黒の系譜02-13『夜が明けて』
※11/26修正しました!
ご指摘いただきまして、この時点ではまだミラのクロの呼び方は『クロ様』だったので、『クロさん』から『クロ様』に修正しました。
――夢を見ている。
夢だと言うのに身体がだるくて、動かなくて……すごく辛い。
『まったく、アンタは中学生にもなって……おかゆ作ったから、食べて少し寝なさい』
優しい笑顔で、中年の女性がオレに微笑みかける。
『――――大丈夫! ―――が元気になるようおまじないをかけてあげるから!』
元気な声で、少女がオレの為に祈ってくれている。
『――――。アタシに移したら承知しないからね!』
少し不機嫌そうに女の人が言い、その奥でおっさんがオレを心配そうに見ている。
知らないはずなのに、どこかで見た気がする光景。
それが何を意味しているのかすらわからないのに、どうしてだろう?
こんなにも懐かしく感じるのは……?
『……ろさま?』
あぁ、もう行かなくちゃ。
≪ありがとう、どこの誰かも分からない人たち≫
なんだかよくわからないけど、お礼を言わなければならない気がしたんだ。
『クロ様……?』
さぁ、夢の時間は終わりだ。
家族が、オレを待っている。
―――――
「クロ様、大丈夫ですか?」
「ん…………あぁ、ミラ。おはよう」
「おはようございます」
オレが目を覚ますと目の前にはミラの顔があった。
どうやらオレはまた魔力切れで倒れていたらしい。
「どのくらい、倒れてたかな?」
外が明るみ始めたところを見ると、良くて数時間。教会の中にいるから、前の時のように何日も経っているってことは無いとおもうけど。
「〝星鳴き〟から、まだあまり時間が経っていませんわ」
「あぁ……ホシナキが何を意味するかはわからないけど。また何かやらかしてしまった事だけはわかったよ。ありがと、ミラ」
ホシナキはいったん記憶の彼方へ放り捨てて、オレはこっそり開いた[メニュー]で時間を確認する。
まだロリエルと戦ってから数時間しか経っていなかった。
前のように何日も経っていないのだけまだましだが……
「どうかされましたか?」
「んと、ヒザ辛くない?」
逆に言えば、それだけミラに付き合わせてしまったってわけか。
ひざまくらですよひざまくら!
男にとってこんなにうれしいシュチュエ……シュツ……シュチュチュ…………状況はないよね。
別に噛んだわけじゃないけどね!
「いえ、今回はお早いお目覚めだったので大丈夫です……むしろ、少し残念なくらいですわ」
「……うん、何が残念なのかは聞かないでおくよ」
オレは急いで口元の涎を拭った。
うん、色々と情けない顔を見られたかもしれない。
「でも、言われてみればそうだね。ミラに呼ばれたから起きれたのかな? ふぁぁぁ……」
ミラの柔らかな膝から頭を起こして伸びをすると、ほろりと頬を滴がしたった。
「あれ、涙?」
そうかオレは寝ながら泣いていたのか。
「申し訳ありません。起こすつもりはなかったんですが、あまりにクロ様が悲しそうな顔をされていたのでつい……」
「心配してくれたんだね。ありがとう」
「こちらこそ、ですわ。……でも、クロ様が涙するほどの夢なんて……どんな夢をみられていたんですか?」
「んー……よくわかんない。というか覚えてない? なんか誰かの夢をみていたような、いないような? むむむむむ……Zzzzz」
パン、と鼻提灯がはじけ、オレは慌てて目を覚ます。
どうやらまだ少し頭が寝ぼけているのかもしれない。
うん、となるとここは気付けが必要かな?
ね、必要だよね?
間違いない? じゃあしょうがないなー。
「じゃーん。ガリネジュースー! くぴくぴ……ぷはー!」
「あぁもうクロ様ったら!」
オレは懐から取り出した解毒薬を腰に手を当てて一気飲みした。
うーん、寝覚めの一杯はまた格別だねぇ。
「けぷ! うまい、もういっぱ――」
「没収です」
「NOォォォォ!?]
シィーット! この自然な流れでもう一杯飲めるかと思ったのに!
2本目のジュースはあっさとミラに没収されてしまった。とほほ……
「それで、目は覚めましたか?」
「うぅ……ミラが冷たい。はい、すみません。おふざけが過ぎました」
ミラってば、怒ると怖いからなぁ。
オレも別に怒られたいわけじゃないし、真面目に質問には答えるとしよう。
「夢だったよね。夢……うーん、やっぱり思い出せないなぁ……」
こう、のど元まで出かかってる感じはあるんだよ。
あるんだけど……けぷ! 出てくるのはげっぷくらいのものである。
※お食事中の方、大変失礼いたしました。
「でしたら無理に思い出されなくてもいいですわ。もしかしたら嫌な夢だったのかもしれないですし……その、あの時のこととか……」
ミラの言う『あの時』と言うのに思い当たる節はないが、〝嫌な夢〟ということはなかった。気がする。
むしろどこか懐かしくて、暖かくて……
「あれ?」
気がつけば、また頬を雫が伝う。
理由は全くわからない。
でも、涙は止めどなく溢れ出してくる。
「あはは……まいったなぁ。別にそんなつもりじゃ――わぷっ」
突然ミラに優しく包まれて、オレはちょと驚いてしまった。
「み、ミラ? どうしたの?」
「今日はちょっと寒いですわね。すみませんが、少しだけこうさせてください。こうしていると暖かいんです」
「そっか……じゃあしょうがないなぁ」
優しいミラの気遣いに感謝して、オレはしばらく彼女に抱かれたまま訳も分からず泣いていてあげた。
よくわからないけど、これが家族の温もりというやつなのかもしれない。
―――――
オレの涙も収まり、頭もだいぶ冴えてきたので、まだ寝ているシャル(首にあった【隷属の首輪】は消滅していた)をおんぶして教会を出る。
しかしそこでオレが見たのは、あまりに酷い光景だった。
「うっわぁ……」
地獄絵図、とはまさにこのことである。
「ぐがぁあぁぁぁぁぁ!」
「すぴぃ…………」
「Zzzzzzzzzzzz」
「ぐがが……ふがっ!」
「……………こぱぁ(寝○ロする音)」
「酒くさっ!」
酒でベロンベロンになった大の大人たちがあちこちで酔いつぶれて寝ているのだ。
そこら中に空の酒瓶やら、空の酒樽やら、食べ散らかされたつまみやら、ゲ○やら何やらが散乱している。
団長さんなんて村長さんと肩を組んだまま寝ているし、昨日まであんたら一触即発だったじゃないか!
唯一子供たちが少し離れた場所で固まって眠っているからよかったが、人が命張ってたときに何してやがったんだこのダメ人間どもめ!
「すぅ…………」
オレは限界まで息を吸い込み、
「おきろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
声を張り上げ大音量で叫んだ。
辺りに木霊するオレの美声(自画自賛)に、周囲の人が徐々に頭を抱えながら起き始めた。
まったく、頭を抱えたいのはこっちだよぷんぷん!
「ふがっ!? ……むにゃ? 何よクロ……もう朝ごはんなのふわぁ……?」
折り重なるように寝ていた子どもたちの下から、起き上がってきたエミリーが寝ぼけ眼でそう答えた。
エミリーよ、お前もか!
―――――
「うぐ……飲み過ぎたぁ……」
「アタマいてぇ…………」
「自業自得です!」
二日酔いで頭を抱える駄目な大人たちを介抱しながら、オレは冷たいタオルと言葉をかける。
彼らが喋るたびに酒臭くってしょうがない。
「クロ、アレあげればいいじゃない? 酔い醒ましの薬。二日酔いにも聞くんじゃない?」
「なに! そんなのがあるのか! ってててて!」
「クロすけよこせ! どうにも辛くてかなわん……!」
「残念ですが、当方。バカにつける薬は扱っておりません。他を当たってください」
「なんだこのや……いってぇ……!」
「悪かったって、謝るから薬くれよぉ……うっぷ」
「では、御機嫌よう♪」
オレはどうしようもない大人たちを残して、仮説テント(サーカステントから勝手に拝借してきた)を出た。
比較的軽度の人たちがいるテントの外だが、こちらも割と死屍累々な有様だ。
サーラさんたちがあちらこちらを走り回って、みんなの介抱をしている。
「おはようございます。サーラさん」
村人の介抱をしているサーラさんの元へ歩み寄って、オレは軽く挨拶を交わす。
彼女にはあまり良く思われていないかと思っていたのでドキドキだったが、サーラさんはオレに気がついて礼をすると、他の神官さんたちに一言二言断ってこちらへやってきた。
「おはようございます。クローディア様」
彼女の首にはもう、首輪は存在しない。
ロリエルが消滅したとき、彼女たちの首輪も一緒に消滅したようだった。
彼女たちは自由になったのだ。
だが、その表情はあまり嬉しそうではない。
「貴女が、わたしたちのか……ロリエル様を?」
「…………はい。ワタシが殺したようなものでしょうね」
更神した際にオレは理解ってしまった。
あの姿になったロリエルを、元に戻す手段は存在しないと。
そして奴を放っておけば、もっとたくさんの犠牲者が出ただろうと。
「ロリエルを止められなかった。……〝スーサの聖女〟が聞いて呆れます」
もしロリエルがあの黒い首輪――【万呪の黒石】を発動するのを止められたら、もっと違う結末があったのではないだろうか?
完全に魔核を破壊する以外の方法があったのではないか?
上げ出したらきりがないほどに悔やんでも悔やみきれない。
「いえ……貴女は紛れもなく聖女ですよ。貴女は救ったのですから」
サーラさんが視線を逸らした先には、
「いだだだだ……もっと優しくできないのかい!」
「う、うるせーよ! だったら大人しくしてればいいだろ! なんでわざわざ……」
「お前にはまだまだ教えなきゃいけないことがあるんだよ! いーからさっさと来な! まずは料理だ!」
「この……鬼ババァ! こっちだって……ちっ、わーったよ!」
「最初からそういやいいんだよこのバカ娘!」
不慣れなため雑に見えるが一生懸命介抱をするシャルと、
文句をいいながらも頬をゆるませながら大人しく介抱されている団長さんの姿があった。
「良かった」
仲良く喧嘩している二人を見て、オレはほっと胸を撫でおろす。
目覚めた団長さんとシャルを引き合わせたときは死ぬかと思った(団長さんに感謝の全力包容をされて)が、何やら二人だけで話し合った後には、もうあんな感じだった。
どんな話をしたかなんて野暮だから聞かないけど、オレには分かっている。
なんだかんだ言って、やっぱり最初からちゃんと家族だったんだよ。
「一緒に寝て起きて飯食ったら、それはもう家族、ですか……羨ましいものです」
「どうしてですか?」
二人を見てそう漏らすサーラさんにオレは首を傾げる。
「わたしは、そんな風に割り切ることができないのです」
サーラさんは遠い日を思いだしているようだった。
その眼は、どことなく寂しげである。
「血のつながった家族からは、殴られ、蹴られ、蔑まれ……。独りぼっちのわたしを救ってくれた方は。わたしが家族だと信じていた人は、わたしを道具としか見ていなかった。これじゃどっちが道化師かわかりませんよね。……結局、わたしたちが家族なんて望むのが間違いだったんです」
静かに瞳を湿らせるサーラさんに、オレは小さく頷く。
「そうですね。サーラさんは大きな間違いをしています」
「えぇ、痛いほどによく分かっています」
「いいえ、ぜんっぜん、分かっていません。あれを見てください」
オレは村人たちを介抱している神官さんたちを指さす。
「あたたた……」
「お、お薬です! これを飲めば少しは楽になるはずです!」
「おぉ、キーラちゃんかい? いつもありがとう」
「ん、クロ印、間違いない(もふもふ)」
「ふわぁぁぁぁぁ……♪」
ルーさんと一緒に酔い止めを作り、村人たちに配り歩いているキツネ耳のキーラ。
「げんきだすのー!」
「ふぁいとなのー!」
「あはは……ありがとう、ニーナちゃんにミーナちゃん。でも、少し静かにしてもらえるとありがたいなぁ……あ、頭に声がひびいて」
「「ご、ごめんなさいなのー!」」
「いだだだだ……」
具合が悪そうな村人を元気づけようとして逆に困らせ、周囲を和ませている犬耳っ子の二人。
「ひえひえなのだわー!」
「こおりはここだおー!」
「こりゃありがたい……ふぅ、すこし楽になったよ。ありがとうスーナ、シャーナ」
頭を冷やすための氷を魔術で作り出して配っている。海人族の二人。
「が、ガーラ……もう少しゆっくり……うっぷ」
「問答無用」
「だ、だじげで……」
真っ青な顔のマサ兄をテントまで担いで運ぶガーラさん。
「お、おかゆができた! な、ならんで!」
「おら! 飲み過ぎのばかたれども! さっさと並びな! こらか、シャル! 盛り過ぎだ!」
「うっせー! みんな腹減ってんだ! このくらいいいだろ!」
「あだだ……ありがたい」
「ふぅ……すきっ腹にしみるぜぇ」
消化の良い料理を作って配っているウサ耳のジーラと、その手伝いをしている団長さんやシャル。
「ね?」
「これが一体なんだと……?」
「一緒に寝て起きて飯食ったら、それはもう家族」
互いが互いの事を誤解し、争い、殴りあっていた人たちが、もう手を取り合って助け合っている。
「今更家族を望むなんて間違ってますよ。だって、こんなにステキな家族がもういるじゃないですか?」
「っ!」
一緒に酔いつぶれて、オレに叩き起こされて、すきっ腹に優しい料理を食べながら、バカの事を言いあって笑っている。
「ね? みんな家族です」
「違います。彼らはただの隣人で、人族で、わたしたちを蔑んで……!」
「見くびるのもいい加減にしてください!」
オレはサーラさんの言葉に本気で怒った。
ロリエルもそうだったが、サーラさんもそうだ。
この人たちは、根本的に勘違いをしている。
「いつ、彼らがアナタたちを無下にしましたか? バカにしましたか? 石を投げたり、暴力をふるったり、心無い言葉を浴びせかけたりしましたか?」
そんなことは一度だってないはずだ。
確かに、そういう事をする人たちだって、悲しいけどいる。
でも、だからと言ってみんながみんなそうじゃない。
「彼らはアナタたちに感謝していると笑顔で言いました。アナタたちがピンチだと思って助けに来ました。アナタたちの為に戦いました。そんな彼らがアナタたちを蔑んでいる? 勝手な事を言わないでください!」
そんなの失礼もいい所じゃないか。
「……わたしの否は認めます。確かに、彼らのようないい人たちもいます。ですが……彼らは家族ではありません」
こ、こんの頑固娘めぇ……!
「あーもうめんどくさいなぁ! ちょっと来てください!」
「ま、待ってください! そんな強引に……!」
オレはサーラさんの手を引いて、みんなの輪の中へ入っていく。
「おりょ? クロ―ディア様にサーラさんじゃないか?」
「ど、どうも……」
「どーしたんだい、そんなしけた面して? せっかくのべっぴんさんが台無しじゃねえか。喧嘩でもしたのかい?」
「い、いえ。あの……」
「それともなんか困った事でもあったのかい? だったら言ってくんな!」
「そうとも! 水くせぇじゃねえか、同じ村の仲間なんだからよ!」
「ちげえねえ! ガハハハハ!」
「オラ男ども! いつまで飲んだくれてんだい! さっさと働きな!」
「げぇっ!? おっかねぇ化け物のお出ましだ!」
「じゃ、じゃあサーラちゃん。なんかあったら相談にのるぜ!」
「は、はい!」
「ったく、だーれが化け物だって? あぁ、サーラさん見苦しいとこ見せたねぇ」
「い、いえ。あの、わたしもそろそろ!」
「あぁいーからいーから! サーラさんはもう少し休んでな。朝から働きっぱなしで疲れただろう?」
「まったくさ。仕事なんて野郎どもにでもやらせときゃいいんだよ!」
みんながサーラさんを温かく迎え入れてくれている。
獣人だとか、人だとか、血のつながりとか。
そんなのは、ホントに些細な事なんだ。
「確かに〝家族〟は言い過ぎたかもしれません。でも、彼らはアナタたちを〝仲間〟だと言っています。アナタはそれを否定するんですか?」
「でも……」
みんなを起こした後、オレは教会であった事や、今までロリエルが行ってきた事。その全てを村人たちに伝えた。
すると彼らはサーラさんたちのために怒った。
気が付かなくて申し訳ないと、泣きながら謝っていた。
ロリエルに飼われていた卑しいペットだなんて、侮蔑の眼差しをするような人間は、ここには誰一人いなかったんだ。
「それに、サーラさんが今彼らを助けたいと思っているのはロリエルの命令でもなんでもない。そうでしょ?」
首輪はもうない。
でも、彼女たちの心にはまだ大きな枷がつけられている。
それはオレの魔術でも外せない厄介なモノ。
きっと外すにはまだまだ時間とか、経験とか、そういうのがたくさん必要だろう。
でも、ここでならきっと外すことが出来る。
「胸を張ってください。アナタにはこんなにも素敵な仲間が、家族がいるんですから」
家族が羨ましい、と彼女は言う。
だがオレから言わせてもらえば、サーラさんの方こそ羨ましい。
だって、こんなにも素敵な人たちに囲まれているのだから。
「はい……!」
張りつめていた緊張の糸が切れたのだろう。
サーラさんは大粒の涙を流している。
一番年長者だったから、頑張って、強がって、他の子たちには弱いところをみせないように堪えていたんだろう。
(今ぐらい、泣かせてあげてもいいよね?)
いつもオレの家族たちがしてくれるように、オレもサーラさんの頭を優しく撫でてあげた。
「ちょっとクロ! アンタまた女の人を泣かせてんの!」
「人聞きの悪い事言わないでよ! エミリー!」
しかし、感動の場面はいともたやすくぶち壊される。
そうだね、エミリーだね。
この空気ブレイカ―はちみっ子たちを引き連れて、わざわざおかゆを持ってきてくれたらしい。
それはありがたいのだけど、とんでもなく人聞きが悪いったらありゃしない。
「クロ……さま?(カラン)」
おかゆを地面に落として、わなわなと震えていらっしゃるのはミラさん。
あれ、どうしてかな?
とてもいやな予感しかしないよ?
「また、女の人を泣かせているんですか……!」
「ミラまでそんな事言う!?」
「おんななかせだー!」
「あくじょなのー?」
「あーくじょ! あーくじょ!」
「ねーねーあくじょってなんなのー?」
「ちみっ子たちまで!?」
パーティーの良心であるはずのミラや子ども達にまでそんな事を言われ、オレマジ凹みです。
「しくしく……」
オレがさめざめ泣いていると、サーラさんがよしよしと頭を撫でてくれた。
すっかり立ち直られたようで、ザ・年上のお姉さんオーラを全身から放っている。
なんというか包容力があって、お姉さんと言うよりこれはまるで……
「あ、おかーさまだわー!」
「おかさもたべるおー!」
「ん? おかーさま?」
ててててて、と走り寄ってきた海人族の双子がばふんと、サーラさんの胸に飛び込む。
ん? ん? んんんんん?
オレは三人の顔を見比べる。
似てなくもない、というより、え? クリソツ(死語)じゃん!
「ままままままま、まさか……!?」
「……はい、この子たちの母です」
「なのだわ!」
「だおー!」
「「「えぇえぇぇえぇぇっ!?」」」
オレとミラとエミリーの絶叫が木霊する。
ちょっと待ってくださいよ!? と言う事は父親ってまさかちょ、まっ!?
「まさか相手はロむぐっ――?」
「待つんだエミリー! そこから先は簡単に言っちゃいけない! クールに、そうくくくクールになるんだ!」
「く、クロ様も落ち着いてください」
た、たしかにちょっとオレも動揺し過ぎていたようだ。
いかんいかん、ここは深呼吸でもして落ち着こう。
ひっひっふー……ひっひっふー……よし、落ち着いた。
「あ、あの……〝刺し違わなければ〟お父様の事を……」
「クロ様、〝差し支えなければ〟ですわ」
ダメです、動揺が隠しきれません。
「……この子たちの父親は、とても遠いところへ行ってしまわれました」
はいアウト―!
それってつまりはそういうことですよね!? 完璧ロリエ――
「でも、もう随分昔の事です」
「え?」
オレ、キョトンである。
「昔って事は、ロリエルじゃないの?」
「じゃないんでしょ? え、違うの?」
「違わなくはないと思いますが、違うのでしょうか?」
オレたちの頭上でクエスチョンマークがワルツを踊っている。
「ふふ、どうでしょうか」
サーラさんはそれ以上なにも答えようとしなかったのであえて聞かなかった。
彼女はただミステリアスに微笑むのみである。
だが、もし相手が万が一にロリエルだったとすれば、ロリエル………………恐ろしい男だった。
主にオレの貞操的な意味で。
「なんだい? お前さんたち、サボってんじゃないだろうね? 分かってると思うが……?」
オレが自身にも起きていたかもしれない恐怖に身をすくめていると、やってきたのは団長さんである。
サーラさんが身構えるのがわかったが、どちらも事を起こそうという気が無いのは分かっている。
「サボったら飯抜き、ですね?」
オレはのんびりと答えた。
「だってもう〝耳に蛸が入る〟くらい聞いたわよ?」
「〝耳にタコができる〟ね。でも飯抜きは勘弁してほしいなぁ……しょうがない、頑張るか!」
「もう食べた私は、一生懸命頑張らないといけませんわね!」
「わかってんじゃないか。ならとっとと働いた!」
「はーい」
飯抜きは嫌なのでオレたちは大人しく手伝いをすることにした。
とりあえず、シャルたちの手伝いでもすればいいかな?
後ろで、団長さんとサーラさんが真剣に何か話し込んでいる様だったので、オレたちはそそくさとその場を離れた。
だって、団長さんがあの悪巧みしている時の笑みを浮かべているんだもの。
「触らぬ怪物にたたりなしっと!」
まぁでも、悪い事にはならないだろうけどね。
なんてったって、怪物の狂宴の怪物さんは家族思いだと、この辺界隈では有名だからね。
「クロ、それを言うなら〝触らぬ髪に足りなし〟でしょ?(ニヤリ)」
「……ワースゴーイ。エミリーチョーアタマイイー」
「クロ様、それはあまりに棒読みすぎでは?」
そうしてまたいつものようにエミリーが騒ぎ出す。
ミラがそれを宥めて、オレが更に焚き付けて。
で、どこからともなく現れたルーさんが、オレを抱き上げる。
(どう? オレの家族も中々愉快なもんでしょ?)
サーラさんと団長さんに向けて、オレは堂々と叫ぶ。
……心の中で。
いや、だって恥ずかしくって、とても面と向かっては言えないじゃない?
サーラさんと団長さんは一体何を話していたのか!?
それは次回分かります。
……乞うご期待! と、ムダに煽ってみたり?
※11/18誤字を修正しました!




