黒の系譜01-30『頼もしい仲間たち』
古来より『3人よれば文殊の知恵』という諺がありますね。
一人より二人。二人より三人。
三人揃えば優れた賢者のような知恵を発揮できるというすばらしい諺ですね。
え、じゃあ五人そろえば何なのかって?
………………ご、五人囃子?
朝起きて、何の気無しに[メール]を開いてみると、ティー様から連絡があったことに気づいた。
――拝啓、春だというのにまだ粉雪が舞い散る北国より、アナタはお元気でいらっしゃいますか? (以下どうでもいい愛の詩が数ページに渡って続くので中略)
――そういえばぁ、蔵人クン、黒の館へは行ったぁ? あそこの隠し部屋にはアナタがパワーアップするための秘密道具を置いておいたんだけどぉ。教えるのすっかり忘れちゃってたわぁ、メンゴ?
え、そんなものがあるのか?
――使いどころは難しいけれどぉ、きっとアナタの役には立つはずなのぉ。だからゼッタイ、ゼェーッタイ、取りに来てねぇ? byアナタの愛の奴隷より。
うん、色々突っ込みたいところは多々あるが、基本姿勢の放置でいこう。
それにしても、そんな物があるなら早く教えて欲しかった。
と言いつつ、メールが届いたのが3日くらい前だったので、気付かなかったオレのせいでもあるのかな、と反省する。
(にしても、黒の館、ね)
黒の館(今は死霊の館と名を変えているが)、その名の通り死屍系の魔物が犇めく魔窟と化している。
ルーさんも言っていたが、あそこは熟練の冒険者ですら一歩間違えば命を落とす、難所だという。
はたして今のオレに攻略ができるのだろうか。
最初に比べればレベルも大分上がったし(今ではなんとレベル23)、魔術も十分使えるようになったし、少しくらい連続で戦技を使っても体が動けなくなるような事もなくなった。
(うん、いける)
オレは確信を持って立ち上がった。
とはいえ場所が場所だし、万全の準備が必要だ。
よし、そうと決まれば。
―――――
「死霊の館へ、ね?」
「はい、そこにワタシの記憶の手がかりがありそうなんです」
オレはまずまっさきにチェスターさんの元へやって来た。
館へ行くにあたってチェスターさんに相談したいことがあったのだ。
「ふむ、それでラムダを連れて行きたい、と?」
「はい。無理にとは言いませんが、高レベルで一度館へ行ったことのあるラムダさんについてきていただけるとすごく心強いなぁ、って思って……」
死霊の館は高レベル冒険者でも手こずる難所だと聞いている。
いくらチートなオレでも、たった一人で挑めばどうなるかわからない。
だからラムダさんがいれば百人力、いや千人力と言っても過言ではない。
「君には数えきれない程の恩がある。本来なら二つ返事で引き受けたいところなのだが……」
「あ、もしかして何か都合が悪かったですか?」
「いやね。実は午後からちょっと外出する用事があってね。ラムダに護衛を頼もうと思っていたんだよ」
場所はここからそう遠くない所らしいが、馬車で行くことになるため少数で行かなくてはならない。
護衛の人数があまり多くできないから、ラムダさんを連れていくつもりだったそうだ。
「リリメ君も今日は体調が優れないそうで寝込んでしまっているし、さてどうしたものか」
「あ、無理そうなら別にいいんです。ワタシも少し強くなりましたから」
「だがそうは言うが、行先はあの〝死霊の館〟だろう? もう何人もの犠牲者を出しているダンジョンだ」
「あぁ、聞きました。冒険者が二人、でしたっけ?」
以前宿屋でジャミアさんに聞いた冒険者たちの事だろう。
「いや、アレはほんの一部にすぎない。実際はもっと多くの冒険者たちが命を落としている」
そうなんだ。
しかも今日は満月、魔物の活動が一番活発な日である。
これはオレが考えていた以上に難易度が高いかもしれない。
「うーん、どうしようかなぁ」
一刻も早くパワーアップしたいところではあるが、あまり無理を言ってチェスターさんを困らせるのも良くない。
さっきチェスターさんはオレに恩があると言っていたが、そう思っているのはオレも同じだ。
この世界へやってきて右も左も分からない不審人物を温かく客人として迎え入れてくれた、イーノッド家の皆さんにはオレもすごく感謝している。
無理せず日を改めた方がいいかもしれないな。
オレがそう言おうとした時だった。
「じいの一人や二人くらい貸してあげればいいじゃないですか、お父様」
「あぁミラ、おはよう」
「おはようミラ」
「おはようございます、お父様、クロ様」
部屋に入ってきたミラが、そんな事を言いだす。
「そうは言うが」
「ルルゴの丘付近なら比較的魔物の出現も少ないですし、生息している魔物のレベルも高くありませんわ。いくら今日が満月と言えど、お父様と私、それからモーリーとジャッケルが居れば、問題なく戦えると思うんですの」
モーリーさんというのはメイド長さんだ。普通のモップを武器に、棒術で戦うかなりの使い手である。
そしてジャッケルさんは馬車の御者さんだ。彼もかなりの強者で自身の身の丈ほどはある両手剣を自在に使いこなす重戦士だ。
領主の使用人というだけあって戦闘もそつなくこなす、頼もしい人たちである。
「じいもお墓参りをしたいというなら別ですが、そうでないならクロ様を護衛してもらっても問題ないかと思います」
「なかなか言うようになったじゃないか。そうだな、どうするかはラムダに任せよう。それでいいかい?」
「は、はい。それはありがたいんですが。今日の用事ってお墓参りなんですか?」
それならやっぱり、無理言っちゃ申し訳ない気がするのだけど。
「墓参り、と言っても私のお母様のですわ。別にじいと血のつながりがあるという訳ではありませんもの」
「あ、ごめん」
少し無遠慮だったかもしれない。
オレが素直に頭をさげると『お気になさらないでください』とミラは笑う。
「じいもお母様とは仲が良かったので、一緒に連れて行こうとお父様が言っていたんです。でもまぁ、本当ならお父様とリリメ二人で行くべきなのですけどね」
「ははは、それを言われると困るな。ミラはなかなか手厳しい」
「リリメさん、ですか?」
オレが尋ねると、チェスターさんは苦笑いして『今日帰ってきたら話すよ』と笑って答える。
最初この家に来た時も思ったが、やはり二人は……?
いや、二人の関係にオレが何かを言うのは、野暮なのかもしれない。
でもリリメさん、か。
「……ワタシも、帰ってきたらお話があります」
「そうかい? じゃあお互い、無事に帰って来なくちゃね」
「はい。チェスターさんもミラもお気をつけて」
「はい。クロ様もご無事で」
何はともあれ、チェスターさんには許可がもらえた。
あとはラムダさんにOKをもらえれば、万事解決かな?
オレはチェスターさんたちに礼をして、スキップを踏みながらラムダさんがエミリーの特訓をつけている中庭へ向かった。
―――――
「だめ」
「そうなりますよねー」
そして完全に忘れていた。
チェスターさんにラムダさんを連れていっていいか聞く前に、まずはこの人に許可を取らなくてはいけなかったんだった。
魔術を教えるため(という名目で遊びに来た)ルーさんという〝保護者〟の存在を思い出したオレは、内に秘めたるこの熱い想いの丈を全てぶつけ『一緒に来てほしい』とお願いしたが(誤解を招きそうだけど、死霊の館へということだからね?)があっさり却下されてしまった。
(いや、でもラムダさんが一緒なら外に……あ、でもラムダさんはギルドに登録してないから駄目なのか)
オレは未成年冒険者である以上、〝保護者〟でもあるルーさんの許可がなければ一人で外へ出る事もできない。
ぶっちゃけ、成人したそこそこ強い冒険者ならルーさんじゃなくてもいいんだけど、今この街にそんな冒険者はいない。
つまりはルーさんじゃなきゃ駄目ってことか。
「冒険、おーけー。でも、死霊の館、だめ」
「ルーお姉さまが一緒でも?」
「ん、危険があぶない」
「ら、ラムダさんにも一緒に来てもらえるようお願いしようと思っているんですが」
「だめ」
ルーさんは、オレが何度お願いしても、首を縦に振ってはくれなかった。
(だからみすみす自分のパワーアップの手段の見逃す? 答えはNOだ!)
ならばここは例の奥の手を使わせてもらおう。
「お姉さま……お願い(うるうる)」
禁じ手、ぶりっ子モードを発動だ!
――説明しようッ!
ぶりっ子モードとは、使用者のプライドと尊厳と精神力を犠牲にして、精一杯可愛い子ぶる、対ルーさん用の最終奥義であるッ!
「――っ! ……だ、だめ!」
しかし効果がなかった!
「効かない、だと!?」
ちぃっ! 事あるごとに使ってきたせいで、ルーさんはぶりっ子モードに耐性ができてしまったようだ。
「クロのため、我慢する」
「ぐぬぬぬぬ……」
こうなれば、やはり後は脱ぐしか……
オレが男としての何かを捨てようと覚悟した時だった。
「こんな庭の真ん中でなに服脱ごうとしてんのよアンタは!」
「あいたっ! ……なにするのさエミリー」
突然頭をこづかれたオレは、恨みがましく犯人を睨む。
少し離れた位置でラムダさんに稽古をつけてもらっていたはずのエミリーが、すぐ後ろに立っていた。
首をかしげて、ちょっと呆れ顔である。
「それはこっちのセリフよ! こんなとこで服脱ぎ始めるとかアンタバカ?」
「え、エミリーにバカって言われた!?」
オレはあまりの衝撃に顔が劇画チック(※イメージです)になっていた。
まさか、あのエミリーからバカにされるとは……ひょっとしてオレはよっぽど変なことをしていたのだろうか?
「え、エミリーにバカって言われた……」
「ちょっと! そんな崩れ落ちるほどへこむところなの!?」
だって、あのエミリーに言われたんだよ?
理解力ゴブリン以下と噂のエミリーにだよ?
「がーん……」
「なんか腹立つわね。ってか、アンタも止めなさいよ」
「ん、面目ない」
ルーさんは鼻を拭いながらエミリーに謝り、『おそろしい子……』とつぶやいた。
「で、なんでアンタが脱ぐ流れになってたワケ?」
「と、とりあえず脱ごうとしてた事は忘れて欲しいんだけど……」
オレは自分の記憶の手がかりが死霊の館にあるかもしれない、と言う事をエミリーとラムダさんにも説明した。
「それで、自分の決意を示すために脱いだの? 意味はわかんないけど、理由はわかったわ」
「だから脱ごうとしてたのは忘れて……」
「でもまぁ、自分の記憶の手がかりがあるかもしれないんなら、焦る気持ちもわかるわね」
エミリーが珍しく援護射撃をしてくれる。
どういう風の吹き回しかと思っていたら、その理由はすぐにわかった。
「アタシもちょうどブラックウルフにはもう飽き飽きしてたところよ! あそこにはスケルトンもいるし、リベンジするにはいい機会だわ!」
うずうずし始めたエミリーは今にも『オラ、わっくわくすんぞ』とでも言い出しそうである。
うん、やっぱりこの子はいつか怒りで覚醒してスーパーな某に変身するにちがいない。
でもエミリーもいれればこれで3人、大分戦力は確保できたと思うが……
「ルーお姉ちゃん(うるうる)」
「――っだ、だめ。エミ、戦力外」
「ですよねー」
「にゃにおー!?」
ぷんすかぷんなエミリーがルーさんにわーわーと文句を言っていると、こちらの様子に気が付いてやって来たラムダさんが口を開いた。
「おや、これはクローディア様。どうかされましたかな?」
「あ、ラムダさんちょうど良かった!」
オレはラムダさんに事情を説明し、もしよければついて欲しいと頼んでみる。
ラムダさんは少し考えたそぶりを見せた後、オレに質問を返してくる。
「クローディア様は、あの館へ自分の記憶の手がかりがあると確信されているご様子ですな」
「え、あ、はい」
「わしが以前調べた際には変わった物は特になく、ただの魔物の巣窟でしたが……」
「それは、隠し部屋があって……」
そこまで言ってから、しまったと思う。
記憶喪失だというのに、ダンジョンに隠し部屋がある、なんて知っているのはおかしいのではないだろうか。
しかしラムダさんは気にしていないようで、『なるほど』と言ったまま何か考え込んでいる。
「フム、わかりました」
やっぱり何かまずかったのかと思い、オレが内心冷や冷やしていると、
「わしも死霊の館へ同行いたしましょう。なーに、墓参りぐらいいつでもいけますわい」
とダンディスマイルを浮かべた。
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
ひゃっほう! ラムダさんが居れば百人力、いや百エミリー力だ!
これで3人。
ルーさんがはいってくれれば4人、もう十分戦える戦力だとは思うのだが。
「お姉ちゃん……(うるうる)」
「むー……」
オレが雨の中の捨て犬のような目でルーさんにすがるが、彼女はまだ納得がいかないのか唸っている。
だが最初に比べれば態度が大分軟化してきている。
(もう一押し、あと一押し! ダメ押しがあれば勝てるッ!)
こうなれば今度こそ脱ぐしかないのか?
オレがそう思い服に手を掛けた時だった。
「あの、こちらにクローディア様がいらっしゃるとお伺いしたのですが……な、なぜ服を脱ごうとしているんですか!?」
そこへ5人目の仲間となる救いの聖女が現れた。
―――――
「すみませんミルトさん。無理言ってしまって」
「いいえ。これもクローディア様の記憶を取り戻すためです。私でお役に立てるなら是非お手伝いさせて欲しかったんです」
そういって微笑むミルトさんは、まさに聖女のようであった。
『あの、こちらにクローディア様がいらっしゃるとお伺いしたのですが……な、なぜ服を脱ごうとしているんですか!?』
『あれ、ミルトさん。今日はどうしたんですか?』
『あ、アドバイスを頂きに来たんですが……いいから早く腕を降ろして、ちゃんと服を着てください!』
顔を真っ赤にしてオレを止めに入ったのは、ちょうど用事があって訪れたという神官見習いのミルトさんだった。
前に夢衰病治療の際に知り合ったミルトさんには、魔力丸の作成法を書いた紙を渡している。
渡しているがやはり魔力の調整が難しいらしく、あの事件以降もちょくちょく館へ顔を出している。
オレは真っ赤な顔であたふたするミルトさんを見てピンときた。
『ミルトさん、神官見習いという事は白の魔術とかも使えますか?』
『はい。使うには使えますが……あの、私の力がお必要なんですか?』
『はい! 実は記憶を取り戻す、手がかりが『手伝わせてください!』……え、あ、はい。お願いします』
頼もうとしたら、食い気味で協力を申し出てくれたので、オレはミルトさんに感謝してこうして一緒にやって来たのだ。
ルーさんもその最後の一押しに負け、渋々ながら許可は出してくれた。
まさにオレにとっての救いの聖女だ。拝んでおこう。
「ありがたやーありがたやー」
「や、やめてください。私がクローディア様に恩返ししたかっただけですから。女神の祝福を……」
祈り返されてしまった。ホンマにええ子やで。
オレは[マップ]で周囲を警戒しながら、ミルトさんに改めてお礼を言う。
「本当に助かります。死霊の館は死屍系の魔物が多いと聞いているので、ミルトさんが付いてきてくれるだけですっごく心強いんです」
オレが笑顔でそういうと、ミルトさんの足がぴたっ、と止まる。
「どうかしましたか?」
オレが尋ねると、ミルトさんは笑顔のままダラダラと汗を流し固まっている。
「あ、あのそういえば目的地を聞いていなかったんですが……お聞きしても?」
あぁ、そういえばミルトさんにはちゃんと場所を言っていなかった。
「死霊の館で「はきゅぅ……」――って! ミルトさんしっかりして!」
オレが名前を出すや否やミルトさんは額に手を当て、直立不動のまま後ろへ崩れ落ちた。
ヨシ○トもびっくりするほど綺麗な倒れ方だ……って、そんなこと言っている場合じゃない。
ルーさんの胸から飛び降り、駆け寄ってオレが助け起こすとミルトさんは、
「女神よお導きを女神よおみちびきをめがみよ……」
白目を向いて胸の前で手を組みながら小声でブツブツと繰り返している。
と、とてもじゃないが人に見せたら乙女として終わってしまいそうな顔をしている。
この反応、まさかとは思うが……
「死霊……」
「はぅっ!」
「ゴースト……」
「ふぁあっ!」
「スケルトン……」
「へぅっ!」
「資料……」
「ふゅぅ……」
最後のはもうその場のノリであったが、間違いない。
オレの言葉に一々リアクションしてくれるその姿はちょっと可愛かったが、これはやっぱり?
「苦手、なんですか?」
何が、とは言わないがオレがそう聞くとミルトさんは両手で顔を覆って謝り始めた。
「ごめんなさいごめんなさい。『聖職者なのに迷える魂を怖がってどうするんだ』とか、『アンデットへの切り札がそんなんでどうする』とか、お思いでしょうが、怖いものは怖いんですぅー」
「わわわっ! 大丈夫です、気にしてませんから!」
まぁ、しっかりしているように見えてミルトさんも15歳の女の子だ。
お化けが怖いのだってミルトさんならチャームポイントの一つですよ。
え、じゃあスライムが苦手なエミリーはって?
「ヘタレだね」
「はぅっ! ごめんなさい……」
「あ、いえ。エミリーの話です」
「にゃにおー!?」
しかし困った。
こんなに怖がる女の子を無理矢理連れていくのは申し訳ない『アタシがヘタレってどういう事よー!?』……いてて、こらこらエミリー人をポカポカたたくんじゃありません。バカになったらどうしてくれるんですか。まったく。
「せいっ!」
「むぐっ!?」
エミリーはいつものように餌付けして黙らせました。
(ふっ、相変わらずチョロイ女だぜ!)
そんなことより今はミルトさんである。
戦力ダウンは否めないので少し残念ではあるが、このまま連れて行くのは可愛そうだ。
やはり一度ミルトさんを街へ送り届けてから、オレたちだけで再度挑むことにしよう。
オレがルーさんにその旨を伝えると、ルーさんも頷く。
しかしミルトさんは『ま、まってください』と立ち上がった。
「わ、私の事はお気になさらずに! 大丈夫です! 神官見にゃらいとして立派におつつとめはたしてみせまう!」
「ミルト殿……」
ラムダさんが、優しさから目を逸らす。
「ミルトさん、足震えてますよ? 生まれたての子鹿みたいに、すっごく震えてますよ」
「だだ、だだだだだだいじょうびゅでふ!」
オレ含め、どうしたものかとみんなで顔を見合わせていた時だった。
エミリーが『アタシにまっかせなさい!』と言わんばかりのウインクをばちばちばちぃっ! と送ってくる。
正直エミリーに任せるのは心配だったのだが、他にどうしていいかもわからなかったので、とりあえず任せてみることにした。
「もにゅもにゅもにゅにゅ?」
「こらこら、口の中を空にしてからしゃべりなさい。お行儀が悪い」
「(ごっくん!) ミルト、って言ったかしら?」
「飲みこんだ!?」
※これは訓練を積んだエミリーだからできたことです。良い子は真似しちゃ駄目だよ!
「ほんっっっっっとうに、付いて来るのね?」
「ひゃ、ひゃい!」
「いい覚悟よ! 気に入ったわ!」
あ、連れて行く方で話を進めるんだ。
でもミルトさん相当怖がってるけど、どうするつもりなんだろうか?
「スケルトンが苦手? 上等よ、アタシもあいつが嫌いだわ!」
「嫌いと苦手は違うと思うよー(ボソッ)」
「うっさい、黙ってなさい! ……ごほん。とにかくね、苦手な魔物の一匹や二匹誰にだっているの。あえて何かは言わないけど、アタシにだっているわ!」
「スライムだね」
「ん、スライム」
パーティーで隠し事はいけないので(オレが言えたことじゃないが)、オレとルーさんで暴露する。
「(きっ!)」
こらこらエミリーくん、そんな風に仲間を睨んではいけませんよ。
「す、スライムが苦手なんですか!?」
オレたちにあっさりとバラされたので、エミリーも観念して素直に白状する。
「そうよ! 苦手よ! あんな緑で、ドロドロしてて……うぅ、想像するだけでも気色悪い!」
「一回やられかけたしねー(ボソッ)」
「アンタのせいでもあるでしょ! いいから黙ってなさいよ!」
「はーい」
怒られたので、オレはお口にチャックでエミリーの演説? を大人しく聞くことにした。
「うぉっほん! ともかく、誰にでも苦手な魔物はいるし、やられそうなときだってある。でもね、そのためのパーティーなんじゃない」
「え、エミリーさん……」
「困ったときはオカタイ様……「お互い様」オタガイ様! 助け合ってナンボなのよ」
え、エミリーがすごくまともな事を言っているなんて……! 言葉は間違ったけど。
……午後からの天気は大丈夫だろうか?
「アンタの事はこのアタシが守ってあげるわ。だから心配するんじゃないの」
「はい! ありがとうございます!」
ひしっ、と抱き合う二人をみてオレたちはささやかな拍手を送った。
珍しくエミリーがいい事を言っていたのでオレも黙って聞いていたが、どうしても言わなければならない事がある。
「エミリー、そろそろ喋ってもいい?」
「何よ、今いいところ何だから、手短にしなさいよ」
「うんわかった。――後ろからスライムが迫ってるよ?」
さきほどから[マップ]で確認できていたのだが、エミリーが悦に入っていたのでなかなか言い出せなかったのだ。
オレが言うか言わないかの内に、エミリーの背後の茂みががさがさと音を立て、ぷるぷるした緑色の物体が飛び出してきた。
「そう、じゃあ後は、たのんだわわわわ……きゅぅ」
「えええええ、えみりーさん!?」
エミリーはミルトさんに抱きかかえられたまま気を失った。
やれやれ、エミリーはやっぱりエミリーである。ちょっと安心した。
オレはまたエミリーが飲みこまれる前に手早く[アース・ニードル]でスライムの魔核を貫いた。
光となってスライムが消えると同時に、エミリーが、かっ! と目を見開く。
「……どう? これがパーティーよ!」
無駄に良い顔でそんな事を言いやがるのでちょっと、イラッとした。
なのでポーション(緑)を投げつけてやったら、すごい形相で睨まれた。
こらこらエミリー君、仲間をそんな親の敵でも見るような顔で睨んじゃいけないよ。
「おしゃべり、終わり」
ルーさんがオレをひょい、と持ち上げて言う。
「あ、あの。ワタシはどうして抱えられたのでしょう?」
ルーさんからの答えはなかった。
うん、きっと意味なんてなかったんだろう。
「ん、気合いれる。この先、真剣勝負」
目の前に鎮座する黒い門。
その向こう、森の中へポツンとたたずむ館は、周りを覆う鬱蒼とした蔦や、雨風にさらされて色あせた壁から、ダンジョン〝死霊の館〟と呼ぶにふさわしい佇まいであった。
「っ、よし!」
ミルトさんの足はまだ震えていたが小さく自分に言い聞かせて覚悟を決めたようだ。
「行きましょう」
オレも覚悟を決め、館へと足を踏み入れた。
すると[マップ]上に、こちらへ接近してくる一つのアイコンが表示される。
「――! 気をつけて! 前方に一体、たぶん魔物だと思う!」
オレの声にメンバーがみんな臨戦態勢に入る。
オレはアイコンが白から赤に変わったのを確認すると、すぐさまソイツに[アナライズ]をかけた。
「先手必勝!」
「ちょ、エミリー! 止まって!」
オレの指示も聞かずに飛び出したエミリーに慌てて指示を出す、が遅かった。
エミリーは殺人級の拳を放った(比喩ではない)が、魔物がミンチになることはなかった。
「にゃ、にゃにょコイツ!?」
なせならオレたちの前に現れた魔物は【ゴースト】
この館が〝死霊〟の館と呼ばれる所以にして、エミリーにとって最も相性の悪い相手だった。
「はふぅ……」
「ミルトさんお気をたしかに!」
そしてミルトさんの天敵でもあった。
いやぁホント頼もしい仲間たちだなぁ(棒読み)
え、じゃあこんなパーティーが欲しいかって?
やだなぁ、それとこれとは話が別ってもんですよー。




