黒の系譜01-17『初めての冒険?』
さぁ、ここから主人公の冒険が始まり……
目的地への道すがらオレは[メニュー]の中に新たに登録された[マップ]画面を開き、のんびり地図を眺めていた。
町をでる際、オレは思いだしたように[オートマッパー]の魔術を発動した。
これで歩くだけで勝手に[マップ]にルートが記録されていく。
車で遠出する時はカーナビが欠かせなかったオレにとっては、なんともありがたい魔術である。
が、もう少し名前が何とかならなかったのかと、過去の自分を問いただしたい。
[オートマッパー]なんて、使ったら勝手に全裸になりそうな名前の響きじゃないか。
まぁ、それは置いておいて。
「館、めざす」
ルーさんに案内されるまま向かっているのは、オレが最初目覚めた"死霊の館(黒の館)"だろう。
現に[マップ]上に示されたオレのアイコンも、そちらのほうへ向かっているようだ。
ちなみに[マップ]を眺めていてわかった事だが、オレを示しているアイコンは緑で、この色はマップ上に一色だけである。
ルーさんは青色で、町の中にも青いアイコンがたくさんあるようなので、おそらく青はオレに対して友好的な人を示しているのだろう。
あとは白いアイコンが魔物や動物を表しているであろう事と、魔獣に至ってはオレたちが近づくとアイコンが白から赤に変わることから、赤いアイコンは敵対している存在を表しているのだろう。
(まぁ、近づいてくる魔物なんてほとんどいないんですけどねー)
オレは一度マップから視線を離し、遠い目をする。
「目的地はだいたいわかりました」
「ん、クロ、賢い」
「が、ワタシはいつ解放されるのでしょうか?」
「いみふめい?」
オレたちは一路、治癒草の採取地と思われる館を目指しているのだが、ここで一つ大きな問題がある。
「ですから、何故ワタシは抱えられているのでしょうか?」
後頭部に当たる柔らかな二つの山脈のせいでずっと気持ちが落ち着かない。
なんていうか色々と耐えなくてはならないため、オレの精神力がガリガリ削られているのだ。
「まもりやすい」
オレを抱えながら平然と森を突き進む魔術師さんは、はっきりそうのたまった。
確かにこの森に入ってからと言うのも、彼女が発動した[ハイド・エア:空気の層を操り、五感による察知を阻害する。ただしきわめて範囲が狭い]のおかげで魔獣とのエンカウントが極めて少ない。
嗅覚の優れている犬の魔獣[ブラック・ドッグ]ですら、こちらを視界にとらえない限りは近寄ってこない。
そして例え現れても、オレが何かする前にルーさんの風魔術で瞬殺である。
「いや、でもわたしも戦えますし……」
「リーダーわたし、反論だめ」
――服屋で【若葉のチュニック】【爽風のスカート】【蠱惑のレギンス】という素晴らしい服を受け取り、武器も調えていざ冒険だ! とルーさんに合流すると、
『ん』
『ひゅあっ!? るるるルーさん!?』
『れっつごー』
いきなり彼女に捕縛され、そこからずっとこの状態である。
降ろすよう頼んでも、先ほどのように何かしら理由を付けて降ろしてくれない。
結局の所、彼女は初めからオレを戦わせるつもりはなかったらしい。
あの力試しにせよ、いざという時に逃げ出すことが出来るか判断するためだったと言う。
「でもこのままだと歩きづらいんじゃ……」
「んーん、至福」
「ほら戦いづらいんじゃ……」
「やる気あっぷ」
「お、おろしてほしいなぁー」
「拒否権なし」
「うぅ……」
聞く耳持たずである。
「初めての冒険だったのに……」
「どんまい」
主にアナタのせいですけどね!
オレは心の中でひとりごちながら、後頭部にあたるぽよぽよとした物体を、恐らく生まれて初めて憎いと思った。
しばし拗ねていたオレだったが、
「着いた」
唐突にそう告げられ、優しく地面に降ろされた。
久しぶりの地面の感触をオレが確かめていると、ルーさんはその辺に生えていた草を抜いて見せてくれる。
「これ、治癒草」
「え?」
彼女が持っているのは、どこからどうみてもその辺に生えているただの雑草である。
ひょっとしてまたオレを試しているのかと思い、こっそり[アナライズ]してみると、
【名無しの草:
どこにでも生えているいわゆる雑草。食べられなくもないがおいしくはない。煎じても薬にならない】
やっぱりただの雑草だ。
「……ただの雑草ですよね?」
オレが訪ねると、ルーさんがやんわりと口角を上げる。
「ん、正解」
やはりオレを試していたのかとオレが首を傾げると、彼女は突然オレの肩をつかんで迫ってきた。
「やっぱり。クロ、変な魔術つかう」
「あ、え!?」
どきり、とする。
魔術を使っていたのがバレている?。
「街出てすぐ、変な魔力かんじた」
(まさか、[オートマッパー]がバレてる?)
街を出てすぐ使ったと言えばそれしかない。
(聞こえないように細心の注意を払ったつもりだったのに……)
「今も、そう。変な魔力」
どうやら詠唱が聞かれたというより、魔力の流れが見られていたという感じみたいだ。
そういえばラムダさんを[アナライズ]した時も、なんとなく魔術を受けた事を察知していたようだし、分かる人には分かるのかも知れない。
「ひみつ、だめ」
「別に秘密にしてたわけじゃ……」
「だめ」
「いや、あの」
「だーめ!」
「はい……わかりました。白状します」
オレは[オートマッパー]を使っていた事や、[アナライズ]を使ったこと、あと隠していてもすぐばれそうなのであの
ポーションを作ったのも自分だということも洗いざらい白状した。
しかし記憶喪失で、どうしてそういったことが出来るのかはわからない、と言うのも忘れない。
まさか『異世界からやってきたヨ☆(キラッ)、あぁ魔術? オレが作りました(>ω<)ドヤァ』なんて言えるわけがない。
話の最中、ずっとルーさんのキラキラした目で見られていたので嘘をつくのはとても心苦しかったが、話終わると彼女はぎゅっとオレを抱きしめた。
「クロ、頑張りやさん」
「え、あ、うぁ?」
「記憶ない、たいへん。でも、みんな助ける。いい子」
「あぅ……その」
オレの話した話が全て本当なら、確かにお涙ちょうだいのとても感動的な場面なのだが。
話しのほぼ全てが嘘だし、もっと言えば抱きしめられている美少女の中身はいい年した独身男性である。
大変申し訳ないですが、見た目可憐な少女の頭の中は、顔に当たっている柔らかいクッションの事でいっぱいです!
もういっぱいおっぱいで、たいへんへんたいです。本当にありがとうございました。
「わたし、頼る。わたし、お姉ちゃん」
「あっ……」
オレを離してルーさんはぽよーん、と胸を張る。
オレが切ない顔をしているのは、ルーさんの言葉に感動したから……というのもあるが一番は単に柔らかい感触がなくなって寂しかったからだ。
なんか、ホントサーセン!
「ルーさん……ありがとう、ございます(あとごめんなさい)」
「……お姉ちゃん」
「ルーさん?」
「お姉ちゃん」
「ルーさ「お姉ちゃん」……ルーお姉ちゃん」
「ん、まんぞく」
そう言ってルーお姉ちゃんはオレを抱きしめた。
再び包まれた温かなぬくもりにオレも大変満足いたしました。
ごちそう様です。
―――――
さて、しばし至福の時間を味わった後本題の治癒草探しに入ったわけだが、これがまた大変だった。
いやね、いくら雑草とは見た目が違うと言っても地面に生えている草を1つ1つ確かめていくのは並大抵の事じゃないんだよ? しかもそれを100束以上?
なんとも気の遠くなる話である。
オレが悪戦苦闘しているのをよそに、ルーさん(脳内ではやはりこちらで呼ぶことにした)は次々草を抜いていく。
しかも治癒草や他の薬草類だけを的確にだ。
「お姉ちゃん、何かコツでもあるんですか?」
オレが『お姉ちゃん』と頼ると、照れ隠しなのか必死で無表情を装いながらも(頬は完全に緩み切っている)、嬉々として教えてくれた。
どうやら治癒草などの薬草は〝魔草〟とも呼ばれ、微力ながら魔力を纏っている(そもそもにおいて、魔草というものが魔素で育つ草という意味らしい)そうで、ルーさんはその魔力を読みとって採取しているにすぎないと言う。
「ここ、魔素、濃い。ぐんぐん伸びる」
そういえばあのなんちゃって大精霊も『館の中は魔素が濃い』とかそんなような事を言っていた気がするし、結界が解けたことでそれが外に漏れ出ているのかもしれない。
ってそれちょっとした環境問題じゃないか。
「それにしても魔力かー」
そう言えば、なんか周囲の魔力を感知する魔術を作っていたようないないような……。
「えっと、レーダー。違う……ソナー! ……これも違う」
オレが何かやろうとしているのでルーさんも興味津々といった目でこちらを見ている。
あーでもないこーでもない、と試していると。
「[ポケット・ソナー]」
唱えた瞬間、ピコーン! と言う音が聞こえて周囲に光の波のようなものが飛ぶ。
10メートルくらい波が進んで消えた後、いくつかの草が淡く輝きだした。
――クローディアは[ポケット・ソナー]を思い出した!
――【ネクラノミコン・下】に無の章[ポケット・ソナー]のページが戻った。
[ポケット・ソナー:魔力を感知する波を起こし、周囲を索敵する。隠された通路やアイテム、目に見えないモンスターや罠などの発見に役立つ]
脳内に[オラクル]の音が鳴り、目の前に説明文が表示される。
おそらく周りの光っている草や木の実なんかが魔草なのだろう。
だがルーさんや地面も光っているのはどういう事だろうか。
その辺はあとで聞いてみよう。
試しに光っている草を一つ抜いてみる。
――クローディアは【治癒草】を手に入れた!
うん、問題なく使えているみたいだ。
「探知魔法?」
「あ、はい。ご存じなんですか?」
「ん、当然」
ルーさんは目を閉じると詠唱を始める。
「紡ぐは〝波紋〟、描くは〝円〟、隠れし物を〝捕えよ〟……[ポケット・ソナー]」
ルーさんが唱え終わる、が何も起こらない。
不発だろうか?
「探知魔法、他の人、見えない」
あぁ、なるほど。じゃあオレがさっき使ったのも他の人には見えないと言う事か。
ルーさんが気が付いたのは[アナライズ]の時と同じで魔力の流れを感じ取ったことと、オレが迷いなく魔草を採取した事から、推測したとの事だった。
「クロ、すごい魔力。おどろきもものき」
「ちょ、ルーさん、そこはっ! くすぐったいですってば!?」
「む、お姉ちゃん」
頬を膨らませたルーさんに何故かわしわしと体中を触られている。
しばらくもみくちゃになってようやく解放されたオレは、息も絶え絶えに理由を尋ねた。
「魔力探知、内包魔力、わかる。魔草、ちょっと。クロ、異常」
指をわしわしさせながら迫るルーさんから後ずさる。
その態度にちょっと不満そうにしつつもルーさんが人や地面が光る理由も教えてくれた。
魔力探知というように、[ポケット・ソナー]は対象に内包された魔力を可視化する魔術らしい。
魔草や生き物も少なからず魔力を内包しているので輝いて見える。
地面が光っているのは土中に含まれる鉱石や宝石の魔力に反応しているらしい。
ただし含有魔力の少ない鉱石や魔草の輝きは淡く、生き物は魔力量に応じて輝きが違うとの事。
「クロ、きらきらでぴかぴか。でも、やさしい光」
「ルーさ、やめ、わかった。わかりましたごめんなさいルーお姉ちゃん! ふがぁー!?」
そうやってじゃれあい(一方的に)ながら薬草を採取していき、日が暮れ始める頃にはルーさんの用意してくれた【コンパクト・ボックス:アイテムを小型化して持ち運べる箱】がいっぱいになったので、無理せず町へ戻ることにした。
幾つか木の実型の魔草も採取したが、土を安全に掘り返す方法を思いつかなかったので、鉱石採取はまた今度にしよう。
いいだけ取りまくったので自然破壊? にならないか心配だったが、この辺は魔素が濃いので一晩もすればまた魔草がたくさん生えて来るとの事で、それには及ばないとの事である。
「でも、ひとり、だめ。たまに、強い魔物 出てくる」
館の内部にいる魔物は一筋縄でいかない魔物がいるらしく、レベルが低い者や強くても単独でこの辺をうろつくのは危ないと、忠告してもらった。
「お姉ちゃんは大丈夫なんですか?」
「わたし、ちょうつよい」
無表情でえへん、と胸を張るルーさん。
試しにルーさんへ[アナライズ]をかけてみると。
【ルーミア:Lv32
種族:人族
年齢:23歳
職業:錬金術師
魔術や錬金の研究が生き甲斐という少し変わった女性。あまり表情を表に出さないが、けして無感情と言う訳ではなく、よく見ればなんとなくわかるらしい。現在は祖父の営む雑貨屋でアイテムを調合、販売しているが、いつか自分だけの店を全国展開するという野望を秘めている。可愛い物に目がなく、意外に少女趣味である】
「どう?」
「えっと、すごいです?」
未だにレベルの基準と言うのもわからないが、この歳でこのレベルっていうのはすごいことなのかな?
「あと、可愛い物がお好きなんですか?」
「すき。クロ、ちょうすき」
と抱きしめられちょっと、いやかなり焦ったが、結局隙なのは見た目うら若き14歳の乙女だからだな。
これで中身が男だと知られたら……うん、この秘密は墓場まで持っていこう。
「あと、お姉ちゃんから、あどばいす」
「何ですか?」
「変な魔術、あまりつかわない。クロのため」
「ワタシのため、ですか」
「ん」
ミラも言っていたが、ただでさえオレの使う魔術はこの世界では〝異質〟である。
奇異の目で見られるだけではない。
下手をすればこの世界における大きな勢力の一つ〝教会〟に目をつけられる可能性があり、そうなればオレの身が危ない、とルーさんは心配してくれている様だ。
「わたし魔術、教える。それなら、怪しまれない」
「いいんですか?」
正直この世界で魔術が使えなければ、オレはちょっと身体能力の高くて大人びただけの14歳の小娘である。
この世界でも違和感なく魔術が使えるようになるなら、それに越したことはない。
「クロの魔術、興味ある」
「なら、お願いします。ルーお姉ちゃん」
オレが離れて頭を下げると、ぽんぽんと軽く頭を撫でられた。
ちょっと恥ずかしかったがこういうのも悪くないかな、と思う。
とりあえず練習は後日ということで、町への帰り道を確認するために[マップ]を呼び出したオレだったが、そこで不自然なアイコンを発見する。
「ルーさん!」
「お姉ちゃん!」
館の方からこちらへ向かってくる2つのアイコン。
ルーさんも[ポケット・ソナー]の効果で何かやってくるのには気づいたようだ。
まだこちらから姿が見えないのでアイコンは白だが、あとも30秒もしないで遭遇するだろう。
「こちらへ向かってくる何かが2つ、もうすぐ見えます!」
「ん、戦闘準備。……2つ?」
ルーさんは首をかしげながらもオレを庇うように前に立ち、懐から出した木の杖を構える。
オレも腰に差したナイフの柄に手を掛け、アイコンの魔物がやってくる方角を睨む。
次第にガサガサ、と言う音が奥の茂みから聞こえ始め、緊張が走る。
バサァ! という音と共に飛び出してきたのは、血まみれの少女と骸骨の剣士だった。
……ませんでした。
いえ、まったく始まらなかった訳ではありませんが、クロの想像していたような冒険ではありませんでした。
ま、まあね。下手にクロが魔術を使いすぎるとたいへんな事になっちゃいますからね!
じ、次回はきっとすごいよ! 戦技とか魔術とかポーションとか色々だよ!
……よく考えたらそんなにすごくないかもしれないよ、ゴメンよ。
く、黒の系譜ではご意見ご感想ご質問などを随時募集しております。
その他にも誤字脱字報告や評価などもお待ちしておりますので、お気軽にお願いいたします。




