黒の系譜01-40『さよならの代わりに』
ふふふ……一章の最後の最後までご都合主義と超展開を通すのさ!
それが八重流樹流!←言ってみたかっただけ/////
「約一ヶ月間、本当にお世話になりました」
「こんな事になってしまって……本当にすまないと思っている」
「そんなに悲しそうな顔をしないでください。これはワタシの望んでいたことでもあるんです」
オレは門の前でチェスターさんに丁寧に礼をすると、彼は申し訳なさそうに頭を下げる。
「それに、これもワタシの責任ですから」
今日、オレはこのスーサの街を出る。
門の前には街の人々が総出で、オレを見送りに来てくれていた。
「嬢ちゃん、元気でなー!」
「怪我するんじゃないよー!」
「おねえちゃーん! また遊びに来てねー!」
武具屋の一家の泣ききそうな笑顔に、こっちまで泣きそうになる。
「俺、強くなるからなー!」
「おねーたーまー! ぜったい、ぜーったいかえってきてねー!」
仲良し兄弟の元気な声が聞けなくなると思うと、ちょと寂しくなる。
他にも見知った人々が手を振ってくれている。
「聖女さまー! お達者でー!」
「聖女様の門出じゃー!」
「聖女クローディア様ばんざーい!」
……うん、別の意味で泣きそうだ。
「……本当にすまないと思っている。まさかこんなに事が大きくなってしまうとは……」
「いえ、ワタシのせきにんですから……」
そう、全部オレの責任なのだ。
―――――
――オレが女神との対話を終えて目を覚ますと、あの最悪の日からは既に数日が経っていた。
結局、女神が連れていったのはオレの魂だけだったらしく、抜け殻になった身体の方はそのまま地上に残されていたので、死んだ死なないでしばらく大変な騒ぎだったらしい。
メイリーンさんが先に戻って事情を説明してくれていなかったら、危うく埋葬されていたかもしれないとか。
その後は屋敷の部屋に安置されていたのだが、いつまで経っても目覚めないのでみなさんにはかなり心配をかけてしまったそうだ。
特に心配をかけたルーさん、ミルトさん、エミリーに最大級のDOGEZAをもって謝罪していると、神妙な面もちでやってきたチェスターさんにあることを告げられた。
「マイ、クローディア君。すまないが、君にはこの街を出ていってもらう」
「はい………………はい?」
激昂するエミリーと他二名には一度退出してもらい、部屋にはオレ、ミラ、チェスターさんとリリメさん(中身はメイリーンさん)の4人だけが残る。
「まったくー。すぐに結論を述べてしまうのはチェスター様の悪いくせですよー?」
「す、すまない。少々焦りすぎてしまった」
メイリーンさん(リリメさんでは分かりにくいので、頭の中では本名? で呼ぶことにした)に完全に尻に敷かれるチェスターさんにほっこりしながら、詳しい説明を求める。
メイリーンさんによれば、どうやらオレが女神へ拉致られた場面がかなりの人間に目撃されていたとの事である。
「人々の間では〝聖女の誕生〟なんて言われて大賑わいですよー♪」
「ぜんぜん嬉しくないですけどね!?」
メイリーンさんの言葉に聞いただけで背筋が凍りそうになりました。
「無理もない。伝説にも登場する〝魔族〟の魔の手から街を救った聖女が、女神に天へ迎えられた瞬間だ。まさに物語の一ページを見ているかのようなものだったのだからね」
「……いや、そこでうっとりしないでくださいよ……」
「これは失礼」
チェスターさんの説明してくれた内容は色々、事実と齟齬が見られるが、つまりはそういう事になっているのだろう。
まぁ、真実が伝わるよりはよっぽどマシだが、とても背中がこそばゆい。
「私は館の中で祈っていたので見られなかったんです。クロ様の晴れ姿が見られなかったなんて、一生の不覚ですわ」
「あんな恥ずかしい姿見られなくてよかったデス」
悔しそうにするミラだったが、オレとしては大変ありがたい。
なぜならミラをあまり面倒事に巻き込みたくないのでオレの正体は隠したままなのだ。
「ともあれ、その〝聖女の誕生〟が街の人々に見られただけならまだ良かったんですが、運悪く教会の人間にも見られていたんです」
「教会の人間って言うと。ミルトさんとか神官長さん? それのどの辺が運悪く、なんですか?」
あの二人なら多少誤解はされても、何も問題なさそうな気もするけど。
「いいえ、たまたま教会へ来ていた教会本部の神官に見られたんです。ロリエルという男なんですが、教会至上主義を唱える〝神音派〟の者なんです」
なにやら話がきな臭くなってきた。
「その者が見た奇跡をそのまま本部に伝書し、〝神音派〟を中心として教会本部が調査に乗り出しました。〝神音派〟は教会の中でも特に狂信者が多く、過去には彼らが一人の少女を〝聖女〟として勝手に奉り上げ拉致監禁を行った事件も起きています」
はいアウトー!
これはアレだ。
狂信者に捕まって教会の中で一生飼い殺されるルートだ。
いや、そんな事になったらオレだってただじゃおかないですよ?
けど、そこでオレがまた何かやらかしたら、今度は教会の敵認定されて世界を相手取るルートに突入だろう。
もっと言えば、正体がばれたら確実にアウと、だって教会の敵視する〝クロード〟本人ですから。
どう転んでも厄介事の種にしかならない。
「幸いだったのは彼がこの街の人間ではなく、クローディア君の顔を知らない事だ。街の住人たちは事情を説明すれば喜んで協力してくれるだろうが……それを除いても君の存在は目立ちすぎる。この街にいれば君が件の聖女だとすぐにばれるだろう」
「ハハハ……そんなまさかー」
「バレるさ」
「バレますねー」
「バレると思います」
有無も言わせてもらえず、満場一致で可決でした。
「ともかくそれで街を出ろ、っていう事だったんですね?」
「ああ。これが君のためにも、街のためにも最良だと考えたんだ。……街の恩人である君を追い出すような真似になってしまい、本当にすまないと思っている」
いや、チェスターさんは間違っていない。
オレの正体を気遣ってくれているだけでなく、もしこの街でまた何か騒動が起きた時の事も考えてくれている。
もしオレが教会の敵と認定されたとしても、おそらくこの街の人々はオレの味方をしてくれる。
だが、それで人々にまた何かあったら、オレは今度も正気でいられる自信がない。
そしてチェスターさんはそれを回避するための方法を考えてくれたのだ。
「お気になさらないでください。オレもそれが一番だと思います」
「本当に、すまない」
「謝らないでください。むしろオレは感謝している位なんです」
オレは改めてこの家の人々に頭を下げた。
「ここへ来て、右も左もわからずにいたオレに優しくしてもらって、本当にありがとうございました。このご恩はけして忘れません」
それを聞いて、チェスターさんも頭を下げる。
「ああ、私も君との出会いに、感謝してもしきれない。ありがとう我が小さな主」
メイリーンさんとミラはオレを優しく抱きしめる。
「私からも最大級の感謝を」
「私は、いつでもクロ様のそばにいますから」
こうして、オレは大好きな人たちと別れの言葉を交わした。
……はずだった。
―――――
「で、どうしてミラまで旅支度がすんでいるワケ?」
チェスターさんやメイリーンさん(ラムダさんはチェスターさんの使いで外へ出ているそうだ)たち見送り人と向かい合うように、なぜかオレの隣にはミラが立っている。
「え、だって。『いつでも側にいる』と言ったじゃないですか?」
「え、そのままの意味だったの!? アレって『心は』的なニュアンスかと思ってたよ!?」
「だって、心はもうクロ様の虜ですもの♪」
うん、クロードの事といい、ミラってすぐに心酔するというか影響されちゃうよね。
お兄さん(断じておじさんではない)ちょっと心配だよ。
どうやらミラはオレが街を出るなら着いて行くと言って聞かず、しまいには赦してくれなくては親子の縁を切るとまでいいだしたそうだ。
心中お察しするが、本当にそれでいいのかチェスターさんに耳打ちすると、
「(こうなれば仕方ありませんよ。それにどこの馬の骨かも分からぬ者ならいざ知らず、我が主のお側ならばむしろ安心でしょう。娘の事をお願いします)」
と頭を下げられた。
それにメイリーンさんに至ってはノリノリでミラの味方をしていたという。
そうなっては彼も頷かざるを得なかっただろう。
「はっきり言って、危険もいっぱいだよ? ワタシだって、守りきれるかわからないし」
「私はクロ様を信じていますわ。それに私だって戦えますもの! イーノッドの女は強いんですよ!」
「さすが私のむす……じゃなくて、お嬢様ですー!」
いくらミラが戦えると言っても、あまり女の子に頑張らせるのは男としてどうかと思う。
やはりオレが頑張らなくては!
一人でオレが気合を入れていると、
「ん、だいじょうぶ」
「ほぁわっ!?」
後ろからひょい、と持ち上げられた。
こんなことをするのは、メイリーンさんかもう一人。
「この感触は……ルーお姉ちゃん!」
「ん、正解」
何度も抱きかかえられているので、もはやこの感触は身体で覚えている!
……何かな? 何か問題でもあるのかな?
「お姉さまはもうお別れはおすみなんですか?」
「ん」
ルーさんは既に道具屋のじいさんやギルドの受付嬢のケーナさんと別れを済ませてやってきたらしい。
残念ながらケーナさんは仕事が残っていてギルドを離れることが出来ないそうで、言付けを預かっているという。
「クロ、無茶しない。私、守る」
「……ミラ、通訳をお願いします」
ミラの通訳によれば『いい? クロちゃん、絶対無理しちゃだめよ? 危ないと思ったらすぐに逃げるか。ルーちゃんに守ってもらうのよ? いいわね?』だそうだ。
ミラさんマジスゲー。
「クロ、ミラ守る。わたし、二人守る。お姉ちゃんだから」
どうにも、あの日オレが一人で行ってしまったことを相当根に持っていらっしゃるようで、隙があればこうして抱きかかえられてしまう。
オレも少し負い目があるので、こうして為すがままなのだ。
だからしょうがないのだ異論は認めない。
「よろしくお願いします、お姉さま」
「あはは……頼りにしてます」
オレが街を出ると挨拶に行くと『ついて行く』とすぐに支度を整えてきた。
どうやら錬金術の研究のために元々街を出るつもりがあったらしく、その準備は前々からしていたという。
それが今回オレたちが街を出ると知り、旅に同行してくれることになったのだ。
オレはルーさんがいないと一人で街の外に出ることもできなかったし、なによりルーさんがいれば戦闘面でも心強い。
願ったり叶ったりだった。
「世界、広い。練金きわめる」
「はい、ワタシもお手伝いします」
「微力ながら私も」
「ん、当然」
オレとミラとルーさん、三人で笑い合う。
「ちょっど! わだじを……ズズッ! わすれんじゃにゃいわよ!」
目を真っ赤に泣き腫らしてやってきたのは、肉弾系ツンデレ少女ことエミリーである。
彼女にいたっては別に付いて来なくていいと言ったのに、ついてくると言って聞かなかった。
今はジャミアさんにお別れを告げてきた後らしく、二人のツンデレが奏でるの罵り合いのようなエールの交換は、周囲まで貰い泣きの渦に巻き込んでいた。
当人は泣いていないと言い張っているが、それはまぁいつもの事である。
「別れが辛いなら無理してついてこなくてもいいんだよ?」
「べ、別にアンタのためについていくワケじゃないにょよ! この辺の魔物が弱っちいから、強敵を求めて旅立つだけなんだからね!」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「ツンデレってにゃによっ!」
そんなこんなでオレたち四人、今日この街を旅立つ。
最後に見送りのみなさんにもう一度お別れを告げようかと前に出ると、オレに駆け寄ってくる人がいた。
「良かった! 間に合ったのね!」
息を切らせながらやってきたのは、服屋のシェラさんである。
胸に何かを抱えて、オレたちの方へやってきた。
気を利かせてルーさんが降ろしてくれたので、オレもシェラさんに挨拶をする。
「シェラさん、お見送りありがとうございます。あとこの服とか、色々とお世話になりました」
「それは、こっちの、セリフだわ」
シェラさんは肩で息をしながらも、オレに持っていた布を優しく被せてくれる。。
「これは……?」
「あんまりに突然だったから、急拵えでこんな物しか用意できなかったわ」
シェラさんがくれた物はローブ。
急拵えという割には上等な素材で丁寧に縫われているのがわかる。
全身を覆えるほど大きいのに、不思議と軽く、頭に被るフードも着いているので、深く被れば顔を隠すことも出来そうだ。
「そんな。十分すぎるくらいですよ。ありがとうございます」
「だからそれはこっちのセリフ。クロちゃん、私の大好きな人たちを救ってくれてありがとう」
シェラさんはオレを抱きしめ、優しく頭をなでてくれる。
その指先は、いつも採寸する時のようなテクニシャンな動きではなく、慈愛に満ちたとても優しい手つきだった。
「くすぐったいです」
オレが恥ずかしくて身じろぎすると、シェラさんはいつもの調子で、いつものように笑う。
「いい? 私はゼェーッタイにクロちゃんの花嫁衣装を作るって決めてるんだから、だから絶対にまた帰ってくるのよ!」
「ぶっ!?」
今とんでもなく恐ろしいことを言われた!
「そ、その機会はたぶん来ないんじゃないかなぁ?」
オレは苦笑いでしどろもどろこたえる。
いえ、今はこんな美少女に身を窶していますが、中身は立派な漢ですから。
例え結婚式でも花嫁衣裳は着ないんじゃないかなぁ?
こらそこのメイリーンさん! 事情を知ってるからって笑わない!
「それは困るわ! 娘に花嫁衣装を作るのが私の夢だったのよ!?」
「いえ、そうは言われましても……」
「相手がいないのね? だったら旦那に頼んで店の若い子を紹介してあげてもいいわよ!」
「し、知らない人はちょっと……」
「まぁ、そうよねぇ。でもほら、会ってみれば案外気に入るかもしれないわよ?」
そう叫ぶシェラさんの顔は本人以上にやる気を出して、お見合い話を持ってくる親戚のおばちゃんのようだった。
このままではまずい、と悟ったオレは兼ねてから考えていたお礼を実行してこの場を乗り切ることにした。
「いえ、その夢は是非ご自分の娘さんで叶えてください」
「……そうね。だけど」
オレは、シェラさんが子供を産めない身体なのだという事は聞いている。
チェスターさんにたまたま聞いたのだが、冒険者時代に戦った魔獣による傷が原因らしい。
魔獣の鋭い牙でお腹を貫かれ瀕死の状態に、急いで傷を塞いだので奇跡的に一命を取り留めたが、その際体内に残ってしまった牙の欠片が、彼女を子供が産めない身体にしてしまっているという。
かなり身体の深くにまで到達していて、その後の摘出は不可能だったと聞いている。
「いいえ、シェラさんはきっと夢を叶えられます」
「無理よ、神に祈っても無駄だったのよ」
「できます。なぜならワタシは神さまではなく魔法使いですから」
「魔法使い? 魔術師じゃなくて?」
「はい。おとぎ話に出てくるような、魔法使いです」
オレはシェラさんを安心させる笑顔とは裏腹に、内でイメージと感覚を研ぎすませて魔術を発動する。
「感知、集中、細部スキャン[ポケット・ソナー]」
死霊の館を探索中に、ルーさんの言葉からヒントを得た方法を試みる。
というのは[ポケット・ソナー]の収束による魔力スキャン、分かりやすく言うとレントゲンみたいなものだ。
普段の[ポケット・ソナー]は周囲の魔力を大雑把に見ているだけなので、その感度? 的なものを上げれば魔力の流れとかが見られのではないか、と考えたのだ。
結果は成功。
オレの目に集まってメガネのように形作られた魔力を通して見る世界は、あまりに神秘的な光景だった。
色とりどりの魔力の線が描く無数に描く様々な模様、それは〝生きる絵画〟のようだった。
「え、なに? なにが始まるの?」
状況を全く理解できないシェラさんを落ち着かせ、オレは作業を続ける。
(さて、問題の牙は……あった!)
案外あっさりと見つかったソレはちょうどシェラさんの下腹部のあたり、シェラさんの綺麗な魔力線とは異なる、どす黒い魔力を放っている。
オレは慎重に観察し、それが臓器の中に埋まってしまっている事を確認する。
プランAとして考えていたコレをそのまま摘出するという方法だと、開いた空間に血液が流れ込んでしまう恐れがありそうだ。
となると、ブランBでいこう。
「見ていてください。今から魔法をかけて上げます」
オレは手のひらに翡翠色の物体を作り出す。
魔製珠で作り出した牙の欠片と寸分違わぬダミーの中に、リカムポーションを詰こんだものだ。
「それ、くれるの? それが魔法?」
「いいえ、あげはしません。〝交換〟するんです」
オレは笑うと、シェラさんのお腹に手を当てて、彼女の内でどす黒くうねる牙の欠片に全神経を集中させる。
「ちちんぷいぷいの……ぷい! ([キャスリング]!)」
「っ、つぅっ!」
オレは小声で[キャスリング:質量が同程度の物同士を入れ替える魔術]を唱えると手の中にあったダミーが消える。
一瞬、痛みに顔をしかめたシェラさんだったが、オレの手のひらに現れた物体を見て口をあんぐりとあけた。
「これは……? まさか!?」
すぐにそれがなんなのか理解したシェラさんは自信のお腹に手を当て、驚いた顔をしている。
どうやら〝交換〟は無事に完了したようで、体内に入ったダミーはすぐに魔力として吸収、続けて中に入っていたポーションが開いた傷口を回復、少し痛みはあったようだが魔力の流れも正常に戻っている。
「そんな……! まさか、これは……? だって……!」
「たぶん大丈夫かとは思いますが、一応教会で確認してもらわっぷ!?」
「ありがとう……小さな魔法使いさん」
感極まったシェラさんに抱きしめられ、何度も何度も感謝の言葉を告げられた。
その幸せそうな顔にオレは満足する。
「今度帰ってくるときは、お子さんを紹介してくださいね?」
「えぇ……当然よ!」
オレは、あの日決意した。
目の前にある不条理に足踏みしていて大切な物を失ってしまっては意味がない。
だからオレは、オレの大切な人たちを守るためにこの力を使うことを恐れない、と。
この笑顔はその第一歩なのだ。
―――――
「さって、そうと決まれば旦那を呼び戻さなくちゃね!」
「さすがシェラさん。行動が早いですね」
落ち着いたシェラさんは、懐から大量の魔石を取り出して、宙に放る。
それは光輝くと、白い翼の鳥へと代わり空中を優雅に旋回する。
その数ざっと数えただけでも30。
それらはすべて、お店で使う連絡用のミニパトだという。
ミニパトたちはゆっくりと降りてくると、シェラさんの前に規則正しく並ぶ。
よく訓練されたパトたちである。
「アンタたち! 今からいう事をよーく聞きなさい!」
「「「「「「「「「「クルッポッポー!」」」」」」」」」」
シェラさんはパトたちに向かって旦那さんへ伝えるというメッセージを演説している。
さながらその姿は鬼教官のようで、パトたちの表情からは真剣な様子が感じられた。
本当によく訓練されたパトたちである。
「さて、そろそろ皆との別れはすんだかい?」
チェスターさんとメイリーンさんが改めてやってくる。
「はい」
まだ名残惜しい気もするが、あまり長居すると余計にこの街を出たくなくなってしまう。
たった一月、でももっと長い時間を過ごしたような気がする。
オレはきっとこの街で過ごした日々を、ずっと忘れはしないだろう。
「最後に一言いいかな?」
「なんか照れますね、そういうの」
オレは一歩前に出ると、お世話になった人々に頭を下げる。
「「「嬢ちゃーん!」」」
「「「「クロちゃーん!」」」
「「「「「「聖女さまぁーーーーー!」」」」」
歓声を受け、顔を上げると集まった人々の視線が一斉に注がれる。
恥ずかしいのでフードをかぶった。
「あ、ねこちゃんだー!」
「ほわっ!?」
どうやらローブのフードは猫耳のような飾りがついていたらしい。
被ると見た目は完璧に猫耳少女だ。
ご丁寧にヒゲのような飾りまでついていて、無駄に芸が細かい。
「グッ!」
シェラさんがいい笑顔でグーサインを送ってくる。
くっ、なんか余計に恥ずかしくなってしまった。
大人しくフードを降ろしてみなさんを見る。
「えー。みなさん、今日は見送りに来ていただいてありがとうございます」
初めは、異世界という単語にワクワクもしたし、でもやっぱり不安も多かった。
「ワタクシ、クローディアはとある事情により、素性を隠してこの街へやってきました。だというのに、この街の方々は誰も彼も優しく、受け入れてくれました。本当に嬉しかったです」
でも街の人々は、オレを暖かく迎え入れてくれた。
「今回、とある事情からこの街を離れる事になってしまいました。詳しくはお話しできませんが、とても大事な事。そう、使命といっても過言ではない事です」
でも、そうでない者たちもいる。
クロードを異端視する教会。
魔族や魔物。
そして、謎の影。
まだまだ解決しなきゃいけない問題も多く、これから先も無事でいられる保証は、きっとない。
でも、
「でももし、その使命を無事に終えることができたら」
全てが解決したら、
「また、帰ってきたい。いえ、帰ってきてもいいでしょうか?」
オレの言葉に、一人、また一人と拍手で応えてくれる。
そこにいた全員が大きな拍手で、時折歓声を交じえながら許してくれる。
その暖かい音がオレの胸にじんわりと響いた。
「ありがとうございます」
オレは深く礼をして、ゆっくりと顔を上げる。
するとシェラさんがミニパト隊に出発の号令を飛ばすのが見えた。
白い翼の大きなミニパトたちが、一斉に空へ羽ばたいていく。
タイミングを見計らっていただろう、シェラさんが目じりに涙を浮かべながらグーサインを送ってくる。
オレは思わず吹き出してしまった。
「だったら、さよならは言いません」
そしてそのまま、最高の笑顔で笑った。
「それじゃあ、いってきます!」
――こうしてオレは大好きな街を、大好きな仲間たちと共に旅立った。
いつか必ず、またここへ帰ってくると心に誓って。
これにて第一章は終幕となります。
楽しみにしていただいた方も、とりあえず一章くらいはと読んでくださった方も、本当にありがとうございます。
第二章スタートはもう少しネタをまとめてから、幾つか番外編を挟んでから、そしてなにより資格試験の目途が立ってからにになると思います(爆涙)
長く付き合っていただける作品めざして、作者、ちょうがんばります!




