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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第一章〝黒の目覚め〟
6/104

黒の系譜01-05『イーノッド家』

 あ、アクセス数が1000近くまで行っている!?

 お赤飯、お赤飯たかなきゃ!

※今では結構なアクセス数に……感慨深いですね。

 12/11。誤字修正いたしました。

 翌日、オレはミラの家の人たちに紹介された。

 まさかラムダさんの病を治療したと説明するわけにもいかず、どういう経緯で知り合ったか説明するため三人であーでもないこーでもないと話し合ったけ結果、次のようなシナリオに決まった

 まずオレは自身が旅の〝考古学者〟だったかもしれないと告げた。

 ただこの世界で〝考古学〟というのはあまり一般的ではないらしく、〝旧文明の遺跡などを調査してその技術や知識を蘇らせる〟というような説明でごまかしておいた。

 うん、500年前の知識はあるから間違ってはいない、と思う。

 それからこの世界でも共通認識である〝学者=変人〟という考えと、遺跡調査の際にトラップにかかり記憶を失ったという理由から、この世界での一般常識に疎くてもなんとかごまかせそうである。

 そして館で目覚めた時たまたまピンチだったミラたちを助け、そのお礼として記憶が戻るまでの間この家でお世話になることになった、と。

 悪くはないシナリオだと思う。

 で、家長でもあるミラのお父さんとも顔合わせをしたのだが、


「初めまして、ノーウェイさん」

「あ、どうも。えっと、ミラのお兄さんですか?」


 初め、この爽やかな笑顔のイケメンがお父さんだとは思わなかったのだ。


「いいや、私がこの家の主チェスター=イーノッドだ」

「お兄さんじゃなくて!?」


 驚いてそんな声をあげてしまうほど、チェスターさんは若々しかった。

 ミラと同じ銀色の髪を短く切りそろえ、眼尻に皺も見渡らない。

 身体は健康的でスマート、かといって痩せすぎということはなくむしろ程よく筋肉がついて引き締まっている、という感じだ。

 ミラの話では御年40を越えるという話だったのにこの若しさ、化け物か!?

 別に疑う訳じゃないが、こっそりと[アナライズ]してみる。


【チェスター=イーノッド:Lv.54

 種族:人族

 年齢:43歳

 職業:領主

 スーサの町を20年にわたって納めている領主。若き日はその美貌から〝戦刃の貴公子(ノーブル・エッジ〟 と言う二つ名を戦場に轟かせた。しかしながら生涯において、妻メイリーンただ一人しか愛さなかった愛妻家としても知られる】


 マ・ジ・か。

 一瞬エルフとかそういう種族なのかとも考えたけど、ちゃんと〝人族〟って書かれてるよ。


「おや、君のような可愛らしいお嬢さんにそう言って貰えるとうれしいね」

「うぅ……」


 まぶしい!

 イケメンオーラがまぶしすぎる。

 しかもこんなにイケメンで、奥さんしか愛さなかったって、格好よすぎるだろ!

 ん? 『愛さなかった』?


「あの……そういえば奥様はどちらに?」

「あぁ。もう3年前、になるかな。肺の病を煩っていてね。あらゆる手は尽くしたが、完治には至らなくてね……」

「あ、失礼しました」

「構わないよ。気になって当然だろうからね」


 周囲の空気が一瞬で重くなる。

 やばい、超地雷だった。

 どうしたもんかと、あわあわしていたオレだったが、チェスターさんはすぐに微笑むと、


「(だから、ラムダの件は本当に感謝しているよ。〝二度も〟あんな思いをせずに済んだのは君のおかげだ)」


 そっと耳打ちしてきた。

 はっとして顔を上げると、目の前に超絶イケメンスマイルがそこにあった。


(肺の病……そうか)


 奥さんの病気というのはラムダさんがかかっていた物と同じだったのだろう。

 だからミラもあんなに取り乱して……


「あらためて、娘たちを救ってくれてありがとう」


 チュッ、という音がしたがあまりに自然すぎて一瞬何が起きたのかすらわからなかった。

 無駄に気障っぽく、笑って顔を離すチェスターさん。


「あfhぅぁsrgん;あsh;あ!?」


 ボフッ、と音を立てて顔が真っ赤になる。

 お、おおお、おでこにキスされた!?

 やばいなんだイケメンだけどこの人は男でしかもミラのお父さんでってゆーかオレも体は女だけど心は三十路独身男なわけでなのになんで何だ今のトキメキは!?


(一瞬『あ、抱かれてもいいかな?』なんて……思ってない! 絶対思ってない!)


 オレがアホ面で口をパクパクさせていると、目の前のイケメンはぼそっと『私があと10年若ければね』とのたまった。

 いやいやいやいやいや、絶対! ありえない!

 天地がひっくり返ってもありえないですから!

 

「どどどどど、どういたしみゃしてぇ!?」


 オレがズザザザザザと、後ずさるとイケメンはふてぶてしく笑った。

 あ、遊ばれた!

 心を弄ばれた!

 くそぅ、イケメンだからって何をしても許されると思うなよ!


「もう、お父様ったら!」


 そんなオレたちを見て、ミラはぷりぷり怒っていた。

 そりゃそうだろう。

 やはり娘としては自分の父親が自分より若い女の子に手を出しているのはいただけないのだろう。


「すまんすまん。いや、少し舞い上がってしまっていたようだ」


 そう笑うチェスターさんの目尻にはうっすらと輝く物があった。

 オレはハッとする。

 ミラも気づいたのか、拗ねたように頬を膨らませるともうそれ以上何も言わなかった。

 ラムダさんが助かったのが本当に嬉しかったんだろう。

 本当に良い家、いや良い家族だな。


「クローディア様、お使いになりますか?」


 背後からすっ、とちょうどよく差し出されたハンカチでオレは心の汗を拭う。

 な、泣いてなんかないやい!

 これは心の汗だい、ぐすん。


(あれ? この臭い、どこかで……?)


 受け取ったハンカチの臭いに気を取られていると、オレは温かくて柔らかいものに抱きすくめられた。


「おぁいhfぁkjdgbぁっ!?」

「わたしからもお礼を言わせてください♪」


 何事かと身じろぐが、結構な力で押さえつけられている。

 後頭部にぽよぽよと当たる感触……これは、覚えがある。覚えがあるぞ!


「あんっ」


 やっとの思いで抜け出したオレが見たのは、残念そうにこちらを見る女性だった。

 ……天使だ。


「こらこらリリメ。可愛いからといってあまり所構わず抱きしめるものではないよ?」

「申し訳ありません、旦那様。つい♪」


 リリメ、と呼ばれた女性はいたずらっぽく笑うと、恭しく礼をする。


「リリメ、と申します。誠心誠意尽くさせて頂きますので、よしなに♪」


 オレがこの屋敷で目覚めた時、優しくオレを抱きしめ……じゃなかった。治療してくれた女性だった。

 あの時は気が動転していて、気がつかなかったが、どうやらここのメイドさんだったらしい。

 まぁ当たり前だけど。

 少し幼さを残した顔立ちながら、どこか艶っぽい仕草や表情のある可愛らしい女性だ。

 身長はあまり高くないようだが、その小柄な体躯にあまりある二つの遥かな頂きを抱いている。

 音で言うならぽいーんぽいーん、といった感じだろうか。

 ティー様ほどではないにせよ、ご立派な物をお持ちである。


「ありがたやありがたや……」

「えっと、わたし拝まれるような事をしましたでしょうか?」


 いえいえ何でもありませんハハハ、と笑って視線をそらし誤魔化すと顔のあたりを見ていてふと気づく。


「あ、耳が……」


 彼女の耳は周囲の人たちに比べて少し長い。

 そして耳先がわずかに尖っている。


「もしかして……」


 ファンタジーの世界で耳が長いと言えば、相場が決まっている。

 オレは無意識のうちに周囲には聞こえないよう声で[アナライズ]を唱えていた。


【リリメ・サーキュリア:Lv.21

 種族――】


「はい、わたしハーフエルフなんです」


 リリメさんは自らそうかたった。


「……ハーフエルフ?」

「はい、エルフと人の間に生まれたハーフ。エルフからも人間からも〝卑しき者〟と呼ばれるのがハーフエルフなんです」


 一応ファンタジーなんかではよく聞く設定だし、知ってはいたがやっぱり彼らは迫害されているのか。

 

「自分たちが最も優れていると考えるエルフにとっては、人という下劣な種族と交わった末に生まれた禁忌の存在として。人間にとっては、自分たちより優れた美貌や能力を持つ恐ろしくも疎ましい存在。それがわたしたちです」


 種族という概念が存在する以上、当然種族の違いによる軋轢もある。

 そしてそこから生まれる差別もまた同じ。

 悲しいけどこの世界にもそれが当然のようにあるようだ。


「色んな辛い目にも、苦しい目にも遭いました。いっそ死んでしまおうかと思えるような事も、たくさんありました。そしてそんな絶望の淵にあったわたしを、旦那様が救ってくれたのです」

「わたしはたまたま近くを通りがかっただけさ。それにリリメくんは頑張ってくれている」


 チェスターさんが笑って彼女の肩に手を置くと、リリメさんは頬を朱に染め俯く。

 ……なるほどね、ふーん。

 なんか色々込み入った事情がありそうだ。

 だったら、オレが口出す事じゃなかもしれない。


「お嬢様のお客人ならわたしのお客様も同然! 何かお困りの際はぜひ、お呼び付けください♪」

 

 笑顔で握手を求めるリリメさんだったが、オレはあえてその手はとらず、『その時はお願いします』と口で言うにとどめた。

 なんか握手した瞬間、また抱きすくめられる気がしたのだ。

 男としては何度も女性に良いように扱われるのは許されないのだ!

 例え、夢心地な感触だったとしても!



―――――



 その後、他の使用人さんたちとも挨拶を終え、オレは無事にイーノッド家に迎え入れられた。

 一抹の不安はあるものの、この家の人たちとならきっと上手くやっていけるだろう、とオレは浅はかに考えたのだった。


ぜひご意見ご感想、質問誤字脱字報告などございましたら、ぜひ。

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