黒の系譜01-37『黒の胎動』
今回はちょっと訳ありなため第三者視点でお送りいたします。
――黒の伝説が今ここに……!
黒に支配されたクローディアは両手を握りしめる。
己の甘さを悔いるように。
≪いい? この力は強力だけど、危険でもあるの。だから使えるのは満月の夜と新月の夜だけに制限したわ。あなたの力を以てしても抗えないような理不尽に立ち向かう時にだけ使いなさい≫
自らを引き留めようとする優しすぎた男を魔術で眠らせて屋敷を後にし、ただ敵を排除するためだけに進む。
≪これを使えばアナタは全盛の頃の力を取り戻すわ。ただそれと同時に大切な物も失う。だから使うときはよく考えて使うのよ≫
彼女は失うのを恐れない。
もうたくさんの大切なモノを失ってしまったから。
≪使い方は簡単。石を天にかざして〝キー〟となる言葉を叫ぶの≫
彼女はもうためらわない。
この世界で命の重さがどれだけ軽いのか、嫌と言うほど思い知らされ、打ちのめされたから。
≪ワタシはアナタの事を想っているわ。だから、無茶はしちゃだめよ≫
彼女は涙を流さない。
世界はこんなにも残酷でくそったれで理不尽だと知ったから。
(目には目を、歯には歯を。理不尽には理不尽で返してやろうじゃないか)
彼女は振り返らない。
全てを終わらせるまでは。
ただ、目の前の現実と対峙する。
「お待ちしておりましたよ♪ クローディア様」
悪夢に侵された街の中心で、ソレは無邪気な子供のように笑っていた。
「ようこそ♪ リリメの夢の中へ」
屋敷でメイドをしていた時と比べ、四肢や体躯が成長し妖艶な姿をしている。
それがかえって少女のようなあどけない笑みを不気味なほど引き立てている。
彼女の表情に驚きといった感情は一切見られず、どうやら初めからクローディアが来ることを分かっていたようだった。
「んふふー♪ クロ様が来たのはすーぐわかっちゃいましたよー。だって、流れてくる魔力が、とーっっっっっても、甘いんですものー♪ あはっ♪」
楽しそうに話しかけるリリメに相槌ち一つ打たず、クローディアは問う。
「聞いてもいいかな?」
「なんですかー? 面倒なので手短にお願いしますねー?」
そして、
「そこにいるのは誰?」
クローディアが指さしたのは、体中の生気と魔力、更に魂まで吸い取られ尽くした老執事の姿だった。
傍らに突き刺さる彼の剣と、彼の無念の表情が全てを物語っている。
それでも、クローディアは彼女に問うた。
「あーソレですか?」
夢魔は眉をしかめて嗤う。
「誰でしたっけー? そんな不味い家畜の餌みたいなヒト。覚えてませんね。ってゆーか、そんなゴミいちいち気にしてませんよー?」
彼女にとって、人間とはただの魔力補給源、人間にとっての家畜と同じくらいの認識でしかない。
結局のところ彼女が人間たちに抱いていた感情は、人間が豚や牛に抱く感情と変わらない。
家畜に対して敵意を抱く飼い主がいるだろうか?
彼女を示すアイコンがずっと青かったのもそのためだった。
「どうして、こんな事に?」
クローディアは問う。
「どうしてって、そんなの決まってるじゃないですかー。美味しいものが食べたい、それ以上でもそれ以下でもありませんよー? クロ様たちニンゲンだって同じでしょう?」
それがさも当然のことであるかのように、彼女は言う。
「家畜を育てて、殺して、食べる。リリメだってやってることは同じですよ? リリメの場合料理だってします。程良い恐怖と絶望のスパイスを塗して、欲望で熟成させた料理はそれはもう舌がとろけるような美味しさなんですよー♪」
彼女は恍惚とした笑みを浮かべるが、すぐに顔をしかめる。
「ってゆーか、ドイツもコイツもゲロマズで、料理でもしなきゃまともに食べられた物じゃないんですもん。しょうがないでしょう? あ、でもでもーましなのもいましね。えっとーちぇ……ちぇなんとかさん。あの人はちょっと良かったなぁ♪」
リリメは醜く嗤う。
「ちょーっと、つまみ食いしただけですけど、アレは素材からしてなかなか良さそうでしたねー。今も絶賛調理中なワケですが、全てが終わったら、いったいどんな素敵な味になってくれるのか楽しみで楽しみで……♪」
身体をくねらせ、舌なめずりしながらリリメはクローディアに近づいていく。
「でもぉー。やっぱりクロ様にはかないませんよー♪ さっきからリリメの身体に少しずつ流れ込んできているこの魔力……あはぁ♪ 早くむしゃぶりつくしてしまいたいですー♪」
クローディアを目の前にしてリリメは恍惚の表情で身悶える。
「わかった。もういい」
クローディアは己の拳を握りしめた。
「あっれー? もしかしてクロ様怒ってますー? もしかしてリリメ、なんか変なことでもいいましたー?」
「違う」
クローディアは肩を震わせる。
「じゃあひょっとして、悲しんでますー? リリメにはそんな豚以下のゴミクズを哀れんだり、悲しんだりするバカみたいな気持ちはわかりませんけどー。 同情はしてあげますよー? 美味しく生まれなくて可哀想、ってねー♪ あはははは♪」
「そうじゃない!」
クローディアは己の唇を噛みしめた。
じわり、と口の端から真っ黒な血が垂れる。
「もう! やっぱり怒ってるんじゃないですかー! わかりましたー、あやまりますぅー。あやまればいいんですよねー? ごめんなさーい。はい、終わり。これでいいでしょう?」
何がおもしろいのか、リリメはケタケタと声をあげて笑っている。
「許さない」
クローディアは言った。
「まぁ、クロ様が許してくれなくったって、別にどうでもいいんですけどねー。リリメ、クロ様食べる。クロ様、まるかじり。なーんちゃって♪」
「違う!」
クローディアは俯いたまま、リリメを見ようともしない。
いや、初めから彼女の事なんて見ていなかった。
「違うって、なに言って……っていうか、さっきからどこ見て……!?」
クローディアへ近づいていったリリメは、ぎょっとして距離を取った。
「オレは、オレを許さない! お前が何をしたとか、そんなの関係ない! この展開を許してしまった自分を! 何でもできると調子に乗っていたオレを! いつまでも自分のことしか考えていなかったオレを! ……オレは許さない、許すことができない!」
彼女の瞳は血涙で紅く染まっていた。
「な、なんですか!? 一体なにがどうなって!?」
リリメの問いに彼女は何も答えない。
代わりに、
「だから、オレが全部終わらせてやるッ! [更神]ッッッッッ!」
彼女は両の拳を天高く突き出した。
途端、紅と蒼の輝きがそれぞれ両の手から迸る。
<紅の魔石は力の魔石。強大な魔力を手にする代わりに激しい感情の増幅によって理性を失うわ>
彼女の握りしめた左手から紅い光が拳を地脈のように広がり、腕を、肩を、顔を伝い、左の眼から脳へと到達する。
そして彼女の瞳は真っ赤に燃えた。
<蒼の魔石は知の魔石。あらゆる知識を手にする代わりに莫大な情報の波に耐えられるよう感情を失うわ>
彼女の握りしめた右手から蒼い光が拳を葉脈のように広がり、腕を、肩を、顔を伝って右の瞳から脳へと到達する。
そして彼女の瞳は氷よりも冷たく凍った。
両の眼を輝かせた彼女は激しい激痛に身をよじらせ断末魔の叫びをあげる。
「ぐっ、がぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
二つの石は彼女の手の甲へ埋まり、輝きを更に増していく。
それと比例するかのように、激痛のレベルが増していく。
身体が裂けんばかりの激痛に少女は獣のように吠えるしかなかった。
<いいこと? 二つの魔石は本来対局に位置する力なの。けして一緒に使おうなんて考えてはダメ。いくらアナタでもどうなってしまうかわからないわ>
やがて光は全身を覆っていき、紅と蒼は少しづつ混じりあって紫へと変わる。
否、紫よりも深いその色は黒。
全身を黒い炎が蝕んでいく。
それは例えば全身を焼かれるよりも強い痛み、或いは臓膚の全てが凍って腐り落ちるよりも耐えがたい苦しみ。
気が狂いそうになる激痛に少女は叫ぶ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」
黒き炎に身を焦がす少女の口から木霊した昏き咆哮。
すさまじい轟音で全身の闇を吹き飛ばした彼に、もはや彼女の面影など微塵も残っていない。
しなやかながらも逞しい肉体。
短く揃えられた艶やかな黒髪。
左右それぞれ蒼紅に輝く瞳。
漆黒の闇を縫いあげたかのような黒の衣装を身に纏う彼を、畏れと敬いを込めて人は呼ぶ、
「ま、まさかアナタ、いえアナタ様は……!?」
最悪にして災厄。
至高にして崇高。
全ての賞賛と羨望と憎悪を一身に集めしその男は偉大なる魔術の祖にして邪悪なる者どもの原点。
神への反逆者――
「クロード=ヴァン=ジョーカー様……?」
「吾《ワレ》をその名で呼ぶな。……とうに捨てた銘である」
――黒の魔導師〝クロード=ヴァン=ジョーカー〟はマントを翻して、不機嫌そうに言った。
「……っこう」
リリメはしばし呆然としていたが、すぐに正気に戻ると頬まで裂けんばかりに嗤う。
「最高さいこう最高サイコウ最高さいっこうです♪ わたしの目の前に? 伝説の魔導師がいる? しかもどうしてこんなに美味しそうに脂が乗っているんですかありがとうございます」
否、正気などではない。
その瞳は狂気に歪んでいた。
「ああどうしましょうどうやってたべましょうかうふふ。ほんとこれも全てあのお方のおかげいやわたしの行いがよかったからでしょうかねそうですねそうにちがいありません。これならあのクソジジイを食べたときの気持ち悪さもなくなりそうですねいえむしろあれがあったから今最高の料理がより美味しく感じるのでしょうかねならあのクソジジイにも感謝しなくちゃいけませんね」
「五月蠅いな」
壊れたリリメの蛇口から狂ったように吐き出される汚水に、クロードは眉を顰めた。
そして、
「誰が貴様の発言を許可した? 少し黙れ。[静寂にして暗黙なる棺]」
彼が告げると、リリメは魔法にかかったかのようにピタッ、と静かになる。
否、たったその一言だけで魔術にかけられたのだ。
リリメは口を開けているのに、息を吐き出しているのに、言葉が声にならない。
「――ぁ! ――――ぅっ! ふっ、――はっ!」
クロードの声は力だ。
彼が黒といえばこの世の全ては黒になる。
冗談みたいに聞こえるが、これはまったくの冗談ではない。
彼の魔術は時間も空間も、他者の魂さえも支配する。
そこに抵抗という選択肢はそもそも存在しない。
「それにこの鬱々とした魔力よ。気色悪い」
クロードは手を地面に付ける。
と、そこを中心点として半径10メートルにも及ぶ巨大な光の魔法陣が展開、光の柱を発生させる。
「悪夢なぞ喰らってしまえ。来い、我が従僕よ【亞宝莫】」
彼の呼び声に応えるかのように、陣の中心が裂け、そこから巨大な獣が姿を現す。
象と穴熊と水牛を足して割ったかのようなその獣は、幻獣と称される伝承の生物。
かつてクロードが神へ反逆した際、天災すらも喰らい尽くした化け物である。
「アグゥゥゥゥゥ!」
幻獣は地の果てまで轟く咆哮を上げると、その巨大な鼻を上空へ向け、周囲に霧散している魔力だけを呑み込み始める。
驚異の吸引力によって紫紺のドームは瞬く間に色を薄く、形を小さくしていく。
「――ぃ!?」
それは身体が魔素で創られているリリメにも効果があった。
幻獣に吸い込まれまいと、リリメは必死になって羽ばたいている。
だがそれも長くは続かなかった。
「羽虫。いつまで吾の上に座するか? 頭が高い。[|星に与えられし神々の枷]」
彼が手を軽く振り降ろすと、強力な重力場が発生する。
「――ぐ!? がぁっ!」
通常の5倍近いGで地面に叩きつけられたリリメの体中が軋み、悲鳴を上げている。
しかし[静寂にして暗黙なる棺]によって悲鳴をあげることすら許されないリリメは、声にならない声で悶え苦しんでいる。
そうしている間に、街を覆っていた悪夢は幻獣の腹の中にあっさりと収まっていた。
「ご苦労だった。幾星霜の歳月を重ねてなお、吾の言葉に従うその忠義、感服した」
「アグゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「必要になればまた喚ぶ。それまで休め」
幻獣は自らの主の顔に優しく鼻をこすり付けると、光の粒となって還っていった。
「――――ぐ! ―――――ぅが! ――っぁ!?」
「ああ忘れていたよ。辛そうな顔をしているが、なんだ? 苦しいのか? 羽虫風情が偉そうに痛みを知るか?」
クロードは軽薄に笑うと、リリメに手をかざす。
「よかろう。ならばその痛み、消してやろう。[錯綜する鏡面世界]」
彼が言葉を発するたびに思考が恐怖に支配されるリリメだったが、その表情はすぐさま変貌する。
「――! んんんんんんんっ!?」
「どうだ? 気持ち良いのだろう? 淫売な羽虫には堪らないだろう?」
惚けきった表情で声にならない声をあげるリリメに、クロードは冷酷な笑みを浮かべる。
リリメの体を襲っていた強烈な痛覚は[錯綜する鏡面世界]によって反転され、至上の快楽となって彼女の体を翻弄する。
しばしの時間その愚かな姿を愉しんだクロードは、[錯綜する鏡面世界]を除く全ての魔術を解き、未だ快楽に打ち震えているリリメの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「ぁ……♪」
「さて、それでは貴様に幾つか問うてみたい事がある。包み隠さず答えよ。まぁ貴様が嘘を吐こうと吾には分かるのだから、嘘は死と心得よ」
「はぁ…い……♪」
身も心も完全にクロードの力の虜となってしまったリリメに、もはや彼に抗おうという考えは起こらなかった。
いまはただ彼にゴミくずのように扱われることが至上の幸福でしかないのだ。
「貴様はこの街の者たちの魔力を吸い上げた」
「はぁいん♪」
クロードの手に力が入り、リリメの頭をギリギリと締め付ける。
「そして死した者どもの魂まで吸い上げた」
「はいぃぃぃぃ♪」
指が頭に食い込み、頭蓋がみしみしと音をたてるたびにリリメは歓喜の悲鳴を上げる。
「ならばその魂はまだ貴様の中にあるな?」
「はいぃぃぃぃぃん♪ 魂はぁぁぁぁん♪ まだリリメの中ですぅぅぅぅぅん♪」
クロードはニヤリと邪悪に微笑むと、リリメを地面に放る。
ドサッ、と地面に落とされたリリメは残念そうに鳴くと、潤んだ瞳で己の支配者を見た。
「そう物欲しそうな顔をするな、淫売め。だがまあいい。今の吾は大変に気分がいい」
彼の左腕を龍のような黒炎が包み込む。
「貴様に褒美をくれてやろう」
リリメの表情が幸福で歪む。
「貴様が散々〝欲しがっていた物〟だ。受け取れ[マージ・ギフト]」
彼が魔術を発動すると、左腕の黒炎龍。
否、濃密すぎるが故に具現化された彼の魔力が、リリメの口から入り体内を蹂躙していく。
リリメの身体を黒い炎が包み込み、同時に恍惚としていた表情が絶望で塗りつぶされる。
「い、いやぁぁぁぁぁ! 入ってくるぅ!? リリメの中に熱い物が入ってくるぅぅぅぅぅ! おぶっ! おぶぇえぇぇぇぇ!?」
彼が使ったのはなんて事のない魔術。
そこそこの魔術師なら誰でも使える、他人に魔力を譲渡する[マージ・ギフト]という補助魔術だ。
本来、夢魔にとって魔力を吸う事は至上にして快楽。しかも相手はクロード(最高級料理)、吸えば天上にも昇るような愉悦が得られるはずであった。
しかし、今の彼女は[錯綜する鏡面世界]によって感覚がねじ曲げられている。
快楽は苦痛に、狂喜は狂気に。
したがって、至上の美味によってもたらせられる喜びは、彼女を最悪の絶望に突き落とす。
「hだぃっはいgぁえやいふあgぃgふぁl!?」
更に彼の魔力量は桁が違う。
食べ過ぎが体に良くない様に、身に余る魔力は毒にしかならず、術者の身体を内側から蝕んでいく。
「そら、遠慮するな。もっと喰え。大好物であろう?」
「がぼぁあおいhf;おdfがおえ!?」
クロードは冷めた瞳で邪悪に笑いながら、再び邪龍を放つ。
「やめ、やめでぇぇぇ!」
「巫山戯るな。これは貴様が欲していたものではないか? 街を襲い、人々を喰らい、そうして得た愉悦がこうも簡単に得られるのだ。喜びよがれ、そして咽び泣け」
三体目の邪龍が彼の腕に現れる。
「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
黒炎龍が彼女の体内へ侵入した瞬間、最高の快楽によって得られる絶望に、リリメの思考は完全に麻痺した。
(気持ちいいのが苦しい、いや苦しいということは気持ちいいから苦しくてじゃあ気持ちいい……?)
押し寄せる快楽と絶望の矛盾からなる無限ループに陥ったリリメは、
「…………あ゛はっ♪」
ピシリ、と音を立てて壊れた。
いや思考などとうに狂っていた。
音を立てたのは、彼女の身体。
自らの許容量を遙かに越える魔力を一度に注入されたせいで、魔素によって形成されていた身体がオーバーフローしたのだ。
「ぎもぢぃぃぃぃ! うぼぉっ! おぇぇっぇぇぇぇ! あは♪ あはははおぼぇぇ!」
身体中に亀裂が走って魔力が吹き出し、口からは取り込んだ魔力や魂を吐き出し、体中の穴という穴から魔力の体液を垂れ流しにしながら、彼女はなお笑っていた。
「せっかく与えてやったというのに、もったいない事をする」
クロードは魔力が周囲に広がらぬように左手の平をかざして魔力を球状に押さえ込む。
またリリメの身体から解放された魂たちを右手で吸収し、己の中へ取り込んでいく。
亀裂は広がり、漏れ出す魔力も増えていくが、彼女は狂ったように笑ったままだ。
「ふむ、いささかやりすぎてしまったか」
やがて全ての魔力、魂を放出し尽したリリメの身体がボロボロと崩れだした。
崩れた先から、光となって消えていく。
「あは、あははは、は……きえる? きえちゃう? あは、きえちゃうぅぅぅぅ♪」
自分の死すら悦ぶリリメだったが、クロードはそれを許さない。
「何を勝手に消えようとしている? 吾は終わって良いと許可していないぞ。[加速する自己世界]」
クロードが唱えると、世界が停止する。
否、刻が彼のために歩みを遅めたのだ。
リリメの身体に起きていた崩壊も、目に見えて遅くなり、彼女は薄ら笑いを浮かべたまま無様に停止する。
「……貴様にはまだ聞かねばならぬ事がある」
だが彼女は答えない。
二人の間に流れてい刻の速さの違いはもとより、彼女はもはやまともな状態ですらないのだ。
「やれやれとことん使えぬ羽虫だな」
クロードは己の右腕をぽっかりと空いているリリメの胸に突き立て、魔核を直に掴む。
「詠せてもらうぞ。貴様の記憶。[|賢者の知恵すら盗み見る影]」
クロードはその魔核から直接彼女の記憶を引き出していく。
崩壊が進んでいるせいもあって断片的だが、彼女の中にあった記憶の欠片が彼へと流れ込んでくる。
彼女が生まれたワケ、なぜあの館へ居たのか、死にかけて救われ、本能が芽生え、出会いによって目覚め、覚醒させられ、そして……
「……くだらん。とんだ茶番ではないか」
クロードはつまらなさそうに腕を引き抜くと、[加速する自己世界]を解除する。
「あは……? あははははは…………♪」
刻は歩みを戻し、依然壊れたように笑ったままのリリメに、クロードは問う。
「苦しいか?」
「きもぢいれすぅ……」
顔面の半分を失い、言葉にならないような声でリリメは笑う。
「死にたいか?」
「はいぃ。逝っちゃいますぅ……」
もはや下半身は残っていない。
残された上半身ももうすでに3割程度しかなく、それでも彼女は恍惚の表情をしている。
「ならん」
「あ゛あ゛あ゛ん♪」
剥き出しになった魔核を鷲掴みしてクロードはぎりぎりと力を込める。
「貴様はもっと苦しまねばならない。〝死〟など貴様には生ぬるい」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
クロードは小さなブローチを取り出すと、それを宙に浮かべ、呟く。
「この中で永久に死ぬこと事を出来ず嘆くがいい。[|絶対にして永遠なる魂の牢獄]」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……あ♪」
もはや1割なかった夢魔の端切れは、小さなブローチに嵌め込まれた魔石へと吸収されていく。
夢魔の歓喜の悲鳴が消えたとき、あとには鈍く輝く魔核だけが残された。
彼はそれを無言で握りつぶし、黒き炎で欠片一つ残さず焼き付くした。
「とんだ茶番であった」
こうして街一つ壊滅させた魔族は、黒の魔導師に手によって還付なきまでに葬りさられた。
……伝説の魔族とやらが単なる噛ませ犬に……う、うん。
だってチートだから!(爆)
ちなみに、彼の中でまだ決着がついていないので、オラクルによる魔術習得アナウンスとかはまだありません。
……というか、次回も習得時のアナウンスは諸事情により入らないので軽く記載。
彼の中二全開な魔術は『無銘ノ書』という禁術しか書かれていない魔導書の物です。
他にも色々と危ない魔術が書かれていますが、この覚醒モードの時にしか使えないのでその辺はまぁおいおい?
あと覚醒モードに入る時のキーワードは大好きなゲームのやつをパク……オマージュしました。
私は「英雄」になるッ! ……ひさしぶりにやりたくなってきました。




