黒の系譜01-番外編02『未来ある翼たち1』
時間軸的には、番外1でエミリーがやって来た日の翌日です。
「はい、じゃあコレどうぞ」
「ふぉぉぉぉ」
ケーさんから返してもらったギルドタグには【ギルドランク:E】の文字。
今のオレは小憎たらしい猫の形も立派に見えてしょうがない。
「ミラ見て! E! Eだってさ!」
「おめでとうございますクロ様♪」
オレはまだ魔術の余韻でわずかに光るタグを首からかけると、ちっさい胸を精一杯張る。
「どやぁ……!」
「クロ様、ご立派です♪」
「クロちゃん、可愛いわぁ♪」
言葉とは裏腹に、ミラは頬を緩ませてオレの頭をなでくりなでくりする。
カウンター越しにケーナさんもなでくりしてくる。
いつもなら子供扱いされているようで怒るところだが、今のオレは大変に気分がいい。
おとなしくなでられてあげようではないか……もっと誉めてもいいのよ!
「それにしても、ホントに驚いちゃったわ。ルーちゃんとパーティーを組んでいたとはいえ、1日でこれだけの魔物を倒して帰ってくる何てねぇ」
「そんなに多いんですか?」
オレが納品したのはこの間山分けしたうちのブラックドッグの牙が5本、爪が8本、毛皮が1枚だけだ。
コレぐらいの量ならそんなに多くはないかと思うのだが。
「クロちゃんの分だけならね。でもほら、エミリーちゃんも一緒に行ったんでしょう? あの子の納品した分と合わせたら、結構な量になるじゃない?」
「あぁ、納得です」
エミリーはすぐ次の日には納品に来ていたそうで、素材類は全部納品していったから驚いたという。
たしかにエミリーの取り分はお肉とかもあって若干多かったから、驚くかもしれない。
「うんうん、順調に若い冒険者の子が育っているようで、お姉さん嬉しいわ」
頬に手を当てて微笑むベテランの受付嬢さん(子持ち)は、満足気であった。
「やっぱりクロちゃんたちは優秀ね」
「そう言われると嬉しいですけど、それだけじゃないと思いますよ? それこそほら、ケーナさんの紙芝居のおかげもあったと思います」
「はい、あのお話はとても分かりやすかったですわ」
彼女が作ったという紙芝居はストーリー性があって楽しめるだけでなく、大事な要点はちゃんと抑えられている。
内容はいささかお子さま向け感が強かったが、初心冒険者育成には十分役立つだろう。
「クロちゃんたちにそう言ってもらえると作った甲斐があるわ。実は他にもまだあるのよ」
「なになに……『初めよう! 新米冒険者物語』に『魔物と生きる。素材採集のすゝめ』『打倒魔王! 魔術の秘法と戦技の奥義』……わぁ、いっぱいありますね」
ニコニコとケーナさんが取り出したのは紙芝居の束、全部で4つある。
一つ一つ丁寧に作られており、コレをすべて一人で作ったというのには驚かされる。
「すごい……コレ全部ケーナさん一人で?」
「そうねぇ。開いた時間にちょこちょこっと、ね。この仕事を初めてから作り出して、気がついたらこんなにたくさんになっちゃったわ」
確かに、よく見ていれば若干年期が入ったものもある。
ずっと大事に使ってきたんだろう。あえて何年ものかは聞かないが。
「前はお休みの日に広場で子どもたち相手に読み聞かせなんかやったんだけど、最近は全然やらなくなっちゃったから……」
「えぇ!? どうしてですか! やりましょうよ! きっと子どもたちも喜びますよ!」
あの思考回路がおこちゃま並のエミリーに受けたんだから、他の子たちもきっと楽しんでくれると思うんだが。
ケーナさんは『ありがとう』と寂しそうに笑うと、その理由を教えてくれた。
「今この街にいるギルド職員は私だけなのよ。だからここを離れられないっていうのが理由の一つね」
そう言えば、ケーナさん以外の職員さんを見たことがない。ギルドは深刻な人手不足なのかと思いきや、例の〝夢衰病〟のせいで、ギルド側が派遣を渋っているとの事らしかった。
「もう一つは、そうねぇ。最近の子って、ずいぶんマセてるのよねぇ」
ケーナさんはとても悲しそうな瞳でため息をついた。
「やれ子ども騙しだとか、つまらないとか、そんなの見るのはお子様だけだとか……はぁ、あなたたちだってお子様でしょう? って思うんだけど」
「なるほど、確かに最近の子どもはマセてますね!」
オレが言うと、何故か二人してオレを見てため息をつく。
「えぇ、確かにマセていますわね」
「本当に、でもまぁクロちゃんはまだ可愛い気があっていい方だとは思うのだけど」
「そうでしょう。ワタシは大人ですから、ちゃんと愛想というものを弁えていますもの」
そう、なぜならオレは、実年齢2×(ピー)歳だから歳相応なのですよ。落ち着いているのですよ。言えないけど。
そんなオレの思考をわかりもせず、二人は溜め息をついている。
「やっぱりこれはゆゆしき事態ね。〝子どもは子どもらしく〟それが子どもたちの健全な未来の為には無くてはならないのよ!」
「ええ! 私もそう思いますわ!」
何故か意気投合した二人は暑い握手を組み交わし、互いに頷く。
「と、いうわけで、〝大人な〟クロちゃんにお願いがあるんだけど、いいかしら?」
ケーナさんがにっこりとオレに微笑む。
オレは大人ですから、困っている女性にそこまで頼まれたら断る理由なんてない。
「もちろんですとも!」
オレは薄い胸をいっぱいいっぱいに反らせて、最大限の大人アピールをした。
―――――
と、言うわけで場所は変わって街の広場。
オレとミラはケーナさんお手製のチラシを持って歩いていた。
「『かみしばいの会~おいしいお菓子もあるよ!』……これ全部ケーナさん一人で作ったのかな? だったらすごいんだけど」
1枚2枚どころの話ではない枚数なので、ケーナさんの並々ならぬ意気込みを感じる。
紙芝居の件といい、ギルドって案外暇なのかな? そういえばエミリー以外の冒険者を見たことはないし。
「何でも雑貨屋さんには〝刷章器〟なる魔法具があるそうで、自分で魔力を込められるなら紙だけあれば無料で使えるそうです」
刷章器、つまり印刷機とかコピー機みたいなものかな?
そういえば魔術や魔石を使っている冷蔵庫とかガスコンロとかも普通にあるし、もはや何でもありか! と思ってしまう。
「にしても……子どもはどこに?」
広場に来てみたものの、子どもの姿は全然見えない。
ケーナさんの話ではいつもこのぐらいの時間は広場で集まってみんなで遊んでいる、と聞いたのだが……。
オレは何の気なしに[マップ]を開いてみる。
と、オレの背後からゆっくりと近寄ってくるアイコンが一つ、かと思えばいきなりスピードを上げ迫ってくる。
敵意はなさそうだが、果たして……?
「もーら――」
「なにやつッ!?」
「いぃっ!?」
慌てて振り返ったオレと、目の前にいた少年の目が合う。
少年はオレに気づかれたことに驚いたのか、両手で布をめくりあげたままの状態で硬直し、目をまん丸に見開いていた。
かくいうオレもあまりにショックな出来事で、そのまま動けずにいた。
まさか、
「……ズボン?」
まさか、スカートめくりをされるなんて思ってもみなかった。
「だっせー。なんでスカートの下にズボンなんかはいてんだよ。いみわかんねー」
生まれて初めて、いや男だった頃はこんな目に遭うなんて想像してもいなかった。
羞恥心はない。だがこの胸から込み上げてくる敗北感はなんだ!?
オレは自分の置かれている状況を痛感し、気が付くと涙していた。
「うぅ……」
「く、クロ様!? お気を確かに!」
無様だな坂上蔵人よ。
お前はまだ理解していなかったのか?
ここは異世界、そして今のお前は年端もいかぬ美少女だ。
スカートめくりされる可能性だって、あるに決まっている。
認めるんだ。
お前は、女の子なんだ。
「理不尽だ……!」
オレはこの世界の理不尽さを呪った。
「なななななな、なくほどのことかよ! たかがズボン見られたごときで!」
「うぅ……ちがう、ちがうんだ。例えズボンやパンツを見られたって、別にどうってことはないんだ」
「パンツ見られてもいいのかよ!?」
「い、いいんですか!」
いや、何故そこでミラさんまで食いつくんですか? ちょっと目がコワイデス。
「オレは、簡単にスカートめくりされるほど落ちぶれてしまったのかと思うと……」
「いや、スカートめくりごときでそんなむずかしくかんがえられても……」
「じゃあお前もスカートめくりしてやろうか!? そうすればこの気持ちがわかるはずだ!」
「いや、オレそもそもスカートはいてないし」
きっ、とオレが睨みつけると少年はばつが悪そうにそっぽを向く。
「あ、やっぱりおねーちゃんだー!」
「わっぷ!」
ばふん、とオレに抱きついてきたのは武具屋さんのところの女の子だ。
「みらさまもいるー!」
「くろのねーちゃん、あそぼー!」
「ずるいー、わたしもー!」
「わっぷぁっ!」
ばふばふばふん、と他にも数人の子どもたちが物陰からぞろぞろと出てきては突撃してくる。
姿が見えないと思ったらオレたちが来たことに感づいて、驚かそうと隠れていたらしい。
「お前ら勝手に出てくんなって言っただろ! ほらはなれろ! リーダーめいれいだぞ!」
「ぶーぶー!」
「オーボーだー!」
「ショッケンランヨーはんたいー!」
子どもたちを引きはがしたのは先ほどのスカートめくり少年、略してスカート少年だ。
みたところ彼が一番年上のようで、『リーダー』というよりガキ大将的ポジションのようだ。
「うるさい! って、あれ? ノノはどうした?」
「ま、まってー……!」
茂みの方からぴょこぴょこと女の子が走ってくる。
とても足元が危なっかしく、見ていてハラハラする。
「あうっ!」
そして案の定。何かに躓いて頭から倒れる。
「危ないっ!」
「ノノ!?」
「きゃあー!?」
ぺたーん、とわりとすごい音をさせて少女が転んだ。
「う……うぁーん! いだいよ゛ーっ!」
女の子は鼻血を垂らしながら泣き出してしまった。
ガキ大将はかなり慌てた様子で駆け寄り、『泣くな!』とか『我慢しろ!』とか喚いている。
子どもの泣き顔を見るのは、やっぱりいい気がしない。
しょうがないのでミラにチラシを託し、こっそり目配せする。
ミラはオレが何をするのか察して小さく頷くと、二人を心配そうに見つめている子どもたちを連れて少し距離を取ってくれた。
「大丈夫? おにぇちゃんに見せてみてくれる?」
「うぅ……ひっぐ! おねえぢゃんだれ゛?」
「な、おまえっ!」
「あらら……コレは痛いねぇ。でもほら、泣いてたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
オレは女の子の鼻に優しく触れ、ハンカチで血を拭うとこっそり[ヒール・リング]を唱える。
「元気になるおまじないをかけてあげよう。いたいのいたいの、とんでけー」
「……ひっく? あれ? いたくない? いたくないよー!」
女の子は不思議そうな顔で鼻をさわっている。
「おまじない、効いたかな?」
「うん! いたくないよー! おねえちゃんすごーい!」
「ふふふ……実はおね、おねえちゃんは魔法使いなのd「ありがとー!」っわっぷ!」
少女はぴと、とオレに突撃してきて大喜びだ。
「やっぱりおねえちゃんはまほうつかいなんだー!」
「ねえちゃんすげー!」
「かっけー!」
「きゃぁー♪」
「わわわわわっ!?」
「クロさまあぶなっ! あぁっ!?」
ちみっ子たちに揉みくちゃにされて、オレはそのまま後ろにびたーん! と倒れた。
すると誰ともなく笑い始めたので、オレも、ミラも一緒になって笑っていた。
それを一人だけ不機嫌そうにガキ大将の少年が見ていた。
――――――
「かみしばい? なにそれー?」
「おもしろそう!」
「おかしもあるって!」
「いきたい! いきたい!」
子どもたちに紙芝居の話をするとみんな興味津々といった様子だった。
この分ならみんな参加してくれるかな、と思っていたのだが、
「ダメだ。そんなのみとめねー! ゼッタイ行くな! リーダー命令だぞ!」
一人だけむすっ、としたままのガキ大将がむっつりと言う。
「ぶーぶー!」
「オーボーだー!」
「ショッケンランヨーはんたいー!」
子どもたちは精一杯反抗の意思を見せるが、少年が『行ったヤツはお前らゼッコーだかんな!』と叫ぶと、不服そうに口を結ぶ。
絶交の意味は分からなくても、されるのは嫌らしい。
「紙芝居くらい別にいいでしょ?」
「ダメだ。あんな子供だまし、見るだけ時間のムダだ!」
おぉ、たしかにケーナさんの言うとおりマセていやがりますね。
だがどれだけ強がってもしょせんは子ども。
目の前にお菓子の一つでもぶら下げれば、簡単に食いつくはずだ。
「じゃあ紙芝居はついででいいからさ、せっかくケーナさんがお菓子を用意してくれるんだから食べに来ればいいよ」
ふふふ、ちみっ子なぞこの一言でイチコ……
「ばーか。そんなもんに誰がつられっかよ! そんなもん食い飽きたっつーの!」
な、なんだって!? 効果がない、だとぅ!?
オレの子どものころなら鼻水垂らして喜んだだろうというのに!
「ってか、お前らもこんなヘンなヤツの言う事、簡単に信じんじゃねえよ! こんな……その、大した歳もかわんねぇくせにえらそうなオンナ!」
「失礼な。これでも14歳の立派な大人だよ」
中身はもっと上だけどね。
オレは自信満々に胸を反らして見せる。
「ばかじゃねぇの? 大人っていうのは16歳からの事を言うんだぜ? 俺と4歳しか変わんないくせに、偉そうにしやがって!」
「ふ、ふーん! 4歳も違ったら立派な大人なんですー! 立派な大人のおと……淑女なんですー!」
「なにが大人のレディだよ。そういうのはもっとおっぱいおっきくなってから言えって! ミラ姉ちゃんにくらべたら全然ガキじゃねぇか!」
……いまなんと?
「『おっぱいおっきくなってから言え』、今そう言ったかな?」
「だ、だったらなんだよ! この……ペチャパイブス!」
「ふふ……」
まったく、オレもヤキが回ったもんだ。
「な、なに笑ってやがるんだよ! 気味わりぃな!」
「キミはね、今いちばん言ってはならない事を言ったのだよ」
「な、なんだよ! ホントの事じゃねえか! このペチャパイ!」
「違うッ!」
「ひ、ひぃっ!」
オレは断じて『ペチャパイ』などではない。
ましてこれ以上『おっぱいおっきくなる』つもりもない。
なぜならオレは男なのだから!
「ふふふ…………どうやら、口のきき方のなっていない坊主には、少々躾が必要みたいだね?」
「や、やめろよ! なんだよ! なにするつもりだよ!」
オレは手に風の魔力を集中させていく。
なに、ちょっと強い風が吹いて子どもが軽く転ぶだけさ。
もし怪我をしても回復してあげるんだから、安心というものだよね?
「く、クロ様! 子どもの言った事です、お気になさらないでください!」
「り、りーだー! あやまるならいまのうちだぞー!」
「おねちゃんがこわいよー! うわーん!」
ミラはオレの腕をつかんで止めに入る。
周りの子どもたちがてんやわんやの状態になっているのをみて、オレは正気を取り戻した。
いけないいけない。
生意気な少年を躾けるのは当然だが、それで関係ない子そもたちまで傷つけるのはちょっとちがうか。
手の中の風の塊を消し去ろうと、意識を集中させた時だった。
「クロ様の胸はまだ成長期ですから! これからきっと大きくなりますわ!」
ミラの言葉にオレの中で何かがぷつん、と音を立てた。
「こちとら一生無乳でいいわぁーっ!」
オレが風の塊を地面に叩きつけようとして、
「子ども相手になにマジギレしてんのよアンタは!」
突然現れた何者かの強烈なキックによって、風の塊は上空高くまで蹴り飛ばされ弾けて消えた。
こんなことが出来るのは彼女ぐらいだろうが、相変わらずとんでもない事をしでかしてくれる。
まぁ、今回はそれに助けられたけど。
「アンタってバカ?」
「え、えみりーにいわれたくないよ!」
「失礼ね! ってかアンタがあんな事するなんて何かよっぽど理由でもあったの?」
「えっと……あはは、何でもない、そ、それよりも止めてくれてありがとうエミリー」
まさか胸が成長すると言われてキレたなんて言えない。
うん、ホントにオレはとんでもない過ちを犯してしまう所だった。
「ま、まぁね! なんたって〝親友〟の間違いを正すのは〝親友〟であるアタシの役目だものね!」
「そんなに殊更に親友を強調せんでも……」
「なによ……何か文句でもあるの!」
「いえ、アリマセン。アリガトウ、大親友のエミリーちゃん」
「だ、だいしんっ!? べべべべべべ、別にあアンタのためじゃにゃいわよっ!」
オレが心を込めて言うと、エミリーは最大級のツンデレで返してくれた。
さすが仕事の早いツンデレだ。
そして子どもたちと言えば、さっきまでのパニックはどこへやら。
さっそうと現れたヒーロー(ヒロインではない)エミリーに大興奮である。
「すっげー! エミリーすっげー!」
「エミリーちゃん、かっこいいー!」
「ただのばかじゃなかった!」
「まちなさいよ! 今『ばか』っていったヤツでてきなさい!」
「「「「きゃーっ♪」」」」
ただし多少舐められている感も否めなかった。
今にも暴れ出しそうなエミリーの肩を掴んで、オレは至ってクールに忠告する。
「エミリー、大人げないよ」
「それアンタが言う!?」
ごもっともでした。
「ちっ、なんだよバカエミリーか」
さて、さっきまでビビりまくっていたガキ大将だが、さっきまでの臆病風は吹き飛んでしまったのか、また生意気な態度に戻ってしまった。
まぁ、どれだけ強がろうと、わずかに湿ったズボンの染みは隠せないんだけどね。
同じ男としてその恥ずかしさはわからないでもないので、あえて黙っていてあげるが。
「バカっていったヤツがバカなのよ。バカアーノ」
「じゃあ3回バカって言ったお前はもっとバカだな。バカアホエミリー」
「女の子にそんな口きいてると、将来モテないわよ。エロアーノ」
「うるせーナイチチ!」
「なによお漏らしアーノ!」
「も、もらしてねーし!」
もはやどっちが子どもかも分からないような売り言葉に買い言葉でケンカを始める二人。
オレとミラと、子どもたちはその醜い言い争いが終わるまで影踏みをして遊んでいた。
結果はあえて言わないが、子どもの頃に〝影踏みの鬼〟と呼ばれたオレの力がいかんなく発揮されたとだけ言っておこう。肉体的には強化されているはずなのだが、ホント謎である。
―――――
「え、うそ! またあの紙芝居が見れるの!?」
「そうでしょう、エミリーさん。楽しみでしょう?」
「しかもお菓子付きって、超豪華じゃない!」
「そうでしょう、そうでしょう。超豪華なんですよエミリーさん!」
「ねぇ、なんなのそのしゃべり方?」
なぜあんな事になったのか改めてエミリーに事情を説明すると、彼女は子どもたち以上に食いついてきた。
オレは深夜の通販番組風なノリで場を盛り上げていく。
「しかも! 今回は初めて参加してくれたちみっ子たち全員に、ケーナさんがプレセントをくれるそうなんです!」
「すごいじゃない! って、だからそのしゃべり方はなんなのよ?」
別にサクラではないが、エミリーがいい感じで煽ってくれるので子どもたちの好奇心もMAX刺激されている。
「ケーナおばちゃんすげー!」
「ふとっぱらー!」
「えっと、それはケーナさんの前でいっちゃ駄目ですよ? きっと泣いちゃいますからね」
子どもたちの無邪気ながら切れ味のするどい言葉を、ミラがそっとたしなめた。
しかしそれを気に食わないのがガキ大将ことアーノ君である。
さっきからずっと癇癪しっぱなしで、地団太を踏みながら喚き散らしている。
「だからお前ら! 行ったらゼッコーだって……!」
「じゃあアンタだけ行かなきゃいいじゃない」
勝ち誇ったようにエミリーが笑う。
「みんなゼッコーしたら、アンタ一人になるわよ? ホントにそれでいいの?」
「な!?」
「ってか、リーダーのワリに器が小っちゃいわねぇ。クロの胸「懐!」よりちっちゃいんじゃないの?」
「ふざけんなっ! オレはリーダーだぞ! えらいんだぞ! 強いんだぞ!」
その言葉に余裕たっぷりの笑みでエミリーが笑う。
「はん、だったらアタシはもっとえらいし強いわね! なんたってアタシも〝エミリーと愉快な仲間たち〟っていうパーティーのリーダーなんだから!」
自信満々にそんなことをほざきおる、自称我らがリーダー。
「うん、ぜんぜん違うね」
「はい、〝クロ様を愛でる会〟の間違いです」
ミラさん、そこじゃありませんよ。
ともかく、その自身はどこから出てくるのかわからないが、あまりに堂々とした物言いにアーノ少年もたじたじである。
「そのリーダーが? あの名作を知らない? っはん! ちゃんちゃらおかしいわ!」
「な、なんだよ!」
ビシィ! と指を突き立てたエミリーは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「冒険者がなんたるか知らないで〝リーダー〟? しかも戦い方もしらないで自分が強いですって!? 冒険者なめんじゃないわよ!」
「別に冒険者は舐めてないけど、気にしちゃ負けなんだろうね」
「アンタは黙ってて!」
エミリーは叫ぶ。
「いい? 本当のリーダーになりたいなら、四の五の言わずまずはあの紙芝居を見なさい。それでも、自分の考えが間違っていないって思えたなら、いいわ。好きにリーダーを名乗ればいいじゃない。でもね」
己の内にある言葉をすべて吐き出すように。
「断言するわ。あれを見終わったとき、アンタは感動に打ち震えるでしょうね!」
「ちっ。一回だけだぞ。どうせ子供だましにきまってるだろーけどなー」
少年は小さく舌打ちすると、悪態をつきながら帰って行った。
「まって、りーだー! ねぇねぇ、ニックにもおしえてやろーよ!」
「おねえちゃーん、またねー! うん、わたしもみーちゃんにおしえてあげる!」
「おかしたべほうだいだー! リッツもよろこんでくるぜー!」
子ども達もそれについてぞろぞろと帰っていく。
あの感じなら他の子にも声をかけてくれそうだ、結果オーライって奴だな。
「勝った……」
ドヤ顔で仁王立ちするエミリーに、オレは何とも言えない表情を浮かべていると、
「おねーちゃん」
だれかがオレのスカートを引っ張っている。
見れば、豪快な顔面ダイブを決めていた女の子、ノノちゃんだった。
「どうしたの?」
オレが尋ねると、ノノちゃんは小さな体を精一杯に折り曲げて、
「おにーちゃんがごめんなさい」
ぺこり、と謝った。
そのあまりにいじらしい姿にオレはノノちゃんを抱きしめる。
「ううん、怒ってないから大丈夫だよ」
「うん!」
ノノちゃんは花が咲いたように笑うと、元気よく駆け出して行った。
「おねえちゃーん! かみしばいたのしみにしてるねー!」
少し危なっかしくはあったが、ぶんぶんと手を振る少女が顔面ダイブすることはなかったので一安心だ。
オレとミラとエミリーと、三人だけになった広場で、やけにすがすがしい顔を浮かべているひよっ子冒険者にオレは一言物申す。
「色々と言いたいこともあるけど、一つだけ」
「な、なによ!」
色々偉そうな事言ってたけど、
「エミリーには言われたくないな」
「うっさいわね!」
まぁこれでお客さんは何とかなりそうだ。
一度ケーナさんの所へ報告に戻ってから、明日の打ち合わせをしよう。
ちょっと長くなったので分割いたしました!
ご意見ご感想など、ありましたらお待ちしておりますー。




