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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
57/104

黒の系譜02-09『譲れない戦い』

後書き更新です。

本編に更新はまだありません。

 オレは[マップ]を広げ、教会への最短ルートを急いでいた。


『あの腐れ神官はよぉ……ぐひゃっ! 本当に腐った下醜野郎だったからさ! なにせ――』


 ダッドによって告げられた言葉に、オレは底知れぬ憤りと恐怖を感じたのだ。


『修業とか試練とか抜かして獣と交わるようなド畜生だったからなぁ!』


 初めは、その言葉の意味をよく理解できなかった。

 だがその後に告げられた〝幼児愛好者〟〝"獣人は人ではない〟〝欲望の捌け口〟〝新しいオモチャ〟などなど、その意味を想像するのもおぞましい単語が、否応なくその意味を理解させる。


『お前も、あの小娘も! いずれ私が救ってやる! 私の物になりたいと、泣いて懇願させてやる!』


 あの時のロリエルの言葉の意味がやっと分かり、吐き気がした。

 そして、


『アイツはもうお前らのモンじゃねえからなぁ』


 ダッドの言葉を思い出し、背筋がぞっとする。


「シャルが、危ない!」


――相手は教会の神官だ。


「だからどうした!」


――クロード=ヴァン=ジョーカー、自分の立場を理解しろ。


「オレはクローディア=サッカー=ノーウェイ! 旅の考古学者だ! そんな奴知らない!」


――相手は赤の他人。なぜ助ける必要があるのか。


「友達だからに決まってる!」


 頭の中に響く、理性とか保身とか、そういうくだらないモノを全て切り捨てて、オレは走る。

 オレは決めたんだ。

 オレは、オレの大切な人たちを守るためにこの(チート)を使うことを恐れない、と。


「だから! オレは正しいと思ったことをする!」


 目の前の丘の上に立つ教会は、夜と言うこともあって昨日来たときとは様子が違って見えた。

 いや、闇の中に佇む不気味な姿こそが、あのロリエルと言う怪物の作った教会の本質なのかもしれない。


「と言うわけで、悪いけどここは通してもらうよ」


 オレが暗闇の方へ言うと、そこから数名の人影が現れた。

 神官服に身を包んだ獣人の神官さんたちである。

 彼女たちは手に杓杖やメイスなどを持ち、オレの行く手を遮るように立っている。

 代表して先頭へ出てきたのは、あの海人族の神官さん、名はサーラさんといったはずである。


「申し訳ありませんが、それは出来ません。これから大切な儀式が行われるので、ここから先は誰一人通さぬよう、神から言い遣っておりますので」


 〝儀式〟

 その言葉が、これから行われるであろう非道な所行をまるで神聖化しているようで、反吐が出る。


「それにしても驚きました。まさか貴女様が来られるとは思ってもいなかったので」

「誰か来るかも、という事は考えてたんだ」


 神官さんは驚きと、戸惑いの表情を浮かべオレを見る。


「全て我らが神のお導きです。しかし男か化け物のような女がくるかもしれないとは言付けられていましたが……」


 化け物のような女っていうのは団長さんで間違いないだろう。

 男というのは、ダッドの事か? 団長さんはともかく、ダッドが来るとは思えないが……

 あんな男でも一応親だ、来る可能性も考えていたと言う事か。


「神、ね……それはやっぱりロリエルの事?、全部アイツの差し金なんだね?」

「……我らの神はあのお方ただおひとりです」


 彼女は首もとのチョーカーを握りしめ、きゅっと悲しそうに口元を結んだ。


「我らは神の僕です。神の言葉に、背くことは出来ないのです……」

「なるほど、その〝首輪〟が隷属の証なんだね?」

「……はい、これこそ神の従僕たる証です」


 初めは教会の支給品か何かかと思っていたが、違う。


【従僕の首輪:

 付けた相手を隷属化させる首輪。装着者の命がある限り、外すことは出来ない】


 あれが、彼女たちがロリエルに飼われているという証。

 装着者、つまりロリエルの命令があるかぎり、外せないと言う事だが……

 ひょっとすればオレの(チート)を以てすれば、外すことも出来るかもしれない。


「……ワタシがそれを外せるかもしれないと言ったら、そこを通してくれる?」

「不可能です。これは神でなければはずせません。それに……」

「それに?」

「我々はそんな事望んではいません」

「どうして――っ!?」


 驚き問うたオレではあったが、神官さんの目を見て分かる。


「ここ以外に、我らの居場所などないのです」


 あの全てを悟ったような、諦めたような目だ。


「貴女は自分の身体が気持ち悪いと、石を投げられた事がありますか?」


 この世の全てに絶望し、なおかつそれをしょうがないと受けているようなそんな悲しい目をしている。


「実の親にお前は魔物の子だと頬をぶたれたことは? お前の家はそこだと井戸に投げ込まれたことは? 魚に服はいらないだろうと全裸での生活を強いられたことは?」


 他の者たちも、皆似たような目や怯えたような表情をしている。


「――お前なんて生まれてこなければと、毎晩のように耳元で囁かれたことは、ありますか?」


 きっと彼女たちは全てに絶望するような辛い思いを今まで何度も重ねてきたのだろう。


「我らが神は、わたしたちに役目を与えてくださいます。必要とし、人として生きる道を与えてくださいます。与えられる試練は苦しいですが、以前の獣以下の扱いを受けていた日々に比べるべくもありません」


 ここしかない、それが彼女たちの寄る辺となっているのだ。

 あの首輪は彼女たちがこの教会の者であるという証。

 それが神の僕である証だろうと隷属の首輪であろうと関係ない。

 自分たちの居場所を証明するために、あれが彼女たちには必要なのだ。


「外したくない理由は、わかった。だったら無理に外しはしない」

「そうですか。では我々の事は放って置いて、どうぞお引き取り下さい」

「ううん、それは出来ない」


 オレはサーラさんに腰から抜いたナイフを突きつけ、宣言する。


「だって、ワタシは友達を返して貰いに来たんだから」


 ダッドの言っていた事が本当だとは思いたくない。

 だがあれが事実だとすれば、オレはそれを黙って見過ごせない。

 ましてシャルがそんな目にあわされると言うなら、オレはオレの全身全霊(チート)を以てでも、止めてみせる。


「……先ほども申した通りです。あの子はこれから〝儀式〟を行う所です。何人たりとも邪魔をさせぬように、神から言い遣っております」


 神官さんは杖を構え、周りの神官たちもそれぞれが武器を構える。

 何を言っても、ここを通してくれる気はないようだ。

 だったら、オレのやるべきことは一つだ。


「だったら、力尽くでも通らせてもらうよ!」

「……それが神の与えたもうた試練なら、喜んで」


 互いにオレたちは牽制し合う。

 もはや両者の間には、何の会話も意味をなさない。

 オレは覚悟を決めて、駆けだした。

 

「我らが神よ。この卑しき身にわずかばかりの祝福を与え――」

「させない! 黄、格子、半球! [アース・ウォール]!」


 神官さんが詠唱を終えるより早く、オレはスペルワードを紡ぐ。

 すると、神官さんたちのいる周囲の土が、ボコォと音を立て隆起していく。

 自分たちの足元で起きている異常に気付いたサーラさんであったが、彼女の詠唱は間に合わない。


「これは……?」


 魔術の発動が終わると、神官さんたちを包み込む格子状の土壁が出来上がっていた。

 イメージは土牢、完全にふさぐ呼吸が出来なくなってしまうから、あえて檻をイメージして作った。

 

「力尽くとは言ったけど、命を奪うつもりはないんだ。そこで大人しくしていて」


 本来は土壁を作って攻撃を防ぐ盾としたりする[アース・ウォール]だが、オレ(チート)にかかればこんな事もできる。

 初級魔術とはいえ、それなりに頑丈に造ったのでそれなりに時間稼ぎにはなるはずだ。

 そんな風に考えていたオレだったが、この魔術が思わぬ事態を招く。


「あ、あぁ…………ああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっ!」


 土牢で捕えた神官さんの一人が、けたたましい叫び声を上げたのだ。


「落ち着いてジーラ! 大丈夫、コレは…………!」

「助けてサーラ……いやぁ……わたしは魔物じゃない…………わたしは、わたしあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」

(しまった!)


 オレは内心舌打ちをした。

 獣のような扱いを受けていた彼女たちである。

 牢屋、という物に何かトラウマがあってもおかしくはない。


(かといってあれを解除するわけにもいかないし……どうしたら)


 ぞくぞくぞく! という背後からの猛烈な悪寒。

 オレは咄嗟に横へ飛んでいた。


「見事」


 ドスンと鈍い音を立てて、さっきまでオレの立っていた位置へ鈍色の鈍器が振り下ろされていた。

 振るったのは蜥蜴のような鱗と尾を持つ鱗人族の神官さんだった。

 彼女はどうやらオレの魔術に感づいて上空へ退避、そのままオレの背後へと回り込んでいたようだ。


「ガーラ、時間稼ぎを! キーラはわたしに続いて赤の詠唱を!」

「承知」

「は、はい!」

「我らが神よ。この卑しき身に――」

「わ、われらが神よ――」


 短く答えた鱗人種の神官――ガーラさんは重そうなメイスを軽々構えると、一息でメイスの間合いまで接近してくる。

 だがオレのチートも伊達じゃない。

 鈍色の鈍器から繰り出される連撃を、右へ左へ、時に後転などもしながら躱していく。

 どうにか反撃の手を考えようとしていたオレだったが、ガーラさんの気迫に圧倒され中々手出しができない。


「――らが怨敵たる彼の壁を、〝凍てつかせ〟給え……[アイス・コフィン]」


 そうこうしているうちに、海人族の神官――サーラさんの詠唱が終了する。

 魔術が発動すると、オレの作った土牢の前面が一瞬で凍りつく。

 あんな狭い空間で無理やり魔術を発動したものだから、サーラさんも魔術の余波を受け、冷気で頬が切れている。

 それでもなお、彼女は魔術を発動し続ける。

 その後ろで更に詠唱していたキツネ耳の神官――キーラが詠唱を終えようとしていた。

 

「われらがオンテキたる彼の壁を、〝燃やしつくし〟給え……[ヒート・ミスト]!」


 彼女の手から放たれた炎が今まさに凍らせられていた土牢に直撃、牢からピシンという甲高い音が出る。

 そうか、彼女たちの狙いは……!


「ガーラ!」

「承知」


 オレを攻撃していたガーラさんが、サーラさんの声に応え、土牢に駆け寄っていく。

 

「粉砕」


 ガーラさんによって振り下ろされたメイスが、急な温度変化で脆くなった土牢を意図もたやすく破壊した。

 ガラガラと音を立てて崩れる土牢の中から、武器を構えた神官さんたちが出てきた。

 くやしいがこれで状況はほぼ振りだしに戻った。


「シャーナ、スーナ。ジーラをお願い」

「あいおー!」

「りょうかいだわー!」


 未だに震えが止まないウサ耳の神官を連れてちっこい神官たちが戦線を離れていく。

 あのウサ耳少女には本当に申し訳ないことをした。

 でも、オレだって引けない理由がある。


「同じ手が2度通用するとは思わないでください。――ガーラはそのまま前線を維持、キーラはわたしと一緒に魔術で援護。ヒーラ、フーラは空中から周囲を警戒、隙があればガーラを援護し――」


 サーラさんの指示で次々と神官さんたちの連携が整えられていく。


「ミーナ、ニーナ。魔獣召喚を……全頭です」

「やー!」

「クロさまとケンカしたくないよー!」

「……できなければ、お父様に怒られますよ」

「うゅ……!」

「むぅ……!」

「早く、するのです」


 絞り出すように、サーラさんは言う。

 オレと戦う事を彼女も辛く思ってくれているようで、少しだけ安堵した。


「クロさまごめんね、おとうさまにおこられたくないのー!」

「しゅぎょーは痛いからやなのー!」


 犬耳っ子たちが泣きそうな顔で周囲にばら撒いたのは契約魔獣の魔石。


「「「「「「「「「「グルルルルルル」」」」」」」」」」


 召喚されたのは彼女たちの友達、ブラックウルフの群の魔石だった。

 数にして実に10頭、戦闘可能な神官さんたちと合わせると実に17対1というとんでもない図式が出来上がった。

 連携の取れた神官さんたちに、統率のとれたブラックウルフの群。

 それでいてオレは彼女たちを傷つけたくないので、全力で手加減をしなくてはならない。

 時間稼ぎとしてこれほど相性最悪な相手はいない。


「それでも、オレは負けられない!」

「勝負」

「我らが神よ。この卑しき身に――」

「わ、われらが神よ――」

「がるる、ごー!」

「ぐるるんもー!」

 

 一斉に戦闘行動を開始する神官たち。

 彼女たちを無視していくこともできなくはないが、後々の火種を残したまま行くのは厄介だ。

 結局、彼女たちを戦闘不能、もしくは戦意喪失状態にしなくては先に進めないようなものだ。


「でもこれ、何てムリゲーだよ……!」


 オレはガーラの重たい一撃をナイフで受け止めながら、ため息をついた。



―――――



 交戦を始めて数分、未だに教会までの活路は見いだせないままである。

 むしろ、下手に攻撃がしかけられない以上こちらが押されてすらいる。

 

「打合」

「くっ!」

 

 ガーラの鈍器による重たい攻撃を1本のナイフで受け止めると、キィンという嫌な音が鳴り響く。

 2本あった内の一つは既にへし折られ、もはや武器として成り立ってすらいない。

 もう1本もそろそろ限界が近いようで、刀身がかなり熱を帯びていた。

 慌てて距離を取ったオレだったが、そこへ今度は容赦なく魔術が降り注ぐ。


「――〝刃〟となりて〝雨〟を為し、我らが怨敵たる者へ〝降り注ぎ〟給え……[アイス・レイン]」

「緑! 盾! 30枚! [クリア・スクリーン]!」


 空から降り注ぐ氷刃の雨を風の膜を幾重にも重ねた盾で防ぎきるが、すぐにもう一人の詠唱が終わる。


「――〝赤〟を御し、〝玉〟となりて、われらがオンテキたるモノへ〝放ち〟給え……[ファイア・ボール]!」

「だから早いって! 黄! 壁! [アース・ウォール]!」


 飛んできた炎弾は土壁で全て防ぐ。

 陰に隠れて一息つこうとしたオレの身体に、ものすごい勢いで迫る物体があった。

 転がり出るようにその場を離れると、その物体は鋭角に方向を変えそのままオレの身体へぶつかって来た。


「ガゥ!」

「がふっ!」


 契約魔獣のブラックウルフ軍団の内の一体である。

 レベル差が大きいし、新月が近いこともあってブラックウルフの能力が弱体化しているためダメージはほとんどない。

 だが身体にかかる衝撃まではその限りではない。

 自分の身体と同じくらいの魔獣の体当たりを受けたオレは、吹っ飛ばされて地面を転がった。


「御免」


 そこへ振り下ろされる無慈悲な一撃。

 何とかナイフで受け止めるが、バキィンと音を立ててナイフが砕けた。

 そうなると当然、メイスは止められない。


「――うぐっ!」


 横回転で直撃は回避したが、肩を少しメイスが掠める。

 鈍い痛みが走った。 

 回転の勢いのまま立ち上がったオレに向け、容赦なく魔術が飛んでくる。


「――〝青〟を御し、〝雫〟を集めて、われらがオンテキたるモノを〝包み〟給え……[ウォーター・ドロップ]!」

「まずっ、がぼぁ!?」


 オレの頭部をみるみる覆う水球。

 取ろうとしても水球は掴むことが出来ず、またいくら頭を振っても外れない。

 魔術でレジストしようにも、呼吸が出来ず声が出ないため詠唱できない。


(超ぴんちじゃん!)


 まさかここまで追い込まれるとは思っていなかった。

 腐ってもこちらにはチートがある。

 数の不利ぐらい何とかできると思っていたのだが、あそこまで見事な連携を取られるとは思ってもいなかった。

 自分の浅はかさを悔やむ。

 

(なんて、今は反省している場合じゃない!)

 

 どうにかしてこの水球を取らなくては最悪窒息死だってあり得る。

 必死でもがくオレと悲しそうな表情のサーラさんの目が合った。

 サーラさんが、何かを言っている。

 水を通しているのではっきりと聞こえなかったが、口元が『残念です』、と言っている気がした。


『[アイス・コフィン]』


 途端に肌に感じる寒気。

 いや、冷気がオレの顔に取り付いている水球を一瞬で凍らせた。

 そしてそのまま徐々に、体まで凍らせていく。

 これは本格的にまずい。

 このままでは美少女の氷像の出来上がり、である。

 ……正直笑えない。


「――っ!」


 身体を動かして必死の抵抗を試みるが、冷気の量は徐々に増している。


(こんな所で終わるわけには!)


 オレにはまだやらなくてはいけない事がある。

 しかしその想いとは裏腹に、やがて指が、腕が、足が、凍りついて動かなくなり……そしてオレは…………。

そして、その後のクロを知る者はいない……

黒の系譜―完―

木根先生の次回作にご期待ください!



とはなりませんよ!

あっぶなー。危うく主人公死亡エンドに向かう所でしたよ。……ふー。

※まさかの連続更新に息も絶え絶えなので、今日の活動報告は省略します。

 何とか日曜までにロリエロまで行くんや! 勉強がなんだ!(開き直り)

※2 よくよく考えると、ロリエロ出るの次の次や・・・・・・

日曜日までにロリエロってつまり・・・・・・え、無理かも?

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