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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
73/104

黒の系譜02-24『魔術を使ってみよう〝魔導書を読んでみた〟』

ギルドに行った日はそのまま宿に戻りました。

というわけでクエストに挑戦中です!

 皇都のギルドを訪れた翌日、オレたちは受けたクエストの達成のため皇都の外へやってきていた。

 今回受けたのは【ヤモチョウの羽】の採取依頼だ。

 大体1羽から取れる30枚程度で2つとカウントされる。

 納品数は20個なのでだいたい10匹程度を倒せばオッケーとなる。

 で、肝心のヤモチョウというのは……。

 

【ヤモチョウ:Lv.21

 種族:鱗鳥種

 魔物ランク:E

 弱点:翼・腹

 蜥蜴のような外見に翼を生やした魔獣。鳥型の魔物ではなく、蜥蜴(トカゲ)型の魔物に分類される。

 空中を自由自在に飛び回り、固い鱗で攻撃を防ぐため割と厄介な相手だが、その肉は鶏肉のような味がして大変美味。鱗や爪、皮など余すところなく素材として利用可能。ただし卵だけは悪臭が強く好みが分れる】


 以上からもわかる通り、多少厄介ではあるが強い魔物ではない。

 なので今は魔術の練習も兼ねてオレとミラの二人だけで獲物を追いかけている。

 

「ミラ、ラスト1匹、行ったよ!」

「はい! 〝緑〟よ、〝刃〟と為りて、敵を〝切り裂け〟。[ウィンド・カッター]!」


 ミラの手から発せられた風の刃が飛行中のヤモチョウめがけて飛んでいく。

 しかし、


「グェェ!」


 ヤモチョウが突然空中旋回したため、風の刃は虚しく空を切った。


「おしい!」

「まだまだですわ! 〝黄〟よ、〝棘〟と為りて、敵を〝貫け〟。[アース・ニードル]!」


 ミラが唱えながら持っている短杖を地面に打ちつける。

 打ち付けられた部分の地面が鋭い棘になって、ヤモチョウへ襲いかかる。


「グェェ! グェェ!」


 しかしヤモチョウは急浮上し、土の棘から逃れた。

 土棘はヤモチョウに届くことなく、ゆっくりと元の土へと帰っていった。


「うーん、あとちょっと!」

「くっ、小癪な魔物ですわね……っはぁ!」


 空中を旋回しながら、こちらの出方をうかがっているヤモチョウ。

 ミラは大分魔力を消費してしまっているようで、魔力ドロップを噛みしめながら辛そうにしている。

 狩りに来てから結構時間も経ったし、一度ここらで休憩にしよう。


「うん、じゃあちょっと休憩にしよっか?」

「は、はい……申し訳ありません」

「気にしないでー。んじゃ、赤、火球、追尾、[ファイア・ボール]」


 オレの手から射出された拳大の火球が、ヤモチョウ目がけ飛んでいく。


「グェェ!」


 それをヒラリとかわしたヤモチョウだったが、外れたと思われた火球が大きく方向転換、背後からヤモチョウを襲う。


「グェッ!? グギャァァ!?」


 火だるまになって地面に落ちてくるヤモチョウ。


――【M・O・W】の【ヤモチョウ】のページが閲覧可能になった!


 というわけで特訓は一旦終了。

 燃やしたら素材は取れなくなってしまうが、他にも何体か倒して素材は取っているし、それにまだ時間はある。大丈夫、まだ焦るような時間じゃない。

 

「んでもって、緑、切り分け、[ウィンド・カッター]」


 オレは足元に転がるヤモチョウの丸焼きを風の刃で丁寧に切り分けた。

 こいつが今日のお昼ご飯のメインだ。

 手抜きと言うなかれ、素材本来の味を楽しむためなのだよ、うん。


「お見事です、としか言いようがありませんわ」

「それほどでも……あるよ!」


 オレは無い胸を精一杯張ってみせる。

 しかしそれとは裏腹に、ミラの表情は浮かない。

 

「……やはりクロさんのように魔術を使うのは簡単ではありませんわね」

「まぁ、ワタシのはわりと反則(チート)だからねぇ」

「ちーと?」

「ううん、何でもないよ」


 そう、オレが使う魔術とミラが使う魔術では使い勝手に大分差がある。

 と言うのも、ミラや普通の魔術師が使う魔術というのは威力以外はほぼ全て同効果になるのだ。

 例えば[アース・ニードル]を使う場合。

 詠唱をしながら地面に触れ、そこに魔力を注ぎ込んで発動する。魔力量によって大きさは多少変えられるが、飛び出す棘は一本。固さもある程度地質に準じた物になる。

 例えば[ファイア・ボール]の場合。

 身体もしくは杖の先などに魔力を集め、そこを起点として一直線上に火球が飛ぶ。

 このように誰が使っても、ほぼ同程度の効果を発揮するのだ。

 ところがどっこいオレの場合。

 [アース・ニードル]の本数も、出現地点も、硬さも形状も、ある程度自由自在なのだ。剣山のような針山から、超硬質、はたまた地中の金属質だけの棘などなど、バリエーション豊富に扱うことが出来る。

 [ファイア・ボール]にしたって、先ほどのように追尾性能を持たせたり、複数発同時発射やなんなら当たった瞬間爆発するようにもできてしまう。

 多分イメージ力(妄想力)の違いとかもあるのかもしれないが、一番の理由はやはりオレが特別(チート)だからだろう。


「いいミラ? なにもワタシみたいに使えるようにならなくていいんだよ。ミラにはきっとミラに合った魔術の使い方があるはずだから」

「私に合う使い方、ですか?」

「そう。それが何なのかはワタシには分からない。それはミラが自分で見つけるべきだからね」

 

 ミラには優れた弓の腕があるし、その辺を魔術と組み合わせることが出来れば、ひょっとすると誰にも負けないミラだけの特技になるかもしれないな。

 まぁ、それは今後のミラの頑張り次第だろうけどね。

 

「まぁ今は休憩時間だから、失敗とかそういうのは一回忘れて気持ちを切り替えよう。――エミリー! ルーお姉ちゃん! お昼ですよー!」


 オレは[アース・ウォール]で作り出した簡易テーブルの上にオレの魔術を結晶化させた食器を広げ、同じく魔力製のコップに水道並まで威力を落とした[アクア・ジェット]で水を注ぐ。

 それを見たミラは、一層深いため息をついた。


「クロさんのように……はぁ」

「だから忘れようって」


 オレは苦笑いしながらミラを励ますために頭を差し出した。

 今日のミラのなでくり回しはいつもより力が控えめだった。


「遅いね……そんなに集中して読んでるのかな?」

「はい。クロさんの持っていたこの本には、それだけの価値がありますわ!」

「あ、あははーソウナンダー」


 ミラが大事そうに取り出した本。

 表紙にへったクソな字で〝ネクラノミコン・上〟と銘打たれた魔導書。

 そう、今日はオレの持っている魔導書をみんなに絶賛貸出し中なのだ。


――昨晩の事だ。

 夜の散歩後、なかなか寝付けなかったオレは読書代わりになるかと持っていた〝魔導書〟を広げていた。

 [錬金]のレシピが記された【マジカル☆レシピ】なんかはたまに読んだりもしていたが、そういえば他の【ネクラノミコン】や【ミコト写本】みたいな魔導書なんかは全く手を付けていなかった事を思い出したのだ。

 何の気無しに魔導書を開いたオレだったが、そこである発見をした。

 今日はその辺の実験? をかねてのクエストである。


「どう、他にも読めそうなのはある?」

「はい、[クリア・スクリーン]と[アクア・ドロップ]は何とか読めそうですわ。〝緑〟〝清浄〟〝膜〟……それから〝青〟〝雫〟〝包め〟はい、行けそうです」


 この魔導書、オレが思い出したり使った魔術のページが戻っていく仕様(ティー様談)らしいのだが、戻ったページには詠唱に必要な〝意味ある言葉〟、がしっかりと記されているのだ。

 そこで考えたのだ『この〝意味ある言葉〟を使えば魔術の詠唱が出来るのじゃないかと。


「ちょっと使ってみる?」

「はい! 〝青〟よ、〝雫〟と為りて、(さじ)を〝包め〟。[アクア・ドロップ]」


 ミラがスペルワードを唱えると、彼女の手の中にあったスプーンが水泡に包まれる。

 その推測は大正解。


「うん、ばっちし!」

「はい!」


 ミラは水泡を消すと、嬉しそうに笑った。

 そう、この魔導書に記された意味ある言葉で詠唱を行えば、その魔術が発動できるのだ!

 ただし、制限らしきものも存在する。

  

「他はどう?」

「……申し訳ありません。あとのページは、まだ読めないようです」

「うーん、やっぱり他にもなにか条件があるのかなぁ?」


 オレは魔導書の作者なので全部読めるようだが、どうやら他の人が書かれている内容を理解するには細かな条件があるらしく、人によって理解できるページと、そうでないページが存在するようだった。

 例えば、ルーさんは他にも[フレア・ミスト]や[シャドウ・スフィア]、[シャドウ・ファング]なんかが使えたが、[シャイン・レイザー]は読めたが使う事はできないようだった。

 一方でミラは[シャイン・レイザー]は使えたが[フレア・ミスト]や[シャドウ・スフィア]は読めず、[シャドウ・ファング]は読めたものの使う事はできなかった。

 そして古代魔術に位置づけられるような高度な魔術[五次元ウィンドウ]や[アイギス][アナライズ]などは二人ともまったくかすりもしなかった。

 試しにオレが意味ある言葉を伝えようとしたが、


『〝hs;d〟と、〝hg;〟、あと〝んか:k〟。それから〝dff〟と……』

『クロ、すとっぷ』

『クロさん、それは何語でしょうか?』


 魔術的なよくわからない力が働いているようで、二人には上手く伝わらなかった。オレの発音が悪いとかでは断じてない。

 このことから恐らく解読の条件には、


・魔術を発動するための技量(魔力量や知識、経験など?)

・魔術の相性(発動できる属性の違いなど)


 が関係しているだろうと推測される。

 よくわかっていない部分が多いのが現状ではあるけどね。


「クロさん! 指から血が!」

「あれ? ホントだ」

 

 気がつけば指からわずかに出血している。

 さっきヤモチョウを切り分けるのに近くで魔術を使った影響かもしれない。


「すぐに治療しませんと!」

「ミラは大げさだなぁ。このぐらい舐めとけば治るよ?」

「いけません! 嫁入り前のお身体なんですから大切にしませんと!」


 嫁入りする予定なんてまっぴらないけどね!

 オレが心の中で密かに突っ込んでいると、ミラがオレの手を持って詠唱を開始する。


「〝癒し〟よ、〝輪〟を描きて、彼の者を〝治せ〟。[ヒール・リング]」

 

 ミラの身体から溢れた淡い光がオレの身体を包み込んで指の傷を癒していく。

 傷は完全にふさがり、出血も治まった。


「ありがと、ミラ」

「いいえ。練習台にしてしまって申し訳ありません」

「ぜーんぜん! そんなことよりミラが回復魔術を覚えることの方が大事だもの!」

「クロさん……私頑張ります!」


 そしてもう一つ素晴らしい成果があった。

 ミラが回復魔術を使えるようになったのだ。


「うんうん。回復魔術がもっと世の中に広がってくれれば、ワタシも嬉しいからね」


 今までは教会が回復魔術の発動法を独占していたため、世間一般に回復魔術が使えるのは神官か、癒術師と呼ばれる教会から破門された神官だけだった。

 しかし〝魔術の適性〟と〝意味ある言葉〟さえあれば誰でも発動できると分かったことで、これから世の中にもっと回復魔術が広まっていくだろう。

 これはまじゅちゅし界にとって、とても大きな前進と言えるだろう。

 か、噛んでないし! まじゅちし……まじゅちゅし……まずつし!

 ……ほんとは言えるからね! ぐすん。


「ミラ、でもワタシたちのまじゅちゅ道はまだまだ始まっちゃばかりだよ!」

「はい! これからも精進しますわ!」

「あと、ワタシは噛んでないよ!」

「は、はい!」


 先ほどまで思うように魔術(ほら言えた!)が使えず凹んでいたミラだったが、少しは自信が戻ったみたいだ。

 オレと比べちゃうからアレだけど、実際ミラのまじゅちゅセンスは充分あると思う。

 早く自分に合った使い方が見つかるといいけど……

 などと言っていたら、ルーさんたちがのほほんとやって来た。


「ん、いいにおい」

「もー。ルーお姉ちゃんたち遅いですよ!」

「お、ヤモ肉焼きじゃない! アタシ好きなのよね!」

「エミリー、ヤヴァ肉の時も同じこと言ってなかった? 実は肉なら何でもいいんでしょ?」

「そんなこと……あるわ!」

「あるんですわね」

 

 少し離れた所で本を読んでいた二人が合流したので、これでやっとご飯にあり付ける。

 オレはアイテムボックスから出したパンにチーズとヤモ肉を挟み、弱めの[フレア・ミスト]で炙って軽くチーズを溶かす。


「名付けて【ヤモ肉ホットサンド:空腹中程度回復】!」

「そのまんまじゃない?」

「そうですけど何か?」

 

 オレは気にせずせっせと料理を作っていく。


「でもホント、アンタのそれって便利よねー」

「まーねー」


 出来上がったホットサンドを順番に配っていく。

 しかしホットサンドを受け取ったミラの表情は暗い。

 ……あ、しまった。またやってしまった!


「み、ミラ。気にしちゃダメだよ?」

「うぅ……私もクロさんみたいにぃ……」

「ミラは今でも十分すごいって! 自信持ってよ! ワタシが保障するから!」

「ミラ、コイツのアレを普通と思っちゃダメよ。クロは普通じゃないんだから」

「普通じゃないって……そんな人を化け物みたいに」

「ん、らぶりーもんすたー」

「それは違うと思います!」


 まったく、それにしたってエミリーってばホント失礼しちゃうよ。

 一人だけチーズの量を減らしてやろうぷんぷん!


「はい、エミリーの」

「あんがと……って何よコレ! 明らかにチーズが少ないじゃない!」

「人の事を化け物扱いする失礼な人にはこれでじゅうぶ「ふん!(ブォン!)」 あぶなっ!?」


 エミリーの割と本気パンチがオレの頬をかすめた。

 うっすらと血のにじむ切り傷を、慌ててミラが[ヒール・リング]で治してくれる。


「暴力反対! 超反対!」

「そう、アタシも暴力は好きじゃないわ。この意味、頭の良いアンタならわかるわね?」

「く、くそぅ! ワタシはけして暴力には屈しないんだからね!(ぬりぬり) ……このくらいでどう?」

「あら、なかなかサービがいいじゃない♪」

「クロさん、完全に屈していますわ」

「クロ、よわよわ」


 な、なんとでも言うがいいさ!

 オレは屈したんじゃない。今は甘んじて受け入れているだけさ!


「クロ、お水おかわり」

「ははぁー! ……お水ちょろちょろ、[アクア・ジェット]」

「クロさん……」

「よわよわ」


 くそう、エミリーめ調子に乗りおって!

 月のない夜のスライムには気をつけろよ!


「(まったく、オレが化け物ならエミリーは怪獣じゃないか!)」

「……なんか言った? グッ(拳を握る音)」

「な、なんにも!?」


 オレはびくびくしながらアツアツのホットサンド(チーズ少な目)を頬張った。

 チーズ以外に塩っけがないはずのホットサンドは、少し涙の味がしてしょっぱかった。

そういえば[フレア・ミスト]について補足がなかったのでご説明。

この[フレア・ミスト]は狐っ娘の神官キーラが使っていた[ヒート・ミスト]の元になった魔術で、あの戦いの後思い出していました。

※オラクルによる獲得の描写はクロが気絶していたので省略されています。 

火炎放射的な炎を放出する魔術なのですが、クロのように威力を調節することで弱火、中火、強火の切り替えや熱風だけ起こして物を乾燥させることもできます。例の干し肉もこれで作っていました。

と言う訳で補足説明でした。

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