黒の系譜02-15『戦技をつかってみよう!〝分けてみた〟』
新規読者層開拓のため、今日はこんな時間に投稿してみました。
あ、それから前回更新の際『割り込み投稿』を使ったため、ちょっといつもと違う感じになったかもです。2章14話の前に幕間が入っているので、良ければ読んでください。
「おぉ……あれが皇都かー!」
オレの視界の遙か前方。
巨大な城壁に囲まれたお城と、それと並び立つほど大きな尖塔を持つ教会。
あれが、このウェステリオの中心都市、皇都〝フィリル・ダリア〟
「ついに……ここまで来たんだ」
思えば、長かった。
スーサを旅立ってからというもの、盗賊にサーカスに神音派にとイベントには事欠かなかった。
予定よりだいぶ遅れてしまったが、やっと皇都へ着いたんだなぁ……ほろり。
「しみじみしてるとこ悪いんだけどー! おりゃーっ!」
「ブモォー!」
「さっさとアンタも戦ってくんない!? だぁらっしゃー!」
「ブモォー!?」
まったく、人がせっかく感慨に耽っていたというのにエミリーめ。
「ホントにエミリーってば、空気読めないよねー。ね、ミラ?」
「く、クロさん。今はエミリーちゃんの言っていることの方が正しいですわ!」
「あ、やっぱり? ごめんね(てへぺろ♪)」
オレは眼下に積み重ねた[ヤヴァイコーン]の死骸の上で、可愛らしく舌を出して謝る。
「……? 舌を出して、どうかれたんですか?」
「……ううん、何でもないんだ/////」
いい年したオッサンが何をやっているんだろう。
どうにも最近、思考のお子様かが著しい気がする。
元のオレはもっとクールでダンディなナイスガイだったはずなのに。
いかんいかん。気を引き締めなくてはな。
――メイジン村を出発して3日目。
野営をしながら何のイベントに巻き込まれることなく無く平穏無事にここまでやってきた。
と、思っていた矢先のことである。
『……あら? あれってば、[ヤヴァイコーン]じゃないカシラ?』
皇都目前の所まで来て、御者をしてくださっていたリーフィさんが発見したのは一体の魔獣だ。
オレはすかさず[アナライズ]を発動した。
【ヤヴァイコーン:Lv.22
種族:強面牛種
魔物ランク:D
弱点:頭
人面牛であるバイコーンの亜種。通常のバイコーンに比べ顔が強面で傷が多く、『ヤヴァイヒト』に似ているためこの名がついた。
常に群で行動し、自分より弱い獲物は集団でいたぶり、代わりに自分より強い者には媚びへつらうよう本能に刻みつけられている。採れる肉は美味で人気があり、群の中に数匹しかいない牝のミルクは栄養価が満点で希少価値が高い】
厳つい顔のソイツは、黙ってこっちにガンを飛ばしてきている。
てかあの人相(牛相?)は完璧ヤ○ザでしょ。
『はぐれカシラ? だったらちょうどいいワ。ちょっと狩って行きましょう』
『いや、ああいう輩には手を出さないほうがいいと相場は決まって……』
『肉ね!? いいわ! アタシも好きなのよヤヴァ肉!』
『ああ、ヤヴァイコーンだからヤヴァ肉か……って、ちょっと二人とも!?』
オレの制止も聞かずにヤヴァイコーンに近づいていく二人。
『ヴァァァァン?』
『先手必殺!』
『ブモォッ!?』
エミリーがヤヴァイコーンに殴りかかった時だった。
『ヴァァァァン?』
『ヴァァァァン?』
『ヴァァァァン?』
『ヴァァァァン?』
『ヴァァァァン?』
『ヴァァァァン?』
『『『『『『ヴァァァァァァァァァァァァン?』』』』』』
茂みから大量のヤヴァイコーン、が現れた。
まるでチンピラが、『なんじゃわれぇ? ウチのモンに手ぇだしてただで済むとおもっとんのか、アァァァァン?』と難癖つけて来たかのような見事な釣りだった。
ってか、完璧ヤク○゛ですよね、アレ?
『あら? やっぱり他にもいたのね。アイツら、一匹いたら百匹はいると思えって言うものね。オホホホホホホ♪』
『わ、わかってたなら最初からそう言いなさいよー!?』
爆笑するリーフィさんにエミリーが突っかかるが、ヤヴァイコーンの群の進撃は止まらない。
百匹を超えるヤヴァイコーンの群が、一斉に襲いかかってきた。
「――で、今に至ると」
「だから! しゃべってる暇あるなら! さっさと倒せっての!」
「はいはい……」
オレは軽く準備運動をして、ミラに指示を出す。
「ミラ、引き続きルーさん(馬車酔いでダウン中)の乗ってる馬車の護衛と、あとできたら援護、お願いねー!」
「お任せくださいませ!」
ヤヴァイコーン(長いので以下〝強面牛〟と言う)の屍の山から颯爽と飛び降りたオレは、戦闘中のエミリーの元まで一直線に駆け抜ける。
「ブモォァァァン!」
オレを格好の獲物と思ったのか、まだ若い一匹が無謀にもオレに一人で突撃してくる。
やれやれ、若さ故の過ちというのは怖いものだよ、うん。
「精製、型式〝獣爪〟」
オレはイメージする。
自信の両手を覆う、獣のような爪を。
たちまちパキパキ、とオレの両手を紅い結晶が包み込んでいく。
出来上がった紅い手甲爪を見て、若い強面牛はようやく自分の犯した過ちに気が付いたようだ。
まぁ、いまさらもう遅いけどね。
「[ブレード・スピン]!」
オレが唱えると、スキルアシストがオレの身体を高速回転させる。
「ブモァ!?」
旋刃の独楽と化したオレに突撃してきた哀れな強面牛は、体中を切り刻まれてただの肉の塊となった。
「よっとっと……」
スキルアシストが切れたオレは軽くよろける。
うーん、この身体じゃなかったら目が回って大変だっただろうな。
エミリーに背中を預けて、オレは強面牛と対峙した。
「相変わらず! アンタのそれって! 無茶苦茶よね!」
「ワタシからすると、エミリーの方がよっぽどびっくり人間だけどね」
「ふふん♪ 褒めても何も出ないわよ♪」
「(褒めてないけどねー)」
「なんか言った?」
「ゼーンゼン?」
エミリーが言っているのは、オレの戦技の発動方法のことである。
(そうだ、せっかくの機会だし戦技の事を少しおさらいしておこうかな?)
オレは誰ともなくそう思った。
――戦技というのには、実は二つの発動方法があるのだ。
「ブモォォォォォッォ!」
「クロ!」
「はいはい、[ブレード・スピン]」
一つは、今のオレのように戦技名を唱えることで発動する方法だ。
戦技名を唱えれば、あとはスキルアシストによって勝手に身体が動き、自動で技が発動してくれるというシステムだ。
「おっとっとっと……さすがにちょっと回り過ぎ……」
「ブモブモォッ!」
「またか……[ブレード・スピン]」
どんな状況でも技を発動できる分、一見使い勝手がいいように思われるが、残念ながら発動条件というものがある。
それが、武器の熟練度だ。
これは身体的、武器の技量的に技の発動レベルに到達しているか否かが、神の意志? 的な物で決定づけられるというものだ。
オレの場合チートのおかげで熟練度に関係なく発動できるのだが、普通は熟練度が低い者が戦技名だけ唱えても、絶対発動できないようになっている。
そしてこの基準はとても曖昧で、条件を満たすとホントに〝なんとなく〟発動できるとわかるようになるらしい。
「(ワタシの[オラクル]みたいなもんかな? っとっと)」
そして残念ながらデメリットもある。
「ブモォォォォォッォ!」
「クロ!」
「またぁ? いい加減にしてよね、[ブレード・スピン]っと」
襲いくる強面牛をミンチにしながら、オレは回る、まわる、まわ……
「…………う゛、ざずがにぢょっどまわりずぎ………………うっぷ」
「ちょ! 吐くならそっちで吐きなさいよ!? ばっちこい!」
「そ、それ言うならば、ばっちぃ………………うぷっ!? えろえろえ――――」
――しばらく、綺麗なお花畑の映像と、心休まるメロディをお楽しみください。
「ふぅ……すっきり♪ [リ・フレッシュ]」
「……クロ、しばらくこっち来ないでよ」
「酷いなぁ、人を汚い物みたいに」
「汚いわよ! どう考えても!」
「大丈夫!」
美少女の口からはフローラルな香りのキラキラした光しか出ないから!
これ異世界の常識(嘘)だから!
……さて、話が逸れてしまったので元に戻そう。
この発動方法、身体がスキルアシストによって強制的に動かされるため、身体にかかる負荷が大きいのだ。
今のオレのように、意思と関係なく使える分使いすぎて思わぬ身体の変調を招く危険がある。
酷い場合だと今みたいに酔ったり、全身筋肉痛で動けなったりなんてこともある。
あまり連続で使いすぎるのも禁物なのだ。
「ってか、アンタ魔力は大丈夫なの? さっきから使いっぱなしだけど?」
「無問題! エミリーもオレの魔力量の多さは知ってるでしょ?」
そして複雑な技ほど、スキルアシストにかかる魔力消費量が多くなるというのも難点だろう。
前衛職の人とかは割と魔力が少ない人もいるので、スキルアシストばかりに頼っていると魔力切れで気絶、なんて無様な結果になることもある。
まぁ、オレのように、魔力量だけ無駄に多い戦闘の素人にはこちらの方法の方があっているけど。
「で、もう一つの使い方っていうのが……」
「だぁらっしゃらっー!」
「ブモォラァァァァァァ!?」
エミリー放ったすさまじいチョップが、真空の刃を発生させて強面牛たちを切り裂いていく。
通称〝エミリー脳天チョップ(命名主オレ)〟とも言われる戦技[空断]だ。
はい、もうおわかりですね?
あの最終兵器ツンデレ娘のように、〝実際に技を発動させる〟方法だ。
いや、本来あれが正しい方法なんだけど、一部の技はとても人間業では使えないので、よっぽど訓練を積まない限りはできない。
でもあの方法でなら魔力消費もないし、自分で動きが制御できる分、自由度は段違いだ。
まさにエミリーのような脳き……戦闘の申し子向きの発動方法と言える。
「……ねぇ、今なんか失礼な事考えたでしょ?」
「ぜんぜんソンナコトナイヨ」
「……まぁいいけど」
そんなエミリーの活躍もあって、百匹近くいた強面牛は半数近くにまで減ってきている。
だが数の上ではまだまだ多く……
「ブモォォォォッォ!」
「クロ! 後ろ!」
このように、危険な場面もよく見られます(ナレーション風)。
でも大丈夫。
オレには頼りになる仲間たちがいるのです。
「クロ様! [紫雷矢]!」
「ミ――」
ドッゴォォォォォォォォォン!
「ブギャ!?」
「――ラ?」
背後から迫っていた強面牛は、雷を纏った高速の矢に上半身を吹き飛ばされ、消滅する。
…………うん。
「さ、さっすがミラ! 頼りにしてるよ!」
「も、もう! それはうれしいですが、危なくならないように戦ってくださいね! 長距離の援護は結構難しいので、万一巻き込んでしまったら……」
「い、いえっさー!」
まったく頼もしい限りだね!(汗)
そ、そういえばもう一つ、戦技には大まかに分けて3つの分類が存在しているというのも、おさらいしておこう。
と言っても特に難しく考えるようなものじゃない。
剣など、刃で相手を攻撃する〝斬〟
鈍器や体術などの打撃を与える〝打〟
弓や投擲、銃火器などを用いる〝射〟
という、本当に大まかな分類だからだ。
実際の所、その武器を持っていないとそのカテゴリの戦技しかつかえない。なんて事はないんだけど……うん、これは実際に使ってみたほうが分かりやすいかもしれない。
オレは紅い爪を一度消して、素手の状態になる。
この状態で〝斬〟系の戦技[ムーン・スラッシュ:斬撃を衝撃波として飛ばす]を使うとどうなるか?
「[ムーン・スラッシュ]!」
オレはスキルアシストによって素早く腕を振り抜いた!
すかっ!
「……クロ、アンタなにやってんのよ?(ゲシャァ!)」
「ブモァ!?」
ごほん、この様に斬撃の衝撃派は起こらず、何とも残念な結果になってしまう。
他にも剣を持って〝打〟系を使うと剣で殴ることになって自分の武器破壊につながったり、〝射〟系を使って持っている武器を投げつけてしまったりと、色々相性の問題があってオススメはしない。
まぁ中にはどのタイプにも対応している戦技とかもあるんだけど。
それはまぁおいおい?
「ちょっと、クロ! だからさっきからアンタ、なにブツブツ言ってんのよ!」
「なにって、おさらい?」
「意味わかんないわよ……まぁいいわ。さっさと本気出さないと、アタシの勝ちになっちゃうけどいいの?」
「言うじゃない。で? エミリーは何匹倒したの?」
「ふふん! もう42匹よ! っだっしゃー!」
「ブモァッ!?」
「あ、これで43ね! アンタは?」
実はこの強面牛、数は多いが一匹一匹は完全に見た目倒しでそこまで強くない。ランクEだしね。
レベル54(表示されているのは27)のオレはもちろん、レベル24のエミリーやミラなら楽勝レベルだ。
で、ただ倒すだけじゃつまらいからと、二人で撃破数を競うことになった。
「ワタシは今のところ35匹かな?」
「ふっふーん♪ わかってんでしょうね? 『負けた方が勝った方の言うことを聞く』言い出したのはアンタなんだからね! 44!」
「ボルモァ!?」
そういえば、そんなことも言っていたなぁ。
「んじゃ、軽く……精製、型式〝ツヴァイハンター〟」
オレは真紅の刀身、無骨ながらも研ぎ澄まされた両手剣をイメージする。
ただそれだけでは芸がないので、今回柄には獅子をイメージした意匠を施してみる。
「ぷふーっ! 何よその猫のマークは?」
「こらそこ猫とか言うな! 獅子だっつってんでしょ!」
手の中に現れたずっしりとした重みを握りしめ、オレは駆けだす。
こっからは、ずっとオレのターン。
エミリーには真の強者の余裕ってヤツを見せつけてやろうじゃありませんか。
「[虚閃炎月――」
「あら、苦戦しているかと思ったら、随分楽しそうなオアソビしてるみたいじゃない」
「って、えぇ!? く……リーフィさん!?」
「どっせぇーい!」
「ブマルァ!?」
突然現れたリーフィさんに、オレは発動しかけていた戦技を取りやめる。
なぜなら、
「あてくしも、混ぜてくれないカシラ?」
不敵に笑うリーフィさんの姿に、完全に呑まれてしまったのだ。
「り、リーフィさん!? その格好は……?」
「どうカシラ? あてくしの戦闘服♪」
「どったらぁー!」
「ブモォォォォ! モッ!?」
ゆるくウェーブのかかっていた髪は結い上げられて纏められ、綺麗なうなじが露出している。
先ほどまで着ていた〝出来る女スーツ〟風のタイトなドレスはどこへやら。
白いレオタードのような衣装を淡い黄色のケープやチューブトップドレス、パレオ風のオレンジのスカートで隠した派手な格好をしている。
頭には麦の穂? をイメージしたような髪飾りが付いていて……うん、一言で言い表すなら。
「魔法少女!?」
そう、その一言に尽きる。
「マホーショージョ? よくわからないケド、変カシラ? あてくしは気に入っているのだけど」
派手だし、ぴっちりしているし、ひらひらだし、一見するとこんな大人が着ても大丈夫なのかと思ってしまう。
だがその点リーフィさんはすらっとしていて背が高い、いわゆるモデル体型というヤツなので、こういう少し奇抜な服を着ていてもあまり違和感が少ない。
むしろ、どこぞのショーに出ているモデルさんのような佇まいで、とても様になっている。
「い、いえ、お綺麗です」
「ありがと、おちび。あんたなかなか見る目あるワ♪」
「だらっしゃらぁー!」
「おじゃりは……って、聞いてもないワ」
その笑顔が、オレをさらに困惑させた。
「まぁでも誉められて気分がいいし、あてくし頑張っちゃおうカシラ?」
リーフィさんは、手に植物をイメージしたような長杖を構え、地面に突き立てて笑う。
とても邪悪に。
何故かはわからないが、オレの背筋を大量の冷や汗が流れる。
「ク、クロ様! エミリーちゃん! 商隊の方々が!」
「どうかしたの!?」
「どぅらぁー!」
「ブギュ!?」
ミラの切羽詰まった叫び声に、嫌な予感しかしないオレは静かにアップを始めた。
「ぜ、全力で逃げろと叫んでいますー!」
「……エミリーだーっしゅ!」
「どった……って、え、え? なによ、なんなのよ?」
オレはエミリーの首根っこを掴んで全速力で戦線を離脱する。
「オーッホッホ! ミンチになりなさい牛肉ども! 豊穣の大地を願う処女!」
魔女のように邪悪な笑みで叫ぶリーフィさん。
カァン、とリーフィさんが長杖の先を地面に叩きつけると、目の前の大地が震動を始める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ! と、地面が土煙を上げて隆起している。
ボコボコボコォ、と流動を繰り返す地面はまるで生きているかのようだ。
隆起に巻き込まれた強面牛たちが次々に地面へ倒れていく。
「うわーん! っていうか絶対技名とルビがあってないよー!」
「ちょっとクロ! まだ勝負は……って、なななんなのよアレ!?」
「そんなのワタシが聞きたいよー!?」
「ブモォ!?」
やがて震動は波になり、土でできた地面が水のように溶け、大きな波となる。
土の上にいた強面牛たちは底なし沼のようになった大地に徐々に足を取られ、飲みこまれ、ずぶずぶと嵌っていく。
なんだこの凶悪な技は。
オレはこんな技知らないぞ!?
「オーッホッホッホッホ!」
地面を伝う波は徐々に波紋を広げ、ついにはオレのすぐ後ろまで迫って来た。
「ひぃっ! じじじめんがすらすらすすすすすらいむにぃ!?」
「エミリーだまって舌噛むよ!」
「オーッホッホッホッホ!」
「ブモモ!?」
「ブマァー!?」
「ブ・・・・・・モ……」
「く、クロ、クロ! ううう、うし! うしがおおきなすらいむにくわれて!」
「エミリー落ち着いて! あれは地面! あれは地面だから!」
「あぶぶぶぶ……がくっ!」
「エミリィーーーーーーッ!」
「ブモモモモモモォォォォォォ!?」
「オーッホッホッホ! 逃げまどいなさいムシケラども! せいぜい土に還って出直してくればいいんじゃないカシラ?
オーッホッホッホッホ!」
「それ完全に悪役のセリフですよねぇーっ!?」
悪魔の笑い声が響き渡る地獄を、オレは気絶したエミリーを担いで死に物狂いで駆け抜けた。
冗談なんかじゃない、本気で死ぬかと思ったんだ。
―――――
しばらくして地面の脈動が収まると、そこには真っ新で広大な畑が出来上がっていた。
ご丁寧に畝まで切ってあるが、心なしか土が赤茶色……うん、気のせいだよねうん。
当然、ヤヴァイコーンの群など、影も形もない。
「さぁて、もう数えられないケド、ざっと60はいたんじゃないカシラ?」
「そうですね」
いつの間にか元の格好に戻り、笑顔でそんな事を言うリーフィさんに、オレもエミリーも何も言えなかった。
いや、エミリーは物理的に(気絶中のため)何も言えなかったのだが、オレは完全に思考を放棄していた。
「ということは、あてくしの勝ちね」
「ソーデスネ」
「最下位は……あら、おちびじゃない? 言いだしっぺが罰ゲームなんて皮肉ねぇ?」
「ソーデスネ」
「おほほ……なんて命令しようカシラ? 楽しみだワ♪」
「ソーデスネ」
「……おちび、今日のパンツの色は?」
「ソーデスネ」
「あらやだ! あてくし、やり過ぎちゃった? 反省反省♪」
「クロさん! エミリーちゃん!」
慌てた様子で駆け寄ってくるミラ。
その顔を見た瞬間、オレの目からは涙があふれ出た。
「うわーん! 死ぬかと思ったよー!」
「大丈夫、もう大丈夫ですから……」
ミラの温かな胸に抱かれ、オレは少し気持ちが落ち着いてきた。
生きてるって、素晴らしいねぇあはは…………しくしくしくしく。
「もう失礼しちゃうワ! さすがにおちびたちは巻き込まないようにしたわよ……多分?」
「嘘だ! 今多分って言った! この人でなし! 鬼! 悪魔!」
「オーッホッホ! 鬼? 悪魔? ス・テ・キ♪ むしろ褒め言葉だワ!」
くそぅ、このドSには何を言っても無駄だと言うのか!
「こ、このおと――」
「あぁ?」
オレが苦し紛れに言かけた言葉に、異常に反応するリーフィさん。
魔族すら殺しそうな冷酷な瞳でオレは射抜かれた。
こ、殺される!?
「――なげないぞ……(がくがくぶるぶる)」
「ふふん、あてくし。兎を狩るにも千尋の谷から突き落とす主義なの」
「な、情け容赦ない!?」
咄嗟に言葉を変えたおかげリーフィさんの表情は戻った。
危なかった、あのまま言いきっていたら……オレの旅はここで終わっていたかもしれない。
「で、おちび。あんた、何か言いたい事あるワケ?」
「い、いえ……何もありません!」
「そ? ならいいケド」
オレは馬車の方へ戻っていくリーフィさんを見送りながら、[メニュー]画面に表示されたリーフィさんの[ステータス]を見た。
【クリフト=ブルーバード:Lv.42
種族:人族
年齢:32歳
職業:商人
ギルドランク:D
シェラ商会で代表シゲーロの片腕を勤める男。普段は女性の格好をしているがれっきとした男で、自身も別に自分が女だとか、そういう風には考えていない。単に自分の優れた容姿をいかに美しくできるか考えた結果、シェラの作る服に行き着き、女性者の多い彼女の服をより楽しめるよう現在の形で落ち着いたとは本人談。
しかし彼を男女と罵って、無事だったものはいない】
リーフィ、もといクリフトさん(♂)は馬車の上で叫んだ。
「さぁて野郎ども。皇都はもうすぐよ。準備はいいカシラ?」
野郎はあんただろうが!
オレは心の中でつっこんだ。
え、何で口には出さないのかって?
そんなの、生きたまま畑の肥しにはされたくないからに決まってる。
――クローディアは[ブレード・スピン]を思い出した!
――【戦技奥義書・斬之章】に[ブレード・スピン]のページが戻った。
――クローディアは[紫雷矢]を思い出した!
――【戦技奥義書・射之章】に[紫雷矢]のページが戻った。
――クローディアは虚閃炎月斬レ乱]を思い出した!
――【戦技奥義書・斬之章】に[虚閃炎月斬レ乱]のページが戻った。
――【M・O・W】の【ヤヴァイコーン】のページが閲覧可能になった!
オレの脳内に、戦闘終了を告げる[オラクル]だけが、虚しく響き渡った。
やはり思い出さなかった、ということはさっきのリーフィさんの技はオレが考えた魔術や戦技ではないということだ。
もうこのヒトがラスボスだって言われてもオレは驚かないよ。
※9/9修正しました!
1・途中の両手剣に獅子の意匠が猫云々のくだりをもう少し分かりやすい表現に変えました。
2・ヤヴァイコーンが初見+戦闘中だったので、戦闘終了後にM・O・Wのページが読めるようになった、という[オラクル]を入れるのを忘れてたので追加しました。




