黒の系譜01-22『冒険者になりたくて』
エミリーに連れられ冒険者ギルドへやってきたクロとミラ。
果たしてどうなってしまうのか!?
っていうほど盛り上がらないかもしれません、ごめんちゃい。
「なっっっっとくいかない!」
ギルド内にエミリーの叫びがこだました。
水晶玉に手をかざしていたオレは何だかなぁという表情でミラと顔を見合わせる。
「そんな事言われても……ねぇ?」
「はい。ギルドの水晶が示している以上、間違いはないと思いますわ」
それでも不満気なままのエミリーに、受付嬢のケーナさん(泣き黒子がセクシーな妙齢の女性)が補足をしてくれる。
「この水晶は冒険者の実力や犯罪歴などがないかを正しく調べる必要があるから、かなり高度な魔術がかけられているの。だからよっぽどの事がない限り表示された内容に嘘はないわ」
ちなみに水晶によって表示されたオレのステータスは以下の通りである。
【クローディア・サッカー・ノーウェイ:Lv.9
種族:人族
年齢:14歳
ギルドランク:―
犯罪等:無】
はいダウトー!
最初に最大の嘘がありますね。
本名は『坂上蔵人』ですから。
まぁでも他はあってる? のかな。
レベルは概念がよく分からないから置いといて、年齢はこの肉体の年齢だから妥当だろうし、ギルドランクは登録してないから当然ないし、もちろん犯罪なんて犯してない。
(でもひょっとしてステータス画面とかでいじったらその辺りも……?)
いや、別にこのままでも特に問題ないし、下手に怪しまれるような修正はしない方がいいだろう。
「でもやっぱ納得いかないわ!」
「もう、いったいドコが納得いかないのさ?」
「アンタのレベルよ!」
はて? レベルに関しては特にいじったりしていないのだが、どこかおかしいのだろうか?
「レベル9って何よ! ポーション作ったりなんだりできる癖してきゅぅう? 意味わっかんない! もっと高レベルでしょ普通!」
あぁ、そういうことか。
「あ、やっぱりそうなの?」
「そうよ! まぁ、その歳でそのレベルってのは、むしろ高いかもしんないけど。どう考えてもおかしい! なっとくいかない! いかない! いかなーい!」
なるほど、今後のレベル調整のためにも参考にさせてもらおう。
もしなんか急激にレベル上がっちゃうようなことあったら、修正する必要とかもありそうだしね。
「それに!」
エミリーはオレに向かってビシィッっと指を指す。
こらこら、人を指さしてはいけないと親に教わらなかったのかね君は。
「アタシよりレベル高いってのが納得いかない!」
「えー?」
オレのレベルが低いのに納得いかないとか言っといて、自分より高いのも納得いかないって……じゃあどうすれと?
「つまり、アンタのレベルは中途半端なのよ!」
「……ミラ、ご意見を」
「えぇと……何と言えば良いのでしょうか?」
「うん、『めんどくさい』って言えば良いと思うよ?」
「にゃにおー!?」
一人激オコなエミリーをケーナさんが宥めてくれる。
うん、やっぱり包容力のあるお姉さんは違うなぁ。
それに引き替えエミリーときたら……
憐みの眼差しで見ていると、またエミリーが怒りだしそうになり、ケーナさんがすかさず話題を振ってくれた。
やはり気配りのできる女性である。
「そうねぇ。でも高い能力を持っていても一概にレベルが高いか、と言われればそうでもないのよ?」
「どういうことよ?」
「あ、ワタシも知りたいです」
しかめっ面のエミリーに続いてオレがそう言うと、ケーナさんは楽しそうにカウンターの下からフリップボードを取り出した。
でかでかと〝ゴブリンでも分かる! レベルの仕組み!〟とタイトルが書かれている。
右下に〝制作:ウェステリオ冒険者ギルド連盟〟と書かれているが、ギルドで作られたものなのだろうか。
「じゃあ〝ゴブリンでも分かる! レベルの仕組み!〟始まり始まり~、拍手ー!」
完全に紙芝居のノリでノリノリのケーナさん。
観客は楽しそうなミラ、ふくれっ面のエミリー、空気を読んで拍手するオレの三人だけである。
絵を交えながらだったので確かに分かりやすいが、これを本当にゴブリンが理解できるのかは謎である。
「――と言う事で、めでたしめでたし」
終わってみれば物語、だったのだろうか?
紙芝居が無事に終わると、ミラから惜しみない拍手が送られる。
オレも拍手をしながら横のエミリーを見ると、彼女も拍手している……っていうかちょっと目が潤んでいる?
「泣くところあった!?」
「な、泣いてないわよバカ!」
目をごしごしと擦りながら『目にゴミが入っただけよ』と悪態をつくエミリー。
いや、それ完全に泣いてた人の言い訳ですから。
まぁ、オレは紳士なのでハンカチを差し出しますけどね。
出かける時にメイドさんからもらったシルク100%のハンカチーフですよ!
「ぐず、っちーん!」
「あぁ! シルクが鼻水まみれに!?」
「洗って返すわよ! いちいちうるさいわね!」
エミリーはハンカチを乱暴にポケットに突っ込むと、ケーナさんに『わ、悪くなかったわ』と称賛の言葉を送っている。
ミラも頷き、
「レベルというものがどういう事かよくわかりましたし、物語としても十分楽しめるお話でしたわ」
と微笑む。
確かに、制作がギルドだというからお役所仕事的な雑な作りかと思っていたが、思った以上にしっかりしていた。
「喜んでもらえたなら、作った甲斐があったわ」
あ、ケーナさんが作ったんですね。
「でも、アタシはレベルの事はまるでさっぱりだったわよ?」
「えー?」
「な、なによ! 何か文句でもあるの!」
ゴブリンでもわかるんじゃなかったの? とオレが思っていると、その考えを察したのかエミリーに滅茶苦茶睨まれた。
物語に集中しすぎてよく理解できなかったというエミリーにオレが改めて簡単に説明してあげることになった。
ギルドなどで判定してもらえる〝レベル〟というのはつまり〝総合的な能力〟を指す。
例えば強力な魔術や戦技を覚えている冒険者、これは確かに高い戦闘力を持っているが、使いこなせていなければ使えないのも同じである。
また例え強力な魔術や戦技が使えずとも、高い身体能力や豊富な知識で巧みに戦える者は戦闘能力が高いと言える。
そう言った能力を総合して判断し、数値化しているのが〝レベル〟なのだそうだ。
だから冒険者に成りたてで知識も経験も戦闘能力もまだないエミリーがレベル6なのは当然。
実は強い魔術や戦技が使えるが使いこなせていない、高い身体能力を有していても戦闘経験の少ないオレはレベルが低く評価されているということだそうだ。
「ふ、ふん! 初めからそう説明すればいいのよ! まったく!」
「いや、そういう説明だったんだけど……わかった。もう何も言わないから睨まないでよ」
親の仇でも見るかのような形相のエミリーはさておき、レベルの仕組みについてはなんとなくわかった。
物は試しにとミラにも水晶に手を乗せてもらう。
【ミラ=イーノッド:Lv15
種族:人族
年齢:16歳
ギルドランク:―
犯罪等:無】
「高いじゃない!」
「も、申し訳ありません!」
いいんだよ、ミラが謝る事じゃないからね。
オレはきゃんきゃん吠えるエミリーを『どーどー』と手で制すが、ケーナさんのようにはうまく行かず、『馬じゃないわよ!』と更に怒らせてしまった。
そういえばミラと初めて会ったのはあの館だったことを思い出した。
「な、ななななななっと「ミラって結構レベル高かったんだね」ちょっと割り込まないでよ!」
「恐らく白の魔術が少し使えるのと、たまにじいと一緒に街の外へ出たりするからだと思いますわ」
「なるほど、ラムダさんと一緒にいたら戦い方とかの勉強になりそうだもんね」
「こらぁっ! 無視すんじゃないわよ!」
わーわーうるさいエミリーの口に大き目に作った魔力結晶を放り込んで黙らせる。
実はコレ、魔力丸を作る際に込める魔力を多目にして作ったものなのだが、魔力を多くしたせいなのかは不明だが、ほのかな甘みがついたのだ。
さっき試しにオレも食べてみたが、はちみつのような味がしてこれがまた美味しいのだ。
魔力丸と区別するためにとりあえず魔力ドロップ、とでも名付けよう。
どうやらエミリーもドロップを気に入ったようで、笑顔で口をもごもごさせながら何か言っている。
「みょんにゃみょにょねみゃにゃににゃ」
うん、何を言っているかさっぱりわからないが、静かになったからまあいいだろう。
さて、エミリーとパーティーを組むかはさておいて、せっかくギルドに来たのだし冒険者登録というヤツを済ませてしまおう。
異世界に行ったらやりたいことランキング第一位と言っても過言ではない〝冒険者登録〟を、今ここで!
「冒険者登録をお願いします」
「はい、出来ません♪」
……今ここで!
「そこを何とか!」
「んー。可愛そうだけど、未成年者は一人で冒険者登録できないのよ。ゴメンね」
冒険者、夢儚くと、散りにけり。
蔵人、心の一句。
こんな事になるなら、歳だけでも弄っておくんだったとオレがショックで地面に崩れ去ると、エミリーが満を持して口を開いた。
ドロップが小さくなってきてようやく喋れるようになったみらしい。
「ふん、安心しなさい。未成年者が冒険者登録するには成人の承諾が必要だ、ってだけよ」
「つまり?」
「アンタがどうしても! あ、どうしてもアタシとパーティーを組みたいっていうならアタシが? この! 超・絶・美少女冒険者のアタシが! 特別に口を利いてあげてもいいわ……!」
「あ、エミリーちゃんの口利きじゃ駄目よ?」
「にゃにおー!?」
無い胸を精一杯逸らしていたエミリーはカウンターに乗り出してケーナさんに詰め寄っている。
「一応成人していてもある程度のレベルがある人からの推薦じゃなきゃ駄目なのよ。ゴメンね」
「アタシが登録した皇都ではそんな決まりなかったわよ!」
「スーサでは未成年保護の目的もあってできないのよ。ゴメンね」
「うぐぐぐぐぐっぐ」
ギルドの隅で小さくなって唸っているエミリーはそっとしておいてあげよう。
きっとあのイケメン領主さんの事だ。
若者の無駄死にを避けるためにも、こういった制度を設けたんだろう。
「ごめんなさいね。こればっかりは規則だからどうにもできないのよ」
でも待てよ? 登録するだけならラムダさんやチェスターさんにお願いして保護者になって貰えばなんとかなるかな?
二人は冒険者とかじゃないけど、レベルは高かったはずだし、保護者として許可を出してもらうなら……
「あ、それから未成年冒険者は保護者同伴じゃなきゃ街から出られないわよ?」
「ぬぁんだってー!?」
と言う事はせっかく登録しても一人で外に出ることは出来ないと?
「当たり前じゃない。むしろ私としてはクローディアちゃんみたいな可愛い子には無茶してほしくないの。この間はルーちゃんがいたから特別に許可したけど……」
ケーナさんはオレの頭をなでくりなでくりしてくる。
それよりもオレは保護者同伴じゃないと街の外にすら出られないという現実にショックを受けていた。
オレの、オレの異世界冒険ライフが……
ぺたり、と再び両手を地面につけ絶望に打ちひしがれていると、
「ん、じゃあ、問題ない」
誰かがオレをひょいと抱きかかえ呟く。
こ、この後頭部に当たる素敵なかんしy……もとい声は!
「ルーさん!?」
「ちっちっち、ルーお姉ちゃん」
ルーさんはオレを抱き構えたままミラやケーナさんに挨拶する。
「はろー、ミラ、ケーナ」
「こんにちはルーミアさん」
「こんにちは、ルーちゃん。今日はどうしたのかしら?」
「ん、冒険者登録」
ルーさんは水晶玉に手を置き、じーっとケーナさんを見る。
「あら珍しいわね。いつもみたいに外出申請じゃなくていいの?」
「ん、面倒」
「そうね。冒険者登録したら一々ギルドで外出申請しなくていいものね」
ケーナさんはのんびりと言いながらも素早く手元は動かし、取り出した銀色のタグを水晶に差し込む。
「はい、完了よ」
笑顔でケーナさんが差し出したタグにはルーさんの登録情報が刻まれている。
ぷ、プロや!
ちょうどオレの位置から内容が読み取れるのだが、ギルドランクがFではなくDになっている。
「あれ、ランクD? 最初ってランクFじゃないんですか?」
オレの疑問の声を耳ざとく聞きつけたエミリーがぷりぷりと怒りながらやってくる。
「な、なっとくいかない!」
「む、めんどくさい娘」
「……エミリーってそればっかりだよね」
オレが呆れ顔を浮かべていると、エミリーはルーさんに突っかかっていく。
ルーさんはオレを床に降ろし、ケーナさんからタグを受け取る。
「なんでコイツがランクDなわけ!? なっとくいかない、なっとくいかない、なっとくいかなーい!」
「ん、当然妥当」
ルーさんがタグを首にかけ、ばいーんと胸を張る。
それを見てエミリーが胸にかかっているタグを握りしめながら、自身の胸を見てぎりぎり、と歯ぎしりをする。
うん、エミリーとルーさんでは持っている物(あ、戦闘力とかだよ?)が違いすぎるからね。
「ルーちゃんは今までギルドにも貢献してくれているし、レベルも30を超えているからランクDと判断されたのね」
その辺の処理はギルド水晶が自動で判断したようだ。
ちなみにランクD以上は登録してから昇級試験やクエストをクリアしなくては上がらないそうなので、あしからず。
「クロも、登録」
「それがワタシは保護者がいないと登録できなくて」
「ん、お姉ちゃん」
ルーさんが胸を叩くと、その偉大な双丘がぽいーんと揺れる。
えっと、保護者になってくれるということだろうか?
尋ねてみると『ん』という返答がある、肯定らしい。
「あれ、と言う事は冒険者登録できる?」
「もう、ルーちゃんったら……しょうがないわね。そのかわりルーちゃんがちゃんと面倒みるのよ?」
「ん、まかせる」
まるで子犬を拾ってきた子供に対する親のような言い方(オレは子犬か!?)なのがちょっと気になるが、まぁ登録してもらえるならいいや。
一度は散ったと思った夢が叶ったのだ、素直に喜んでおこう。
「わーい!」
「おめでとうございます!」
祝福の言葉と共にミラが抱き着いてくる。
なぜかルーさんも抱き着いてきたが、両サイドがステキな感触なのでオレとしては何の問題もない。
「ふん。まぁ、これでアタシとパーティーが組めるんだから、喜ぶのも当然よね」
後ろの方でナイチ、もといエミリーがドヤ顔でなんか言ってるが、面倒なのでもうツッコまない。
「いい? 外に出る前は必ずトイレを済ませておくのよ? それからちゃんとポーションや毒消しなんかも持っていくこと。あと武器や防具の点検もしっかりしておいて、無理だと思ったらすぐに帰ってくること、いいわね? それに帰ってきたらうがい手洗いはしっかりして、夜寝る前にはちゃんと歯磨きもして、あとは……」
オレが水晶に手を置くと、ケーナさんは幾つも注意事項とアドバイス(後半はもはや冒険になんの関係もなくなっている)をくれながら素早く手続きを行っている。
あまりの速さに見惚れていると、『ちゃんと聞いてるの?』と怒られてしまった。
やっぱり、プロや!
オレはやり手の受付嬢さんを尊敬のまなざしで見ていた。
しかし、わくわくしながらケーナさんから受け取ったオレは手の上でにソレを乗せたまま固まってしまっていた。
「にゃーん」
鳴いたのは猫ではない、ルーさんである。
「猫、ですか」
「猫ですわね」
「にゃ、猫ね」
「えぇ、猫よ」
ルーさんがではない、オレの事である。
いや、それだと語弊がある。
オレが受け取ったギルドタグの事である。
ルーさんの胸に下がっているタグと見比べてみる。
ルーさんのタグは銀一色で形は楕円形。
名前や職業、レベル、ギルドランクなどが書かれている。
一方でオレの手の上のタグは銀色だが、ピンクっぽい色で周りが縁取られ、形は猫の顔。
中央に名前、年齢、レベル、ギルドランクなどが書かれ、裏には保護者としてルーさんの名前が書かれている。
「未成年の冒険者はすぐ区別できるように特別なタグになのよ。可愛いでしょ?」
「それにしても、猫ですか……」
「うらやましい」
ルーさんがタグに熱い視線を送っているので『交換しますか?』と聞くが、ケーナさんに注意されてしまった。
ギルドタグを他人に貸したり、譲渡することは罪に問われるそうだ。
「でも、猫なんですよねぇ……」
「そんなに猫ちゃんはイヤ?」
「イヤといいますか何と言いますか……」
「今ならまだ本部に連絡していないから別の物に変更もできるけど……」
「ちなみに他にはどんなものが?」
「そうねぇ。あと可愛いのはわんちゃん、ひよこちゃんに、うさちゃん……」
「いえ、やっぱりこのままで良いです」
ケーナさんが机に並べたタグをみて、オレは諦めた。
どうあがいてもキュートなアニマルである。
だったら、まだこの猫のタグの方が一番まともに見える。
「そう? じゃあ本部にデータを送っちゃうわよ」
ケーナさんが水晶に手をかざし一言二言告げると、水晶玉の中で七色の光が瞬いて消えた。
「はい、これでルーちゃんもクロちゃんも冒険者登録完了よ。お疲れさま」
「ん、感謝」
「ありがとうございました」
若干腑に落ちないものの、なんとか無事冒険者登録はできた。
これで保護者同伴でという条件は付くが、自由に街の外へ出向くことはできる。
ちなみに未成年者用のタグに星形や円やひし形などの割と普通の形があると後から聞かされたが、今となってはもう後の祭りである。
――クローディアは冒険者登録を完了した!
――クローディアのギルドランクが〝F〟になった!
ちなみにギルドタグのデザインをしたのはケーナさんで、作ったのは武具屋の親父さんです。そしてなんとアニマルシリーズがあるのは、ここスーサの街だけなんです!
あと受け付け嬢のケーナさんですが、のんびりぽやっとしているように見えて、この道25年の大ベテランで、二児の母でもあります。ギルドに入りたてのひよっ子じゃ勝てないくらいのものも戦闘力も持ってます。母は強しですね。




