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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-01『よくわかる異世界教室〝地理〟』

しょっぱなから説明回だよ!

なんとなくキャラ説明とか、まだ触れてなかった世界の事とかぶっこんだよ!

 街道をかける馬車が一台。

 天井で猫がのんびりと日向ぼっこしているその平和な馬車の中にオレたちはいた。

 猫の耳が付いているようなフードが風で煽られ、長い黒髪のポニーテールが露わとなる。

 まだ幼さの残る、それでいて将来美人になるであろう可愛らしい顔(自分で言うか?)を隠すためオレは深くフードをかぶり直した。

 そして何事もなかったかのように、調合壺をかき混ぜ始めた。

 見た目の子どもっぽさ(実際に肉体年齢は子ども)だからこそできる暴挙である。


「ふんふふふーん♪」


 まだ成長期を迎えていないような少し高い少女の声で、オレは上機嫌に鼻歌なんぞを歌ってやる。

 中身はいい年したオッサンだって? ナンノコトカナー?


「クロさ……ん。ご機嫌ですね」


 その様子を微笑ましく見守っている少女はミラ。

 彼女の綺麗な銀色の髪が風に揺れるたび、いい匂いがして少しドキッとする。

 オレより身長が高く物腰も上品なので、はたから見ればしっかり者の姉とやんちゃな妹にでも移る事だろう。

 実年齢はオレの方が上だけどね!


「まあねー♪ ふんふふふふーん♪」


 ミラの問いにオレは上機嫌で答えた。

 異世界へ転生してまだ一月ぐらい、不慮の事故で意識を失っている事も多かったので、体感時間はもっと短い。

 それでも素敵な人たちと出会い、慣れしたしんだスーサの街を出ることになってしまったのは、少し寂しかったりもする。

 でもやはり冒険は男のロマン! 馬車に揺られて旅なんてオレの中の〝異世界に行ったらやってみたいことランキング〟の上位に堂々とランクインしているほどだ。

 これが上機嫌にならずにいられようか? いや、なるでしょう!


「ふふっふふーん♪ ふんふふーん♪」

「うっぷ……アンタは元気でいいわね……うぷ…………」


 馬車の後方で寝転がっている真っ赤な髪の少女は真っ青な顔をしてそんな事を言う。

 小さな身体を大の字にして、時折口を押えて何かを必死で堪える顔は乙女にはあるまじき姿だ。

 そんなツンデレ少女エミリーは、絶賛馬車酔い中である。


「ルーミア、アンタもなんかいってやんなさいよ…………」

「………………………………………………………………………………………………むり」


 エミリーの言葉にほとんど反応せず、死んだようにピクリとも動かないのは、無類の可愛い物好きの錬金術師ルーミアさん。通称ルーさんだ。

 少しウェーブのかかった深い紫色の髪は床にだらしなく広がり、魔女のようなきわどいローブに包まれたその豊かなバディは馬車が揺れるたびにぽいんぽいんと形を変えている。素晴らしい。

 しかしその表情は無表情を通り越して、もはや虚空を見つめているようだった。 

 うん、つまり二人とも絶賛馬車酔い中なんです。

 

「大丈夫ー? ふふふーん♪」

「まったく気遣いが感じられ……うっぷ」

「……………………………………………………………………………………後でおしおき」


 さっきからずっとこの調子である。

 昨日出発した時の元気がまるで嘘のようだ。

 馬車に揺られること数時間、旅慣れしていない二人はいともあっさり馬車酔いに見舞われた。

 こんな調子で皇都までもつのだろうか?

 というか、皇都まであとどのくらいかかるのか?


「ミラ、皇都までまだ大分かかるの?」

「えっと、皇都まではまだ2日くらいはありますわね」

「そんなに!? もっと近いのかと思ってたよ」

「あら? 行かれた事がなかったのですか?」

「いや! 実は前は馬車の中で寝てたのかもしれなかったかな? あはは。まだちょっと記憶が混乱してるのかも。ちょっと確認してもいいかな?」

「はい、どうぞ」


 あっぶねー、そういやオレってば旅の考古学者で、記憶も一応戻った事になってるんだったよ。

 オレは話を合わせるために慌てて[マップ]を開く。

 といっても、表示されている大まかな[マップ]は〝ファルジア創世記〟を元にしているものなのでおよそ500年前の物だ。

 オレが行動した範囲は徐々に更新されていくのだが、行ったことのない場所はそのままになっているのだ。

 さて、ではここで軽く地理の復習でもしておくとしようか。


――この世界ファルジアには大まかに4つの大陸群が存在している。

 北にある大陸はノーザニア。涼しい気候が特徴だが、冬は雪と氷で覆われる極寒の大地となる。

 南の大陸はサウザール。年中常夏の南国の大陸で商業や観光が盛んである。

 東の大陸はトゥホーン。他の大陸に比べると小さく険しい山々と森に閉ざされているが、周囲の島国を合わせた連合国家をつくっている。

 そしてオレたちがいるここ西方大陸はウェステリオ。穏やかな気候で四季がはっきり分かれて存在している。

 教皇領とも呼ばれ、モーミジヤ教の教皇が人々を治めている。

 というのがオレの考えた設定だったはずだが……


「はい、クロ様のおっしゃる通りですわ」

「よかった……うんまぁわかってたけどね!」


 ミラに確認してみたが、どうやら大まかな部分は変わっていないらしい。

 となれば後は細かな部分だ。

 オレの[マップ]で〝皇都〟とされている場所は、今いる位置からせいぜい半日くらいの場所になっている。

 それがなぜそんなに日がかかるのか、である。


「えっと……ではこれをご覧ください」

「おー。これはこの辺の地図?」

「はい、これはウェステリオの地図ですわ」

「…………な、なんじゃこりゃー!?」


 ミラが広げたのは〝ウェステリオ〟と書かれた地図である。

 しかしオレの[マップ]に表示されている500年前の物と比べると町が増え、若干だが地形も変わっている。

 というか皇都の位置が移動しているというのはどういう了見だろうか!

 

「それは476年前にあの! クロード=ヴァン=ジョーカー様と! 時の教皇レインズ=ベル=レイクが戦いを繰り広げた結果! 皇都が灰燼と帰したためですわ。今の皇都はその後に立てられた物だと言われてますの」

「あ、うん……なんかごめんなさい」

「どうしてクロ様が謝られるのですか?」


 その原因の半分がオレにあるからです。

 残りはどっかの能天気大精霊のせいだけどね!

 でもまぁともかくまだ馬車旅はしばらく続くと言う事は分かった。


「でも2日か……エミリー、一言どうぞ」

「…………死んだ」


 ちーん、と言う音がどこからともなく聞こえた気がした。


「いえ2日といっても、途中この村によって休みますので大丈夫ですわ」

「えっと……メイジン? ここ?」

「はい。スーサ領の村なんですがリカムの名産地として有名ですわね。我が家で飲まれていたリカムティーもメイジンのリカムで作られていますの」

「おー! それはすごい!」


 などと他愛もない会話をしていると、脳内にピコーンと[オラクル]が響き渡る。


――クローディアは【酔い止め薬(仮)】を手に入れた!

――【マジカル☆レシピ】に【酔い止め薬(仮)】が追加された!


「あ、出来た」 


 壷の中を確認すると、そこには色鮮やかなブヨブヨの塊が入っていた。

 うん、見た目にはあまり成功と思えないかもしれないが、これで完成なんだよなぁ。

 名前はまだちゃんと決めてないから(仮)だけど、後で更新できるし今はでこれでいいや。


「そういえば、先ほどから何を作ってらっしゃったんですか?」

「ん? あぁこれはたぶん酔い止め?」

「なぜ疑問符がついたのでしょうか?」

「きっと酔い止め?」

「あの、だからどうして疑問符が?」

「酔い止めであってほしい」

「私もそう思います……」


 ルーさんがあまりに辛そうだったので、少しでもましになる物が作れないかと試していたのだ。

 材料の一つは魔草の一種で【魔酔(ますい)の実】という果実だ。


【魔酔の実:

 魔草の一種。固い殻の中にゼリー状の実が詰まっている。

 実は無味無臭だが強力な神経毒を持ち、一つで巨大な魔獣の意識を奪うほどの劇薬である。

 しかし適量ならば精神を鎮静化する薬にもなる事はあまり知られていない】


 つまりこれは神経に作用して感覚を麻痺させるような、かなり危険な代物(ブツ)なのだ。

 説明にもあったが、これ単体だと強力すぎておおよそ使い物にはならない。

 だがここに強壮効果のある【ガリネの実】毒を中和する【解毒草】、ついでに【治癒草】も若干加えることであら不思議。


【酔い止め薬(仮):

 試作段階なのでまだ名前はない。解毒草や治癒草、ガリネの実を加えることで麻酔の実が持つ作用を極限まで抑えることに成功した薬品。精神を安定させ、軽い精神不調程度なら押さえられる効果を持つ……はず】


 酔い止め薬が(多分)できあがったのだ!

 まぁ、麻酔の実の成分で飲んだら多少は眠くなるかもしれないが、その辺は実際の酔い止めなんかでもある作用だから成功の範疇と言ってもいいだろう。

 …………でもこの成功までに数多くの失敗作と言う名の産廃を産み出したんだけどね。

 失敗作の中でも【麻酔っぽい何か】はまだいい方だ。

 何せ中には飲んだ人間を昏倒させるレベルの失敗作もある。

 ポーション(緑)の時とは違って、勿体無いからと言って人に使うのはあまりに危険だし……どうしたものか?

 

「でも……これが酔い止め、ですか?」

「うん、残念ながらこれ以上はどうしようもなかったんだ」


 ミラが聞き返すのも無理はない。

 なぜなら壷の中にあるのはショッキングピンクの怪しい物体。

 ドロっとしてる、とかべたっとしてるなんてレベルじゃない。

 すごくブヨブヨしていて、もはや液体ですらない。

 混ぜ棒で持ち上げるとにゅるん、とすべってぶるんと壷の中に落ちた。

 ひぃっ! なんか背筋がぞわぞわする!


「…………(つんつん)」


 ちょっとつついてみると、得も言われぬ感覚だ。

 これはちょっと楽しいかもしれない。


「あ、でもそれはちょっと楽しそうですね」

「ミラもつついてみる?」

「いいんですか? じゃ、じゃあせっかくなので」


 ミラに予備の混ぜ棒を渡して一緒になってつつく。


「おー、ぷよぷよだー♪」

「ですねー♪」


 しばしぷよぷよと遊んでいたが、そこでオレは本来の目的を思い出した。

 これが、酔い止めか……


「…………ねぇ、ミラ。これ食べれる?」

「これを、ですか……?」


 ぷにぷにと揺れるショッキングピンクの物体と目が合う(※実際に目はありません)。


「ワタシは無理だな」

「…………申し訳ありませんが、難しいと思います」


 デスヨネー。


「ルーさんは研究熱心だから、こう言うの気にしないかもだけど、普通の人は……ね?」

「はい、特にエミリーちゃんにはトラウマ物だと思いますわ」


 だよねー。

 我らが無鉄砲ツンデレ娘ことエミリーは、その強気な見た目と裏腹に存外ヘタレなのだ。

 自分の攻撃がきかない相手、特にスライムにかなりの苦手意識を持っており、見るだけで卒倒するほどである。

 そのせいもあって、ドロッとしたものやブヨブヨっとしたものはなかなか生理的に受け入れずらく、冒険者の友ポーションですら飲むのに覚悟しなくてはいけないレベルなのだ。


「エミリー……」

「むり! うっぷ」

「まだ何も言ってないよ」

「そんなん飲むくらいなら、死んだ方がマシ」

「でもなぁ……」


 色々試してみたが、これ以上はどうしようも出来ない。

 配合バランスを少しでも変えるとまったく別物になってしまうし、一応これがベストなのだ。

 となれば、あれしかない。


「困ったときの、魔製珠ー!」

「ぱちぱちぱちぱちー♪」


 オレが取り出したのは魔製珠と呼ばれるアイテム。

 これは魔力を結晶化できるアイテムで、魔力チートのオレとはとても相性がいいアイテムなのだ。

 いままでも数々の危険な場面を共に乗り越えてきたもはや、新たな相棒といっても過言ではない。


「これで、なんとこの不気味な物体をコーティングします!」

「まぁ! これはまるでキャンディみたいですわね!」

「……アンタたち楽しそうね。こっちはそれどころじゃ……うっぷ」


 わりとノリノリのミラが言うとおり、魔製珠で結晶化した魔力でコーティングした酔い止め(仮)はイチゴのキャンディのように見える。

 だが残念ながらこいつの中身はあのブヨブヨだ。

 大事な事なのでもう一度言うが、中身は、あの、ブヨブヨだッ!

 品質自体に問題はなさそうだが、いかんせん味見はしていない。 

 いや、する勇気なんてないけどね!


「エミリー、さぁ! いっそ一思いに飲み込んで!」

「絶対いーやむぐぁ!?」


 不用意に口なんて開けるもんじゃないよ?

 いつ得体のしれない物体が飛んでくるかわからないからねHAHAHA!

 口の中に入って観念したのか、エミリーは口の中でイチゴキャンディ(偽)を転がしている。


「はい味あわない! 飲みこんでー! けしてかまないように飲みこんでー!」

「うぅ……これでよくなんなかったら、一生かけて恨んでやるわよ!」」

「かんじゃだめだよ! 絶対、かんじゃだめだよ! フリじゃないよ!」

「フリってなによ………………んぐっ!」


 ちっ、噛まなかったか!


「ねぇ、今舌打ちしなかった?」

「さて、ルーさんもどうぞ」

「………………………………(ふるふる)」


 そんなに顔を真っ青にして必死で首を振って可哀そうに……どうやら口を開けるのも辛いらしい。

 でもこれを飲まないことには、ずっと辛いまま思いをさせる事になる。

 ここは心を鬼にしてルーさんに言い聞かせる。


「あれですよ! これ飲んでくれなかったら……口移しで飲ませますからね!」


 オレがそういうと、ルーさんはカッ、と目を見開く。

 そして、


「……ん、のぞむぐ!?」


 オレの狙い通り、そう言えばルーさんが口を開けると分かっていた。

 そこへピンクの物体が〝飛び込んで〟いったとしっても、オレにはどうしようもできない。

 うん、あくまで勝手に〝飛び込んで〟いったから、不可抗力だ。

 

「……クロ、悪い子」


 いつもはルーさんに良いようにされるので、こんな時くらいはオレの手のひらの上で転がって貰おうではないか。


「何とでも言ってください。これはルーさんの為ですから!」

「悪い子……………………悪女?」

「すみません、謝りますからその言い方は激しく誤解を招くのでやめてください」

「クロ、ちょろい」


 手の上で転がされているのはやっぱりオレの方でした。

 でもまぁルーさんの様子を見る限り、効果は問題なさそうである。

 さっきまでずっと気持ち悪そうにしていたエミリーも安らかな顔ですやすやと寝息をたて始めた。

 起きる頃には良くなっているだろう。


「こいつは驚いた」


 そしてそれに驚いたのは、終始興味深そうに見ていたこの商隊を率いている男の人である。

 頭にターバンを巻いた男、カルーアさんは御者の隣の席からゆっくり立ち上がると、壷の中身を見て顔をしかめる。

 うん、それが普通の反応だよね。

 その後ミラの隣へ腰を下ろし、神妙な面持ちで尋ねた。


「ミラお嬢さんの獣人は錬金術師か何かで?」

「獣人……? もしかしてクロさ、んのことですか?」


 あ、一応街の外に出るに当たって、ミラにはオレを『クロ様』と呼ばないように念を押してある。

 だって、どうみても自分(ミラ)より年下の相手(オレ)を様付けにしていたら、普通目立ちまくるだろうし、あらぬ疑いをかけられるかもしれない。

 それこそ、〝聖女〟として教会から指名手配中の身としては、無駄に目立つのも無用な面倒事に巻き込まれるのも極力避けたい。

 ミラには別に呼び捨ていいと言ったのだが、まだ慣れないのだろう。

 しばらくは『クロさん』で通すとの事だった。


「彼女は別に付き人ではありませんよ? 私にとって大切な……そう大切な家族です」

「これはこれは! 大変失礼いたしました」


 ミラが訂正すると、カルーアさんは大げさに驚いてミラへ謝罪した。

 というか、この人完全にオレを獣人族だと思っている様だ。

 確かにこの猫耳付きフードは良くできていて、まるで本物の耳があるかのように見える。

 というか耳の部分がごくたまに動くという芸の凝りようだ。

 勘違いしてもしょうがないっちゃ、しょうがないかもしれない。

 それにオレとしても正体が隠せるならかえって都合がいい。

 聞かれない限りは特に訂正はしないでおこう。

 ミラも同じ考えらしく、オレの正体については特に触れないようだった。


「ということは、こちらの聡明なお嬢さんはひょっとしてお嬢様の妹君でいらっしゃいますか? やけに仲が良いのでただの付き人にしては変だなと思っておりましたが……」

「なるほど、クロさんが獣人族だからそれはない、とお考えだったのですね?」

「いえいえ、そんな滅相もありません!」


 カルーアさんはダラダラと汗を流してあっぷあっぷしている。

 ミラはこんな場所にこそいるがここスーサ領主の娘。

 それを敵に回すのはまずいとカルーアさんも分かっている。

 さきほどからこの男、己の体裁を保つのに必死である。

 商隊に厄介になっていてこんな事考えるのもあれだが、あまり好きなタイプの人間ではなさそうだ。


「ほ、ほら。両親が別種族だと別種族の姉妹が生まれることもありますし、中には〝先祖がえり〟というのも起こると聞いております! 別にお二人がそうでもなんら不思議はありませんとも、ええ! 素敵なご家族ではありませんか!」

「ふふふ……ありがとうございます」


 あまり困らせても悪いと思ったのだろう。

 ミラが大人の笑顔を見せたことで、なんとか話は一段落した。

 緊迫していた場の空気が若干ましになったかな、と思った時である。


『悪いヤツら。気をつけた方がいいよー』


 オレの耳にのんびりとした声が届く。

 いや言っている内容は全然のんびりしてられない物だったけどさ。


「……ミラ、何か言った?」

「いえ、私は何も」

「わ、ワタクシも何も!」


 いや、アンタには聞いてませんから。

 不思議に思いつつも、オレは忠告に従い[マップ]を広げてみる。


「あちゃー……」


 オレたちの乗る馬車を取り囲む数十の赤いアイコン。

 間違いなく敵襲である。


「ど、どうされましたか!?」

「敵ですね……それもかなりの数の」


 どこの誰かは分からないが、忠告は本当だったみたいだ。


「相手は……不明。距離はまだあるけど、この馬車を狙ってるのは間違いなさそう」


 相手は統率された動きを取っている。

 ひょっとして[ブラックウルフ]の群かと思ったのだが、それでは名前が表示されないのはおかしい。

 何者だ? というオレの疑問はすぐに解決した。


「ヒャッハー! 俺たちは泣く子も黙る蜥蜴の尻尾団さまよっ!」

「ヒャッハーッ! 命が惜しけりゃ積み荷を全部置いてきなー!」

「ヒャッハー! ……ヒャッハー!」


 自分たちから名乗ってくれるとは、随分と丁寧な連中である。


「とととと蜥蜴の尻尾団ですって!?」

「おぉ、ご存じで?」

「はい、この辺りを縄張りにしていると言われる盗賊団です! 噂には聞いたことがあったのですが……まさか本当に出るとは」


 なるほど、だが相手が人間なら、まだ平和的解決の余地もあるという物だ。

 オレは念のため腰のベルトに短剣をさして立ち上がる。

 

「な、なにをされるおつもりですか!? 危険です!」

「うーん、でも向こうはやる気満々みたいだしなぁ」


 馬車の外からは『ヒャッハー! ヒャッハー!』という意味の分からない叫びがずっと聞こえてきている。


「お二方のお命が守れるなら積み荷ぐらい……」


 カルーアさんはそんな殊勝な申し出をしてくる。

 まぁこの人の事だから実際は〝二人の〟、というより〝自分の〟だろうけどね。

 

「いえ、多分積み荷だけじゃどうにもならないと思いますので」


 オレはフードを外して素顔を見せた。


「あ……れ? 人族……だったんですか?」


 艶やかな黒髪、未成熟ながら、美しいと誰もを溜息させる微笑。

 ミラと並ぶとまさに美人姉妹である。


「オレが盗賊なら、こんな上玉二人、逃しはしないでしょうね」


 自分で言ってて少し虚しくなったが、事実なのだからしょうがないと思ってもうあきらめた。

 オレはもう一度フードを深々と被ると、口元だけ見せて笑う。


「さっき、オレのこと錬金術師か、と聞いてられましたね?」

「あ、いえその……」

「答えは〝ノー〟です」


 【Lv.22】で【ギルドランク:E】と刻まれた銀色の猫が日の光を受けて輝く。


「ワタシはクローディア。ちょっと魔術が得意な旅の考古学者ですよ」


 不適に笑ったオレに、コーコガクシャがなにを意味するかわからないカルーアさんは、『はぁ』とだけ呟いた。

こんな感じで2章はスタートです。

またゆるゆるとお付き合いいただければと思います。

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