、


「つぎおまえおになー!」

「いいぜー! おにごっこのおにといわれたおれのじつりょくみせてやるぜー!」

「クロネコのおねーちゃんみたいのこといってるー!」

「にだいめしゅーめーだー! にげろー!」

「わふっ!」

「え? クロネコのおねちゃが来たの?」

「ほんとかー!」

「ほんとだー!」

「おーい!」


 無邪気に遊び回るたくさんの子供たちがいたからだ。

 みんなボロボロの服を着てはいるが、こちらへ手を振るその表情からは門外街の人々から感じるような悲壮感はない。

 身体も活力に満ち溢れ、元気に遊び回れるだけの体力もある。

 皇都改造計画が順調に進んでいるようで何よりだ。


「く、クロさん、これは一体?」

「んっとね、皇都改造計画第一段〝保護施設〟かな?」


 皇都に着いた夜。

 オレはあの幼い子供を助けられなかったことを悔やんでいた。

 どうすればよかったのか、何をすべきだったのかずっと考えて作ったのがここだ。

 

「まずは大人に比べて力も立場も弱い子供たちを保護し、子供たちが安全かつ楽しく暮らせる事をコンセプトに建てました。えっへん!」

「た、建てましたって簡単におっしゃいますが……どうやって?」

「えっと……まず地表に[アース・ウォール]で土を吸い出して地面におっきな穴を作って、その中にまた[アース・ウォール]で壁とか簡単な家具とか作って、最後にまた[アース・ウォール]でフタをして、色々カムフラージュのために設置して……あ、外にあった瓦礫とか枯れ木は実はフェイクで、実際はここの空調に繋がってたりするんだよね」


 いやぁ、色々と細かい所まで凝ってたら、朝になっちゃったよHAHAHA。

 

「それから貯水槽に飲み水用の魔封珠設置したりとか、明かり用の魔封珠とか色々設置して……ってミラ、頭抱えてどうしたの?」

「いえ、今更ながら私はとんでもない方を目標にしてしまったと思いまして」

「うむ、精進したまえ!」


 オレはミラの肩に手をおいて励ました。


「ここを建てたってのはわかったけど、じゃあこのチビたちは? どうやってここに連れてきたわけ?」

「あ、それはね……」

「あー! クロネコのネーチャン!」


 オレを見つけて走り寄ってきた猫族の子どもたち。

 彼らを見た瞬間、いつの間にかその背後に回り込んでいたルーさんが彼らを両脇に抱え捕獲した。


「ん、納得」

「うわー!? なんだまたアンタかよー!?」

「は、はなしてー!?」


 ルーさんが捕獲したのは、オレが門外街で保護した少年少女たち。

 リュースとセリの二人だ。


「この子たちに集めてもらったんだ」


 二人は子どもたちのリーダーみたいな立場にあるようだったので、ここの場所を教えて子どもたちを集めてもらったのだ。

 にしても、まさかこんなにいるとは思っていなかったので、食料の備蓄が少し心配だな。

 その辺の話もあとで二人と相談しておこう。


「で、クロネコのネーチャン。今日もヒドい奴らは向こうに」

「ありがと。後はワタシがなんとかするよ」

「向こう? 向こうの部屋はこことは違うんですか?」

「うん。あっちは〝治療室〟って言って、怪我した人とか病気の人の治療をする部屋なんだ」


 リュースたちには、子どもたちを連れてくるのと合わせて、門外街から病人や怪我人も保護するようにお願いしてあった。

 とりあえずポーションで体力だけ回復して、それでも治らない人は治療室のさらに奥の部屋へ運んでもらう。

 そこからはオレの魔術(チート)の出番である。


「んじゃ、ちょっと行きますか。ミラ、手伝ってくれる?」

「はい、もちろんですわ」

「エミリーとルーお姉ちゃんは子どもたちに料理でも作ってあげてくれますか?」

「ん、わかった」

「まっかせなさい!」


 オレはミラを引き連れ治療に向かう。

 ミラは回復魔術も使えるようになったから、回復魔術で大丈夫そうな人の治療はミラにお願いしよう。

 そして何より、ミラに料理をさせてはいけない。いけないんだ。


「(ミラの料理は何というか、アレだからなぁ)」


 オレは[アイテム]にしまわれたままの【ミラのパン:ミラが心を込めて作ったパン。味見はしていない。???効果を付与する】を思い出して苦笑いする。

 と、ともかく隣の部屋に入ったオレは、既に治療済みの人たちの様子を見て回る。

 うん、こちらはみんな問題なさそうだ。


「問題は……」

「奥にも部屋が……? 〝集中治療室〟?」

「そう。特に症状の重い人がいる部屋、って言えばいいかな?」 

「――っ!」


 集中治療室に入ったミラは、中の酷い様子に一瞬目を背けた。

 無理もない。

 ここに運ばれてきている人たちの中には、嘔吐や下痢による栄養失調でガリガリになった人、体の一部が欠損している人や、生きたまま腕が腐り始めている人までいる。

 病気の症状で動けない人たちがまだ可愛く思えるレベルだ。

 連れて来てもらった子どもたちには、少し酷だったかもしれない。 


「よく、連れてきてくれたね。ありがとう」

「……今までは自分の事で必死だったからよ。死ぬ奴がいたって気にしてなかった。いや、オレじゃなくて良かったくらいに思ってたかもしんねぇ。でもよ……」


 少年は痛々しそうに部屋の人たちを見ている。

 自分たちのために盗みまでしようとしていた頃からは考えられない心境の変化だろう。


「ネーチャンなら助けられるってわかった。オレたちも助けられた。だから、コイツらも……!」

「出来る限りの事はする」


 オレは呼吸を整え、覚悟を決める。

 ポーションや短剣、麻酔薬(仮)など必要な道具をそろえ、もう一度深呼吸する。


「ミラ、辛いなら……」


 ミラは何度も目を背けそうになりながら、それでも苦しむ人たちへ憐みの表情を浮かべている。


「いえ、私もお手伝いします。いいえ、させてください」


 ミラのまっすぐな視線に、オレは素直にお礼を言った。


「ありがとう」


 そうと決まればあまり時間はない。

 症状を長引かせるのは精神衛生上よろしくないもんね。

 オレは症状の重そうな人から対処に当たり、ミラには回復魔術で対応できる人から当たってもらう。

 オレたちの戦いが始まった。



―――――



「よし、これでもう大丈夫」

「すまねぇ……助かったよ嬢ちゃん」


 オレは最後の一人に[メディック]をかけ終えて、汗を拭う。念のため[アナライズ]で状態をチェック、落ちた体力はポーションで、栄養不足は強壮丸で応急処置する。

 あとは毎日栄養のあるものを食べていけば、良くなるだろう。


「お疲れさまです、クロさん」

「ミラもお疲れさま」


 ずっと付きっきりでサポートしてくれていたミラにお礼を言う。

 腕や足など欠損のある人の患部を[リ・フレッシュ]で洗浄して、回復魔術で修復(無くなった部位は戻らないので傷口を塞ぐだけ)したり、壊死している部分の修復を試みたが難しかったので麻酔をして切除したり、結構無茶な事もやった。

 

「ごめんね。あまり気持ちのいい仕事ではなかったと思うけど」

「いいえ、見てください」


 処置を施した人は、皆笑いあったり、涙を流して食事を食べている。

 そう、みんな生きている。


「私は、手伝えたことを誇らしく思います」

「そっか、そうだよね」


 オレも、小さな胸を精一杯張ることにした。

 

――治療は終わったが、その後もやることはまだまだたくさんあった。


「水はどう?」

「まだあるけど、ちょっと心配だな」

「おっけー、[アクア・ドロップ]! よし、これでいいかな?」


 貯水室の水を補給したり、


「明かりが切れてるところはない?」

「あの、調理室の明かりが少し。あ、あと階段にももう少し明かりがほしいです!」

「ふむふむ、おっけー」


 施設内の照明設備の確認を行ったり、


「食料の備蓄は?」

「まだ干し肉は半分くらいあっけど……」

「野菜も食べたい、です」

「だよねー。畑の方はどう? 順調?」

「うーん。成長はしてっけど、イマイチだな」

「やっぱり魔力の光じゃだめかー? でも地下で自然光を取り込むのはむずかしいしなぁ」

「あ、あの! せめて土が良ければいいかも! です」

「土か、おっけー何とかしてみよう。とりあえずしばらくはお肉で我慢して」

「肉で我慢って……どんだけゼータクなんだよ」

「干し肉はもう少し増やしておいて……あ、チーズも買ってきたからこれも食べていいよ」


 食料事情を解決し、


「お風呂はどう?」

「最高だなあれ!」

「すごくホカホカする! ます! お、オネーチャン。後で一緒に入ろう!」

「ん、おっけー」


 衛生面に気を配ったり、とわりと大変である。


「く、クロがすごく働いてる!?」

「なにさエミリー。まるで人が普段働いてないみたいな言い方じゃない?」

「いや、アンタはどっちかって言うと陰でコソコソやるタイプだと思ってたから」


 まぁ、確かにここはみんなには内緒でこそこそ作ったけどね。


「クロ、影の支配者」

「いや、せめて縁の下の力持ちとかにしてください」


 それだとどう考えても悪役みたいです。 


「はい、クロさんは人々のためにいつも頑張られています」

「はい! わたいもソンケーしてる、ます!」

「まぁ、感謝はしてるよ」

「そ、そんなに褒めたって何もでないんだからね? (ゴソゴソ)……アメ食べる?」

「食う!」

「食べる! ます!」

「貰ってあげてもいいわよ!」

「エミリーにはやらん」

「なんでよ!?」

 

 オレはブンブン腕を振り回すエミリーの頭を押さえつけながら、軽く今後の方針について二人に離しておく。


「ご、ごほん。では引き続きここの管理は二人が中心になって、みんなと協力してやるように」

「まっかせろい!」

「はい!」

「あと、危険が無い程度に外にでて、引き続き負傷者とかがいたら出来る限り連れて来てあげて。もし何かあれば外に出てコレを使って。少し離れたところに思いっきり叩きつければいいから」


 オレは信号弾代わりに[スターダスト・イレイザー(一発)]を込めておいた魔封珠を二人それぞれに渡す。

 皇都改造計画第一段階、〝弱者救済〟はなんとか上手く行き始めたな。

 それじゃ、そろそろ第二段階にも取りかかり始めますか。

 笑顔のみんなに見送られながら、オレたちは意気揚々と宿へと戻っていった。



―――――



 しかし宿へ戻ると、オレの気分は最底辺まで叩き落された。


「なに……これ?」


 〝バートンの泊まり木〟のあった場所には瓦礫の山が出来ていた。

 荷物を置いていなかったのがオレたちにとっては幸いだったが、表にはボロボロに泣き崩れるティム親子がいる。

 全然喜べる状況じゃなかった。


「ティム、一体なにが……?」

「おうおう、カワイソウになぁ?」

「だぜぇ?」

「お、おぅよ……」


 背後から声がした。

 聞き覚えのある声にオレたちが振り向くと立っていたのはあのゴロツキ冒険者どもである。

 斧使いの手には大きなハンマー、リーダー格の盗賊の手の中には恐らく採掘などで使われるだろう発破用の爆弾が握られている。


「……お前らがやったのか!?」

「人聞きが悪い! 俺様たちはなーんもやってねぇぜ?」

「嘘つくんじゃないわ! じゃあアンタらが持ってるソレは何なのよ!」

「これか? コレは[ロック・ゴーレム]用の道具だ。クエストを受けるつもりだったからなぁ」

「……詭弁ですわね」

「ん、嘘」

「嘘じゃねぇよ。ほら、クエスト用紙だ」


 チンピラ男はニヤニヤしながら懐からクエスト用紙を出す。

 

「じゃあ、コレは誰が?」

「さぁてねぇ?」


 見え透いた嘘をつくそいつは、厭らしい笑みを浮かべ笑う。


「ただ、そうだなぁ。これはあくまで〝聞いた話〟だが、ここに泊まっているどこかの恥知らず冒険者が、他の優秀な〝Dランク〟冒険者に失礼を働いたらしくてなぁ。その報復でもされたんじゃねぇか?」

「……ぉぅょ」

「どうせアンタたちがやったんでしょうが!」


 ニヤニヤ笑う下衆野郎に、エミリーが拳を振りあげて殴りかかる。

 しかし、その手を止めたのはティム少年だった。


「もう、やめて……!」

「な、なんで止めんのよ!」

「もうたくさんなのよ!」


 ティムは、涙に滲ませた目でオレたちを睨みつけた。


「全部、全部あんたたちのせいよ! あんたたちが来てから、うちの宿屋は閑古鳥だし、もめ事も起こるし、全部……!」

「それはちが――!」

「エミリー」


 オレは首を横に振る。

 たしかにオレたちに直接的な原因はないが、それを言った所で今のティムは聞く耳を持たないだろう。

 それにコイツらの事だ、またぶちのめしたとしてもまた報復してくる。

 しかもオレたちに敵わないと分かっているから周りの人間にだ。

 今度はこの二人の身に直接危害を加えてくるかもしれない。

 悔しいが、この人たちに迷惑をかけないためには大人しくオレたちが引き下がるのがベストだ。

 

「ミラ、荷物を纏めよう」

「はい」

「クロ!」

「ルーさん。お二人に治療用のポーションとかをあげてください」

「ん」

「クロ!」

「エミリー、今は静かにして。後でワタシを好きなだけ殴ってもいいから」

「……っ! そんなこと出来るわけないじゃない!」

「ありがと」


 オレはティムの前で深々と謝罪する。


「ご迷惑をおかけしました。これ、宿代の足しになるかは分かりませんけど、受け取ってください。泊めさせていただいて本当にうれしかったんです」

「……!」


 オレは金貨が数枚入った袋を渡す。

 拒もうとするティムの耳元で一言二言呟くと、彼は大人しくそれを受け取ってくれた。

 オレは下衆野郎どもへ向き直る。


「これで満足?」

「ひゃはは! 何のことかさっぱりだが、まぁ俺様は大満足だ」

「だぜぇ!」

「…………」


 オレは、一瞬で男の胸ぐらを掴みあげ、男にしか聞こえない声で忠告する。


「今度またあの親子にあんなことしてみろ。お前たちに明日はない」

「ひっ! でぃ、Dランク冒険者の俺様がそんな脅しに……!」


 オレは無言で地面に魔封珠を叩きつける。

 魔封珠が当たって砕けた地面から、何本もの棘が男を取り囲むように突き出した。

 オレにも数本かすって血をにじませたが、親子の辛さに比べたら痛くもなんともない。

 何本かの棘に服を貫かれた男は、ぶるぶると小さくなって震えている。


「二度は言わない」

「ひ、ひぃ……!」


 腰を抜かして失禁した男を捨ておいて、オレはミラたちを引き連れて宿屋を後にした。

 エミリーは最後まで何か言いたそうだったが、オレの怒り方を見て少し冷静さを取り戻したようだった。

 

(大丈夫、宿を出る予定が少し早まっただけだ)

 

 オレは何度も自分に言い聞かせたが、頭の中から悲しそうな親子の姿が消えることはなかった。

 おぼえていろ、皇都。

 お前はオレが変えてやる!

次回の更新予定はこちらで失礼します!

次回更新予定は月曜日よていです! こんな所にも書いていることからもお分かりかもしれませんが、そうです。みていですよ!

そして次話、門外街のクロネコ物語をお送りいたします。

乞うご期待!

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