黒の系譜01-24『誉めてのばす※成長をではない』
今回はちょっと短いです。
誉めて、のばすんです。
しばし魔術を練習した後で、そういえばエミリーはどうなったか気になったので様子を見にやって来た。
来たのだが……
「ぜぇ……ぜぇ…………」
「えーっと、大丈夫?」
エミリーは地面に大の字になって息も絶え絶えで、ラムダさんは顔色一つ変えずに少し離れた位置で佇んでいる。
確かにスパルタでとお願いしたが、まさかここまでになるとは……
「ぽ、ポーション飲む?」
申し訳なさからポーションをあげようと思ったのだが、エミリーは『ひぃっ』と、小さく漏らすとすごい勢いで距離を取る。
そんなにポーションが嫌なんだろうか? ホントエミリーのポーション嫌いにも困ったものである。
「なんだ、案外元気じゃない」
「ぜぇぜぇ……どこが、よ! 死に、そうよ…………」
エミリーはソムリエがワインを確かめるようにポーションを観察し、少し瓶を回したり匂いを嗅いだりしている。
しかし飲むときはお風呂上りに飲む牛乳のように、腰に手を当て、目をつぶって一気に喉へ流し込んだ。
「ぷっはー! 生き返るー! うまい、もういっぱーい!」
「ならあんなに警戒しなくてもいいのに」
「だ、だってもしこれが緑の……ううん、何でもない。想像するのも恐ろしい……ぶるぶる」
エミリーのポーション嫌いには何か理由があるようだが、考えるのもイヤそうなのであまり掘り下げないようにしてあげよう。
それはさておき、調子はどうかと尋ねてみると思いっきり目線を逸らされた。
おまけに『すーすー』と、吹けもしない口笛を吹こうとしている。
なんと分かりやすい。
「ラムダさん、どうですか?」
「そうですな。はっきり言いまして、剣の方はまったく見込みがありませんな」
「(しゅーん……)」
ラムダさんの言葉にエミリーのテンションが一気に下がる。
性懲りもなく突っかかってくるかと思っていたが、ラムダさんに指導してもらって(しごかれて)実力差と己の力量を思い知ったのだろう。
そのラムダさんからはっきり見込みがない、と言われ落ち込む気持ちも分からなくもない。
体育座りで小っちゃくなっているエミリーからは、いつもの底抜けな自信は感じられなかった。
「剣という武器の間合いをまったくわかっておりません。それに加えて動作が全て大振りすぎて隙が多いのも問題ですな」
「(しゅしゅーん……)」
「あぁ、エミリーがどんどん小っちゃく!」
体育座りのまま縮こまっていくエミリー、もはや顔を足の間にうずめて身体を丸めてしまっている。
「それに剣は殴るものではありません。あんな使い方をしていれば先に武器の方が壊れるでしょうな」
「それは、さすがにダメでしょ」
「(こてん)」
「あ、転がった!」
もはやエミリーはコロコロと転がって、そのまま穴があったらはまってしまいそうな勢いである。
「ですが」
「(ぴくっ!)」
「おっ?」
「大の大人に勝るとも劣らない腕力、野性動物のように高い運動能力と俊敏さ、それから敵の懐へ飛び込むことのできる無謀ともいえる勇敢さ、これらは磨けば光るでしょうな」
ラムダさんの言葉にエミリーがガバッ! と起き上がってくる。
「ホント!?」
「ええ。まだ少々荒削りではありますが、十分素質はあるとわしは思いますぞ」
さっきまでの↓(シューン)から一転して、一気に↑(グィーン)とテンションMAXのエミリー。
無い胸を精一杯張って、『ふふーん!』と調子に乗りだした。
「さしあたっては〝拳士〟などを目指すと良いでしょうな。あまり婦女子に勧めるような職ではないのですが」
「うん、エミリーにぴったりじゃない?」
「ん、ぴったり」
オレと、たまたま様子を見に来ていたルーミアさんが声を揃える。
なんていうかエミリーはバ……素直だから、深く考えるより、直感的に身体を動かす方が向いていそうな気がする。
「なんか釈然としないけど、まあいいわ。〝拳士〟? いいじゃない、最高よ!」
エミリーは拳を構えると、シャドーボクシングの真似事を始めた。
やる気満々だ。
だがやる気満々なのはエミリーだけではなかった。
「では、今度は格闘戦に主軸を置いて特訓を始めましょうか」
「え゛っ?」
ラムダさんの言葉にアッパーの姿勢のままエミリーが凍りつく。
「エミリー、がんばって!」
「ん、ふぁいと」
オレたちはエミリーにエールを送って、一人で魔術の特訓を頑張っているミラの元へと戻った。
目を背ける瞬間、ラムダさんの手がエミリーの肩へと置かれた、所までは見た。
後ろの方で『え、ちょ、まっ!』とか、『はくじょうものー!』と断末魔の叫びが聞こえたので、せめて心の中で無事を祈っておこう、南無。
日が暮れたころには、スタミナ切れですっかりのびたエミリーが出来上がっていたという。
ラムダさんはエミリーの光を見たようで、やる気満々だったんです。




