表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
62/104

黒の系譜02-幕間01『炭酸ジュースが飲みたくて』

時間軸的には、2章13話のすぐ後のお話ですね。

「さてさて、ちょっと一息つこうかな」


 酔った人々の介抱はだいたい終わったが、やるべき事はまだまだある。

 ゴミの処理、荒れた周囲の整地に、昼ご飯の準備などなど、結構盛りだくさんだったりする。


「(結構頑張ったし、ここらで一息さぼ……休憩も必要だよねー?)」


 オレは教会の陰に隠れて、懐から出した解毒薬(ガリネ)をくぴくぴとやる。

 ミラには怒られたけど水分補給は必要だし、一本だけならいいよね。


「ぷはー! うーむ、ダメと言われると飲みたくなるこの味……まさに禁断の味! けぷ!」


 オレは空になった瓶を証拠隠滅し、また新たに一本取り出す。

 い、いやホントにも、もう一本だけだ。

 ホントあと一本だけ……


「くぴくぴ……」

「あー! クロさまさぼってるー!」

「さーらにほうこくだー!」

「ぶふぁっ!?」



 教会ちみっこ組に見つかってしまったオレは盛大にジュースを吹き出した。

 まずい、さぼって一人だけジュースを飲んでいたのがバレれば、今度こそガリネ禁止令を出されてしまう。

 それだけはいけない!

 何かいい手はないか……!


「くんくん……いいにおいなのー♪」

「クロさま、それなにー?」


 ……ははぁーん?


「(ちょいちょい)」

「なにー?」


 オレはちみっ子たちを集めると、懐から取り出した解毒薬(ガリネ)を手渡してあげる。


「くれるのー?」

「お姉ちゃんがここにいたのを黙っててくれたら、あげてもいいよー?」

「ば、ばいしゅーだ!」

「きいちゃだめなのー! あくじょのささやきなのー!」

「で、でもおいしそうなのだわー!」

「うぅ……おいしそー」

「オイシイヨー。アマクテオイシイヨー」


 結論。


「おいしいおー♪」

「ミーはわるくないの。じゅーすがおいしいのがいけないのー」

「ぷはー! このいっぱいのためにいきてるのー♪」


 オレの手にかかれば、ちみっ子たちの懐柔など造作もないのさ!

 オレが勝利の美ジュースを煽っていると、シャーナが『でも……』と漏らす。


「どうしたの? 美味しくなかった?」

「おいしいのだわ。でも、シャーナはおかーさまのしゅわしゅわの方がすきなのだわー」


 しゅわしゅわ? はて、それは何だろうか?


「スーナもすきだおー!」

「あのしゅわしゅわはとくべつなのー!」

「しゅわしゅわ、またのみたいなぁ」

「ねぇ、その『しゅわしゅわ』ってなに?」


 オレが興味本位で尋ねると、みんな一斉にしゃべり出す。

 わいわいと賑やかなのは可愛いが、オレは聖徳太子ではない。

 一人ずつゆっくり話してもらった。


「んと、ぷちぷちしたのがはいってるのー」

「おみずみたいなのだわー!」

「のむとねー、おくちのなかがしゅわしゅわーってなるのー!」

「おいしくてたのしいおー!」


 ふむふむ……『ぷちぷちしたのが入っている』『おみずみたい』『のむとしゅわしゅわ』…………ふむむ?


「そそそそ、それって、もしかして!?」


 ままままままままさか!?


「見つけました! どこにもいないと思ったらこんな所で……みんなでさぼってたんですか!?」

「ば、ばれたわー!」

「ぜんぶじゅーすのせいなのー!」


 オレたちを探し回っていたのか、少し汗をかいているサーラさん。

 怒り心頭といったご様子だが、オレは今それどころではなかった。

 彼女の汗が鱗にふれた瞬間、ぽこぽこと気泡が出ていたのだ。

 『しゅわしゅわ』『鱗』……それらから推測される答えは一つ、オレは確信した。


「サーラさん!」

「は、はい!」


 オレは興奮冷めやらぬまま、彼女の手を取って、お願いした。


「アナタをください!」

「は、はい! え? ななななななにを!?」


 大慌てだったので、とんでもない言い間違いをしてしまった。

 気を取り直して、今度こそ、


「間違えました」

「で、ですよね。突然変な事をおっしゃるから驚いて……」

「アナタがほしい!」

「は? え? えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 あれ、まだちょっと違うかな?

 大事な事を伝えるのって、難しいんだね。



―――――



「で、ではいいですか?」

「はい! ぜひお願いします!」


 教会の調理室にはオレとサーラさんの二人きりである。

 彼女は緊張した面もちで、頬をわずかに赤らめながら落ち着かない様子で立っている。


「あ、あの……やっぱり一度水浴びを……」

「いえ、待てません。今、お願いします」

「でも、わたしのなんてその……きたないかも」

「汚くない!」


 オレは興奮してついつい声を荒げてしまった。

 いけないいけない。

 あまりに大きな声を出してしまったせいで、サーラさんを驚かせてしまったようだ。


「大きな声を出してしまってすみません。でも、わかってほしいんです。アナタたちはけして汚くなんてないって」

「あ……」

「こんなに、綺麗じゃないですか」

「そんな……綺麗だなんて……」


 獣人族が汚いとか、卑しいとか、愚かだとか。

 刷り込まれた考えや感情はそう簡単に拭えないかもしれない。

 でも。少しずつでもその考えは改めていってほしいと思う。

 自分勝手な願いかもしれないけど、


「ありがとうございます。クローディア様」


 彼女たちが笑ってくれるなら、オレはやっぱり間違っていないはずだ。


「で、では! 行きます!」

「わくわく♪」

「――っ!」

「おぉー!」


 サーラさんは、覚悟を決めて神官服の襟元をはだける。

 白くて綺麗な首筋が露わになり……


「あ、あの。クローディア様? あまり見られていると、その……大変やりづらいのですが?」

「あ、お構いなく」

「いえ、そういうことではなくて……」

「わくわく♪」

「ですからそのはずかし……」

「わくわく♪」

「……っ! わかりましたよ! やります! やればいいんですね!? ……女神よ、これが試練なのでしょうか……!」


 何故か顔を真っ赤にしながら、サーラさんはひと思いに手を服の中へ突っ込み、


「えい!」


 ぺりっ、とデコルテ付近の鱗を剥がし取った。

 たったそれだけのはずなのに、サーラさんは肩で息をするぐらい消耗している。

 鱗を取るのって実は大変なのかな?

 だとしたら、ちょっと申し訳ないことをしたかも?

 

「はぁはぁ……こ、これでいいんですか?」

「わぁ……綺麗な鱗ですねー」

「……ひょっとしてさっきのも?」

「はい? 鱗の事ですよ?」

「……だと思いました。はぁ……」


 サーラさんから鱗を受け取って日の光に好かしてみると、透明な鱗の内側に七色の光が見えてすごく綺麗だった。

 だが、今はそれを堪能している時ではない。


「えぃやっ!」


 もったいなく思いながらも、オレは鱗をひと思いに割る。

 キィン、という澄んだ音が耳に涼しい。

 断面がぽこぽこ泡立っているそれを、オレは瓶に注がれた水の中へ静かに沈めた。

 たちまち鱗は溶けて、代わりに水の中が気泡でいっぱいになる。


「お……おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 これぞまさしくオレの求めていた物!

 いや、まだそうと決まったわけではないが、限りなくそれに近いのではないだろうかそう!


「炭・酸・水!」

「か、海人族の鱗というのは体から溢れる魔力と周囲の空気が混ざりあって結晶化したものなんです。酸素の少ない深海でも酸素が確保できるようにということらしいのですが……」

「わーいわーい!」

「聞いていらっしゃいませんね……はぁ……」


 オレはしばらく瓶の周りを回って喜びを表現した後、慎重に瓶の水を口に含む。

 なぜかサーラさんが恥ずかしそうに顔を伏せっていたのが気になったが、炭酸水を飲んだらそれすらもどうでもよくなった。


「ほんのりとした甘み、飲むたびに口の中で弾ける気泡、それでいてのどごしはスッキリとしている……!」

「か、解説しないでください! その……はずかしいので(ごにょごにょ)」

「これぞワタシが追い求めていた味! 炭・酸・水!」


 オレは再び瓶の周りを踊りまわって感動を表現した。


「お、お粗末様です/////」


 これでついに夢に見たガ○ナの完成である!

 オレは真っ赤な顔で泣きそうになっているサーラさんと何度も握手を組み交わした。



―――――



「いいですか!? 幼少期なら鱗はよく生え変わったりもするのですが、大人になったらそんなことはほとんどありません。鱗を取って渡すなんてほ、本来、近しい方にしかしない行為なんですからね?」

「そうなんですねひゃっほー!」

「だ、だから誰彼かまわず『アナタの鱗をください!』なんて言っちゃだめなんですよ!」

「わかってますよふんふふーん♪」

「……本当におわかりなんでしょうか?」

「もちのろんですよやふー♪」


 海人族の鱗は数時間もすればまた自然精製されると言うことなので、オレは遠慮なくサーラさんの体中にある鱗という鱗を頂いた。

 鱗一枚で大体桶一杯分位の強炭酸水が作れるようなので、これだけあれば結構な量が作れるだろう。

 こっそり[アナライズ]してみるとアイテム名が【海人の鱗】となっており、やはり人魚の鱗とは別物だと分かる。

 ま、ぶっちゃけ炭酸水さえできればどっちでもいいんだけどね! 


「うふ、うふふふふふふ……♪」

「クローディア様、少し不気味です……」

「うぉっほっほっほっほ♪」


 どうしよう笑いが止まらない。

 早速、懐から出した解毒薬(ガリネ)を炭酸水で割って飲む。


「こ、これだ!」


 カッ、と目を見開きオレは口から光線を吐き出して天に向かって吠える(※イメージです)

 これこそ、オレの求めていた伝説のジュース!

 GARANA!

 感動のあまりオレが涙すると、味が気になったのだろうサーラさんがじっとジュースを見つめている。 


「よければどうぞ? サーラさんのおかげで作れたようなものですから」

「あ、ありがとうございます。では一口……(くぴ……! ごきゅごきゅごきゅ!)」

「あぁ!? 一口で一気に!?」


 少し勧めたつもりだったのだが、サーラさんは驚いた表情をしながらも一気に全部飲んでしまった。

 気に入ってもらえたようなら何よりだ(しくしく……)

 オレが涙目になりながら一人満足げに頷いていると、


「あー!」

「ずるいのだわー!」

「なのー!」


 ちみっこ組がなだれ込んできた。

 どうやらオレが何をするのか気になって付いてきていたらしい。


「おうおうクロ。おいしそうなモン飲んでんじゃない! アタシにも寄越しなさいよ!」

「ミーも!」

「ニーも!」

「あい!」

「なのだわ!」

「おなじく!」

「のませろー!」


 なぜか増えていたエミリーを筆頭に、子どもたちが一斉にジュースを所望する。

 いつの間にかサーカス団のちみっ子や、村の子ども達までやってきていた。

 どうしたものかと思って、サーラさんに目配せすると、彼女はため息をつきながらも許可してくれた。


「じゃあ、少しだけだよ?」


 子どもたち(一部エミリーを含む)大歓喜である。

 オレは苦笑しつつ、懐から取り出した解毒薬(ガリネ)を炭酸水で割り……

 


―――――



「どうして、こうなった……!」


 オレは[アイテム]欄に表示された【解毒薬(ガリネ):1】という表示を見て嘆く。


「うんめー!」

「なんじゃこりゃー!?」

「二日酔いにはちょうどいいわ!」

「宴じゃー! 今日も宴じゃー!」


 周囲では子どもも、いい年をした大人たちも、みんなコップに注がれたスパークリング・ガリネ(仮)を飲んで大騒ぎである。

 酒好きの人たちからも、酔わないのにお酒気分が味わえると大好評である。

 まさかこんなにガリネ人気がでるとは思わなかった。

 いやぁオレも嬉しいよしくしく……


「すみません。まさかこんなことになるなんて……」

「いえ、いいんです」


 顔を真っ赤にして小さくなっているサーラさんに、オレは心の底から謝った。

 結局、彼女に頂いた鱗は全て泡となって消えたからだ。

 炭酸水だけにね!

 ……ごほん。


――こ、子どもたちにジュースをあげると、大興奮した子どもたちによってみるみるうちにジュースの存在が知れ渡ってしまった。

 そっからはあれよあれよと言う間に、炭酸ガリネを求める人々がやってきて……ご覧のありさまである。

 時間はすでに正午近く、気温が高くなってきていたのもあるのだろう。

 咽の渇いた作業中の方々にはまさに渇きを潤すエリクサー、大盛況となったのだ。

 途中からサーラさんの魔術で作り出した氷を入れたのも功を奏して(?)瞬く間に解毒薬(ガリネ)は無くなっていった。

 

「クロ、おかわり!」

「ちょっと黙ってて! うぅ……また補充しなきゃ」

「クロさまないてるのー?」


 オレがサーラさんの隣で地面に〝の〟の字を書いて泣いていると、犬耳っこたちが心配そうにやってきてくれた。

 ええ子たちや……どっかのツンデレ娘と違って!


「げんきだしてー?」

「うん、ありがとう二人とも(げしげし)」

「こ、こら! なんでちびどもは撫でて、アタシは足蹴にされんのよ!」

「うっさい暴飲鬼(のんだくれ)!」


 癒し系犬耳っ子たちを撫でてオレは心を和ませるが、失ったモノは帰って来ない。

 オレが時の流れの無情さを想っていると、


「そうだ! じゃあコレあげるの!」

「ありがとう。これは……木の実? っ! じゃない!」


 ミーちゃんがくれたのは、木の実ではなく解毒薬(ガリネ)の原料の一つ【ガリネの実】であった。


「かじるとあまいのー♪」

「げんきでるのー!」


 聞けば彼女たち、ヒーラやフーラ、ブラックウルフたちと一緒に森で食べられる野草を取ってくる際、一緒に木になっているこの実を取ってくると言うではないか。

 疲れた時のちょっとしたおやつに良いらしい。

 このド甘いのを平然と食べれるなんて……ちみっ子恐るべし。

 他にもポーションの原料となる【治癒草】や【解毒草】などもよく拾って来ては、キーラやジーラが薬に調合して村人にあげているという。


「クロさまげんきでたー?」

「最高にでたよ!」


 オレはミーちゃんをハグして、歓喜する(※オレはロリコンではない)


「ふふ……ふふふふふふふふ! ふふふのふ!」


 オレは次から次へと出てくるアィディーッア(いい発音)に笑いが止まらない。

 こらこらエミリー君とちみっ子諸君、引くんじゃありません。

 別にオレは妖しいヤツじゃありませんよ?


「サーラさん、泣くのはまだ早いようです」

「……クロ―ディア様、何ゆえ笑っているのでしょうか?」


 怯えるサーラさんにオレは笑顔で答える。


「サーラさん、生きていくためには働く必要がありますよね?」

「あ、あるとは思いますが……」

「ですよね!?」

「きゃっ/////」


 オレはサーラさんの肩をむんずと掴む。


「やりましょう! サーラさん、家族の為に身を削る覚悟はありますか!?」

「…………嫌な予感がしますが、文字通りの意味ですか?」

「文字通りの意味ですね」

「女神よ……これが試練なのですね?」


 サーラさんは、諦めたように頷いた。

 そう、これはオレのためではない。

 教会のみんなのため、ひいては世界全体のためなのだ。


「ふぅははははははははははは!」


 けして、けしてオレが炭酸ガリネ(仮※こっちの方がいいかな?)をただ飲みたいからというだけではないのだよ!



―――――



「たいちょー! はっけんしたのー!」

「偉い! ほめてつかわす!」


 オレはブラックウルフにまたがったニーナちゃんから【解毒草】【ガリネの実】を受け取り、報酬として魔力ドロップを進呈する。


「(なでくりなでくり♪)」

「きゃー♪」


 ひとしきり頭を撫でた後、次の魔草採りをお願いした。


「クロ! これでいいんでしょ! ほらはやくアタシにもアメよこしなさいよ!」

「……【雑草】【モイの実(種)】【蜂の巣(小)】【雑草】【蛇毒草(猛毒)】【雑草】……エミリー・ゴー・バック!」

「むっきー! ってゆーか魔草なんて分かりづらいものどうやって探せって言うのよ!」


――もうお分かりだろうが、現在オレたちは近くの森にて魔草採集の真っ最中である。

 メンバーはニーナちゃん、ミーナちゃん、ヒーラにフーラ、エミリーとミラの6人。

 これも全て炭酸ガリネ製造計画……通称〝T・G・S〟のためだ。

 ちなみにここにいないルーさんはキーラやジーラに調合の手ほどきを、サーラさん、スーナ、シャーナの三人は親子で仲良く(サーラさんの羞恥に染まる顔が少し可愛らしかった)鱗の用意である。

 

「クロ様、これは使えますか?」

「ん、おっけー。この位大きければ十分だよ!」

「クロさまー!」

「うん、ミーナちゃんもバッチリ」

「どうかな? ヒーラ」

「いいんじゃない? フーラ」

「うんうん、ヒーラとフーラもばっちし。みんな優秀だなーHAHAHA!」

「次はアタシよ! さぁアメよこしな――」

「【雑草】【石膏の実】【レンホウの種】【ピーナスの種】……ゴーバック!」

「おぼえてなさいよー!」


 犬耳っ子、翼っ子たちは普段からやっている事なのでさすがに慣れているようだ。

 ミラも、オレが教えた[ポケット・ソナー】を上手く使い、的確に魔草を持ってきてくれる。

 エミリーはかすりもしないな。

 野菜の種や魔草なんか見つけてくるのはある意味才能かもしれないけど。

 再び森へ散って行ったみんなを見送り、オレも作業を続ける。


――炭酸ガリネの人気に目を付けたのオレは、その製造方法をサーラさんたちに譲る事にしたのだ。

 というか、原料の一つが【海人の鱗】だから、製法を教えるとしたらサーラさんとかぐらいにしか教えられない。

 だって製法が不用意に広がり、海人族の人たちが今まで以上に不当な扱いを受けるようになったら嫌だしね。

 で、原料採取から調合まで、チーム分けして教えることになったのだが。


『じゃあオレは調合チームに……』

『(びくっ!)』

『じ、ジーラ?』

『(さっ!)』


 どうにもトラウマを掘り返した原因として、オレはジーラに嫌われている事が判明したのだ。

 近寄ると逃げられるし、声をかけると驚かれるし、ドロップをあげてもしまってしまう(貰ってくれるだけいいのだろうか?)餌付けもさせてくれない。

 オレに原因があるとはいえ地味にショックである。

 なので調合班はルーさんにお願いして、オレは採取班の付き添いとなった。


「で、オレは一人さびしく畑耕し、っと……ぽぽいのぽーい」


 オレはそこらへん中に魔製珠で作った小さ目の魔力結晶をばら撒き、[アース・ニードル]や[アース・ウォール]を使って地面を隆起させたり更地にしたりして魔力結晶を地面の中へ馴染ませていく。

 これは実験の一環で、魔草が育つうえで必要不可欠な魔素を残すため地中に魔力を馴染ませているのだ。


(これからも魔草が取れるようにしとかないといけないからね)


 せっかく炭酸ガリネが名物になっても材料切れになったら元も子もないもんね。

 あまりやり過ぎると、魔物増加の原因になる可能性もあるし、ほどほどに撒いて様子を見ることにした。

 一仕事終えてオレが最後の炭酸ガリネをちびちびやっていると、エミリーが大量の草を抱えて戻って来た。


「クロ! これでどうよ!?」

「どれどれ……おぉこれは!」


 どうみても魔草ではないそれを[アナライズ]して、オレは驚きの声を上げた。


「ふふーん! アタシだってやればできんのよ!」


【クスクス草:

 割とどこにでも生えている雑草だが、燃やすと独特の香りがするため一部貴族の間では密かに香草として親しまれている。恐るべき繁殖速度を持つので、畑などに生えるととても厄介】


「この辺に生えてたの全部引っこ抜いてやったわ! これだけあれば……!」

「エミリー偉い!」

「じゃあ!?」

「でもやり直し!」

「なんでよー!?」


 こうしてリカム園を襲うかもしれなかった脅威は、一人のツンデレ娘によって知らずに排除されていた。

 結果的に、エミリーは魔草を拾ってこなかったものの、森のゴミや毒草、害草などを一掃してくれたようだった。

 エミリー、いい仕事をしてくれる。



―――――



「ん、あとは、まぜるだけ」

「はい! お姉さま!」

「は、はい」

「ただいまー。おぉ! 結構出来てる!」


 カゴいっぱいの魔草を持って教会に戻ると、キーラ、ジーラ、ルーさんの三人によって、結構な量の解毒薬(ガリネ)が作られていた。

 他にも練習として酔い止めやポーション(リカム)なども作ったようで、かなり頑張って作業していたようだ。


「おかーさま、げんきだすのだわー!」

「おかさま、つるつるー?」

「しくしく……これも、この教会を守るため……しくしく……」


 部屋の隅には大量の鱗(サーラさんの羞恥の涙が目に浮かぶようだ)があり、サーラさんたちも身を削って頑張ってくれていたことが分かる。

 オレは近くにあった解毒薬(ガリネ)を手に取る。


「どれどれ……[アナライズ]」


 見たところ品質に問題はまったくなさそうだ。

 だが、問題は如何せん味。

 味が良くなければ、結果としては炭酸ガリネが売れない。

 

「おっと、ちょうどいいところに出来上がっている炭酸ガリネがあるじゃないか。じゃあここはオレが代表して味見を――」

「だ、ダメ!」


 オレが解毒薬(リカム)の味見をしようとすると、ジーラが瓶を奪って脱兎のごとく逃げ出してしまった。

 くすん、やはりオレは嫌われているのだろうか?


「ジーラ!? どうしたの急に?」

「の、飲むなら。そっち」


 キーラの後ろに隠れてジーラは別の瓶を指さしている。

 えっと、つまりアレは彼女の分で、お前が飲みたいなら自分で新しく作れ、とそういう事かな?

 

「こっちのなら、いいの?」

「(コクコク)」


 オレは首を傾げながらも、近くにあった瓶を一つとって、炭酸水で割って飲んでみる。

 うーん、この味と飲んだ後の清涼感……


「完璧!」


 オレが笑顔で親指を立てると、神官二人はほっとした様子だった。


「良かったね、ジーラ」

「う、うん/////」


 これなら十分商品としても売りだせるだろう。

 〝メイジン村教会の炭酸ガリネ〟これは名物になるね!

 も、もう一杯だけ! ……くぴくぴ。


「クロ、そっち、どう?」

「けぷっ! 上々です! じゃーん!」


 オレは籠一杯の魔草を上機嫌で見せる。

 これだけあれば結構な量のアイテムが調合できるし、無くなった解毒薬くらいすぐに補充できそうだ。


「ん、なかなか」

「あとは、そうですね。新しい魔草とかもあるので、また色々レシピを考えるのが楽しそうです」


 今回拾ってきた魔草の中には【蛇毒草(猛毒)】やら【石膏の実】なんていうのもある。

 また色々と怪し……面白いものが作れるかもしれない。


「ん、さすが」

「………………」

「ん? なに?」

「い、いえ何でも……」


 いつもならここで、『クロ、えらい』とルーさんが頭を撫でに来るのだが、その気配が全くない。

 それはそうだ。

 なぜなら、彼女は、


「(なでくりなでくり)」

「ふわっ♪ お姉さま耳は……! ひゃう♪」


 膝の上のキツネ耳っ子を愛でるので忙しいのだから!

 な、なんだろうこの敗北感は……!


「ぐぬぬぬぬ……」

「へんなクロ(なでくりなでくり)」

「ひゃわっ♪」


 べ、別にルーさんに撫でられるのが好きってわけではないけれど。

 でもいつもされているから、無かったら無いで少し寂しいとか。

 そんなんじゃないよ!


「(じー)」


 だからジーラ、そんな可哀そうなモノを見るような目でオレを見ないで!


――こうして、メイジン村の教会では炭酸ガリネが飲めるようになり、リカムティーなどと同じように村の名物の一つとなったのだ。

 その陰で一人の海人族の女性が羞恥の涙で枕を濡らしている事を、一部を除いて誰も知らない、

ちなみに、ガ〇ナは英語にするとGとAの間にUが入るんですが、あえてGARANAにしてあります。これはわざとです。

さて、結果的にメイジンの神官数名はこの後、怪物の狂宴に所属することになったわけですが、サーカスでも炭酸ガリネが飲めるようになり、大盛況を博します。が、それはまた別の機会にでも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ