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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第一章〝黒の目覚め〟
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黒の系譜01-27『戦技を使ってみよう!〝覚醒のE〟』

ラムダさんからの血のにじむような特訓と、天性の勘のよさと運動神経のおかげで、エミリーは何かに目覚めたようです。

 エミリーの再起動が完了したので、本格的にモンスターと戦闘をしてみる事になった。

 なんかここまでが長かった気がする。


「フフン! まぁアタシが全部倒しちゃうから、アンタたちの出番はないと思うけどね!」

「うん、エミリーがそう思うなら、それでいいんじゃないかな?」


 前衛は拳士の卵のエミリー。ラムダさんから譲ってもらったという古びた籠手を装備してやる気満々である。

 オレは中衛。魔術で敵を牽制しつつ、近づいてきたら戦技で距離を離すのが役割だ。あと[マップ]で敵を確認しつつ指示を出したりもする。

 後衛がミラとルーさん。ミラは支援魔術などでオレたちを援護しつつ、隙あらば攻撃魔術も使う。

 ルーさんは、基本手出ししない方向なのだが、よっぽど危ないと判断したら手を貸してくれるとのことだった。


「ど、どきどきしますね」

「アタシはじぇんじぇん緊張してみゃいけどね!」

「うん。やっぱりミラも緊張する?」

「はい。いつもはじいの後ろにいるだけだったので、自分で戦うのは初めてなんです」

「そっかー」

「ちょっと! 無視すんじゃにゃいわよ!」

「はいはい。エミリー超頼りにしてマスヨー」


 いささか棒読みになってしまったようで、エミリーは『ムッキー! 今に見てなさいよ!』とか叫んでいる。

 おぉ、リアルに『ムッキー』なんて言う人初めて見たよ。

 などとほのぼの談笑していると、近づいてくる白いアイコンを発見する。


「エミリーが叫ぶから見つかった!」

「あ、アタシのせいにしないでよ!」

「来るよ! 構えて!」


 やってくる方向を注視するとモンスターの影を捕らえたので、すぐさま[アナライズ]を唱える。


【ブラックウルフ:Lv.6

 種族:魔狼族

 魔物ランク:F

 弱点等:尾

 野犬が魔素によって魔獣化した姿。

個の力はそれほど大きくないが、稀に『ブラックウルフ・リーダー』と呼ばれる個体によって群が形成されることがあり、大きな群れは格上レベルの魔物を仕留めることもある】


「敵はブラックウルフで数は一匹! レベルはそんなに高くないけど注意して!」

「まっかせなさい!」

「サポートいたします! 〝緑〟よ、風を纏わせ〝強化〟せよ。[イン・ドゥーメ]!」


 ミラが唱えると、風がわずかに巻き起こり、エミリーを包み込む。


「うっそ! すっごい身体が軽くなったじゃない! ナイスよミラ!」


 エミリーはその場で軽くステップを踏み、ブラックウルフを待ち構える。


(あぁ。そういえばそんな強化魔術も考えてたな……他にも、うん。あるある)


 オレは他にもセットで考え出した魔術を思い出し、ちょっと遠い目をした。


「ブォウッ!」


 そんな事はお構いなしに、ブラックウルフは大きく口を開けてエミリーに飛びかかっている。

 エミリーはそれを難なくかわし、お返しとばかりに胴体へ強烈なフックを放つ。

 だが振りが大きすぎたせいか、ブラックウルフも身を翻して上手に回避した。


「こんのっ! ちょこまかとっ!」


 体勢を立て直したブラックウルフが再び凶悪な牙で襲いかかり、エミリーがかわして反撃、しかしブラックウルフも回避する。

――という攻防をもうずっと繰り返している。

 初戦くらいはエミリーに活躍させてあげようかと思ったのだが、三分ぐらい経っても未だに繰り広げられている攻防に、さすがのオレも我慢できなくなってきた。


「土の棘、3本、[アース・ニードル]」


 オレが唱えると、あらかじめ指定しておいたブラックウルフの着地ポイントから3本の棘が突き出て、ブラックウルフの体を貫く。

 そしてそのままブラックウルフの体が淡く輝き、光が消えたときにはただの野犬の死骸になっていた。

 初勝利である。


――クローディアはレベルが14(23)になった!


――【M・O・W】の【ブラックウルフ】のページが閲覧可能になった!


――クローディアは[イン・ドゥーメ]を思い出した!

――【ミコト写本】に強化の章[イン・ドゥーメ]のページが戻った。

――クローディアは[タウ・リィーン]を思い出した!

――【ミコト写本】に強化の章[タウ・リィーン]のページが戻った。

――クローディアは[ブロム・ヘクサ]を思い出した!

――【ミコト写本】に強化の章[ブロム・ヘクサ]のページが戻った。

――クローディアは[リゾ・チューマ]を思い出した!

――【ミコト写本】に強化の章[リゾ・チューマ]のページが戻った。

――クローディアは[キー・トーサン]を思い出した!

――【ミコト写本】に強化の章[キー・トーサン]のページが戻った。

――クローディアは[マキシ・アンプ]を思い出した!

――【ミコト写本】に強化の章[マキシ・アンプ]のページが戻った。


 思い出したのはそれぞれ強化系の魔術で、攻撃力や防御力、素早さ、賢さ、魔術抵抗、スタミナなんかを強化する物だ。

 名前の元ネタは当時はやっていたモンスター育成ゲームの強化アイテム。

 思えばとんでもない名前を付けたもんだと、今更ながらに後悔する。

 それからレベルだが〝14〟というのはオレ以外の人に表示しているレベルで、〝23〟というのが本来のレベルである。

 特訓でまともに魔術を制御できるようになったことで大幅に戦闘能力が上がったからなのだろうが、一気に上がり過ぎた感はいなめない。

 レベル9から21って言うのは異常を通り越してもはや異質だ。

 なのでまぁエミリーが納得いきそうなギリギリのライン〝12〟あたりにしておいたのだが、もはや2つもレベルアップである。

 レベルに関してはこれからも細かく調整していく必要がありそうだ。 

 

(それにしても、うん。着々とオレが嘘で塗り固められていくなぁ)

 

 オレが遠い目をしていると、ぜぇぜぇと息を荒げながらエミリーが詰め寄って来た。


「ちょ、ちょっと! 何してくれちゃってんのよ!」

「何って、苦戦してたみたいだから手助け?」

「よ、よけいなお世話よ! あともうちょっとで勝てるところだったんだから!」

「はいはい」


 エミリーの戯言はおいておいて、オレは地面に横たわる犬の死骸を見て少し居たたまれない気持ちになった。

 どうやらコイツは野犬が魔獣化した〝変異種〟だったようだ。


「やっぱり、ちょっと可愛そうな気も致しますね」

「しょうがないんだろうけどね」


 ミラも複雑そうな顔をしている。

 魔獣の姿をしていた時は気にならなかったが、こうして死骸が元の動物の姿になると、改めて命を奪ったという実感がわいてくる。


「自然の摂理。しょうがない」


 本来は死骸から素材を剥ぎ取ったりするそうだが、ただの野犬に戻ってしまった以上それもできない。

 もしこれが〝交配種〟だった場合は毛皮や牙を回収し、もう少し大型の魔物だったら肉なんかも食用に剥ぎ取った上で、コアを破壊して光に還すのがセオリーらしい。

 ルーさんは一通り説明したあと、風魔術で地面に穴を掘って死骸を埋葬した。

 オレは静かに黙祷する。


「この調子、どんどん、ごー」

「はい、お任せください」

「次はアタシが決めるんだからね」 

「はいはい」


 その後もブラックウルフと何度も連戦したのだが、大きな問題はなく倒すことができた。

 でもやっぱりエミリーの攻撃は当たらない。

 ブラックウルフのレベルはそんなに高くないのだが俊敏に動くため、大振りのエミリーの攻撃はすぐかわされてしまうのだ。

 一度、ブラックウルフに籠手をわざと噛ませて動きを止める事で叩き込んだアッパーは、一撃でブラックウルフをミンチにするほどの破壊力を持っていた。

 正直引くほどの威力を持っていても、当たらなければ意味はない。

 そのことをエミリーに話したのだが、


「なんでよ? 一撃必殺! が基本でしょ?」


 まったくどこの戦闘部族ですかキミは。

 オレが懇切丁寧に、初心者がカウンターを狙う事の危険さや、スタミナ切れの恐ろしさを教えたのだが、


「じゃあアンタが手本を見せなさいよ!」


 と逆ギレされた。

 これだからツンデレは……!

 でもこのままにしておくわけには行かないので、オレは試しに拳を構えて動いてみる。

 だがまあ察して欲しいのだが、今まで平々凡々に生きてきたオレは、殴り合いのケンカとはまったく無縁の存在だった。

 ずぶの素人が何をやったって無様な物である。


「クロ、かわいい」

「クロ様、可憐です……♪」

「ぷくくくく! 何よ、ソレ? 猫の真似かしら? にゃんにゃーん! あっははははは!」


 エミリーに笑われて、さすがのオレもぷちんときたので、エミリーに気付かれないよう、こっそり拳系のアーツを発動する。


「(まずは[三連華(さんれんげ)])」


 スキルのアシストによってオレは素早く上中下の三段に分けて拳を見舞う。

 さっきまで腹を抱えて爆笑していたエミリーはポカーンと口を開けたまま硬直している。


「(続けて[崩昇拳脚])」


 軽く踏み込んで、左フックからの右アッパー、さらにそこから腰を捻っての後ろ回し蹴りを見舞う。


「あう、おう、ふぐぅ!?」


 見ているエミリーはなぜか攻撃を受けているように体を左右に振っている。

 ちょっと面白い。

 調子に乗ってきたオレは、最後に大技を決めようと思い、近くの木へ向き直る。


「(すぅ……[腕引致(ワンインチ)])」


 オレはゆっくりと木に拳を当てる。

 その場では何も起こらず、皆が首を傾げる。


「な、何よ。何も起こらないじゃ……」


 振り返って戻ってきたオレをエミリーが鼻で笑って何か言おうとした瞬間。

 ドッゴォッ! というすごい音がして木に拳大の窪みができる。


「…………(ぱくぱく)」


 開いた口がふさがらないエミリーにオレはドヤ顔を浮かべる。


「ど、どうかにゃ? ワタシもたいしたもんだしょ?(ギギギギギ)」


 この[腕引致(ワンインチ)]という技、言わずもがな達人級の戦技である。

 だから今、無理にスキルを使ったせいで体中が筋肉痛で痛い。

 前よりは少し、本当に少しだけましなレベルだが、正直腕を上げるのもやっとだ。

 でも精一杯強がってみせる。


「さ、さすがですクロ様」


 オレのロボットのような動きを見て何となく察したミラが後ろで、誉めるフリをしながら肩をもんでマッサージしてくれている。

 ホンマええ娘や……

 だがそれくらいでどうにかなる痛みではなかった。

 オレは小声で自身に[ヒール・リング]をかけると、今度こそ自信満々に胸を張って『どうだ!』と言った。


「驚いた。アンタってホントなんでもありね」

「ま、まあダテに記憶喪失ってませんから?」

「お姉さま、普通は逆なのではないでしょうか?」

「気にしたら負け」

「そうですね」


 ミラとルーさんの生暖かい視線をうけながら、オレはごほん、と咳払いを一つした。


「で、手本を見せたわけだけど?」

「ふ、ふん! まぁ、アンタの言い分も分かったわ、でもね、あれくらいアタシにだってできるんだから!」

「はいはい」


 またエミリーお決まりの強がりが始まったよ、とオレが思っているとエミリーはあーでもない、こーでもない、とオレの動きを真似して動かしている。

 そんなに簡単にできたら修業もチートもいらないよ。

 オレがやれやれと両手をすくめた時だった。


「よし!」


 エミリーは掛け声ひとつ、気合を入れると静かに構えを取り、


「――ッシ!」


 上中下の三段に分けて、キレイな正拳を放った。

 あっれー?


「で、できた!? じゃないじゃない。ま、まあ余裕よね!」

「す、すごいですエミリーちゃん! クロ様顔負けの技のキレでした!」

「おどろき」


 エミリーは『トーゼン!』とポーズを決めると、またブツブツと小声で言いながら今度は、左フックからの右アッパー、トドメの回し蹴り、と難なく[崩昇拳脚]を決めてみせる。

 最後の回し蹴りに至ってはゴゥン! とオレより大きな風切り音を響かせている。

 え、マジですか?


「まぁ、こんなカンジ? だったわよね」

「え、ああ、うん。そんな感じ、でいいんじゃないかな?」


 一応[崩昇拳脚]は戦技的には上級の部類に入るのだが、それを初見でやってのけるエミリーのポテンシャルには驚愕の一言である。

 まさかこのまま[腕引致(ワンインチ)]まで平然とやってのけるのではないかと、ちょっと期待していたのだがなかなか技に入らない。


「こういう? 違う。じゃあこう? これも違くて……あーもう!」


 本日二度目の『ムッキー!』が出た。

 どうやら他の二つと違って、どう身体を動かせばいいかが分からないでいる様だ。


「ねぇ、最後のヤツはいまいち分からなかったんだけど、アレってどうなってるの?」

「え、ああ。アレね」


 正直に言おう、オレにも原理がどうなっているか分からない!

 だって、オレはしょせんスキルアシストで行っただけにすぎない。

 元ネタとなった技だって、良く知らないから、なんとなくそれっぽい技を作っただけにすぎない。

 当然だけど原理とかやり方とかまったく知りません!

 なので、

 

「考えるんじゃなくて、感じたままにやるんだ!」


 往年の名ゼリフを丸々パクって逃げた。


「感じたまま、か。うん、やってみるわ!」


 相手がエミリーで良かった。

 上手く誤魔か……納得してくれたようだ。

 エミリーは静かにさっきオレが凹ませた木の前に立つと、深呼吸して精神を落ち着かせている。

 エミリーらしくないほど恐ろしい集中力だ。


「っや!」


 彼女はそのままゆっくり拳を木に打ちつける。

 ドン、と音がしてわずかに木が凹んだ。

 失敗? たぶん失敗だよね?

 あんな木が初めからへこむような技じゃなかったはずだから、失敗だろう。


「ま、まぁアレは一種の極意みたいなものだからできなくても全然気にしなくていいと思うよ!」


 とオレがフォローの言葉を入れた瞬間。


 BACOOOON! と激しい音がして木が木っ端みじんになった。

 うっそーん。


「っし! できた!」


 オレはただただ顔を押さえて俯く他なかった。

 アレは人間が出せる威力ではない。

 あぁ、エミリーはハーフドワーフだったっけ? 


「なるほど、ただ力を入れればいいってわけじゃないのね。相手の動きに合わせてこっちも動きを合わせる、か」


 しかもなんか急に悟っちゃってる!

 エミリーが拳を構えてイメージトレーニングを始めるが、その動きはさっきまでとはまるで別人のソレである。

 時に素早く、時に力強く、流れるようなその動きはまるで舞を踊っているかのようだ。

 ピタッ。と動きを止めたエミリーの顔つきは完全に拳士である。


「ミラ」

「はい、なんでしょうクロ様?」

「オレもうエミリーを怒らせるような事はなるべく言わないようにする」

「え、ええ。私も気をつけますわ」

「ん、バカと天才、紙ひとえ」


 オレたちは一人ではしゃいでいるエミリーの後ろに、猛々しい熊の幻影を見た気がした。

 ラムダさん、どうやらオレたちはとんでもないモンスターを目覚めさせてしまったのかもしれません。

 そこからのエミリーは、やけに素直になってオレのアドバイスを聞いてくれるようになった。

 振りの小さくて素早い牽制なども攻撃に入れるようになったため、その辺のブラックドック相手だと負け知らずである。


「アタシに! かなうと! 思ってんの!?」


 すぐ調子にのるところは変わっていないが、実際オレやミラの手助けもまったく必要とせず、魔獣相手に一人で無双していたのだった。

 そう、ヤツが現れるまでは……!


――クローディアは[三連華]を思い出した!

――【戦技奥義書 打の章】に[三連華]のページが戻った。

――クローディアは[崩昇拳脚]を思い出した!

――【戦技奥義書 打の章】に[崩昇拳脚]のページが戻った。

――クローディアは[腕引致]を思い出した!

――【戦技奥義書 打の章】に[腕引致]のページが戻った。


どうでもいい補足ですが、クロが木を破壊すると『バコォーン!』という音がします。でもエミリーがやると『BACOOOON!』なんです。不思議ですね。

エミリーの強さの理由には他にも籠手のおかげだったり、魔力が強化された事だったりも関係しているのですが、ほとんど自力なのであえて今回は書きません。

そのうち機会があれば書こうと思います。

あ、強化魔術の元ネタですか?

※色々危ないのであえて伏字で書きますね、P〇KEM〇Nです。

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