表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
58/104

黒の系譜02-10『マッド・パーティ』

※ちょっと自分的に納得のいってなかった部分を少し改稿しました。

団長さんの「一緒に寝て起きて・・・・・・」に「笑いあえたら」を入れました。


8/19 【従僕の首輪】に関する字の分をちょっと修正しました。団長さんの言う【隷属の首輪】と神官さんたちが着けている物は若干違う物という設定だからです。

 ――夢を見ている。

 そう、あれはオレがまだ尖がっていた時期。

 世の中全てが不満で、不安で、どうにもならない現実に嫌気がさして妄想に逃げていた時代。

 あの時のオレは自称最強最悪の魔導師で、神への叛逆者で、何でもできる全知全能の存在だった……若気の至りである。


『ゴホゴホっ! ズズ……うぅ……これはまさか神の呪いか……? ゴホゴホっ!』


 自称最強の魔導師も高熱と咳と鼻水には勝てずに、床に伏せって復活の時を待っていた。

 ……ようするにただ風邪で寝込んでいただけだが。


 両親は共働きなので家にはオレ一人、咳のせいで寝るに寝れないオレはぐるぐる回る頭の中でこの世界を呪っていた。

 自分はこの世界の中では孤独な存在で、周りの者はみんな敵だと愚かにも思っていた。


『まったく、アンタは中学生にもなってバカな事ばっかりやってるんだから。こんな真冬に氷風呂なんかに入ったら、そりゃ風邪も引くわよ!』


 いつも夕方ぐらいに帰ってくるはずの母親が、まだ昼だと言うのにそこにいた。

 オレを心配して帰ってきてくれたらしい。


『ゴホゴホッ! あ、あれは吾の魔力を上げるための儀式で……!』

『はいはい。でもそれで体を壊しちゃ元も子もないでしょうが』


 完全に自業自得なオレを母は叱るでもなく、オレのバカな妄想を否定するでもなく、ただ優しく額のタオルを取り換えてくれた。

 ひんやりしたタオルが、心地いい。


『おかゆ作ったから、食べて少し寝なさい』

『感謝する…………ありがと』


 卵のとかれた美味しいおかゆは、風邪で消耗していた身体にじんわりと染み渡るようで、食べ終えたオレは目から汗とは違う雫をこぼして眠りについていた。


『にーちゃん大丈夫! みおりが元気になるようおまじないをかけてあげるから! 早く治してまた一緒に遊んでね!』


 学校から帰ってきた小学生の妹は、オレが元気になるようにとオリジナルのおまじないをかけてくれる。


『バカヒト。アタシに移したら承知しないからね! これ食ってとっとと治しな!』


 大学受験を控えている姉は、悪態を付きながらも病人でも食べやすいようにとプリンを買ってきてくれた。

 父は何も言わなかったが、いつも残業で遅くなると言うのに、今日だけは早く帰って来ていた。


 自分が本当は孤独じゃない事をオレは知っていた。

 いや、改めて認識させられたのかもしれない。

 次の日。ケロっと治ったオレが、家族に感謝の言葉を言う事はなかった。

 だって、仮にも反抗期まっただ中の思春期男子だ。恥ずかしいじゃん。

 でもいつか自分に家族ができたら、同じ事をしてあげたいと思った。

 『お前は一人じゃない』って、言ってあげれる人間になりたいと思った。


『――ろさま!』


 だから


『クロ様!』


 だから、オレはまだ諦めない。諦められない。


「クロ様!」


 オレを待ってくれている人がいるから。

 一人じゃないって、伝えたい子がいるから。


「……おはよう、ミラ。あと、お帰り」


 オレはまだ戦える。



―――――



 冷え切っていた身体に、徐々に熱が戻ってくる。

 オレの身体を覆っていた氷は完全に溶かされ、今はミラがオレを抱きしめて温めてくれていたようだ。


「おはようでもおかえりでもありません! 急いで戻ってきたら宿にはいないし! エミリーちゃんに聞いたらここかもと言われ、やってきてみれば氷漬けになっているし! 本当にクロ様はいつもいつも無茶ばかり……心配するこっちの身にもなってください!」

「あはは……ごめん」

「反省の色が見えません! お説教です! でもまずは早くこれを飲んでください!」


 泣きながらそんな事を言うミラに、オレはもう一度謝った。

 ミラがポーションを飲ませてくれたので、徐々に体力も回復してくる。

 脚に、腕に、指に力が戻り、思考はクリアに。

 ノロノロと立ち上がるオレの頭に、ミラはげんこつを一つ落とした。


「あたっ!」

「反省してください! まずここで正座です!」

「はい……」


 本気でオレを心配してくれたのだろう。

 両手にはしもやけができ、氷で切ったのか切り傷も付いている。

 オレはミラの手を取って[ヒール・リング]をかけた。


「こんなことじゃ誤魔化されませんからね! ……感謝はしますけど」

「うん、ごめん」

「駄目です! 許しません! みんな心配したんですからね!」


 ミラが指さす方を見ると、そちらではオレの仲間が派手にドンパチやっているようだった。


「だっしゃーっ!」

「グルゥ……」

「強敵!」


 エミリーは凄まじい迫力でブラックウルフを牽制しつつ、ガーラさんの相手をしている。

 獣たちを本能で怯えさせ、なおかつあのガーラさんと渡り合うエミリーはさすがである。


「紡ぐは〝緑〟、〝壁〟と為りて、魔を〝阻め〟……[エアー・ウォール]」

「くっ! キーラ! まだまだいけますか!」

「は、はい!」


 ルーさんは、風魔術で壁のようなものを作り、魔術を防いでくれている。

 強力な魔術をことごとくいなしているルーさんの魔術は、やはりさすがとしか言いようがない。


「クロ! やっと起きたの!?」

「クロ、無茶しすぎ」


 二人ともこちらに気付き声をかけてくれるが、どちらも手一杯でこっちにかまける余裕はないようだ。

 オレもすぐに戻らなければ。


「ミラ」

「つーん」

「ミラ」

「……なんですか?」


 オレは正座のまま、大人しく頭を下げる。


「自分だけでどうにか出来るなんて思いあがってた、ごめんなさい」

「はい」

「でも、どうしてもあの教会に行かなきゃいけないんだ」

「はい」

「だから」


 オレは頭を上げる。

 さっきまで怒っていたミラは、いつものように優しく笑ってくれた。


「そんなに他人行儀にならないでください。たった一言、言ってくれるだけでいいんです。それで私も、エミリーちゃんも、ルーお姉さまも。充分なんですから」

「うん」


 オレは手を伸ばす。

 オレを許してくれる仲間へ。


「ミラ、力を貸して!」

「ふぅ……」


 ミラは、オレの手を取って答える。


「もちろん当然ですわ。家族ですもの」


 温かい手と言葉に、胸がいっぱいになる。


「エミリー!」

「教会に殴り込みでしょ!? 分かってるって!」


 頼りがいのある言葉に、力が湧いてくる。


「ルーさ……ルーお姉ちゃん!」

「ん、獣耳っ子、もふもふする」

「お姉ちゃん!?」

「じょうだん」


 いつものルーさんとのやり取りに、顔がほころぶ。


(あぁ、こんなにも心強いんだ)


 一人じゃない。

 それがこんなにも素晴らしい事だと、オレは改めて思う。

 自分を想っていてくれている人がいる、その暖かさをシャルにも伝えたい。

 開かれた[マップ]に表示されたアイコンを見て、オレは笑みがこぼれた。


「来たんですね? 『あんたの事なんて知らない』とか言ってたのに」


 オレの声に、のそのそと大きな影が現れる。


「誤解すんじゃないよ。アタシャたまたま、あの教会に用事があって行くだけさ」

「ふふふ……そうですか」

「何さ? なにか文句でもあるのかい?」

「いーえ。素直じゃないななんて思ってませんよ?」

「ふん!」


 団長さんの照れ隠しに、オレはついつい笑ってしまう。

 ミラにも、この大きなツンデレさんを紹介したいところだが、生憎と今はそんな時間はない。


「むしろどうしてアンタたちがいるんだい? あの子はアタシのもんだから、取り戻しに行くは当然だ」

「つんでれつんでれ」

「うっさいよ! でもね、あんたらは違うだろう? あの子の家族でもなければウチの団員でもない。だったら、せいぜい怪我しないうちにすっこんでた方が身の為じゃないかい?」


 団長さんの試すような目を、オレはまっすぐ見返す。


「関係ありますよ。友達ですから」

「クロ様の友達なら、私の友達も同然ですわ」


 あっさりと答えたオレたちに、団長さんは歯を出して大笑いだ。

 変な事は言っていないんだから、そんなに笑わんでもいいじゃないか。


「ドイツもコイツもとんだ分からず屋ばかりじゃないか! いいさ、だったら手を貸しな。家族のダチは家族も同然!


 馬車馬のようにこき使ってやるから覚悟しときな」

「あはは……お手柔らかにお願いします」

「じゃあ家族のダチの家族である私も、頑張りますわね」


 団長さんは、満面の笑みでいつものように悪態をつく。

 うれしいくせに、本当に素直じゃない人だ。

 そんな団長さんだったが、目の前の神官さんたちを見ると表情が一瞬で曇った。


「あれは……ちっ! 【隷属の首輪】じゃないか」


 団長さんはアレを見てすぐに相手を隷属させるアイテムだとわかったらしい。

 

「知ってるんですね」

「昔ちょっと見たことがある程度さ。あんな胸糞悪いもん、二度と見たくはなかったがね」


 そういえば、シャルのいた村も……

 

「でも、そういうことなら急ぐよ。きっとあのエセ神父、あの子にもおんなじモンを着ける気だろう。そうなっちまったら、色々面倒な事になる」


 オレは頷く。

 アレにどれほどの拘束力があるかはっきりとは不明だが、厄介な事には違いない。

 だから団長さんが急ぎたい気持ちは分かる。

 でも目の前の神官さんたちは、簡単に通してくれる気がなさそうである。

 力尽くで通る事は簡単だが、彼女たちも言ってしまえば被害者。

 あまり無下に扱いたくはない。

 

「でも、あの人たちには……」

「ふん! 安心おし、怪我人なんて出すようじゃ見世物屋失格だからね」


 団長さんはにんまりと笑った。

 

「こっからは怪物の狂宴(マッド・パーティ)の出番だよ! 観客は夢を失ったガキどもだ! さぁお前たち! 最高のショーを見せてやろうじゃないか!」

「「「「おぉー!」」」」


 団長さんの声に、団員たちが一斉に声を上げる。

 皆、真剣な顔で、それでも楽しそうに飛び出していく。


「花道は作ってやる。あのバカ娘を連れ返してきておくれよ」


 団長さんにバシーン! と背中を叩かれて送り出される。

 ヒリヒリとする背中が、少し嬉しかった。

 オレは教会へと一直線に走り出す。


「グルルルル!」


 行く手を阻むようにブラックウルフの群が襲い掛かってくる。


「クロっち!」

「クロすけ!」

「クロちゃん!」


 それを魔獣調教師のユン姉さんが魔獣たちに指示を出して援護し、軽業師のタックさんと剣舞踏士(ソード・ダンサー)のタルタさん夫婦が防いでくれる。


「シャルを頼むネ! ウチの子たちも遊び相手が居なくて寂しがってるの」

「シャルに伝えてくれ! 明日はお前が掃除当番だってな!」

「いや、それは今別にいいでしょ。みんな本気で心配したんだから、覚悟しときなさいよ! って脅してやって!」

「必ず伝えます!」


 オレはブラックウルフの群を抜けて走り出す。

 

「と、とおさないのー!」

「クロさまでもめー! なのー!」


 精一杯手を広げ、通せんぼする犬耳っ子たち。


「ねーちゃんごー! ぜったいシャルちゃんをつれてきて!」

「ここはおれにまかせるていくの! これいってみたかったの♪」


 それに相対したのはタック夫妻の双子の姉弟、空中ブランコ乗りのリナ、リノちゃんたちだ。

 それぞれ目の前の犬耳っ子に掴みかかって、くんずほぐれず取っ組み合いをしている。

 どう見てもじゃれ合っているようにしか見えない。


「……(なでくりなでくりなでくりなでくり!)」

「「「「きゃー♪」」」」


 オレは4人の頭を撫で繰り回して走り過ぎる。


「ここは!」

「通さない!」


 上空から翼人族の神官二人が急降下しながら襲い掛かってくる。


「クロ様!」

「ガウッ! (行け、嫁!)」


 ミラの矢が一人を邪魔して阻み、もう一人はあのフライング・ライオネルによって地面に押さえつけられた。


『ありがとう! ……でも嫁ちがう!』

「くくくくクロ様っ!?」


 オレの『にゃー!』という叫びに興奮したミラが、矢を乱舞して神官さんを翻弄している。

 み、ミラ……手加減してあげてね?

 降り注ぐ矢を避けながら、走り抜けていく。


「わ、われら――」


 キツネ耳の神官、キーラが詠唱を始めた。


「ん、させない」

「ひゃわっ!?」


 しかし、後ろから出現したルーさんに抱きかかえられ、詠唱を中断してしまう。

 相変わらず驚くほどの隠密スキルである。

 可愛いモノを補足する時にしか発揮されないのが難点だけど。


「もふもふもふもふ……」

「ひゃわわっ!? そこはっ! だぁーめぇー!」


 耳やら尻尾やらをもふられてくすぐったいのか、キーラはルーさんのされるがままである。

 

(ルーさん超良い笑顔……むぅ? この感情はヤキモチかしら?)


 いやいや、別にオレはルーさんに可愛がられるのが好きってわけじゃないから!

 オレは首をぶんぶんと振りながら、走り続ける。

 そのせいで多少前後不覚になっていたようだ。


「剛撃」

「っきゃー!」

「エミリー!」

「剛げ――」

「しまっ!」


 重い一撃でエミリーを弾き飛ばしたガーラさんが、オレの方へ向かってメイスを振り下ろす。

 咄嗟に身構えたが、メイスがオレに直撃することはない。


「させねぇっての! おいエミリー!」

「おっけーマサ兄! まっだまだー!」

「――っ! 防御っ!」


 それを剣舞踏士(ソード・ダンサー)のマサ兄さんが受け止め、舞い戻って来たエミリーがガーラさんを弾き飛ばし返す。


「クロ! アタシの分までロリエロの事ぶん殴ってきて!」

「エミリーだけじゃねぇ! オレたち全員の分でたのむぜ、クロ坊!」

「了解!」


 ロリエルなのだが、否定はしない。

 実際にそういう反社会的な人物だとわかったから。

 オレは二人に親指を立てて、走り出す。


「ここは! 通しません!」


 最後に立ちはだかったのはやはりサーラさん。

 杖を構え、泣きそうな顔で立っている。


「どうして……! どうしてアナタたちはあんな子のために!?」

「当然じゃないか」


 サーラさんの涙の訴えに応えたのは、いつの間にか後ろに立っていた団長さんだった。


「家族だからだよ」


 団長さんは笑う。


「嘘です! アナタたちみたいに血のつながりもない人たちが! 種族も生まれも違う人族が! わたしたちみたいな獣を家族だなんて思うはずがない! あり得ない、あり得ないんです!」

「ガキだねぇ」


 割と理知的かと思っていたサーラさんが、珍しく大声で叫ぶ。

 神とか、試練とか、そんな建前じゃない、彼女が本心が吐露された。


「血のつながり? 種族? 生まれ? そんなチンケなくくりをアタシらにまで押し売りするんじゃないよ。んなもん大きなお世話だ」


 団長さんは豪快に笑い飛ばして、あっさりと言う。


「一緒に寝て起きて飯食って、そんでバカみたいに笑いあえたら。それはもう家族さ。違うかい?」

「理解、できません……」


 サーラさんは、戸惑いの表情を浮かべながらも、それ以上何も言わなかった。

 ただ杖を構え、オレの方を見ようともせず団長さんに対して詠唱を開始する。

 

「まったく、とんだ頑固娘だね。ちょいとばかし、お灸をすえてやる必要がありそうだ」


 団長さんは何やら大げさなポーズをとる。

 初めてサーカスを見た時の、自分の演目を始める時の挨拶の仕方だ。


「クロ」


 その姿勢のまま、団長さんはオレに耳打ちする。


「うちの娘を頼んだよ」

「…………はい!」


 サーラさんの魔術が、団長さんを襲う。

 しかし、団長さんはそれを平然と受けとめ、それすら演目の一つであるかのようにおどけて見せる。

 オレは二人の脇を通り抜けた。

 ふと、後ろを振り返るとあっちもこっちもどんちゃん騒ぎのしっちゃかめっちゃかだ。

 でも、嫌な感じはしない。みんなどこか楽しそうなんだ。

 まさに変わり者たちの宴(マッド・パーティ)だ。


(みんな、ありがとう)


 オレの背中を押してくれた人たちに、心の中で感謝を送る。

 今はそれだけ。

 ちゃんとしたお礼は帰ってからだ。

 その時は、シャルも一緒に。 

 閉ざされた教会の扉を前に、オレは決意を新たにする。


(この先にシャルがいる。そして、ロリエルも)


 相手は腐っても教会の神官、一筋縄ではいかない事だろう。

 でも、それがどうした!

 オレは自分に喝を入れて教会の扉を勢いよく蹴破った。

鬱だって? ―そんな幻想は私がぶち壊す!

前回もそうでしたが、今回も活動報告は割愛します。

次回! ついにロリエロと対決! ……果たして日曜更新なるか!? こうご期待!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ