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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第一章〝黒の目覚め〟
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黒の系譜01-18『初めての戦い』

や、やっと戦闘シーンだ!

長かった……長かったよぅ……!

 [マップ]上からこちらに迫ってくるのが確認できる二つの白いアイコン、茂みを飛び出してきたのは血まみれの少女と骸骨剣士だ。

 こちらを視認できる位置までやって来た事で二つのアイコン色が変化する。


「もんすたー!」

「待ってルーさん! 手前の人は人間です!」


 先頭を走って来た少女は全身血まみれで、一瞬アンデット系のモンスターかと思ったが、違う。

 [マップ]上のアイコンは友好色の青、きっと後ろのスケルトンに追いかけられている冒険者だ。

 装備の上から下まで血まみれなので相当な量出血をしている。

 意識がないのか目はうつろで焦点が合っていない。

 もはや生存本能だけで逃げているのだろう。

 一方で後ろのスケルトンはボロボロのレザーアーマーに錆びた剣を装備し、カタカタとあごの骨を鳴らしながら少女を追いかけている。

 装備こそボロボロなスケルトンだが、動きに鈍さはないのでいつ攻撃に出られてもおかしくない。

 どう考えてもまずい状況だ。

 すぐに助けなければ!


「邪魔……!」


 ルーさんは杖を構えるが射線上に少女がいて魔術が発動できないようである。

 オレはナイフをベルトから抜き、駆ける。

「クロ!」

「ワタシがスケルトンを引きはがします! タイミングを合わせて魔術を!」

「……後で、おしおき! ……紡ぐは〝緑〟――」



 ルーさんが文句を言いながらも詠唱を始める。

 おしおきがなんなのかちょっと怖かったがそんな事を気にしている余裕はない。


「……ぁっ」

「危ない!」


 少女が足をもつれさせ地面へ倒れる。

 そこへトドメとばかりにスケルトンが剣を振り上げたが、おかげで懐ががら空きだ。

 

「させ、ない!」


 スケルトンの懐に飛び込み、振り下ろされた剣を交差したナイフで受け止める。

 間一髪、錆びた剣とナイフが打ち合い甲高い音が響く。

 この骨のどこにと思うほどの力で押されるが、こっちもチート肉体強化は伊達じゃない。

 スケルトンの剣を押し返して、すぐさまオレは攻勢に出る。

 

「く、[クロスナイフ]!」


 唱えたスキルワードに反応して体が動く、横なぎの一刀目でスケルトンの剣を弾き弾き飛ばし、縦切りでスケルトンを攻撃する。

 与えた傷は浅く致命傷にはならないが、この技にした本当の理由は別にあるので、一瞬でもひるませられれば問題ない。


「てぇぇぇぇぇぇぇいっ!」


 戦技の発動はまだ続いている。

 オレはアシストされるがままに後ろ回し蹴りを放ち、思いっきりスケルトンを蹴飛ばした。

 バキィッ! という音と共に宙を舞うスケルトンは、放物線を描いて飛んで行く。

 これで十分に距離を稼げたはずだ。


「ルーさん!」

「――なりて魔を〝吹き飛ばせ〟……ないす、クロ。 [エア・ブラスト]!」


 ルーさんの杖先にたくさんの風が集まり大きな球になっていく。

 球の大きさが直径1メートルくらいになった所で、ルーさんが杖を振るうと風の弾がものすごい勢いで解き放たれた。

 地面を風で巻き上げて削りつつ、周囲にすごい余波を振りまきながら飛んで来た風の球は空中で身動きの取れないスケルトンの胸に命中、弾けて骨を粉々に吹き飛ばした。

 身構えていなかったオレも若干衝撃で飛ばされそうになったが、ナイフを地面に突き立ててなんとか踏ん張る

 骨の欠片が光の粒になって消えると、あとに残ったのは紅く輝く石と錆びたアクセサリーだけだった。

 ……ルーさん超強い!


――クローディアはレベルが9になった!


――クローディアは[クロスナイフ]を思い出した!

――【戦技奥義書・斬之章】に[クロスナイフ]のページが戻った。


 脳内にレベルアップと戦技の追加を知らせる[オラクル]が流れる。

 たぶん戦闘の終了を受けて、やっと[オラクル]が流れてくるのだろう。

 つまり一応は安全になったと言う事だろう。

 一応周囲を警戒しつつも、オレは地面に横たわる少女へ声をかける。


「大丈夫!? しっかりして!」

「……ぅ…………ぁ」


 はっきりした返事はない、でも息がある。生きている!

 少女に[アナライズ]をかけ、余計な情報は飛ばしてまずはHPだけを見る。

 出血が続いているためか、徐々にHPが減っていてもう一桁代にまで到達している。


「すぐに回復します! [フル――!」

「クロ!」


 回復魔術を使おうとしたオレは、それを察知したルーさんにすぐ制止される。


「魔術、無暗に使う、だめ」


『回復魔術を使える者は稀であり、下手をすれば教会に目をつけられる』


 ミラと話した内容が蘇る。


『変な魔術、あまりつかわない。クロのため』


 ルーさんが言っていた言葉が、オレの脳裏に浮かぶ。


「だけど他に方法が……!」 

「ポーション!」

 

 オレがハッとしていると、ルーさんは懐から緑色の液体を取り出してこちらへ投げてくれた。


「ありがとうございます!」


 オレは瓶を開け、中身を少女に飲ませようとして手を止める。

 こんな朦朧とした意識で飲めるのだろうか?

 若干、口に入ってしまったがすぐに思考を切り替え、中身を少女の傷口へ直接かけていく。

 染みるのか、それとも回復の効果なのかわからないが、かけるたびに少女の身体がびくんびくんと跳ねる。


「どう?」

「傷口はふさがっているようですが……」


 何か所かはもう完全に塞がったが、出血箇所はまだたくさんある。

 だというのにポーションの瓶はもう空っぽ、全然足りない。


「くそっ! こんなことならもっと作っておけばよかった!」


 ポーション(リカム)はすべてチェスターさんに渡してしまった。

 ルーさんの持っていた物も店に置いてきてしまったようだし、あるのは実験的に作っていたポーションだけである。

 味は悪いが中身はポーション、この際背に腹は代えられない。

 懐から次々と瓶を取り出し全て少女へかけていく。


「ぁ……がっ! ぅぐ……ぁ!」


 やはり小刻みに痙攣する少女の身体に、不安感を覚える。

 しかし治療の甲斐あってか、少女の身体はしだいに落ち着きを取り戻し、最後の一本を使い切った時には肌に少し血の気が戻っていた。


「でも、これはなんというか……」


 いたいけな少女が、服はボロボロでしかも全身緑色のドロドロな液体にまみれているという絵面は、そこはかとない犯罪臭がしていただけない。


「ルーさ、おねえちゃん。体の汚れを落とす魔術って……」

「ある。おっけー」


 身体を魔清潔にする魔術は普通に使っても構わないのか? と質問したかったオレの意図を組んでくれたルーさんがすぐにOKサインで応えてくる。


「[リ・フレッシュ]」


 オレが唱えると、一瞬で少女の身体が綺麗な水に包まれ、服や体の血や汚れやポーションを洗い流していった。

 うん、洗濯とかに便利そうな魔術だな。

 魔術で作られた水が空気中に霧散すると、少女はきれいさっぱりな姿になっていた。

 ボロボロになった服までは治せないが、身体がきれいになれば少しはましになったはずだ。

 [ステータス]からおそらくこの少女のものであろう〝エミリー〟を選択し、体力や状態異常などを確認する。


「体力もすっかり回復してますし、状態異常もありません。でも起きないのは……」

「……Zzzzzzzzz」

「はぁ、疲れて眠っているだけですね」

「ん、ひとあんしん」


 かと言ってこのまま放置していくわけにはいかないので、少女が目を覚ますまで周囲を警戒しながらルーさんとポーションを調合したりして過ごした。

 オレが治癒草をリカムティーに入れるのを見てルーさんが『びっくり驚愕!』と言っていたが、やはりこの発想はなかったらしい。

 錬金術師のルーさんにアドバイスをもらいながら、魔草や木の実で新しい薬ができないかと色々調合を繰り返していると、びっくりするほど早く時間が流れていった。



―――――



 三十分としないうちに少女は目覚めた。


「うーん、うーん……みどりの……みどりのすらいむがぁ――がぁっ!?」

「おきた」

「起きましたね。良かった」


 冷や汗をかいて飛び起きた少女は『死ぬかと思った』と息も絶え絶えである。

 実際死にかけていたのを理解しているのだろうか?

 赤い髪の少女は右側片方だけ結んだサイドテールを揺らし、薄い胸に手を当て荒い呼吸を繰り返している。


「えっと、気分はどう?」

「ア、アンタたち誰よ!」


 オレたちにまったく気づいていなかったのか、少女は強く警戒の色を示したが、自分の身体や治療痕を見てようやく状況を理解したようだ。


「まさか助けてくれたの?」

「ん」

「はい、スケルトンは退治したので安心して」

「そ、そうなの? ……ふん、一応感謝しておいてあげるわ」


 はい、皆さんもうお分かりかもしれませんがアレです。

 オレはさっき[アナライズ]で確認していたので知っていましたが、彼女はアレです。


「アタシはエミリー。見ての通り冒険者よ」

 

 オレはばれないようにこっそり[メニュー]を操作して[ステータス]画面を確認する。


【エミリー:Lv.6

 種族:ハーフドワーフ族

 年齢:16歳

 職業:見習い冒険者

 ギルドランク:F

 実家の鍛冶屋を継ぐのが嫌で家を飛び出してきた少女。冒険者にはなりたてで、持ち前の性格もあってパーティを組むこともできず一人で採取クエストを繰り返している。分かりやすいツンデレ】

 

 うん[ステータス]にわざわざ書かれるとは、よっぽどなんだろうか。

 ハーフドワーフ族とか家出少女とかもっと掘り下げる所があったろうに、何故ツンデレを書く必要があったのか。


「まぁ。アタシが本気だせば? ゼーンゼン余裕だったんだけどね!」

「んーん、死にかけてた」

「そ、それは演技よ! アタシがあんなザコに苦戦するわけないじゃない!」

「血まみれ」

「返り血よ!」

「すけるとん、骨だけ。血、でない」

「なんなのよアンタさっきから! ぼそぼそぼそぼそ、もっとはっきり喋りなさいよ!」

「苦手」

「喋るのが苦手なら黙ってなさいよ!」

「苦手、この子」


 エミリーは興奮して頭に血が上っているし、ルーさんは相変わらずのマイペースである。

 二人でわーわー(主にエミリーがだが)やっていて収拾がつかなくなってきた。

 オレも治癒草採取で疲れたし、とっとと町に帰りたかったのでこの場は任せてもらおう。


「エミリー、って言ったっけ? 例えキミが、キミの言うようにスケルトンを楽勝で倒せる実力が本当にあったとしても、ワタシたちに助けられたのは事実だよね?」


 ホントならエミリーの方がこちらでの年齢的には年上だし他人だし、敬語で話すべきなんだろう。

 が、この娘ルーさんに対して失礼だし、レベルはオレの方が高いし、あとツンデレだし、タメ口でいいよね?


「だから、それは!」

「正直に言うけど。あと少しでも治療が遅れてたら、キミも物言わぬスケルトンになってたよ」

「ど、どういうことよ!?」


 オレはこっそり回収していたスケルトンが落としたアクセサリを取り出す。

 ルーさんに確認してもらった所、これは冒険者ギルドが発行しているタグだということが分かった。

 名前は擦れていて読めなかったが、これの持ち主のギルドランクはDでレベルは18だったようだ。

 ランクは一番下がFから始まるらしく、Dなんて1日2日でなれるようなランクではないだろう。

 恐らくどこかで命を落とし、スケルトンになってしまったのだろうというのがルーさんの見解だ。


「そ、そんなのアタシからしてみればひよっ子みたいな……」

「ゴメン、キミが眠っている間にタグを確認させもらった。エミリーはレベルが6でランクがF。とてもじゃないけどスケルトンに勝てるレベルとは思えない」

「な、何勝手に見てんのよ!」


 いけないけない。

 落ち着かせるはずが、図星をついて逆に火に油を注いでしまったようだ。

 だが下手に嘘をつくより、今後の彼女の為にもしっかり言わねばなるまい。


「ふん! だとしてもスケルトンくらアタシ一人でも……」

「命を粗末にするな!」

「――っ!」

「……キミには帰ることができる家も家族もいるんでしょ?」


 ドラゴンに車で突っ込むなんて馬鹿な真似をしたせいで、もう自分の家に帰れなくなってしまった人間が、ここにいる。

 異世界に転生する事になって二度と家族に会えない人間が、ここにいる。

 失ってから後悔するのでは遅すぎると思うから。

 

「……まぁ、ワタシが言えた事じゃないかもしんないけど」


 まぁ、でもあの時の決断を後悔しているかと言われれば、それはない。

 むしろあの時少女が襲われるのを見て見ぬふりして逃げていたら、きっと後悔していたと思う。

 だからこそ、無茶して命を投げ捨てるような真似は見ていられない。


「ふん、なによ。熱くなっちゃって……バカみたい」


 エミリーはぷいっ、と後ろを向いて歩きだす。

 口煩く言い過ぎただろうか?

 やれやれとお手上げしてルーさんと顔を見合わせると、エミリーが立ち止まり、じと目でこちらを一瞬見る。


「……なに?」

「な、なんでもないわよ(ぷい!)」


 そう言って歩き出すエミリーだが、一二歩(いちにほ)歩いてすぐまた足を止める。


「……………………」

「だから何?」

「なんでもないって言ってるでしょ!」


 そんなやり取りを何度か繰り返す。

 そして何度も振り返ってちら見してを繰り返した後、しびれを切らしたのかついに逆ギレしだした。


「な、何やってんのよ! ほら、町に戻るんでしょ! さっさとしなさいよ!」

「え、ひょっとして、一人で帰れないの?」


 オレが尋ねるとエミリーは腕を組んで偉そうにのたまった。


「『命を粗末にするな』って言ったのはアンタじゃない! だったら責任持って町まで送り届けるのが筋ってもんでしょ!」


 あーなんだろうな、うん。

 この気持ち、何て言えばいいんだろう。

 こう、喉元まで出かかってはいるんだけど……いい表現が出てこない。


「クロ、この子。めんどくさい」


 それだ!


「ほら! 早くしなさいって言ってるでしょ!」

「クロ、すごく、めんどくさい」

「奇遇ですね。ワタシもです」


 一応町まではほぼ一本道だが、その途中でエミリーに何かあっても寝覚めが悪い。

 乗りかかった舟というやつだ、しょうがない。


「遅い! 駆け足!」


 オレとルーさんは顔を見合わせながらノロノロとエミリーに続く。

 別に自分のやった事を後悔はしていない。

 していないが、随分面倒な人を助けてしまったなぁと思った。



―――――



 夜になって町に着いた時、体力よりも精神力が疲れていたのは言うまでもない。

 口を開けばツンデレなエミリーを宥めつつ宿まで送り、ルーさんと魔草を山分けして別れ、やっとの想いで屋敷まで戻ると門の所で完全武装のチェスターさんたちに迎え入れられた。

 どうやら帰りが遅かったオレを心配して、捜索隊を結成していたらしい。

 心配をかけたチェスターさんたちに謝り、森の中で作ったポーションを30本ほど渡して屋敷に入ると、待っていたのはミラからの『命を粗末にするな』というどこかで聞いた言葉でのお説教フルコースだった。

 オレは何も悪いことはしていないのに、理不尽だ。

 三時間にも及ぶ苦行を乗り越えたオレは、部屋に戻るとすぐベッドに倒れこんでぐっすりと眠ってしまった。

はい、えー戦闘時間約30秒です。驚きの短さ。

ま、まあしょせん初戦なのでこんなもんでしょ? 戦闘らしい戦闘は、

まだ先になりそうです……が、がんばります!

ちなみにクロは[マップ]上の白いアイコンを前話で〝魔物や動物〟と考えていました。間違ってはいないのですが、厳密にいうと〝未確認の対象〟を示しています。

なのでアイコンが白いうちは敵か味方か判断できないので、無暗にマップ上の白アイコンを遠距離魔法とかで全滅させると……たいへんな事になります。

更に、死ぬなどした場合、死体が残ればマップ上には黒アイコンで表示され、死体が処理、なくなるとマップ上からは消えます。

なのでスケルトンは死んでもアイコンが残りませんがエミリーは……

黒が表示されなくてよかったですね。


―黒の系譜ではご意見ご感想、質問評価誤字脱字報告などを随時募集しております。

どうかご気軽にお願いいたします!


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