黒の系譜01-15『紫髪の魔女』
ひょひょひょ、評価がひゃひゃひゃ100点を超えたー!?
ひゃ、ひゃっはーっ!?
おおおおおお落ち着けー落ち着くんだ―自分……
そうだ、こういう時はひつじを数えればいいんだ!
ひつじが一匹……ひつじが二匹…………
起きてみると、屋敷内はとても慌ただしそうだった。
何とか昨晩の内に作り上げたポーション60個をその日のうちに住民たちへと配り、朝方までかけて何とか追加で50個作り上げた。
チェスターさんや屋敷の数人がそれをまた住人に配布し、昨晩できなかった詳しい説明などを行ってるそうだ。
「ふわぁぁぁぁ……。あと最低90個か……く、ぁぁぁぁ」
寝不足気味で頭がよく回っていなかったのだが、用意されていた着替え(特に昨日お店で買ってきたふりふりでひらひらがいっぱいの下着。しかもドロワーズではない)を見て一気に目が覚めた。
今のオレは目線で魔王が倒せそうなほど最低にクールだ。
大体治癒草2束くらいとリカムティーポット1つ分からポーションが1つ作れるとして、あと治癒草が100束、リカムティーは70杯必要だ。
リカムティーは紅茶を煮出すだけなので、まだまだ十分あるのだけれど治癒草が若干足りない。
チェスターさんがかき集めてくれたおかげで80束程はあるのだが、まだ足りない。
(チェスターさんは、十分だって言ってるけど。念には念を入れておきたいしなぁ)
残り100束弱。どうにかして手に入れておきたい。
チェスターさんだけに頼むのも悪いし、オレにも何か出来ることがあるはずだ。
オレは忙しそうに走り回っているメイドさんに一声かけてから、街へ繰り出した。
―――――
「悪いが、治癒草は在庫を切らしておるよ。なんでも領主さまが流行り病の対策にってんで全部買い取っていったからの」
「ですよねー」
オレがやって来たのは昨日秘術の壺を売ってくれた雑貨屋である。
店主のじいさんはあごひげを触りながら、なにやらしたり顔でこちらを見ている。
「わしの目に狂いはなかったようじゃの」
ニヤリ、と笑みを浮かべた店主が取り出したのは、翡翠色の液体が入った小瓶――オレの作ったポーションである。
チェスターさんたちの頑張りもあって、ちゃんと各家庭に行き届いているようだ。
「……なんの事でしょうか? ワタシにはさっぱり」
記憶喪失という設定もあり、『ポーションが作れる』なんてあまり口外できない。
わざとオレがとぼけてみせると、爺さんはそれを察したのか『なーに、ただの老いぼれの独り言じゃ』と笑った。
「それで、話は戻るんですが、なんとか治癒草は手に入りませんか?」
「普通のポーションではまずいのかの?」
「不味いですね」
味が、と言いそうになったがそれは別に冗談でも何でもない。
瀕死の状態ではたしてあのドロドロした緑色の液体をまともに飲めるのか?
飲めないとははっきり言えないが試す余裕なんてないし、普通に回復量もポーション(リカム)の方が高い。
だから用意するならポーション(リカム)でなくてはならない。
また、普通のポーションから作ることは出来ないかも試してみたが、出来たポーションの味は燦々たるものだった。
やっぱり調合段階で混ぜなければ上手く混ざり合わないようだ。
万全を期すためにはやはり治癒草でなくてはならないのだ。
「数はどのくらい必要かの?」
回りくどいのもなんなのではっきり『最低でも100束』と告げる。
「ふむぅ、そうじゃの……」
じいさんはしばし考え込んでいたが、
「手がないこともないが…… おーい、ルー! ルーや!」
店の奥に向かって声を上げた。
「……なに、おじいちゃん?」
じいさんに呼ばれて店の奥からでてきたのは、20代くらいに見える落ち着いた女性である。
少しウェーブのかかった深い紫色の髪を腰まで伸ばし、いかにも〝魔女〟といった感じのローブを着ている。
ただし胸のあたりや腰のあたりの露出が若干多く、出るとこがしっかり出ているモデル体型なのもあって、がんぷ……正直目のやり場に困る。
「わたし、いそがしい」
しゃべってみると落ち着いた、というよりむしろめんどくさそうな様子である。
客であるオレに気付き一瞬目を見開いたが、会釈だけするとすぐ気だるげな表情にも戻った。
「昨日の晩からずっと部屋にこもっとった用じゃが、何しとったんじゃ?」
「ポーション、分析中」
彼女が胸の間の魅惑のポケットから取り出したものは、オレの作ったポーションである。
なんてうらやまけしからん。ポーション、ちょっとそこ代われ。
「すごく、いい。こんなの、初めて。もっと、しりたい」
「おぉ、普段おとなしいお前さんがそんなに興奮するとは……やはりたいしたもんじゃの(ニヤニヤ)」
興奮している、のか?
オレにはまったく表情が変わっていないように見えるのだが、じいさんが言うからにはそうなんだろう。
「用ない? もどって、いい?」
「いーや。それならもっといい話があるぞ?」
「ふぇっ!?」
じいさんにぐいっ、と服を引っ張られ、ポイっとルー? と呼ばれた女性の前に放り出される。
「このお嬢ちゃんが、そのポーションの原料を探しているそうじゃ。手伝ってやれ」
「…………!」
「え、あの!?」
がしぃ、と両肩を捕縛され、ぐいっ、と女性の顔が迫る。
無表情だが、半開きのブルー瞳の億からは強い意志の力を感じる。
オレは気恥ずかしさから視線を逸らすが、連なる山々の谷間に目が行き、危うく意識が奪われるところだった。
危ない危ない。
「ほんと?」
「え、あ、はい。一応……ってほぅわっ!?」
気まずさから誤魔化すのを忘れ、つい正直に答えてしまった。
するとオレの答えを聞くや女性は目を見開き、今までの億劫そうな動きはどこへやら、驚くほど素早く動く。
視界から彼女が消えたかと思えば、突然オレの体が宙に浮いた。
「な、な、な!?」
というか、彼女がオレを小脇に抱えていた。
「行ってくる」
「おぅ、気をつけてのー」
「な、ちょ、えぇーっ!?」
笑顔のじいさんに見送られながら、オレは無表情で鼻歌を歌う女性に連れ去られた。
―――――
「あの……」
「ルーミア。ルーで、いい」
「あ、それはどうも。ぉワタシはクローディアです」
「ん、じゃあ、クロ」
「はい、えと……」
店を出て数分。
オレは相変わらずお尻で風を切っている。
スカートがめくれない用に押さえてはいるが、街往く人々にお尻と指さされるのは勘弁願いたい。
ルーさんはそんな事もまったく気にせず、むしろ鼻歌まで歌ってかなりご機嫌な様子で歩いているし、たまにスキップまで踏んでいる。
このお人、降ろしてくれる気がまったくない!
(まさか、このまま治癒草の生えているところまで行くのか?)
というか、そもそも治癒草を探していると伝えていない事に気付いた。
この人はこんなに足取りも軽くどこへ向かっていると言うのだろうか?
「あの、ワタシたちはどこへ向かっているのでしょうか?」
ピタッ、とルーさんの足が止まる。
「ん、哲学的。こたえは……風の中?」
「いや、そういう意味ではないですから!」
思わずツッコんでしまったが、ルーさんは表情一つ変えずに『冗談』と言う。
とりあえず、この人が手ごわい人だというのは分かった。
「……で、どこ行く?」
「それは、ワタシが聞きたいといいますか……」
どうやら何も考えずに歩いていたらしい。
「質問変更。何、必要?」
「ち、治癒草を探しています!」
「おーけー。じゃあギルド、行く」
照れながらオレがそういうと急に抱きしめられ(やわかいものが! やわかいものがぁぁぁぁ!)そのまま抱きかかえられる。
「へ?」
「れっつごー」
オレは衆人環境の中を抱っこされたままで練り歩くと言う天国のようで地獄な体験をギルドに着くまで味わう事となった。
―――――
ギルドのついたときオレの精神力(MPとは別)はガリガリ削られていた。
「うぅ……もうお嫁にいけなひ……」
「だいじょうぶ。引く手数多」
ギルドについて降ろしてもらったオレは、隅の方で体育座りをしていた。
ルーさんはそんなオレを見向きもせずにギルド内にある掲示板を端から端まで確認してため息をついた。
「ん、だめっぽい」
口数の少ないルーさんに代わってオレが()説明するが、彼女はギルドから治癒草採集の依頼が出ていないか確認していたらしい。
というのも雑貨屋やギルドで売っているポーションの一部は、彼女がギルドに納品される治癒草を安値で買い取って作っているそうなのだ。
そして依頼の張り出されている掲示板を見たところ、依頼はあるものの出されたのは今朝で、受けている者は一人もいない。
(多分、オレが治癒草を集めて欲しいって頼んだからチェスターさんが出したんだな)
採集系の依頼はただでさえ初心者にしか受けない上に、今町に冒険者は極端に少ないのが原因だそうだ。
念のため受け付け嬢のお姉さん(泣きぼくろがセクシー)に確認を取ったが、ギルドにあった全ての治癒草はチェスターさんが買い取っていったとの事だった。
「おのれ、ぶるじょわめ」
「ハハハ……なんかすみません」
「? クロが謝ることない」
いえ、オレのせいなんですよ、とは言えなかった。
「しかたない。取り行く」
ルーさんは、オレを降ろして椅子に座らせると『すぐ帰る』と言ってなにやら受付嬢とやり取りをしている。
どうやら街の外まで採集に行くつもりらしい。
「何をしてるんですか?」
オレが尋ねると、口数少ないルーさんに代わって、受け付け嬢さんが説明してくれた。
なんでも街の住人が外に出て採集などを行うにはギルドで許可証を発行する必要があるそうで、その手続きを行っているとのこと。
これはむやみやたらに危険な場所へ行かないよう注意を促したり、外で仮に何かあった時の対処をしやすくするためらしい。
ともかく、採集に行くというならオレも付いて行かなくては。
「あの、ワタシも行きます!」
女性を一人で危険な目に合わせるわけにはいかない。
なぜならオレは見た目は美少女でも立派な紳士心を持っているのだから。
「だめ、きけん、あぶない」
「そうよ? 私もお嬢ちゃんにはまだ早いと思うわ」
二人に速攻却下された。
「大丈夫です! こう見えてワタシ、案外丈夫なんです!」
「まもる、たいへん」
「そうよ? もしルーちゃんが守りきれなくて、万が一その綺麗な体に傷でも付いちゃったら大変だもの」
「いえ、ワタシだって戦えます! 武器だって使えますし、魔術だって使えるんです!」
「おどろいた、でもだめ」
「ルーちゃんがダメっていうならダメね」
魔術、と言った瞬間驚いたように眉を動かしたが、目を細めてオレを値踏みし、即座に一蹴した。
一体オレの何がダメだと言うのか。
尋ねてみると答えは意外なところにあった。
ルーさんは、びしっとオレを指さして言う。
「ふりふりほわほわじゃ戦えない」
「あーそこかー」
思わず顔に手を当てて、天を仰いだ。
確かにこんなドレスじゃまともに戦えませんよねー。
「も、もちろん服は着替えます。ちょうど服屋さんに新しい服をお願いしていた所ですから! すぐに取りに行ってきますよ」
服屋さんは尋常ならざる気迫で『すぐに仕上げる!』と言っていた。
たぶん、本当に縫い上げているだろう。
そして頼んだ服だが、ミラたちにデザインの可愛らしさやら華やかさやらは譲ってはもらえなかったが、オレも動きやすさ、丈夫さは譲らなかった。
……多少、気になる所もあるが、昨日買ったぬののふくで縫ったズボンやマントもある。
最悪それだけでも十分戦えるはずだ。
「でもね? 街の外に出たら、危険なモンスターいっぱいなのよ?」
「クロみたいな子、一口でまるかじり」
「ワタシこう見えて中身はすごいんですよ! ワタシのすごさの前にはどんな相手もイチコロです!」
オレが腕まくりして力瘤を作ってみせる(※できていない)と、受け付け嬢さんは『あらあら』と困った表情を浮かべ、ルーさんは小さく『しかたない』とため息をつく。
「ワタシも行っていいんですか!?」
「んーん、ちからだめし」
ルーさんがどこからともなく取り出した杖を構える。
「……成すは〝旋風〟、〝巻き上がれ〟」
(詠唱だ!)
彼女の声を聞いてなんとなくそんな気がした。
ミラの詠唱の仕方とは違うが、なんとなく雰囲気が似ている。
ミラとの授業が功を奏し、すぐに反応することができたオレは素早く駆け出す。
「[ポップ・アップ・エア]……!?」
驚いているルーさんの眼前まで踏み込むと、オレの後ろで小さく風が巻き起こったのを感じた。
オレを傷つけないよう、手加減して威力を押さえたのだろう。
ゆえに、オレが急に動いたため制御にブレが生じ、魔法の範囲がずれたようだ。
「どうです! 少しはやるでしょう?」
ドヤ顔で宣言したオレだったが突然目の前が、ぶわっ! と遮られる。
魔術の余波で巻き起こった風が、むだにひらひらふりふりのドレスのスカートを捲り上げたのだ。
「な/////」←赤面するオレ。
「まっ//////」←赤面しながらもほほえましく見守る受付嬢さん
「(ぐっ! …………ばたん!)」←親指を立て、倒れるルーさん。
オレはまったく攻撃していないのだが、ルーさんは飛び込んできたオレに驚いて後ろへコケたのかもしれない。
だというのに会ってから今までで一番良い表情をしている気がするのは気のせいだろうか。
「ごほん」
オレは咳払いを一つ。
捲れ上がったスカートを慌てて直し、気を取り直してルーさんを助け起こす。
「不覚……」
起き上がった彼女は、倒れた拍子に打って出血したのであろう鼻を押さえていた。
一応オレの身体能力には問題ないと分かってくれた様で、しぶしぶと言った様子だがルーさんも『ん、合格』と言ってくれた。
満面の笑みで受け付け嬢さんの方を向くと、『若いっていいわぁ』と何故か頬を染めながらも許可証を発行してくれた。
ルーさんにドヤ顔で〝外出許可証〟を見せると、ルーさんはオレの頭を撫でながら、
「ずるい、あれは勝てない(ぽたぽた)」
相変わらずの無表情で、でもどこか拗ねたように言った。
「えぇ。あれならどんな相手もイチコロね、ふふ♪」
受付嬢さんもオレの力に太鼓判を押してくれる。
「ふふん、でしょう? わたしやる時はやるんですよ!」
「おそろしい子……(ぽたぽた)」
「私も今度……いえ、駄目ね。若い子がうらやましいわ」
何か会話がかみ合っていない気がするが、きっと気のせいだろう。
ルーさんの鼻血が止まるまで出発はしないとの事だったので、その間にオレは武具屋や服屋で準備を整えてくることになった。
今回の治癒草集めに人命がかかっているというのは分かっている。
本当ならこんな浮ついた心で事に望んではいけないのだと、自分に言い聞かせる。
だがそれでもオレはワクワクする心を抑えきれなかった。
何故ならこれが、オレがこの世界に来て初めての〝本当の冒険〟なのだから。
…………ひつじが三千二百七十二ひ……っは! もうあとがき!?
ご、ごほん! え、えー改めまして、おかげさまで評価が100点を超えました。
ブック―マークしてくださったみなさま、評価を付けてくださった方々、本当にありがとうございます。
アクセス数もおかげさまでPVが7000を超えています、本当に感謝感激雨嵐でございます。
今後もこの黒の系譜を生暖かく見守っていただけるよう作者も頑張りますので、なにとぞよろしくお願いいたします。
それでは、最後に一言。
む、無口キャラってむずかしい!
それでは私はまたひつじを数えに戻ります……ひつじが三千二百七十三匹…………ひつじが三千二百七十四匹…………しつじが…………………




