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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-23『クエストが受けたくて』

そういえばクエストを受けているシーンを描くのは初かも?

一応スーサで何度かクエストを受けているんですが、今回本編初出なのでちょっと説明が入ります。

 せっかくギルドに来たのだし、何か良いクエストはないかとオレたちはクエストボードの前に来ていた。

 そう言えばクエストをするのはスーサにいた時以来だし、ちょっと復習も兼ねて確認しておこう。

 

「エミリー問題です。クエストが張り出されるクエストボードは2つあります。それは何故でしょうか?」

「何よ突然?」

「いいから答えて!」

「……分かったわよ。一つはギルドからの依頼が張り出される〝ギルドクエスト〟用。もう一つは個人からの依頼が張り出される〝フリークエスト〟用、でしょ?」

「正解! アメちゃんをあげましょう」

「ふ、ふん! かんふぁんなもんふぁいね(もごもご)」


 正確に言えば、ギルドクエストはギルドからだけでなく国や街や村など、公的な場所からのクエストなんかも張り出されたりするんだけどね。

 一方のフリークエストはギルドにお願いすれば誰でも張り出して貰うことが出来る。

 でもクエスト達成者に支払う報酬の用意だけでなく、幾らかの手数料をギルドに納める必要があったりするので注意は必要だけどね。


「じゃあ次はミラに問題! クエストには幾つか種類があります! 〝採取〟〝探索〟〝討伐〟〝運搬〟などなど様々ですが、そのうち〝採取〟と〝討伐〟について説明してください!」

「はい。〝採取〟はその名の通り指定された品を入手してギルドへ納品するクエストです。納品する物は薬草やアイテム、魔物から取れる素材などがあり。場合によっては『回復薬』のように大雑把に指定されることもありますわ」

「おっけー!」


 〝採取〟については指定された物を納品しさえすればいいので、入手法は問われない。

 最終的に損さえしないなら、安く仕入れて納品と言うのも一つの手だったりする。


「じゃあ、〝討伐〟は?」

「〝討伐〟は指定された魔物を退治する物ですわね。ただし討伐した証拠となるアイテムの提出を求められることもあるので〝採取〟と一部被る場合もあるようですわ」

「大正解! ミラも賞品のアメちゃん食べる?」

「い、いえ。アメはいいので代わりに少しそのお耳に触ってもいいでしょうか?」

「うーん……うん、いいよ」

「あ、ありがとうございます/////(なでなで)」


 ちなみに探索は、指定された場所やアイテムを探索して来たりする物。

 運搬は指定された物を届けたり、逆に取りに行ったりするクエストだ。

 他にも色々あるが、まぁ受けることがあればその都度説明すればいっか。

 って、ミラさん? いつまで触っているおつもりでしょうか?


「じゃあ最後、ルーお姉ちゃん!」

「ん」


 オレはクエストボードに張られている一枚のクエスト用紙を指さす。


「このクエスト、〝【ロック・ゴーレム討伐】:ランクD〟はワタシたちは受けることできるでしょうか?」

「……んーん、できない」

「り、理由は?」

「……めんどう」


 なん……だと!?


「残念不正解。というかそれ以前の問題です!」

「ん、ざんねんむねん」

「残念さが微塵も感じられませんから!」


 面倒というのは出来ない理由にはなりません!

 

「では代わりに正解をミラさん、お願いします」

「え、あ、はい! ごほん。このクエストは私たちのパーティは受けられます」

「はい正解。理由は?」

「基本、クエストというのはクエストランク相当のギルドランクがなければ受けられませんが、これはクエストを申し込む者がそのランクに到達していれば可能です。私たちの場合お姉さまがランクDなので、お姉さまが手続きをしてくだされば受けることは可能です」

「じゃあむり、手続きめんどう」

「ぶっぶー! ルーお姉ちゃん不正解ですってば! ペナルティとして今日はもうお触り禁止です!」

「が、がーん!」


 ルーさんは、若干表情を曇らせ(付き合いが長いからようやくわかる程度の違い)、手を伸ばそうとしてくるので、オレはススッと距離を取った。

 これで少しは面倒臭がりが治ってくれればいいんだけど。


「ほ、捕捉ですが、クエストによっては『ランクD以上限定』などとなっているクエストもあり、こちらはパーティ内に一人でも条件を満たしていないメンバーがいれば受けることはできません。最悪、クエストを達成しても報酬が支払われない事もあるので、注意が必要ですわ!」

「完璧です! 賞品は……炭酸ガリネでも飲む?」

「い、いえ……その代わり、いつもお姉さまがしているようにしても?」

「んー……ま、いっか」

「し、失礼します(ひょい)……至福です//////」


 まぁ、ミラがいいならそれでいいか。

 さて、それで肝心のクエストだが、どうしようかな……?


「エミリーはやっぱ討伐系がいい?」

「そうねー。薬草探しとか魔草探しとかはもうこりごりよ!」


 ま、確かに目的の物は見つからないけど、エミリーって色々珍しい物見つけてきてくれるからありがたいっちゃありがたいんだけどね。


「ルーお姉ちゃんは何かあります?」

「ががーん……」


 聞いちゃいませんね。


「じゃ、じゃあミラは?」

「至福ですわ///////」


 こちらも聞いちゃいませんね。

 じゃあ取りあえず適当に近場の討伐クエストにでもしようかな?

 張り出されている討伐系のクエストは――



【ゴブリン討伐】:ランクE〝討伐〟

 依頼主:ダリア皇国兵

 達成目標:ゴブリン30体の討伐(討伐証明:小鬼の角)

 達成報酬:120メニエニ

 最近、北の採掘場内に住み着いたゴブリンどもが工夫たちを襲って採掘作業にししょう が出ている。

 ゴブリンは繁殖能力も高いので、大発生が起きる前に速やかに討伐せよ。


 

【ロック・ゴーレム討伐】:ランクD〝討伐〟

 依頼主:マハトゥーニ商会

 達成目標:ロック・ゴーレムの討伐(討伐証明:岩人形の魔核)

 達成報酬:300メニエニ×討伐数

 南東の岩場では良質な石材が採れるのですが、最近はあの忌々しい岩人形どもが増えていて思うように採石が行えません。 討伐数に応じて報酬は上乗せ致しますし、討伐に必要な武具も情報も我がマハトゥーニ商会で格安にご提供いたします。腕に自信のある方はぜひご連絡を!



【ドン・ヤヴァイコーン討伐】:ランクC〝討伐〟

 依頼主:ダリア皇国兵

 達成目標:ドン・ヤヴァイコーンの討伐(討伐証明:強面牛(がしら)(あたま))

 達成報酬:自由街居住免状

 東の平原にいるヤヴァイコーンの群が恐ろしいと門外街の連中が泣き付いてきやがった。

 とはいえ我々皇国兵士も暇じゃない。なので諸君ら冒険者に代わって討伐をお願いしたい。

 群のリーダーであるドン・ヤヴァイコーンさえ倒せれば群は瓦解するだろう。

 討伐者1名には栄誉ある皇都二級市民の権利と、1年間の免税許可を与える。



――と、こんな感じか。


「なんていうか、どれも微妙だ……」


 3つの内まず無いのは【ドン・ヤヴァイコーン討伐】だ。

 ドン・ヤヴァイコーン自体に興味はあるのだが報酬が『自由街居住免状』?

 はっきり言って要らないことこの上ない。

 しかも報酬が貰えるのがたった1人だけというのもふざけた話だ。

 ミケさんも言ってたが、そもそもヤヴァイコーンの群を少人数で相手取るのは大変危険らしい。

 なのにそのリーダー格を倒した報酬を貰えるのが一人だけ?

 最初から受けさせる気が無いようにしか思えない。

 まぁ、そもそもランクCのクエストだから受けようもないというのがホントのトコだけどね。


「エミリーはどう?」

「やっぱ、【ロック・ゴーレム討伐】かしら?」

「そうなるよねー」


 たしかにこの中で唯一まともそうなクエストの部類ではある。

 若干、商品や情報を売りつけて儲けようという依頼主の意図が見え隠れしていなくもないが、報酬はそれなりの金額だし、悪くはないクエストだ。

 だが残念ながら受けることは出来ないのだ。


「ルーお姉ちゃーん?」

「ががががーん…………」

「とういわけで無理です」

「肝心な時につかえないわねー! こらルーミア! しっかりしなさい!」

「…………(しゅん)」


 返事がない、放心状態のようだ。

 というわけでパーティー中唯一ランクDのルーさんがこの調子なので手続きできない。

 さっきのクイズ、あながちルーさんの答えも間違っていないかったのかもしれない。


「じゃあゴブリン?」

「うん。それも止めた方がいいかも」

「なんでよ!」


 理由は幾つかある。

 まず討伐数に対して存外報酬が少ない事(1体4メニエニの計算)

 次に北の採掘場とされる場所までの移動に時間がかかる事(恐らく馬車で半日くらいかかる)

 そしてなにより大きい理由が、


「死にたくないから」

「ふん! 相手はたかだかゴブリンよ? そんな奴ら相手に負けるわけ……」

「違うよ。殺されるのはゴブリンにじゃない。地形にだよ」

「チケイって、どゆことよ?」


 指定されている場所は採掘場内のゴブリン、つまり坑道の中で戦う事になる。

 そんな場所で我らが弾丸破壊者(ブレイカ―)が暴れてみろ。

 どう考えてもみんな仲良く生き埋めになるのがオチだって。


「エミリーは採掘用の爆弾よりも破壊力があるってこと」

「ふ、ふん! 褒めんじゃないわよ/////」


 褒めてないけどね。

 

「でも討伐系がダメとなると、ここはやっぱり無難に採取系にしてみるべき?」

「む……採取系は」

「ほら魔物素材を納品するようなヤツにすればいいんだよ。……えっとなになに? 【ヤモチョウの羽】に【イッカクジャケの卵】【ポイズンリリーの根】【ヤーヴァミルク】……色々あるじゃない」

「むぅ……確かにこっちのが色々あるわね」


 エミリーはクエストボードとにらめっこを始めた。

 だがやはり【ロック・ゴーレム討伐】に未練があるのだろう。

 クエストボードの前を行ったり来たりしながら内容を吟味しているようだった。

 オレももっと近くで詳しく見たいんだけど……


「すみませーん、ミラさーん?」

「至福ですわ///////」

「これだよ……」


 まだまだ解放の兆しは見られない。

 のんびり待つことにしようか(遠い目)と、思っていた時だった。


「ふっざけんな! だから何でたったこれっぽっちなんだって聞いてんだよあぁん!?」

「何度も言っていますが、規定は規定ですので」


 さきほど買い取り額で揉めていた男がまた大きな声を上げた。

 っていうかまだやってたのか。


「どれどれ……一体どこの迷惑野郎だ……あれ?」


 オレはいつまでも喚き散らしている迷惑な男の顔を拝んで合やろうと、カウンターの方を見た。


「なんでヤヴァイコーンの骨がたった3メニエニぽっちにしかならねえんだよ!? こちとら狩るのにポーション5本も使ったんだぞ!?」

「ヤヴァイコーンはランクDの魔物なので、元々買い取り額は7メニエニとそれほど多くありません」

「はぁ!? 7メニエニですらねえじゃねえか!?」

「はい。強面牛の骨は一頭分で個数が1つと換算されます。失礼ですが、この骨では一頭分には遥かに量が足りません。申し訳ありませんが、この量では3メニエニが適正価格と判断いたしました」

「ふざけんな! どう見ても一頭分はあるじゃねえか!」

「ありません。ヤヴァイコーンの子ども程度の大きさならありますが……失礼を承知でお尋ねしいますが、本当にご自身で討伐されたのですか?」

「あ、当たり前だ! Dランク冒険者の俺様を疑うってのか!?」


 応対している受付嬢さんは至ってクールに、淡々と事実だけを述べている。

 男の方はやたら難癖をつけて額を釣り上げたいようだったが、受付嬢さんの正論の前に逆ギレする事しかできない。

 っていうか、どっかで見た事あると思ったらアイツ、昨日エミリーにぶっ飛ばされたチンピラ冒険者じゃないか。

 

「激しく面倒事の予感がする……ミラ、巻き込まれる前に、さっさとここを出よう」

「至福ですわ//////」

「そういえばまだ回復してないんだったよ!? ミラ戻ってきて! っていうかそろそろ離して!」


 なんとかミラを正気に戻そうと腕の中でオレは必死にもがくが、思った以上に強力にホールドされていて全く動けない。

 そうこうしているうちに、ミケさんによって新たな火種が投入された。


「あ、ユッキー。ヤヴァイコーンの骨、さっきあっちの子から大量に納品があったから、買い取り価格少し下げといてニャ♪」

「ユッキーではなくユクレシールです。わかりました。では、再計算した額がこちらです」

「い、1メニエニだとぉ!? マジふざけんじゃねぇよ! 大量納品なんてどこのどいつの仕業だ、あぁん!?」

「げ」


 チンピラと目が合った。

 しかしオレはクールに考える。


(だ、大丈夫。昨日アイツをぶっ飛ばしたのはエミリーだから、オレはまだ面が割れていない)


 オレがひゅーひゅーと下手な口笛を拭いて誤魔化していると、


「ねぇ、クロ。やっぱこっちの【ロック・ゴーレム討伐】に……って、なに? 昨日のチンピラじゃない? アンタまた人様に迷惑かけてんの?」


 こ、このツンデレ娘!

 人がせっかく他人のふりして誤魔化そうとしてるのになに言ってくれちゃってるの!?


「手前、どっかで……? そうか! どこのクソ生意気なガキかと思ったが、手前の仲間か!」

「(あぁもうバレちゃったじゃないのさ!)」

「(何よ、アタシのせいなわけ!?)」

「(だいたい全部そうだよ!)」

「俺様を無視すんじゃねぇよ! こちとら手前らのせいでポーション5本も使う羽目になったんだぜ!」

「ポーションはヤヴァイコーンの群で使ったのでは?」

「そんなのきっと嘘に決まってるニャ。大方この骨だって、あっちの子たちが拾いきれなかったのを拾ってきたとかそんなんニャ」

「なるほど、納得しました」

「う、うるせえ黙ってろよ!」


 チンピラはオレたち(正確に言えばエミリー)を見て、いやらしく笑った。


「で? 手前ら、どう落とし前つけてくれんだあぁん?」

「ヤ、ヤダナー? ヒトチガイダッテイッテルデスヨー?」


 大丈夫。まだあの男も確証があるわけじゃないはずだ。

 だってあの時、チンピラ男はほぼ一瞬で気絶させられているかた、はっきりエミリーの顔を見たわけでもないはずなんだ。

 その証拠にちょっと視線が泳いでいるし、誤魔化し切れればいける!

 

「何言ってんのよクロ? あのぶっっさいくな顔、間違いなく昨日のチンピラじゃない?」

「ぶ、ぶさ!?(ブチッ!)」

「しーっ! あぁいう頭の悪い輩は無視した方がいいって相場が決まってんの!」

「そうなの?」

「あ、あた!?(ブッチン!)」

「せっかくワタシが他人のフリしてるんだから、エミリーは黙って……」

「……クロさん、もう手遅れだと思いますわ」

「あ、ミラ正気に戻ったんだね? ……でも、手遅れってどゆこと?」


 オレとエミリーが振り向くと、チンピラ男は頭から湯気を立てて怒っている。


「不細工!? 頭が悪い!? 短足!? 老け顔!? ……手前ら、人の事散々コケにしやがってくれたなぁ!?」

「いや、後の方のヤツは言ってないわよ? 思ってはいたけど」

「エミリー! そんな事わざわざ言わなくてもみんな分かってるから! だからこれ以上火に油を注ぐような事……!」

「クロさん、それが火に油ですわ」

「もう完全にド(たま)に来たぜぇ! 調子に乗ったガキどもには、Dランク冒険者の俺様直々に冒険者のイロハってやつを叩き込んでやるよ!」


 チンピラ男は腰の片手剣を抜き放つ。


「……やれやれ、本当の事を言われただけなのにこんなに怒るなんて」

「クロさん、開き直りましたわね?」

「カルシウムが足りないんじゃない? クロ、ヤーヴァミルクあげたら?」

「やだよ勿体無い」

「俺様を、無視すんじゃねぇっつってんだろーがよぉ!」


 激オコぷんぷん丸の男は、地団太を踏んで大声を上げる。

 冷静に対処したのは受け付け嬢さんだった。


「ギルド内での戦闘行為は禁止されています」


 相変わらずのクールさで正論を仰る受付嬢さん。さすがプロの対応である。

 確かに正論なのだが、そんな事この男に言っても無駄だろうに。


「戦闘? ちげぇよ、コレはただの教育、だ!」


 ゆはり無駄だったようだ。

 受付嬢さんの言葉を無視した男は、剣を振り上げてこちらへ走り出してきた。

 やれやれ、周りには人がたくさんいるというのに戦おうとするなんて、はた迷惑な奴らだ。

 ため息をつきながらオレはまず、


「エミリー、すとっぷ!」

「にゃわっ!?」


 今にも殴りかかりそうだった弾丸娘の首根っこを捕まえて制止した。

 この娘、ついこの間も宿屋の壁に大穴開けて迷惑かけたばかりだと言うのにもう忘れたのだろうか。

 本当にはた迷惑な娘である。


「クロ―ディア、エミリー、[キャスリング]」


 オレが唱えると、オレとエミリーの位置が瞬時に入れ替わる。


「にゃ!? クロ、アンタ!」

「く、クロさんがエミリーちゃんに!?」


 つまり、エミリーはミラの腕の中へ、オレは自由に。

 自由、そうフッリィーダァム! いやぁ、自由って素晴らしいね!


「ふぬぬぬぬ! な、なにコレ!? 全然ぬけなっ!? ミラどんだけ力持ちなのよ!?」

「ミラ、エミリーを頼んだよ」

「は、はい!(ちょっとだけ残念ですわ……)」


 オレは、こちらにドタドタ走ってくる男の頭を踏んずけて軽々と飛び越える。


「ぐげっ!? ば、バカな!? Dランク冒険者のオレ様よりも速いだとぉ!?」

「いや、ぜんぜん遅いって」


 休停止した拍子に床を転げまわる男。はっきり言って無様だ。

 起き上がってなおこちらへ向かってくる様子なので、オレはあくびをしながら迎え打った。


「Dランク冒険者の! オレ様の! 華麗な! Dランク剣舞を! 食らえ!」

「DランクDランクってうるさいなぁ。でもこれが〝剣舞〟? いやいや〝盆踊り〟の間違いでしょ?」


 オレは男がよたよたと振り回す剣を軽々とかわす。

 男は必死になっているうようだが、これならガーラさんの攻撃の方が断然速かった。

 いや、比べるのも失礼な話だな。


「はぁはぁ……な、なかなかやるじゃねえか。獣人の分際で!」

「ねぇ、もういいでしょ? 悪いけど、アンタじゃワタシには勝てないよ?」


 ぶちっ!

 男の頭の血管が切れる音がはっきりと聞こえた。

 本当にカルシウムの足りない男だ。

 いや、足りないのは脳みそか?


「ほざけぇ! 食らえ、必殺の!」


 完全にキレた男は、形振(なりふ)り構わず剣を大げさに構える。

 今度はどんな珍妙な踊りを見せようと言うのだろうか?


「むーぅんん! スゥーラァッシュ!」

「なっ、正気!?」


 男が戦技名を叫んだ瞬間、ギルド内は一気に慌ただしくなる。


「ふざけんなぁ!」

「に、にげろぉ!」

「ま、ママー!?」


 ギルド内の冒険者が一斉に外へ殺到した。

 当然だ。

 [ムーン・スラッシュ]のような衝撃波を飛ばす戦技をこんな屋内で使おうものなら、巻き込まれる人だって出るだろうに。


「緑、膜、分厚いの! [クリア・スクリーン]!」


 オレは男の剣の斜線上に防御膜を張って衝撃波に備えた。

 しかし、


「うおぉぉぉ! ふべっ!?」


 男は剣を降り上げたままよたよたと突っ込んできて、防御膜に衝突して倒れて気絶した。


「「「「「「…………えー?」」」」」」


 今日、初めてギルド内の人々の心が一つになった瞬間だった。


「よ、よくもやりやが……がくっ!」

「…………気絶してる」


 よく分からないが、たぶんこの男[ムーン・スラッシュ]が使えなかったんじゃないだろうか?

 にもかかわらず、それっぽく見せようとして叫び声を上げて突撃、そして自滅。

 

「ホント何がしたかったのか……?」


 オレは徒労に終わった[クリア・スクリーン]を消すと、内容も見ずに一番近くにあったクエスト用紙を取って終始クールだった受付嬢さんに渡す。


「これ、お願いします」

「はい、【ヤモチョウの羽】の採取依頼ですね。納品数は50枚で期日は3日後までになります。お気をつけください」

「はい、ありがとうございます」


 さっきまでの騒ぎなどまるで存じませんと言うような、見事なまでの事務対応だった。

 さすが皇都の様に人が多い所ともなると、こんなことも日常茶飯事。

 もはや慣れっこなのかもしれないな、うん(遠い目)。

 オレはクエスト用紙を懐にしまうと、地面に延びている男をギルドの外へ蹴り出す。

 いつまでもこんな所に置いておいたら邪魔だもんね。


「じゃ、行こっか。どうもお騒がせしました」

「はい(エミリーちゃんの抱き心地も悪くありませんわね♪)」

「ん……(しゅん)」

「むー! アタシの活躍がー! ってかミラいい加減離しなさいよー!」


 オレたちは、しんと静まり返ったままのギルドをそそくさと立ち去った。


――翌日、皇都の冒険者たちの間では『命が惜しければ女だらけの冒険者集団、特に獣人のガキには手を出すな』という噂が実しやかに囁かれたとか、囁かれてないとか。

クエストの表記の仕方ですが、もしかしたらあとあと変更があるかも?

あった場合は修正が入る可能性もあります。


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