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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第一章〝黒の目覚め〟
48/104

黒の系譜01-番外編04『この素晴らしき出会いに』

※注意

 誤解を招く可能性があったので一応説明を。

 書いてはありますが、前半はシェラさん視点、後半じゃエミリー視点です。

 けして通りすがりの変態とかではないのでご理解ください。

side:シェラ



 あぁ、退屈ね。

 この仕事を始めてもう……いや考えるのはよそう、自分の歳を思い出して虚しくなるだけだわ。

 服を作るのは嫌いじゃないわ、だからこの仕事を始めたようなものだもの。

 でも、最近ではこう……心躍るような何て言うのかしら? パッション? が湧き上がって来ないのよねぇ。

 ミラちゃんの服を作る時は結構いい感じなんだけど……。

 でもミラちゃんも随分おっきくなっちゃって……お姉さん的にはこう、もう少し小さい子の服を作るのが好きなのよねぇ。

 時の流れって色々残酷よねぇ悲しいわ。よよよ……


「いらっしゃいませー。あ、ミラ様、いつもありがとうございます」

「はい、今日もよろしくお願いしますわ」


 なんて言っているそばからミラちゃんがやってきたみたいね。

 いけないいけない。

 いくら趣味で始めた店とはいえ、どんな時でも最高の服を作るのがプロの勤めじゃない。


「あら♪ 今日は可愛らしいお嬢さんをお連れですね。妹さんですか?」

「いえ、この方は……」


 あら? 珍しいわね。今日は誰か一緒に来ているのかしら?

 ミラちゃんに妹なんていなかったはずだけれど……


「いらっしゃいミラちゃん。今日はどうした…………の?」

「ほら、クロ様」

「よ、よろしくお願いします」


 ……………………………………驚いた。

 幼さを残しながらも洗練された容姿。

 照れているのかしら? 可愛らしい顔を真っ赤にしちゃってもう!

 長い黒髪は艶やかで、見ているだけで吸い込まれそうになる。

 体はとても未成熟、そう! とても私好みのね!

 言ってしまえば彼女は若葉、これから成長するであろう大輪の華を想像するだけで体の奥からふつふつとわき上がるこの感覚は!?

 情熱? いえそんな言葉ではとても表現しきれないわ!


「うふふふふふふふふふふ……♪」

「て、店員さん?」

「美少女キタァーーーーーーーっ!」

「ひゃーっ!?」


 久しく忘れていたこの感情!

 全身から溢れだす服を創りたいという欲求! 情熱! 愛!

 間違いない、私はこの娘に服を作るために存在してきたのね!

 これからあのみずみずすぃーボディを余すとことなく採寸できるかと思うと……


「じゅるり♪」


 おっといけない、涎が……ぐへへへ


「(ビビクゥッ!)ね、ねぇ。ミラ、やっぱり服は今度に……」

「逃がさない! もといお待ちなさいお嬢ちゃん!」

「は、はやい!? 何この人ちょうこわいよ!?」

「こわくない、こわくないよー。お姉さんってば美人で超優しくて綺麗なんだから。ほら、いまなら飴あげちゃうから」

「それ危ない人の手口ですよね!?」


 いけないいけない。

 あまりに理想的な美少女を目の前にして、テンションがどうにかなってしまっていたみたいね。

 せっかくの獲物、もとい上客を逃す手はないわ。

 ここは大人の淑女の対応を見せてあげなくっちゃ。


「怖がらせちゃったならごめんなさい。久しぶりに可愛らしいお客さんだったから、ちょっと舞い上がっちゃったの」

「は、はぁ……」

「私はシェラ。よろしくね」

「く、クローディアとい「じゃあクロちゃんね! よろしく! さっそくだけど服を作るにあたって幾つか質問があるんだけどいいかしら?」――は、はい……」


 そう、服を作る上でとても大事な事。

 その人がどんな服が好きで、これなら毎日着たいと思える服を作るために知らなければいけない事。


「クロちゃん。パンツの色は何色かな?(ハァハァ)」

「……帰ろう」


 逃がさん!


「ナンデ逃ゲルノカナァー?」

「やめてはなしておゆるしてごめんなさい! いきなり下着の色聞いて来るとか、危険人物以外の何者でもないじゃないですかー!」


 失礼な美少女だ。

 私は至って真面目だと言うのに……ハァハァ。


「いい? 下着と言うのは目に見えない部分であるにもかかわらず、様々な種類、色、形状があるの。一つじゃないのよ!」

「は、はぁ……」

「それはつまり、服を着る人が本能的に望む衣装をそれ一枚で体現していると言っても過言ではないのよ!」

「どうか過言であってほしいです」

「シャラップ! お黙りなさい」


 今度は逃がさんとばかりにクロちゃんの肩を、がっしり掴む。


「ひぃっ!」

「クロちゃんのパンツは何色かな?(ハァハァ)」

「ぅ……ぁ…………白です」


 白、か。





「みなぎってキタァーー!」


 この姿で純白のパンツ、いえパンティを穿いているなんてもう天使以外の何者でもないわね。

 いえ、むしろ私の心を惑わせる小悪魔ちゃんかしら? うふふふふ♪


「もう帰っていいですか……(しくしく)」

「そうね。あと採寸とか細かいのが終わったら帰っていいわよ」


 まぁ、衣装制作の為とか言ってうちの店の服何着か着せてみたりはするかもしれないけどね!

 しょうがないわよね! 仕事だもの!

 

「げへへへへへ……」

「早く帰りたい……(さめざめ)

「大丈夫よ! そんなの天上の染みを数えているうちに終わるわ♪(わきわき)」

「待ってくださいなんですかその手つきは怖いし怪しいんですけど!?」


 なにって、服を着てたら採寸できないじゃない?


「おらぁー! ぬげやぁー!?」

「ひぎゃー!?(すっぽーん!)」


 そこから先はそうね、天国のようだったとだけ伝えておくわ。

 いちいち可愛い声で鳴いてくれるし、服に関する知識やアイディアもなかなかのものを持っているし、話しているだけでいやされるし。

 こんなコが娘だったら……いえもう私の娘みたいなものよね!

 つい勢いでお代はいらないとか言っちゃったけど、まぁいいわよね。

 この子が常連になってくれたら、それだけで私あと百年は頑張れそうだもの。

 うふふ♪ そうと決まればさっさと服を作ってしまおうかしら?

 これだから服作りってやめられないわぁ-♪



―――――



 うふふー♪ 楽しいわー♪

 こんなに充実しているの何て久しぶりだわ。次から次へとアイディア溢れだして……あぁ、幸せ♪


「店長、最近いきいきしてますよねー。やっぱりクローディアちゃんのおかげですか?」

「えぇ、あのコを見てるだけでこう……体の奥底から桃色にも似た激しい感情が湧き出てくるのよー♪」

「店長、顔がやばいです。正直ドン引きです」


 まったく失礼しちゃうわ、給料カットしてやろうかしら。

 と、言いたいところだけど今の私ってばすっごく気分がアゲアゲだから、勘弁してあげるわ。

 命拾いしたわね。


「にしても……作りましたねぇ」

「作ったわねぇ」


 キラナちゃん(店員ちゃんの本名ね)が見上げるのは出来上がった衣装の山である。

 ざっと2、30着はあるかしら?

 張り切って作っちゃったのはいいんだけど……


「全部子供服ですね」

「そうね」

「というよりクローディアちゃんサイズですよね」

「そうね」

「売れるんですか? こんなに……」

「そうね……とりあえず旦那に相談してみるわ」


 気持ちが昂ぶっちゃったもんだから無心で作っちゃったわ。

 しかもそれでいてサイズは完璧にクロちゃん用、っていう。

 我ながら自分の才能が恐ろしいわね。


「ミニパト49号!」

「クルッポ!」


 私は召喚したミニパトに子供服を作り過ぎた旨を書き記した手紙を渡す。

 ついでに、この間旦那からの手紙に書いてあった最近都で流行ってるとか言う〝一瞬で風景を絵にする箱〟も送ってもらうようにお願いする。

 それさえあれば、クロちゃんの姿をいつでも見ることがぐへへへへ……


「ク、クポォッ!?」

「て、店長。涎なんか垂らすからパトが食べられるかと思って、恐がってます」

「あぁ、ごめんごめん」


 私は涎を拭いて、改めてパトに命令する。


「でもまぁ今日中に届かなかったら、カラアゲだから」

「クボッ!?」

「相変わらずパト使いの荒いことで……」


 私からのげきを受けたミニパトは決死の形相で飛び立っていった。

 まぁカラアゲというのは半分ジョークで、半身揚げくらいで勘弁してあげようと思うけど。

 つまり何を言わんとしているかと言うと、何事にも緊張感って大事よね、うん。


「わたし、今自分がパトじゃなくて良かったと心底思ってます」

「あら? 私が厳しいのはパトだけじゃないわよ?」


 私がにんまり笑うと、キラナちゃんは急に『さ、さぁて仕事頑張るかなー!』と張り切りだした。

 うんうん、真面目でよろしい。

 その時、カランカラン、と入店を知らせる鈴が鳴った。

 

「いらっしゃーせーっ! ってミラ様、それにクロ―ディ――」

「ふふ、ふふふふ! 待ってたわよクロちゃぁーん!」

「イーヤァー!」


 ほおずりほおずり。

 うーん、やっぱりこのコホントいいわぁ。こうしているだけでまたふつふつとアイディーアが湧き上がってくる。

 あぁ、またクロちゃんの服が作れるなんてかんむりょ……あら?

 よく見ると今日は他にもお連れさんがいるのね。

 一人は雑貨屋のじじいの愛孫、ルーミアちゃんって言ったかしら?

 閉じこもりがちで最近あってなかったけど、なかなか魅力的に育ったじゃない。

 クロちゃんほどではないにせよ、なかなか創作意欲がかきたてられるわー♪

 もう一人は見無い顔ね……? でもこのコもなかなか…… 


「これはまた可愛らしいお嬢さんね……じゅるり」

「待ってください。最後の効果音は〝可愛い〟に付ける類のものじゃないです」


 いけないいけない。またいつもの悪い癖が……


「あ、あら。アンタ見る目あるじゃない!」


 ほう?


「ま、まあ、別に嬉しくとも何ともないけど?」


 ほほうほう?


「だってアタシが可愛いのはトーゼンだもの!」


 身長はクロちゃんとほとんど同じくらい、胸は……じゃっかんクロちゃんより大きいかな?

 赤い髪が特徴ね。あまり手入れされていないのか少し癖っ毛みたいだけど、それが性格の強さと見事にマッチしているわね。

 というより、この反応は間違いなくツンデレね。

 いやぁ、ジャミアさんに比べると随分可愛らしいツンデレじゃないのもう!

 それに服がボロボロ……この感じだとスライムあたりにでもこっぴどくやられてウチへ来たってところね。

 スライム……いい仕事するじゃない!


「ロリっ娘、ツンデレ、あちらこちらがチラリズム……!? ふふ、ふふふふふ! たぁーぎるわぁー!」

「え、なに!? ちょ、ひ、ひぃやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 クロちゃんといい、このコといい……なんなのかしら最近。

 良い事尽くしで困っちゃう、というか逆に怖くなってきたわ。

 え、私死んじゃうんじゃないかしらいやまだこの子たちを着飾るまではしねませんなげへへへへ 


「じゃ、じゃあワタシは屋敷で待ってま……」


 おっと、ツンデレちゃんに気を取られているうちにクロちゃんが逃げ出そうとしているじゃない。

 出遅れた、と思っていたけどなんてことはない。


「ん、クロ。にがさない(ひょい)」

「ふぁっ!?」


 ルーミアちゃんががっしりとクロちゃんを捕獲してくれた。

 ナイスよルーミアちゃん!


「クロ、可愛い服、作ってもらう」

「あ、そうそうクロちゃんの服も作らなくっちゃね!」


 たぶんメインはこっちのツンデレっ子なんでしょうけど、せっかくだしクロちゃんの服も作りましょう。

 クロちゃんのサイズは計ってるけど、ひょっとしたら成長期でサイズが変わっているかもしれないし、もう一度計っておこうという口実にしておきましょう。

 それにこの間作った服も試しに着てもらって、そうだこのサイズならツンデレちゃんでも着れるわよね!

 

「ふふふ♪ なーに、天井の染みの数でも数えている間に終わるわ♪」


 また忙しくなりそうだわー♪

 ふふ……ふふふふげへへへへへへへ♪ 



―――――

side:エミリー



「どうかしら? 着た感じ変な部分とかはない?」

「え、えぇ……むしろ、ぴったりフィットで驚いた。服屋ってすごいのね」


 店に着くなり服を引っぺがされた時はモンクの一つでも言ってやろうかと思ったケド、これを着せる為だったらまぁ我慢してやらなくもない。

 それだけ良い物だと、服とかにあんま詳しくないアタシでも分かるもの。

 まぁ、体中撫でまわされたのは良い気がしなかったけど。


「うん、その人。服飾の腕だけは確かだから……性格にちょっと難ありだけど」

「しっつれーねぇ。アタシはどんな事にも全力なだけよ? 作るのも! 着せるのも! 愛でるのも!」

「愛でるのは服カンケーないと思います!」

「ってか、アンタどっから話してんのよ」

「……安全圏?」

「暗にここは危険地帯と言ってんのね?」


 ドアの影からこちらを見ているクロは怯えたように言う。

 まぁ、この服作りの修羅を前にしてその気持ちはわかんなくないけど、親友のアタシを見捨てて、もっと言えば囮にして逃げたのはどういう事だコラ。

 死ぬときは一緒とか言ってたのはどこのドイツよ、まったく。

 優しいと評判のエミリーちゃんでもさすがに怒るわよ。


「まぁ良いわ」


 さて、作ってもらったこの服なんだけど、素材はかなり上等ね。

 アタシの髪の色に合わせてくれ赤い皮の丈夫で動きやすいジャケット結構いいわね。

 インナーは黒いなめし革かしらね?

 それにしては伸縮するし、柔らかくて締め付け間もないし、そこそこ厚みもあって防御力もありそうだし、絶対良い物だわ。それでいてところどころに赤い刺繍が入っていてチャーミングだし、言う事ないわね。

 下はクロのショートパンツを参考にあえてパンツタイプ。激しい動きの妨げにならないよう、丈は短めで、ベルトで留められるタイプだから、小さなポーチくらいならまきつけることもできる優れものね。

 そして足を保護するために眺めのソックスも作ってもらったわ。クロのすぴっつ? だかすぱっつ? だかと同じような素材で、強度があって軽くて、蒸れ無いようなヤツって難しい注文を付けちゃったけど、難なく作ってくれたみたいね。


「ふふーん♪ どうどう? いいんじゃないコレ?」


 アタシがその場でくるっと回ってポーズをとると、クロのヤツ険しい顔を浮かべる。


「んっとね……超良い物だよ。素材は……うわ、〝溶岩龍の皮〟って、またとんでもないモノが……。それにこれは〝黒虎大龍の皮〟に〝ブラックシルク〟まで」

「そうじゃなくて! ん!」

「? そんなに胸を張っても小さいままだけど?」

「アンタよりはあるわよ!」

「当たり前だ!」

「何で逆ギレしてんのよ! ってか怒り方間違ってんじゃない?」


 じゃなくて、コイツ全然わかってないわね。

 せっかくアタシがモデルポーズ(足をクロスさせて前傾姿勢になり、腰に手を当てるアレ)をしてんのに、何の感想もないなんて。

 胸の事といい、コイツホントに女子なのかしら?


「大丈夫、似合ってるわよ。エミリーちゃん」

「あ、当たり前じゃない! ふ、ふん♪ アタシに似合わない服が在るワケがないのよ♪」

「あーそっちかー。うん、大丈夫。活発なエミリーにバッチリあってる服だと思うよ」

「遅いわよ! ってか褒めても何も出ないんだからね/////」

「んー♪ やっぱり若い子のツンデレはいいわねぇ♪ どっかの宿屋の女将とはえらい違いだわ」


 女将……あぁ、ジャミアさんの事ね。

 あの人ってばいい歳してあんな性格だなんて、もう少しアタシを見習って落ち着いてもらいたいもんだわね。


「じー……」

「な、なによ!?」

「エミリーにいわれt「うっさいわね!」――まだ全部言ってないけど、え何? なんて言われると思ったの? ひょっとして自覚あるのかなー? ぷぷぷ♪」

「(イラッ!)」


 うん、アタシ最近よく思うんだけど、コイツってアタシより年下よね?

 思うんだけど、コイツは少し礼儀ってものをわきまえたほうがいいんじゃないかと思うのよ。


「え、ちょっと何エミリーさん? お、お顔が怖くていらっしゃいますよ?」


 なんだ、ちゃんと敬語も使えるんじゃない。

 でもそれだけじゃダメよね。

 そう、コレはコイツの為でもあるのよ。

 将来のためにも、『若い時にクローは買ってでも装備しろ』って言うくらいだから、何かあった時の為に今から備えておくのは大事よね?


「(むんず!)」

「ひょわっ!? エミリー待って! スカート! スカートめくれてるから!」


 腰を抱えてクロを持ち上げる(かっるいわね。ちゃんと食べてんのかしら?)と、一丁前の女子らしくスカートを押さえて恥らうさまを見せてくる。

 でも、それは演技。

 アンタがスカートの中身なんて気にしてない事ぐらい親友のアタシは知ってんだから。

 そして〝親友〟だからこそ、人の気持ちが分かるちゃんとした人間に教育しなきゃいけないのよ。


「だからアンタもアタシの気持ちを味わってきなさい!(ぺいっ!)」

「ひゃ、ひゃーっ!? 理不尽だー!?」


 ごろごろと床を転がったクロは、何かにぶつかって止まる。

 手をわきわきさせて気合十分なシェラだ。


「いたたたた……っは!?」

「むぁってたわよぉー……クーロちゅわぁーん♪」

「み、みゃーっ!?」


 いい気味ね。

 じゃなくて、コレでコイツも少しは人の気持ちが分かる人間になってくれるはずよ。

 アタシはもう一人の店員がくれたお菓子を頬張りながら、もみくちゃにされる親友を笑い飛ばしてやった。


  

―――――



「ありがとうございましたー♪」

「クロちゃーん! エミリーちゃーん! また来てねー! 待ってるわよー!

「あい……」

「気が向いたらね……」


 二度と行かないわよ! と言えないのはこれだけの物をかなり安く売ってもらったせいもある。

 それにあの人が悪い人じゃないのも何となくわかるし、服作りにすっごく真面目だっていう事も分かってるつもり。

 アタシとクロが顔を見合わせてため息をつくと、後方からパカパカと馬車が寄って来た。


「おや、クロ―ディア様ではないですか? 今お帰りで?」

「あ、はい。ジャッケルさんたちも今戻られたんですか?」

「あぁ、視察は無事に済んだよ」


 御者のジャッケルさんに代わって答えたのは、馬車の窓から顔を出したイケメン領主様だ。

 あの見た目でミラのお父さんとか、あり得ないわバケモンね。

 ウチの頑固ハゲ親父とはえらい違いじゃない。

 

「クロ様、エミリーちゃん、ただいま戻りました」

「おかえり、ミラ」

「おかえりー。あ、師匠おかえりなさい!」

 

 中には師匠とミラもいて、なんかどっかに行ってきた帰りらしい。

 領主って大変なのね、いちいち自分の領地を見に行かなきゃいけないんだから。


「せっかくだ、乗っていくといい」

「あ、はいお言葉に甘えて」

「素直な所がエミリーの良いところではあるけど、もぅすこし自重っていう言葉も知ろうね」

「何よ。褒めても何もでないわよ♪」

「褒めてもいたけど……うん、なんでもない」


 そうそう人間素直が一番。

 まったくアタシのどこがツンデレだっていうのかしら?

 遠慮なく師匠の隣に座らせてもらったアタシは、さりげなく。

 そう、あくまでさりげなく着ている服をアピールする。


「そ、そういえばなんだか今日はアツイワネー(パタパタ)」

「え? もう夕方だから少し寒いくらいだよ? エミリーひょっとして熱でもある……わけないか。エミリーって風邪ひかなさそうだし」

「だ、だから褒めても何も出ないっていってるでしょ! まったく(ぶつぶつ)//////」


 そりゃ、アタシは体が丈夫だから生まれてから今まで風邪なんかとは無縁だったけどさ。


「あ、やっぱり何とかは風邪をひかないって本当だったんだ」

「……ねぇ、なんでかしらね。褒められてるハズなのに、何故か馬鹿にされた気がしているのは?」

「き、気のせいダヨーあはは」


 そうよね。最近どうにもコイツにいじられているせいか、少し考えすぎちゃったかもしれないわ。

 って、そうじゃなくて!


「う、うん。その、なんかすっごく着心地がいいわねー? なんでかしらねー?」

「あら? そのお洋服は……? まぁ! ラ・デュールに行かれたんですね! エミリーちゃん、すごく似合ってますわ♪」

「や、やっぱりー? やぁね、別に自慢する気はゼンッゼンなかったんだけどねー」


 さすがミラね。アタシの服の変化に気付くなんて、なかなか女子じゃない。

 どっかのお子ちゃまとはえらい違いね。


「……エミリーって演技下手だよね」

「う、うるしゃい!」


 アタシが失礼な親友に腹を立てていると、イケメン領主様は苦笑いを浮かべる。


「そうか、その服はシェラが作ったんだね」

「え、あ、はい」

「ちょっと見ても?」


 どうぞ、と答えるとイケメンの顔が迫る。

 ちょ、近い! 近いから!

 いくら相手が友達の父親でも、こんなイケメンに迫られたらちょっと恥ずかしいじゃないの!


「……うん、良い服だ。またこんな服が作れるようになったんだな」

「え、なに? どういうこと?」


 それだと、まるで服が作れない時があったみたいじゃない。


「そうだね。コレを言うとシェラに怒られるからあまり言いたくはないんだが……そうだね、彼女の友人の友人の話なんだが」

「なるほど、友人の友人ですね」


 どうやらクロは分かったらしい。


「友達の友達って、ただの他人じゃないの?」

「うん、後で説明するから、今はとりあえず聞こうか」


 そうよね。今はそんな他人の事なんてどうでも良くて、大事なのはシェラさんの事だものね。

 そして領主様が話てくれたのはあまりに壮絶な内容だった。


――それは一人の服飾に命をかけた女性の話。

――誰にも頼らず、自分だけの力で素材を集め、最高の服を作ろうとした女性の物語。

――そんな孤独な戦いの中で、彼女を唯一理解してくれた最愛の男と結ばれ、しかし強大な魔物によって子をなせなくなった女性の悲劇。

――それでも猶、最高の服を作るために生きた女性のストーリー。


 ニカワにはとても信じられない話だった。

 しかもそれがシェラさんの事だと、クロがこっそり教えてくれた(友人の友人は本人とかワケわかんない事を言っていたわね)ので、余計にキた。

 そんな悲しい事って、ないじゃない。

 あ、アタシは別に泣いてないけどね!?


「エミリー、ハンカチ使う?」

「…………ちーん!」


 泣いてないわよ!


「牙を取り出す事は出来ないんでしょうか?」

「難しいだろうね。何せあれは身体の奥底に埋まってしまっている。取り出すためには身体を切り裂かなくてはならないし、取り出したところで内臓に大きな損傷が残るだろう。そうなればどのみち子は為せなくなってしまう」

「そう、ですか……」


 そうつぶやいたクロの表情は、とても険しかった。

 きっとお人よしなコイツの事だ、自分に何かできないか考えているに違いない。

 そして、本当にそれをやってのけちゃうのが、クロのすごいところだ。

 悔しいから言ってやんないけど。

 でもホンッとにアタシの周りの人たちってすごい人ばっかりだわ。

 師匠も、領主さんも、ルーミアも、ジャミアさんも、シェラさんも、あと悔しいけどコイツも。

 みんなすごい力を持ってて、誰かのために何かができる人たち。


(じゃあ、アタシにできることは?)


 正直、アタシの力でに出来る事なんてたかが知れてる。

 せいぜい殴るか、蹴るか、壊すか、そんなとこだわ。

 自分の事でいっぱいいっぱいで、誰かの為に何かするなんて到底できない。

 でも、 


「……あのさ」

「ん、どうしたのエミリー?」


 そんなアタシでも、行くだけでシェラさんは楽しそうに笑ってくれた。

 少し、あの人の行動はやり過ぎな感じもするけど、それでもあの笑顔は嘘じゃなかったと思う。


「アタシ、明日もちょっと顔だしてくるわ」


 だったら、それがアタシに出来る事、かもしれない。


「うん、そうだね。……っていうより、お菓子がまた食べたいだけでしょ?」


 そんなアタシの気持ちを知ってか知らずか、この意地の悪い親友はニヤニヤと冷やかしてくる。


「あ、当たり前でしょ! アタシがシェラさんを元気づけたいとか、役に立ちたいとか、そんな事思うワケないじゃない! また来いって言ってたからお菓子を食べに行ってあげる、ただそれだけなんだからね!」


 アタシの言葉に周りの皆は笑いだした。

 な、何よ! 何か文句でもあるの!?


「じゃあ、明日は私もご一緒していいですか? エミリーちゃん」

「あ、当たり前よ! 友達なんだから(ごにょごにょ)」

「やーい、エミリーのツンデレ―」

「ううううううるしゃい! アンタもくんのよ! 絶対だからね!」

「はいはい。ツンデレツンデレ」


 でも、これだけは言わせてもらうわ。

 別にアタシは誰かの為に何かできるほど強くなんてない。

 だからこれはあくまで自分の為、アタシがやりたいと思ったからやるだけなのよ。

 だから、


「ツンデレって言うな!」


 アタシはけしてツンデレなんかじゃない。

後半地の文で誤字とかがありますが、仕様です。エミリーなので。

セリフとかで漢字の間違いとか、紛らわしい間違いとかあったら、仕様です。きっと仕様なんだからね!

……怪しいのがあったら、こっそり教えてくれてもいいんだからね!


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