黒の系譜02-20『禁忌の術』
3番って何よ? ってか、1と2は?
ってなった方は前話の最後の方を見てください!
ぶっちゃけ、見なくても進行になんら影響はありませんけどね!←じゃあなんで書いたし!?
「いや、3番は絶対ないでしょ」
すぐ冷静になったオレは、むしろ聞いた方が早いと気づきルーさんの元へ歩み寄った。
「ルーお姉ちゃん、戻りました」
「ん、おかえり」
「はーなーしーてーー!」
「はーなーせ……あれ、ナカマ?」
子どもの片割れは、オレを見て首を傾げた。
「仲間?」
どういうことだろうかと思ってよく見てみると、ルーさんに抱えられている子どもたちにはネコ耳としっぽが生えている。
なんと、本物の猫族の子どもたちだ。
これは可愛い物好きなルーさんが捕獲するのも頷ける。
捕獲した理由はなんとなく分かったが、でもますます状況はわからなくなってきたぞ?
まぁ、こういう時は考えるより、聞くが安し! だ。
「ねぇルーお姉ちゃん、何があったんですか?」
オレがルーさんに尋ねると、ルーさんは『あー』とか『うー』とか言いながら難しそうな顔をしてしばし考えた後、一言言った。
「めんどう」
その一言で事件は迷宮入りとなったのだった……完。
いやいやダメでしょ!?
まったく、こんな時までこのものぐささんは……!
「そ、その猫どもがオレの商品を盗みやがったんだ! お前の飼い主が捕まえたから良かったようなものを……だが衛兵に突き出すから引き渡せとソイツに言ってるのに聞きゃしねぇ! まさか手前ぇらグルなんじゃねえだろうな!?」
「あ、説明乙です」
「ん、ご苦労」
「ふざけてんのかお前ら!?」
まるで用意されたかのような丁寧な説明だな、うん。
オレは問題を起こしたという子どもたちを見る。
「な、なんだよ! おまえ、ナカマを売るつもりか!?」
ルーさんに捕らえられている猫族の少年は、ギロリとオレを睨んでいる。
なかなか跳ねっ返りの強そうな少年だが、あの薄汚れたポーションを大事そうに抱えている。
「お願い! 見逃して!」
もう一方の少女は目に涙を浮かべながら、懇願している。
こちらは大人しそうな子で、よくもまぁ盗みなんてしようと思ったものだと驚かされる。こちらもかびたパンと汚い瓶に詰まった雨水を大事そうに抱えている。
「さ、さあ! 早くソイツらを渡せ! でなけりゃお前らも!」
さて、確かに店主の言うことももっともだ。
子どもとはいえ盗みは犯罪。
本来なら衛兵とやらに突き出すのが正しいのだろう。
「わかりました」
「じゃあ……」
だが、どちらが悪者っぽいかなんてわかりきっている。
オレは正義の味方を気取る気はないが、女子供、弱者の味方でありたいとは思っている。
「この子たちが盗った物のお代はワタシが払います。それで今回は見逃してやってくれませんか?」
「はぁっ!?」
オレはアホ面の男の目の前に、銀貨が詰まった袋を落として言う。
「銀貨10枚、これでは足りませんか?」
約1000円、あのお粗末な商品に付ける値段としては十分すぎる額である。
しかし金になると踏んだ男は、目の色を買えた。
「い、いや足りないな! せめてその倍はもらわないと割に――」
「そうですか?」
どさっ、と男の前に更に10枚の入った袋を落とす。
約2000円。
それでも男は首を縦に振らない。
意地汚い男だ。
「じゃあこれだけあれば十分でしょう?」
面倒になったオレは更に金貨10枚が入った袋を落した。
合計10万2千円。
「へへっ! 毎度あり! まともに金勘定もできないバカな猫女め!」
男は飛びつくように袋を拾って、逃げるように店を畳んでいった。
やれやれ、どうすれなあそこまで小物になりきれるのか。
呆れを通り越してもはや感心さえするよ。
「クロ、ごめん」
「いえ、ルーお姉ちゃんは悪くありませんよ」
「こ、この! はなせ! デカチチ女!」
言うに事欠いてルーさんのおっぱいを侮辱するだと……?
「えぇ……悪いのはこのクソガキですよ」
「黙れチビネコ!」
ほほぉう? 言うじゃないか。自分だってチビのくせに。
だが、まあ生憎とオレは立派な大人だ。
子どもに何を言われたって怒らない。
「このチビ! ブス!」
「や、やめなよ!」
怒らない、怒るわけが……
「ヒンニュー!」
ただまぁ、躾のなってないクソガキに躾は必要だよね?
「……教育的指導(びしっ!)」
「いってぇ!?」
オレはルーさんにホールド(捕まれたら最後、まず逃れられない)されている少年のおでこにキツいデコピンを食らわせる。
なーに、コレは体罰じゃない。言わば愛の鞭ってやつだよ。
「よーく覚えておきなよ。ワタシは貧乳じゃなくて無乳なの!」
「んなもん、どーでも」
「よくない!」
コイツは分かっていない。
貧乳>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>無乳、という重大な事実があることを!
その事について小一時間ほど熱く語ってやりたい気分だったが、もう一人の少女に服を引っ張られたのでオレは正気に戻った。
「あ、あの……! ムニューのオネーチャン。そろそろ降ろして! です」
「あ、ゴメンね。頭の良いお嬢ちゃん。――ルーお姉ちゃん」
「ん」
「あ、ありがとう、ございました」
地面に降ろされた少女はオレたちに向かって素直にお礼を言った。
うんうん、子どもはやっぱり素直じゃないとねぇ。
「けっ! こんなヤツに礼なんて言う必要ねーよ! カネモチだと思って調子に乗りやがって!」
「教育的指導(びしっ!)」
「だからいてぇって!」
オレはクソ生意気なクソガキにさらに強力な一発をお見舞いして黙らせる。
言っても分からない奴にはデコピンしてでも分からせる。
それがオレ流の教育法だ。
「それで、君たちの名前は?」
「セリ、です。あっちのはリュース、です」
「ばっ! お前勝手に言うんじゃねえよ!」
「そっか。じゃあセリちゃん、どうしてこんなことしたの?」
「お腹空いてたから、です」
「うん、実にわかりやすい」
彼女が話したのは、なんてことはない普通の話だった。
お腹が空いたが食べる物もない。お金もない。頼る人もいない。だから盗んだ。
そんな子どもたちで、門外街は溢れているという。
「あれ、そういえばどうやって入って来たの? 門は恐いおじちゃんたちが守ってて通してくれなかったでしょ?」
「下水道を通ってきた、ました」
「あ、なるほど」
皇都ほどの規模の都ともなれば下水道も整備されているらしい。
下水道には悪いヤツらがたむろしていたり、紛れ込んできた魔獣が居たりして危険だが、手段は選んでいられなかったとの事だ。
なかなか大人しそうに見えて、肝が据わっている。
いや、そうならなければ生きてこれなかったのだろう。
「わたいたちが一番オネエチャンだから、みんなの代わりに来た、ました」
「みんな? セリちゃんの家族?」
「ううん。みんなトモダチ、です。お父さんたちはいないから、です」
つまり孤児が集まって暮らしている、と言う事だろうか。
「お友達は何人くらいいるの?」
「セリ、言うんじゃねえぞ!」
「20人くらい、です」
「バカ!」
セリちゃんの話では、どうやら門外街の孤児たちは幾つかグループを作っているようで、数十人単位の子どもたちが互いに協力しあって日々を何とか生き抜いているという。
なんていうか、聞くだけでも辛い話だった。
「畜生……全部話しちまいやがって……! これでアイツらまで捕まっちまったら……!」
「つ、捕まえるの? でしたか!?」
「捕まえないよ? だって捕まえる必要がないじゃない」
この少年は何を言いだしているのか。
「な!? だって俺ら泥棒したんだぞ!」
「あ、盗みは悪いことだってわかってるんだね? えらいえらい」
「ば、バカにすんな! それぐらい誰だって知ってる!」
別にバカにしている訳ではない。
こんな環境だ、もしかしたら『盗みが当然』なんて考えが普通だったかもしれない。
「でも悪いってわかってるのにやったんだ?」
「――っ! しょうがねえだろ! 生きるためだ!」
「……そうだね。死にたくないもんね」
悪いことだと分かっていてやったのは少しいただけないが、そうしなければ生きていけないような現状に追い込まれている、か。
難しい問題だな。
でもまぁ逆を言えば、盗みが悪いことだってちゃんとわかってるなら、まだ更正の余地もあると言うものだ。
「大丈夫。ワタシが代金を立て替えたから、盗んだことにはなってないよ」
「ありがとう、ござました」
「けっ! ドブに金捨てたようなもんじゃねえか」
「そう思う?」
オレはニヤリ、と笑う。
その顔を見て、悪ガキ君の表情が凍った。
オレ、そんなに怖い顔してたかな?
いけないいけない、もう少しスマイルを意識してみよう。
「これから君たちには金貨10枚分以上の働きをしてもらうから、ぜーんぜん大丈夫だよぉ♪(ニタァ)」
「ひっ、ど、どうやって!? おれたち金なんてもってねぇぞ!?」
どうやってって、そりゃあ……?
「体で払ってもらう、とか?(ニタァ♪)」
「ひ、ひとでなし!」
「(がたがた)」
「クロ、悪い顔」
失礼な人たちだな、ぷんぷん。
オレは頬を膨らませながら[アイテム]欄からとある物を取り出す。
パッサパサの茶色い棒状の物。
「な、何だよ。その棒は……ま、まさかそれで俺たちを殴るんじゃ!」
「た、助けて……(ぶるぶる)」
微かに鼻孔をくすぐる香りが、それを木の棒と勘違いさせたようだ。
「これはね。こうするためにあるのさ!」
オレは茶色い棒きれのような物を口にくわえ、ブチィッ! と噛みきった。
「ひっ!」
「(がたがたぶるぶる)」
「むしゃむしゃ……」
「く、喰ってる!?」
「むしゃむしゃ……うまうま♪」
一見するとただの木の根や棒にしか見えないこれ。
実はヤヴァ肉を薫製にした干し肉なのだ。
昨晩色々あったんだが、その中で何とか日持ちする食料が作れないかと考えた。
色々持っている物を取り出してみて考え出した結果、【クスクス草:燃やすと芳醇な香りをだす草】で燻しながら魔術で乾燥させることを思いついたのだ。
燻製肉の爆誕である!
「木、木の棒なんて食っても、腹壊すだけじゃねぇの?」
「ふふふ……そう思うのが普通だよね?」
そう、それこそがコレの最大の利点!
ぱっと見は木の棒とか根にしか見えないから、持っていても食料だと分かりにくい。
これなら無理やり他人に奪われる可能性も低くなると踏んだのだ。
「むしゃむしゃ……うまうま♪」
「お、おいしいの、でしたか?」
「ふふふ……♪ 食べてみる?」
「だ、誰がそんなモン!」
「は、はい……!」
「セリ!?」
「――っ!(ぱく!) ……もぐもぐ」
「く、くそ! 俺はぜってーくわね「てやっ!」むぐっ!?」
「知っている? 口が開いていれば、食べ物は突っ込めるんだよ! フハハハ!」
「んーん、良い子、マネだめ」
二人はしばらく呆気にとられたように薫製を頬張っていたが、突然、関を切ったように涙を流し始めた。
ひ、ひょっとして美味しくなかったのだろうか?
ルーさんにお願いして少年を降ろしてもらうと、少年は涙を拭いながら薫製を噛みしめだした。
「うめぇ……うめぇよぉ……」
「うん……!」
「まともな食い物なんて……しかも肉なんて、ひさしぶりだ……!」
「うん、うん……おいしいよぉ……」
一安心したオレは喉を詰まらせないようにカップにポーション(リカム)を注ぎ、飲ませてあげる。
始めて飲む甘い飲み物はさぞ美味しかったのだろう。
二人は一気に飲み干してしまった。
「誰も取らないからゆっくり飲みなよ」
「おぅ……」
「うん……うん……!」
ゆっくり味わうように言ってオレはもう一杯。今度は並々と注いであげる。
二人はひさしぶりにありついたご馳走の味をずっと噛みしめているようだった。
「他の奴らにも、くわせてやりてぇな」
「うん」
食べ終わった後、ポツリと少年が漏らす。
仲間思いのいい子たちじゃないか。
オレはさきほど買ってきた革袋にありったけの薫製を詰め込んで、少年へ渡す。
「お、おい?」
もう一つの袋にはポーション(リカム)を詰め込んで少女へ、キョトンとしている二人にオレは『あげる』と笑う。
「く、くれるのか!?」
「うん、でもその代わり二人には働いてもらうよ?」
「なんでもする!」
「(こくこく!)」
オレは二人と肩を寄せ合ってひそひそと話し合いをする。
こっそり[アナライズ]をかけて居場所が把握できるようにするのも忘れない。
「……で、……に……を……」
「……? ……だな? ……分かった!」
「……だね? ……かなぁ?」
「仲間はずれ……しゅん」
「る、ルーお姉ちゃんにも後で説明しますから!」
オレは二人と離れるともう一つ、ポーションドロップの入った袋を渡す。
「これは、傷を治す薬なんだ」
「そ、そんな物までくれんのか!?」
「あ、ありがとう!」
「いい? もし誰かに襲われて怪我したり、病気で体力のない子がいたらすぐにこれを使うこと。何より、死なないことが重要、分かった?」
「うん!」
「……分かった。でもよ、ネーチャン、なんでここまでしてくれんの? オレら助けたって、一メニエニにもなんねぇぜ?」
オレはそうは思わない。
ただそう言っても信じられないだろうから、オレはあえて難しく答えた。
「そうだね。未来への投資、かな?」
オレの言った言葉の意味が分かるはずもない子どもたちは首を傾げていた。
いつか、彼らがこの言葉の意味を理解する日が来ることを願って。
―――――
二人を送り出すと、すぐルーさんに捕獲され説明を求められた。
だがどうせ後でミラたちにも説明するつもりだったので、詳しいことは後で合流してから、と逃げた。
「クロ、悪い顔」
「ふふふ、この皇都をどうやって料理してやろうかと考えるだけで……ふふふふふふふ♪ も一つおまけにふふふのふー♪」
「クロ、恐ろしい子……」
合流場所の冒険者ギルドへと向かっていると、なにやら広場に人だかりができている。
「なんですかね? お祭り?」
「ん……クロ、ミラたち」
ルーさんの指さす方を見れば、ミラとエミリーの姿もある。
オレたちが近づくと二人も気がついたようで、予定よりちょっと早い合流となった。
「クロさん、お姉さま、ご機嫌よう」
「うん、ミラお疲れさま。あと、エミリーも」
「……ん」
エミリーはむすっとして、あまり喋ろうともしない。
向こうで何かあったんだろうなぁ。
ミラも苦笑いして『お察しください』と口を動かす。
その辺の詳しい報告は後で聞くとして、今はとりあえずこの集まりである。
やはり何かの催し物だろうか?
「ミラ、この人だかりは何?」
「いえ、私たちも今来たばかりなのであまり……ただ、どうやら〝公開洗礼〟と言うものが行われるそうですわ」
「〝公開洗礼〟? なんじゃそりゃ?」
「さぁ……?」
おそらくこの広場の中心で何かが行われるのだろうが、いかんせん人が多くて様子が見れない。
かといってオレがあの人だかりの中に入っていくのは……無理だろうなぁ。
あれだけの人にフルボッコにされたらオレでも無事じゃ済まないよ、うん。
とりあえず頑張って背伸びしてみる(身長150センチも無い)オレ。
「てい! てい!(ぴょんぴょん!)」
無理でした。
「い、いや! 諦めたらしあいしゅ……ひゃわっ!?」
「ん、これでおっけー」
「おー! たかーい!」
ルーさんが肩車をしてくれたので、かなり見通しがよくなった。
いい年した大人が肩車ではしゃぐなって? えー、ワタシ子どもだからワカンナーイ?
うぅ、自分で言って自己嫌悪……
「ま、まぁ見えたから今は良し! 深く考えないようにしよう!」
「ん、どう?」
「良く見えます! ばっちぐーです!」
「ん、満足……」
「よ、よかったですわね、クロさん……(お姉さま羨ましいですわ)」
人ごみから頭一つ抜き出たおかげで人混みの中心もよく見える。
さーて、何が始まるのやら。
「どれどれ……! なっ!」
「クロさん、一体何が?」
人だ。
木製の大きな枷で頭と両腕を押さえられた男が、四つん這いの姿勢でぐったりとしている。
あの人は罪人か何かだろうか。
意識はないようだが、そのすぐ隣には武装した兵士が剣を持って立っている。
「どう考えても、和やかな出し物って雰囲気じゃないよ、これ!」
オレはミラたちにありのまま状況を伝えると、エミリーが険しい顔で立ち上がる。
「クロ!」
「待って。まだ状況が分からない。もしあの人が犯罪者だったら」
「……だけどっ!」
「気持ちはわかるけど、今は落ち着いて」
「アンタだって、昨日飛び出したじゃない!」
「き、キコエナーイ……」
それを言われると痛いと思っていた所だった。
「ご静粛にぃーっ!」
広場の中心で、神官服の男が声を張り上げる。
人々のざわめきが、ぴたっと止んだ。
「これより、〝公開洗礼〟を執り行うぅーっ!」
神官は手に持った書状のようなものを読み上げながら、男の方へ近づいていく。
「この者、タノッコ・キーカーは貴族街にて貴族を3名殺害、その罪にて本来〝処刑〟が決まったものであぁーる!」
「この人殺しー!」
「死んで償えー!」
神官が読み上げた罪状を聞いた周囲の人々が男に向かって罵倒が浴びせられる。
「静粛に! だが寛大な女神の特段の配慮によって、こたび、こうして〝公開洗礼〟の機会が授けられた!」
神官は、懐から薬品の入った瓶を取り出す。
危険なものではないか一応[アナライズ]してみると、中身はただの状態回復薬だ。
神官はおもむろに中身を拘束された男にぶちまけた。
「ごほっ! ごほっ! ここは……てめぇ! 離せ! オレは悪くない! オレは娘の仇を……!」
「このように! この殺人者は全く反省の色が見えない! あぁ、嘆かわしいことである!」
「この人殺しー!」
「死んで償えー!」
男に向かって石が投げられる。
「石を投げるのを止めよ! 私にも当るではないか! ごほん、ではなく! なぜならこの者はすぐに自らの罪を懺悔するからだ!」
神官が酷薄な笑みを浮かべる。
「ギース、神官ギース! 前へ!」
神官が告げた途端、今までの罵声に為り替わり黄色い声援が送られる。
「ギースさまー!」
「きゃー♪ ギースさまよー♪」
「ギース様ステキー♪」
「ギース様、罪人に裁きをー!」
声援を受け前へ出てきたのは若い男の神官。
眼鏡をかけた細身で緑髪の神官は、余裕のある表情で捕らわれの男の前に立つ。
「気分はどうだ?」
「けっ! 教会の犬が偉そうに!」
「ふん、野良犬風情が生意気な口を聞く。わきまえろ、ボクは上級神官だぞ?」
「ぺっ!」
ギースに向けて、男が唾を吐いた。
民衆からは罵声が飛び交い、『殺せ』コールが巻き起こる。
「ヤな感じ」
「上に同じ」
「はい」
「ん」
その空気にオレたちだけ馴染めずにいた。
何をするつもりかはわからないが、あの眼鏡がやる事によってはやはり介入するかもしれない。
オレが心の準備を整えていると、
「静まれ」
驚いたことにギャラリーの罵倒を手で制したのはギースだった。
彼は懐から取り出した分厚い本を開き、静かに目を閉じて歌うように祈る。
「愚かな罪人め、懺悔せよ。偉大なる女神の御名の下に〝卑しき〟者の〝心〟の〝在り方〟を――」
「え……?」
なぜだろう。
遠く離れているのに、どうしてかギースの声が頭の中に響くようにはっきりと聞き取れる。
いや、まったく同じセリフを別の誰かが言っているんだ。
「全て正しく〝洗い流し〟――」
「全て、無へと〝洗い流し〟――……?」
「クロさん?」
似ているのにまったく違う言葉を、頭の中の誰かが暗唱する。
「神の御心のままに〝思うまま〟に、神の〝界来〟を祝う心を〝植え付けよ〟」
「吾が命の〝思うまま〟に。〝傀儡〟の心を〝植え付けよ〟」
「クロ、しっかり」
オレは、この魔術を知っている?
いや、これは魔術じゃない…………
「あ」
この、禁術は――
「[ブレイン・アウト]」
ギースから発生した魔術の黒い光が、捕らわれた男を包み込んだ。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
光に包まれた瞬間、男は激しく身悶えし声にならない叫び声をあげる。
辺りの人々が一層騒がしくなるが、オレの方もそれどころではなかった。
「ぶれいん、あう……?」
――クローディアは[××××××××]を思いだそうとした!
――しかし[××××××××]は封印されている!
――クローディアは[××××××××]を思いだそうとした!
――しかし[××××××××]は封印されている!
――クローディアは[××××××××]を思いだそうとした!
――しかし[××××××××]は封印されている!
脳内に[オラクル]が何度も木霊する。
それと同時に、
ズクン
オレの心臓が大きく跳ね上がる。
「っはっ! はぁっ! ……っぁ!」
「クロさん?」
心臓の鼓動が激しさを増し、呼吸が上手にできなくなる。
いや、そもそも呼吸はどうやってするんだったっけ?
激しい頭痛と共に、強烈な目眩を感じたオレはバランスを崩してルーさんの肩から転落した。
『クロさん!』
『クロ!』
『クロ、しっかりしなさい!』
地面に落ちたオレは、そのまま深い闇に意識を呑まれた。
―――――
目覚めはの気分は最悪だった。
「クロさん!」
「ミラ……? つぅっ!」
倒れた拍子に頭を打ったのか、後頭部がやけにズキズキする。
あれからあまり時間は経っていないようだったが、3人にはとても心配をかけてしまったようだ。
「ちょっとクロ、大丈夫なの?」
「うん、もう大丈夫」
「ん、飲む」
「ありがとうございます、ルーお姉ちゃん」
オレはポーションを飲んで、気持ちを落ち着ける。
まだ少し心臓の鼓動は早く、軽い目眩もする。
だがまた倒れるほどではない。
「突然倒れられたので、びっくりしましたわ」
「あはは、ごめん」
先ほどの光景を思い出す。
あの眼鏡の神官が使っていた魔術、あれは……!
ズキン
再び頭に走る激痛に、オレは頭を押さえる。
「っつぁっ!」
「クロさん!」
「だ。大丈夫……!」
オレが思い出そうとすると、脳が拒否反応を示す。
『思い出してはいけない』と、オレの本能が警鐘を鳴らす。
間違いない。
「どうしたのでしょうか、一体……」
「さっき、あの眼鏡男が魔術を使ったあたりからよね? まさかクロにまで魔術の影響が?」
「んーん、ない。絶対、届かない」
「じゃあ……」
「……ねぇ、あの男の人はどうなったの?」
オレが聞くと、3人とも微妙な表情を浮かべる。
「処刑とかはされてない。無事に生きてるわ。でも、変だった」
「ん、人、変わった」
「はい。魔術の効果を受けたとたん、まるで別人のように信心深くなり、己の罪を悔やんで祈りを捧げ始めました。教会に帰依し、この後一生罪を償って生きる、とも……」
やはり、か。
「やっぱ、あの魔術のせいよね? みんなは〝女神の奇跡〟とか騒いでたけど……」
「んーん、聞いたことない」
「はい、人を改心させる魔術なんて、どの書物にも記されては……」
「あるよ」
オレの言葉に、みんな驚いた顔をする。
「あるんだ。一つだけ、人の心を思うままにできる魔術。いや――」
ぶり返す頭の鈍い痛みを我慢しながら、オレは言う。
「人を洗脳するための禁術が」
かつて、|クロード=ヴァン=ジョーカー《オレ》が作り出した、過ちの一つ。
それこそが、あの広場で行われた〝公開洗礼〟、いや〝公開洗脳〟とでも言うべき茶番劇の真実だ。
「あるんだよ……くそっ!」
オレの過去が他者の尊厳を踏みにじっている。
その事実が、何より重くオレにのしかかった。
ギース、彼は一体何者で、どうして禁術が使えるのか……?
そして再登場はあるのか!?←(オイ!) いや、ありますけどね。
あ、ちなみに禁術はクロも使えますが、紅の石が発動している時の覚醒モードでしか使えません。つまりまだ出ていない紅クロードか、自分を吾とかいっちゃう痛クロードの時ですね。
そしてその禁術が書かれた魔導書も……うっ! 突然の頭痛でこれ以上ネタバレできない!? ず、頭痛ならしょうがないよね!




