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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
63/104

黒の系譜02-14『皇都から来た男たち』

旅立ちの日です。

 ロリエル・デモノの消滅、通称〝星啼きの夜〟から2日。

 今日は出立の日である。

 村の入り口には多くの人々が集まって、別れの言葉を交していた。

 そこにはサーラさんやジーラ、神官さんたちの姿もある。

 オレもミラも、エミリーもルーさんも思い思いに別れの挨拶をしていた。

 

「シャル、元気でね」

「おぅ……クロもな。お前と別れんのは寂しいけどよ。またどっかで会おうな」

「もちろん!」


 思えばこの村にはじめてきた時、シャルとこんなに仲良くなれるなんて考えてもいなかった。

 というか、女の子ってことも知らなかったんだっけ。

 あの時よりも大分健康的になったシャルは、花が咲いたように可愛らしい笑顔だった。


「クロおねーちゃーん!」

「わーん!」


 ばふん、とオレに突撃してきたのは犬耳っ子の二人である。

 両目いっぱいに涙を流して、オレとの別れを惜しんでくれている様だ。


「ニーね、ぜったい、せぇーったい! おねーちゃんのことわすれないからー!」

「ミーも! ミーも!」

「うん、ワタシも二人のこと絶対忘れない」


 オレが二人の頭を撫でてあげると、泣きながらもいつもの可愛らしい笑顔をしてくれた。


「こら、クロが困ってるだろ」

「はーい」

「うー」


 二人を優しく引き離すシャルは、いつの間にかお姉ちゃんの顔になっていた。

 子どもの成長って早いなぁ、としみじみ思ってしまうオレはもう歳だろうか?

 ……いや、そんなはずはない。だってオレはまだぴっちぴち(死語)の14歳なのだから!


「ほら。サーラんとこにもお別れ言ってくんだろ?」

「うん!」

「さーらー!」

「こら、周り見て走れよ!」


 慌てて二人に注意しているシャルに、オレは思わず笑いがこぼれてしまった。


「あんだよ……何がおかしいんだよ」

「いや、お姉ちゃんしてるなって思っただけ」

「ふん!」


 照れ隠しにそっぽを向くシャルに、オレはまたくすくすと笑ってしまった。

 

「さーらぁぁぁぁぁ!」

「さみしいのぉー!」


 向こうで、犬耳っ子たちの号泣する声が響いている。

 そう、今日は出立の日。

 素敵なサーカス団怪物の狂宴(マッド・パーティ)の出立の日だ。

 そしてその中には、新たな家族が加わっていた。


「それにしても、団長さんもまた思い切ったことを言いだしたね」

「ふん! だんちょーの悪巧みなんて、いつものことだ」

「ふふ……そうだね」


――あの宴の片付け中、サーラさんに団長さんは言ったらしい。『アンタの家族、預からせてほしい』と。

 団長さんは、教会の子どもたちにもっと広い世界を見て欲しいと、考えたようだった。

 そんなこと全然顔にも出さないくせに、団長さんは団長さんでやはり今回の一件を悔やんでいたようである。

 サーラさんもそれに反対はしなかった。

 むしろ、同じことを考えていたようで頭を下げてお願いしたと言う。

 とはいえ、中にはジーラのように見世物になる事でトラウマを思い返してしまう子もいる。

 だから一緒に行くのは、ニーナ、ミーナ、スーナ、シャーナ、キーラ、ガーラの6人。

 サーラさんたちは、あの教会に残ることにしたようだった。

 あそこが、彼女たちの帰る家でもあるから、自分が守るのだと。


「あのよ!」


 ふと、シャルが叫ぶ。


「どしたの?」


 オレが尋ねると、シャルはもごもごと口ごもる。


「オレ、もっとおっきくなって、サーカスももっとおっきくする……そしたら、また見てくれるか?」

「もちろん! 楽しみにしてるよ!」

「おう!」


 オレは、笑顔で答えた。 

 言うだけ言って、シャルは笑顔で家族の元へと戻って行った。


「団長さんの言う事、ちゃんと聞くんだよー!」

「おう!」


 そうして、愉快な家族たちはメイジン村を旅立っていった。

 途端に村の中が寂しくなる。


「行っちゃったね」

「ですわね」

「ん、キーラ。残念」


 でもオレたちもうかうかしていられない。

 今度は、オレたちの番なのだから。


「じゃ、オレたちも行こっか」


 村へ戻っていく人の群を見ながら、オレは歩き出した。


「……とりあえず、教会にでも遊びに行く?」


 村の方へ。


「ん、ジーラ、もふもふ」

「る、ルーお姉ちゃんいつの間にジーラと仲良く!? うらやましい……でもいいもん! ワタシはサーラさんに鱗もらう約束してるから……今晩はヤケガリネだ!」 

「はい、私も、少しサーラさんとお話したい事ができましたし……ふふふ♪」

「み、ミラ!? 目が、目が怖いよ!?」

「……………ねぇ」


 オレたちがいつもの感じで話しながら歩いていると、さっきからずっと黙っていたエミリーが口を開く。


「ん? 何? エミリー?」

「……で、アタシらはいつ出発すんのよ?」

「えっとそれは……いつだろうね?」


 …………はい、その通りです。

 残念ながら、オレたちの出発はまだ未定。

 当分この村でお世話になる予定なのです。


「なんでよ!?」

「うん、それでは解説のミラさん、お願いします」

「はい。ここから皇都まで東のルートを通っても馬車で最短3日はかかります。私たち4人だけで向かうのはあまり現実的ではないですわね。なので今は王都へ向かう商隊、もしくは馬車待ちという状況ですわ」


 と言う事なんです。


「じゃあ団長たちと一緒に行けばよかったじゃない? ただ待ってるより、遠回りでも向かった方が……」

「それはできないの!」


 残念だけどそれだけは絶対ない。


「前にも言ったでしょ! 南の街〝トスタム〟は〝神音派〟の本拠地なの! アウェーなの!」


 ロリエル亡き今となっても、やはり神音派がオレの敵であることは変わりない。

 ロリエル一人であれだけの厄介事に巻き込まれたのに、それが神音派ともなる厄介事のレベルも想像できない。

 だから敵地へわざわざ向かうなんて愚かな真似はしないのだ。


「でもねクロ。〝オケツに炒りずんだ餅は入らず〟っていうじゃない! 危険だったとしても時には必要なことだってあるわ!」

「言わないよ! っていうかそれを言うなら〝虎穴に入らずんば、虎児も得ず〟だから! お尻に餅を入れる時なんて絶対来ないよ!」

「似たようなもんじゃない!」

「全然違うから!」


 お尻に焼いた餅入れるって、どんな拷問方法だそれは!

 ってか、この世界に〝ずんだ餅〟っていう言葉があることにも驚きだよ!


「だったら皇都なんてもっと危ないじゃない。教会の本拠地よ?」

「それはそれ」


 そう、皇都はモーミジヤ教会の本拠地、ゲームで言うならばまさに魔王の城だ。

 でもオレはどうしてもそこへ行かなきゃならない。

 オレは[アイテム]欄の中に【万呪の黒石】という文字を見つける。

 ロリエルを魔物に変え、体内から力を失った状態で見つかった元呪いのアイテム。


【万呪の黒石:

 ――詳細不明――】


(そして、この世界にあるはずのないモノ)


 コレをヤツがどこで手にいれたのか、それは分からない。

 だがどう考えても、コレを創りだしロリエルに与えたヤツはロクな奴じゃない。

 そこに、スーサの惨劇を起こした例の黒い影が関係しているかもしているかもしれないのだ。

 

「クロ様……お顔が」

「あ、うんゴメン」


 オレは[メニュー]を閉じて、深呼吸する。

 大きく深呼吸…………うん、大丈夫。


「ま、ともかく。エミリーには悪いけど今はのんびり待つことに……」

「――おい、あれは何だ!」

「ん?」


 オレが村に戻ってのんびりしようと決めた時だった。

 村の入り口がなにやら騒がしい。

 厄介事が片付いたかと思えば、またトラブルの種か?

 ホント、オレはトラブルの女神にでも愛されているのかもしれない。


「どうかしたのでしょうか?」

「ん、馬車」

「ホントね。あんなに急いで……お腹でも空いてるのかしら?」

「そんなエミリーじゃあるまいし」

「にゃにおー!?」


 見れば、村の南側からすごいスピードで馬車が突っ込んでくる。

 っていうか、あれはどう見ても止まれるようなスピードじゃない!


「み、皆のもの! 急いで避難を!」


 村長さんが村人たちへ避難指示を飛ばすが、きっと間に合わない!

 オレは村の入り口に躍り出ると、前方へ向かって意識を集中する。


「緑、クッション、壁! [ウィンド・ウォール]!」


 オレの声に反応して、周囲に巻き起こる突風。

 猛烈に吹き付ける風が、馬車の勢いを徐々に殺していく。

 その間に村人の避難は終えたが、依然馬車が止まる様子はない。


「キミ! 早く逃げなさい!」

「あんた、逃げなさい!」


 御者だろうか、馬車に乗っている男女が叫ぶ。

 どうやら馬が暴走して言う事を聞かないみたいだ。

 ただの馬車なら壊すことも考えたが、人が乗っている以上それもできないか。


「クロ様!」

「大丈夫! 催眠、鎮静! [スリプル]」


 オレは暴走する馬に向かって魔術を発動させる。

 馬は、大きく首をのけぞらせた後、徐々に足を緩め、そのまま座るように眠り落ちた。

 馬が眠ったことで動力を失った馬車も、吹き付ける風で完全に停止した。

 オレの目と鼻の先、ほんの数センチの所で。


「よ、余裕だね! ウソです…………ちょっとちびるかと思いました(しくしく)」


 とてもギリギリでした。色々と。


「おどろいた……! これは魔術なのか?」


 御者の二人は寝ている馬を見て首を傾げている。


「ちょっと、あんた何し――」

「クロ様! また無茶をして!」


 後ろで、ミラの声がする。

 その声色が物語っている、この後の展開を。


「正座です!」

「ですよねー」


 オレはその場に大人しく正座した。

 御者の二人は何が何だか、と言った表情でオレを見ていた。


――クローディアは[ウィンド・ウォール]を思い出した!

――【ネクラノミコン・上】に緑の章[ウィンド・ウォール]のページが戻った。


 オレはミラからのお説教をBGMに[オラクル]を聞く羽目になった。



―――――



 二十分後。


「いやぁ、本当に助かった。ありがとう」

「いえいえ……あのミラさん、そろそろ足を崩しても(ぷるぷる)」

「ダメです」

「あい…………(しびしび)」


 馬車から降りてきた中肉中背の中年男性――シゲーロさんは御者ではなくこの商隊の責任者さんだった。

 それに加え、


「まさかシゲーロさんの馬車だったとは。大事がなくて何よりですわ」

「ミラお嬢様にも心配をかけたようで、本当に申し訳ない」

「まったくよ。あてくし一人で何とかなるって言ってんのにこの代表ときたら……! 自分が大商会の頭取って自覚あるのカシラ?」


 呆れ果てた御者の女性――リーフィさんの仰る通り。

 このシゲーロさん、なんとかなりの大商会の代表取締役だという。

 いやぁ、人は見かけによらないなぁ。


「い、いうなよリーフィ! 僕だって色々と考えてだね?」

「お黙りなさい、このおでぶ! 代表になんかあって困る人間はたくさんいるの! おわかりカシラ!?」

「アハハ……そ、それにしても! こんなに小さな魔術師さんが、まさかミラお嬢様のお連れさんだったとは! いやぁ驚いたよハハハ」

「このおでぶ! 誤魔化してんじゃないワ!」


 部下に罵倒される大商会の頭取ってどうなんだろう。

 はたから見ると、ちょっと可哀そうな気もする。

 だがまぁ、今回ばっかりはしょうがないと思う。


「ま、まぁまぁリーフィさん。シゲーロさんも反省されているようでし、そんなに怒らなくても」

「いーのよミラ! こーいう無鉄砲なオッサンにはちゃんと言わなきゃダメなのよ!」

「ワタシもエミリーに同感。自分は怪我してもいいなんて思っているかもしれないけど、怪我して苦しむのは自分だけじゃないって分かってもらわないと!」

「さ、最近の子はきびしいなぁ……」 


 みんなから集中砲火を浴びるシゲーロさんは冷や汗たらたらだ。

 うんうん頷くオレを、ミラ以下数名が白い目で見てくる?

 おりょ? オレ、なんか変な事いいましたっけ?


「でも、クロ様にそれを言われましても」

「そうね」

「クロ、鏡、見る」

「そうよ! あんたもさっき無茶してたじゃないこのおちび!」

「そ、そうだよ? 君みたいな若い子に何かあっていたら、僕は妻に一生口を聞いてもらえなくなっていたよ」

「え、どうしてワタシまで怒られているのかな!?」


 なぜかこちらまで飛び火してきたので、正座のせいで足がしびれて動けないオレは大慌てである。

 と、とにかく、大商会――もとい〝シェラ大商会〟の代表シゲーロさんは、


「じゃあ改めましてよろしく、だね。僕はシゲーロ、シェラさんの夫だ」


 何を隠そう、あの服屋〝ラ・デュール〟の店長、シェラさんの旦那さんだった。

 いや、シェラ商会って名前からもバレバレだと思うけどね。

 と言う事はシェラさんって、社長夫人的なアレだったんだ。

 うん、人は見かけによらないなぁ……


「妻からの手紙で話はよく聞いていたよ。本当に可愛らしいお嬢さんたちだ。キミたちがクロちゃんとエミリーちゃんだね? シェラさんが色々迷惑をかけたかもしれない、ゴメンね。でもありがとう」


 そう言って柔和そうに微笑んだシゲーロさんはとても優しそうな人だった。

 

「代表、ロリコンだけはダメよ。あてくし、同性愛とか異種族間恋愛とかには理解あるつもりだけど、ロリコンだけは死んでしまえばいいと思ってんの」

「ぼ、僕は別にロリコンじゃないよ!?」


 リーフィさん、色々台無しです。


 

―――――



「じゃ、じゃあシェラさんは平気なのかい!?」

「はい、ご健在ですわ」

「というかピンピンしてます」

「むしろ絶好調よね? 悪い意味で」

「あはは……それは申し訳ない」


 聞いた途端、シゲーロさんは安堵の笑みを浮かべて地面に座り込んだ。

 

「でもよかった……まったく、シェラさんも人が悪い。『ツマキトク、スグカエレ』なんて内容の手紙をパト全員が必死の形相で持って来たら、誰だって本気にするじゃないか……」


 しぇ、シェラさん……いくら早く帰ってきてほしいからってアンタなにやっとんのや……


「そう? あてくしは初めから奥様の冗談ってわかってたケド?」

「だったらそう言ってくれれば良かったのに……」

「聞く耳持たなかったのは、どこのおでぶカシラ?」

「あはは……面目ない」

「聞いてよ。代表ったら、手紙読んだ瞬間ぶっ倒れてやんの! ぶわはははは! 今思い出してもアレは最高だったワ! っていうかその時の絵があるケド、見る? 当然見るでしょ? ほら!」


 リーフィさんが取り出した、絵というより写真? には手紙を持ったまま顔を真っ青にして口から泡を吹いているシゲーロさんの姿があった。

 写真を見て爆笑しているのはリーフィさんだけで、オレたちは複雑な顔をしていたと思う。

 

「と、ともかくシェラさんの無事がわかってよかったよ。これで一安心だ」

「じゃあ、もう急ぐこともないんじゃないカシラ? まったく、手紙届いた日にすぐ出発して今日までほぼほぼノンストップ。とんだ鬼畜の所業にあてくし、辞表を出させていただくところだったワ」

「い、いやぁ面目ない」


 シェラさんの無事が分かってから、シゲーロさんの頬は緩みっぱなしだ。

 この人は本当にシェラさんが大事なんだなぁ、とよく分かる。

 うん、商会に妻の名前付けちゃうくらいだからね。

 

「でも、急ぐのは変わらないよ。無事だと分かったら、なおさら早く会いたくなって来たからね!」

「こ、こんのおでぶ! 話を聞いていたのカシラ!?」


 リーフィさんは仮にも自分の上司であるシゲーロさんの胸ぐらを掴んでいる。

 リーフィさんの方がはるかに身長が高いので、かなりの高さまで持ち上げられたシゲーロさんだったが、彼は余裕の表情を崩さない。


「だ、大丈夫なんですか!?」

「うん、いつもの事だからね」


 そ、そうか。いつもの事なら安し……ってか、それもどうなんだ?

 

「こちとら連日連夜の強行軍で疲労困憊ってんの! あてくしだけじゃないワ! 見てみなさい! 馬たちだって、他の連中だって、もうヘトヘトよ! だからあんな低級魔獣の魔術にもやられんのよ!?」

「それはそうだが……ここまで来たらもう目と鼻の先じゃないか?」


 シゲーロさんの言うようにここからスーサまではもう目と鼻の先。

 今から急いで飛ばせば、夕方には到着できるだろう。

 でも、リーフィさんの意見の方が正しい。

 幾ら距離が近かろうと、皆が疲労困憊している今の状態ではかなりの危険が伴う。

 それが大きな荷物を積み込んだ商隊の一団ともなれば、途中でどんなアクシデントが発生するかも分からない。

 無理は禁物、それが最良の選択だろう。


「行くってんなら一人で勝手にしてチョーダイ! あてくしは帰らせてもらうワ!」


 リーフィさんは言葉こそ厳しいが、ちゃんと現実を考えて意見している。

 彼女だって別に本気で帰るつもりはないだろうが、そうでも言わなければシゲーロさんが言う事を聞かないだろうと思ったんだろう。

 ここは彼女の言葉に従うのが正しい。


「分かったよ。リーフィ」


 だがシゲーロさんは譲らない。


「君は先に戻っていてくれ。なーに、僕一人でもなんとかなるさ、これでも昔は――」


 それだけシェラさんを愛しているのだろう。

 な、なんか見た目はちょっとアレだけど、結構かっこいいぞこの人。


「っ! こんのおで――」

「あの!」

  

 シゲーロさんを殴ってでも止めそうなリーフィさんをオレは止める。

 差し出がましいかもしれないが、二人の殴りあう(恐らく一方的だろうが)姿なんて見たくはなかった。


「なによ、おちび」


 オレは懐から赤黒い丸薬を取り出す。


「これ、よければ使ってみませんか?」


 オレはニヤァっとエンジェルスマイルを浮かべた。


「クロ、アンタ今すっごく悪そうな顔してるわよ?」

「クロ様、大抵の事は大目に見ますから、犯罪だけは……!」

「クロ、落ち着く」


 まったく酷い仲間たちだ。

 オレはシゲーロさんの手に丸薬を握らせる。

 別に、『いい実験台発見♪』なんて思っていませんとも、ええ♪


「こ、これを飲むのかい?」

「安心してください。ただの栄養剤みたいなもんです(多分)」

「い、今何か最後に不穏な響きがなかったかい?」

「気のせいですよ(ひゅーひゅー♪)」

「で、でもこれかい?」


 シゲーロさんは手の中の丸薬を見て、顔を真っ青にしている。

 確かに見た目ちょっとやばそうだもんなぁ、これ。


「えぇ、一思いにぐいっと!」


 疲労困憊時の気付けに、【ガリネ丸(仮)】!

 これはガリネの実から抽出したエキスを濃縮してオレの魔力で閉じ込めたおそろ……素晴らしいアイテムだ。

 飲めばたちまち疲労回復(推定)!

 疲れなんて一発で吹っ飛び(多分)!

 一粒で42.195キロくらい難なく完走できる(はず)!

 まぁ、惜しむらくは試すのが怖くて、効果の程を確認できていないことかな?


「ぐ、ぐいっと?」

「あ、でも絶対に噛んじゃダメですよ? 味わうのも無しで。……絶対後悔しますから」

「そ、そんなにかい!?」


 何せ、ただでさえ甘ったるいガリネ汁を煮詰めて濃縮したものだ。

 その味たるや……想像を絶するだろう。

 あ、でも致死量ではないとおもうよ?


「わ、分かった! 僕も男だ! ここは覚悟を決めて(パクッ!)」

「代表……! 骨は拾ってあげるワ……! さぁ、一思いにお逝きなさい!」

「(ぱくっ、もごもごもごもご………)」


 意を決して丸薬を口に入れたシゲーロさんだったが、彼はなかなか丸薬を飲みこもうとしない。

 まぁ、そりゃあれだけ言われたら警戒もするか。


「(もごもごもごもごもご…………)」

「さぁ! 一思いに!」

「(もごもごもごもごもご…………)」

「シゲーロさん! 頑張ってください!」

「(もごもごもごもごもご…………)」

「ふぁいと」

「(もごもごもごもごもご…………)」

「ねぇ、そろそろ口ん中で溶け出すんじゃない?」

「(もっ! もごもごもごもごもご…………)」

「さっさと飲めってんの! このおでぶ!」

「むぐぅ(ガリッ!)」

「「「「あ」」」」


 痺れを切らしたリーフィさんに頭を小突かれた衝撃か、シゲーロさんの口の中で不穏な音がした。


「もぐふっ! げげっ! ぶほぁっ!」


 どうやらシゲーロさん、ガリネ薬(仮※なんかちがうなぁ)を噛み砕いてしまったらしい。


「が!? ぐぇ!? あまっ!? えほっ!」

「ご愁傷様です……」


 顔を真っ赤にして地面を転がりまわっているシゲーロさんに、オレは両手を合わせた。


「オーホホホホホ! なーに? 噛むなって言われてたのに噛んだのカシラ? 大爆笑だワ!」


 いや、あなたのせいでしょうが!?

 その様子を心底楽しそうに笑い飛ばしながら、カメラのような機械で一部始終を撮影しているリーフィさん。

 この人、さっきから思っていたが……どうしようもなくドSだ!

 なんて冷静に解説している場合じゃなかった。

 オレは慌てて魔術で水を作り出してシゲーロさんに渡す。

 シゲーロさんは水で数十回も口をゆすいで、ようやく落ち着きを取り戻した。


「い、いやぁ……これはガリネの汁かい? こんなに濃いのは初めてだったからびっくりしたよ」

「はい、一応そのまま飲んでも大丈夫なように加工はしていたんですが」

「いやぁ、まさか噛んじゃうとはねぇ……ははは」

「まったくよ。バカじゃないカシラ?」

「ねぇ、リーフィ。僕はキミがたまに鬼なんじゃないかと思う事があるんだ?」


 あれは別にフリでもなんでもなかったんだが、実際に噛んでしまうとあぁなるのか。

 ドロップ部分はもう少し固くてもいいかもしれない。

 めもめも……いやぁ、いいデータがとれたなぁ、うん。


「でも、驚いた。確かに身体の疲れが全部吹っ飛んだよ。意識も吹っ飛びかけたけど」

「あ、はい。一応ちょっと【治癒草】の成分が入ってて、液を覆っている部分には魔力回復効果もありますから」

「ふーん……あてくしにも一つくれるカシラ?」

「えぇ、どうぞ。絶対噛んじゃだめですよ?」

「噛まないっての……(ひょいぱくっ)」


 リーフィさんはオレのあげた丸薬を興味深そうに眺めた後、噛まずに一口で飲み込んだ。

 飲んだ途端体に現れた変化に驚いたようだが、すぐニヤリと面白そうに笑った。

 

「なるほど。元気ビンビンね♪」

「ですかー」


 誤解を招きそうな表現で妖しく笑うリーフィさんは置いておいて、オレは先ほどスリプルで眠らせた馬の元へ行き、こっそり[ヒール・リング]を施す。


「へぇ……」


 オレが回復魔術を使っているのに感づいたのか、リーフィさんは口元をわずかに上げた。

 でもまぁ別にこのヒトたちはシェラさんの知り合いだし、特に隠す気もなかったので気にせず処置を続ける。

 念のため[アナライズ]して状態をチェック、【混乱】は消え【睡眠】だけになっていたので[キュア・ボディ]をかけて目を覚まさせる。

 ついでにさっきの強壮丸(これだ!)を飲みこませ、疲労回復もさせた。

 その間もリーフィさんはオレをじっと監視しているようだった。

 というより、観察? まだなんとなく、彼女からは信用されていないように感じるし、変なことしないか様子見でもしてるのだろう。


「これで多分スーサまでくらいなら、なんとかなるんじゃないでしょうか?」

「ヒヒヒィーン!」

「おぉ! デルタがあんなに元気になって! キミは魔法使いか何かかい?」

「そうですね。本業は考古学者ですが、副業でちょっと魔法使いも嗜んでおります」

「コーコガ? 何だかよく分からないけど、すごいんだね!」

「……そうね。確かにこれなら行けなくもないワ」

「ホントかい!?」


 リーフィさんの言葉に、シゲーロさんも微笑む。


「でも、おちび。何であんたがここまでするワケ? こんな怪しい道具とか魔術とかを惜しげなく使ってまで、どうして先を急がせたいのカシラ?」

「さぁ?」

「答えなさい。あんたは本当にただのおせっかいなお人よし? それとも……?」


 リーフィさんの顔は真剣だ。

 まぁ、いくらシェラさんにお世話になったとはいえ、普通他人にここまでするか? と思うのは当然である。

 相手が大商会の代表ともなれば、人付き合いに慎重になるのも当然。

 つまり暗に『どんな下心があるんだ?』と聞いているんだ。

 やはりこのヒト、適当に見えて優秀な秘書さんのようだ。


「それは、そうですね……」


 こういう人には『本当にただのおせっかいです』なんて言っても逆に信じてもらえないだろう。

 ならオレの答えは一つ。


「早くシェラさんたちのお子さんが見たいから、かな?」


 オレの言葉にシゲーロさんはキョトン、としている。

 そりゃそうだ。

 なぜなら彼の中でシェラさんはまだ子どもが作れない身体なのだから。


「ぷ」


 だが、


「ぶわははははっはは!」


 リーフィさんは違った。

 男の人みたいに豪快な笑い声で、お腹を抱えて笑い転げている。


「はーっ、可笑しい。おちび、あんたのジョーク最高ね」


 リーフィさんは、目に涙を溜めたままオレに詰め寄る。

 だが目は笑っていない。

 真剣そのものだった。


「でもそれ、本気で言ってるワケ?」


 彼女も当然シェラさんの身体の事は分かっているのだろう。

 目が物語っている。『悪い冗談なら、ただではおかない』と。


「当たり前です! ワタシ、笑えない冗談は大嫌いですから」

「奇遇ね。あてくしも大っ嫌いよ」

「気が合いますね」

「冗談。あてくし、現実を知らないお子様は大っ嫌いなの」

「ワタシも、夢を見れない大人は好きじゃないですね」

「ふ、二人ともケンカはダメだよ!?」


 オレとリーフィさんは瞳で火花を散らす。


「……悪いケド、やっぱ信じらんないワ」

「うーん、信じてもらうにはどうしたら……牙は置いてきちゃったしなぁ……」


 オレの口に出した〝牙〟という単語に、リーフィさんはぎょっとする。

 ニヤリ、どうやらオレの言いたい事を理解してくれたようである。

 ホント、理解の早い人で助かるね。


「……ふん! ホント、おせっかいな魔法使いもいたもんだワ」

「わぷ!」


 リーフィさんはオレの頭をぽん、と優しく叩くとシゲーロさんの方へ近寄っていき、


「(げしっ!)」

「ぶわっ!?」


 自分の上司をあろうことか足蹴にした。

 ホントこのヒトなんでもありだなぁ。


「代表、やっぱあてくしは先に帰らせてもらうワ」

「それは構わないけど、どうして僕は蹴られたのかなぁ?」

「あてくしが付いてっても、お邪魔にしかならなそうだもの」

「だからどうして僕は……? いや、いつもの事だしいいけどさ」

「それもいつもの事なんですね……」

「でもどうしてリーフィが邪魔になるんだい? 別に一緒に来るのぐらい、いつもの事じゃないか?」」

「さーてねぇ? おちび、わかる?」


 リーフィさんはイヤらしくオレに笑いかけた。

 このヒト、子ども相手に何聞いてくるんだ。ホンッとドSだな。


「えー? 何の事でしょうかー? ワタシぃ、わっかんなーい?」


 オレはブリブリと答える。

 だってー、オレってば花も恥らう乙女だしー?

 そんなどうして夫婦水入らずの理由なんてわっかんなーい(てへぺろっ♪)。


「あ、そうだ代表。さっきの丸薬? アレは貰っておいた方がいいワ」

「あ、そうですね。とりあえずあるだけ全部です。どうぞ」


 うーん……大体20個くらいか。

 ま、これだけあればしばらく持つだろう。


「あ、ありがとう? でもどうしてこれが必要になるんだい?」

「なかったら、死ぬワ」

「死ぬのかい!?」

「死ぬかは分かりませんが、絶対役立つはずです。何に使うか分かりませんけど」

「マセガキ」

「えー? なんの事ですかー?(ぷりぷり)」

「? ありがとう?」


 それもこれも全てシゲーロさんの為である。

 ただ、無理は駄目ですよ?

 何事もヤりすぎ注意です。


「じゃ、じゃあ僕は行くね。本当に、何から何までありがとう」

「いえいえ……御武運を」


 シゲーロさんは元気になった馬の背に颯爽とまたがる。

 その姿はさながらナポレオン……にしてはちょっと太いかな?

 オレは近くで見送るふりをして、こっそり馬に[イン・ドゥーメ][マキシ・アンプ]をかけておいた。

 だってせっかくなら、少しでも早く着く方がいいもんね。


「何かお返しが出来ればいいんだけど、今は持ち合わせがあまりなくてね」

「いえいえ、シェラさんに元気なお姿(意味深)を見せて下さるだけでいいですから!」

「マセガキ」

「えー? なんの事ですかー?(ぷりぷり)」

「キミたち実は仲いいよね?」

「「全然!」」

「ハハハ……でもどうしようか。それだけじゃ僕の気が収まらないんだ」

「ですからお気に……あ、じゃあ!」


 オレは持っていた紙にさらさらと書を(したた)め、封をしてシゲーロさんへ渡す。


「じゃあスーサに着いたらまずこの手紙を教会のミルトさんへ届けていただけませんか? 真っ先に」

「もちろんOKだけど、真っ先にってひょっとして、急ぐのかい?」

「はい、出来ればシェラさんに会う前にお願いしたいです」


 会ってからだったらそれどころじゃなくなるだろうし(体力的に)、割と急ぎたい内容だからどうしても先に届けてほしかったりするのだ。


「お安い御用さ」


 そう言って笑うシゲーロさんに、リーフィさんが不遜に言う。


「あ、代表。皇都の方はあてくしがなんとかしとっから、しばらく骨を休めて来るといいワ。ただでさえいっつも奥様のためっつって働きすぎてんだから。奥様んとこでこってり絞られてくる(意味深)といいんじゃないカシラ?」

「ははは……やっぱり怒られるかなぁ? これでも小まめに連絡はとってるつもりなんだけど……」

「ま、休ませてもらえないと思うケド?」

「? どういうことだい?」


 リーフィさんはオレの方に視線を送ってくるが、オレは知らんぷりする。

 まったく、花も恥らう乙女に何を期待してるんですかねニヤニヤ♪


「それじゃ、名残惜しいけど僕は行くね? クロちゃん、今日のお礼はいずれ必ず。あ、リーフィ、このお嬢さんたちを僕の代わりだと思って……」

「いいからさっさとお行き! このロリコンおでぶ!(どげし!)」

「ヒヒィーン!?」


 リーフィさんが馬のお尻を蹴り飛ばすと、馬は嘶いて猛スピードで飛び出していった。


「いじょいあでゃ;hrふぁ;へf:あひ:お!?」


 声にならない叫びを上げて必死で馬にしがみついているシゲーロさんに、オレは敬礼した。

 やっぱり強化魔術はやり過ぎたかもね。

 しっぱいしっぱい(テヘペロ♪)

 ……シゲーロさんマジごめんなさい。


「さって、じゃあ、あてくしも戻るカシラ?」


 残った商隊に指示を飛ばして、帰り支度を始めるリーフィさん。

 彼女たちは先に皇都へ戻るらしい……ってあれ、これって渡りに船ってやつじゃない?


「あの、皇都に戻るなら付いて行ってもいいですか? ワタシたちもちょうど、皇都へ行く商隊を探してたんです」

「あらそうなの? ならちょうどいいワ。あんたたちには代表に代わって何かお礼しなきゃと思ってたところだもの」

「やた!」


 これで皇都へ行く目途が立った。

 オレが一人ガッツポーズをしていると、エミリーに服の裾を引っ張られた。

 そういや、やけに静かだったけど、一体どうかしたのだろうか?


「ねぇ、クロ」

「ん、なぁに?」

「さっきのアレ、どーいう意味よ?」

「さっきのアレ?」

 

 はて、何のことだろうか?


「邪魔になるとかならないとか。あと気付け薬が必要とか? 戦いじゃない事だけはわかったけど」

「ふぁっ!? あ、あーあれね? あれかアハハハハ」


 間違いなく、アレの事をおっしゃっている!?

 アレはほら、あまり口に出すような事ではないと言うか……というよりオレ生娘だからそういうのは詳しくないって言うか……わーん、誰か助けてへるぷみー!?


「さささささぁー? 何の事デセウカ? わて、わてくしさっぱりでゴザル?」

「うそ。アンタってホント演技が下手よね。絶対わかってんでしょ?」

「うぐぅ!」


 どうしてエミリーってば、こういう時だけ鋭いのだろうか。


「ミラも、ルーミアも分かんないみたいだし、でもアンタは知ってんでしょ? だったら教えなさいよ!」


 オレはミラとルーさんの方を見る。


「(さっ/////)」

「(……すっ///)」


 二人とも頬を赤らめて目線を逸らした。

 くそぅ、二人とも実はご存じでらっしゃるな!?

 妙に静かだと思っていたけど、こうなるのを見越して知らないふりをしていたのか!

 なんという巧みな罠だ……!


「クロ!」

「ぐっ!」


 エミリーのまっすぐな視線が、オレに突き刺さる。

 こんなにまっすぐに見られて、その(ごにょごにょ)なんて説明できるか!

 女神よ、なぜオレはこんな辱めを受けねばならないんでしょうか!?


「こらこらおじゃり。あんまり友達を困らせるもんじゃないワ。それはこんな所でするような話じゃないの」

「むぅ……」

「リーフィさん……!」


 追い込まれたオレを救ってくれたリーフィさんが、オレには女神のように見えた。


「――だから宿に帰ってからゆーっくり、話そうじゃないカシラ? 出発は明日にするから、今晩はみーんなで、おちび先生にその辺を詳しく教えてもらいましょう(ニタァ♪)」

「あ、ソレいいわね♪」

「く、クロ様のお口から……//////」

「ん、たのしみ/////」

「ちょーっ!?」


 やっぱこのヒト、超がつくドSだよ!


――その晩、オレがこっそり宿を抜け出して教会へ匿ってもらったのは言うまでもない。

 ただし、次の日の朝、リーフィさんから話を聞いたらしいエミリーに『クロのスケベ///』と言われたショックは大きかった。

 やっぱ最低だよあのヒト! 女神どころか邪神だよド畜生!

こうしてクロたちはメイジン村を旅立ちました。

クロとリーフィさんが仲がいいのは、共通点があるので結構思考は似通っているかもしれません。

その辺は次々回ですね。

次回はちょと幕間です。ついに、あれが! あれします!←(どんなや!)

時間は少しだけ戻りますので、ややこしいかもしれません。お気を付け下さい。

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