黒の系譜01-10『スーサの街』
街に飛び出しましたよー!
※12/11誤字脱字を修正しました!
翌日、朝食を知らせるリリメさんの声で目覚めた。
寝ぼけていて忘れていたが、部屋の鍵を開けた瞬間に飛び込んできた彼女の熱い包容のショックですべて思い出した。
着替えを手伝うと張り切るメイドさんをなんとか部屋から追い出し(鍵のロックは忘れない)、改めて用意された服を見る。
どこからどうみても女物である。
(あぁ、オレ女になったんだっけ……)
未だに信じられないが、部屋に設置された姿見に移るのはまさしく美少女。
黒い艶やかな髪を腰のあたりまで伸ばした14歳くらいの乙女。
先ほどまで抱きしめられていたせいか、体はほんのりと火照り赤みを帯びている。
これが中身三十路独身男の自分でなければ……いやいや、何も思わない。
オレはロリコンじゃない。
断じて、違う。
「…………[アナライズ]」
鏡を見ていてふと思いついたことを試してみた。
【クローディア=サッカー=ノーウェイ:Lv.8
種族:人族
年齢:14歳
職業:考古学者
死霊の館にて記憶喪失で眠っていた所を保護される。齢14歳にて〝古魔術〟を操る旅の考古学者(自称)】
おぉ! ちゃんと嘘設定が反映されている。
これでもし仮にオレの他に[アナライズ]が使える人がいたとしても、素性はごまかすことができそうだ。
(ん? でも待てよ……。確かあの人は――へっくしゅん!)
そう言えば着替えの途中だったのを思い出した。
オレは目の前の女物の服をじっと見つめる。
きっと今のオレの瞳は死んだ魚の眼よりも濁っていたことだろう。
一応、別の服もあるにはある。
昨日[五次元ウィンドウ]の中を調べた際に入っていた服だ。
呪われていたりしたらイヤなので念のため[アナライズ]してみたのだが、
【黒の魔導衣・上:
かつて黒の魔導師が着ていた衣。装備者の……】
うん、アウトだね。
広げて見てみれば、なんとびっくり。
肖像画のオレが着ている服そのままじゃないですか。
頑張れば『コスプレです』で誤魔化せるかもしれないが、ただでさえ素性がはっきりしないオレなので、身バレの危険は伴うだろう。
残念だがこれを着る訳にはいかない。
仕方がないのでオレは目の前の無駄にヒラヒラした衣装を無心で着ていった。
女物の下着に足を通した時は死にたくなったが、服(下着以外)はミラのお下がりだと聞いてもういっそ一思いに殺してくれと思った。
人生ってなんだろう?
―――――
「……というわけで、服を買いに行こうと思います」
朝食の席で、オレはスカートを翻しながら高々と宣言した。
いやね、わかってますよ?
記憶喪失でお世話になっている身で服選びなんて贅沢な! とかね。
でもね、やっぱり落ち着かないんだよこのスカートっていうのは。
ひらひらするし、スースーするし、とっても頼りないんですよ。
女の人ってホントすごいね。
それにさっきも言ったがこの服はミラのお下がりである。
なんかもう男というか人間としてとして色々アウトな気がする。
だからこれは贅沢とかじゃない。
男の尊厳をかけた大事なのだ。
「まぁ! それはいいですわね! 私もちょうど新しい服が欲しいと思っていたのでご一緒いたしますわ」
そんなオレの心情を知ってか知らずか、ミラは一緒について来る気満々である。
いけない、このままでは間違いなく『クロ様にはこっちの可愛らしい服の方がお似合いですわうふふ♪』コースへまっしぐらじゃないか。
「いやそんなに凝ったもの買う訳じゃないし一人でも大丈夫だよ?」
「むぅ、クロ様は私と一緒に行かれるのはおイヤですか?」
ふぐぅっ! 上目遣いでそんな事言われるととてもじゃないが断りきれな、いやいや。
「そ、そういうわけではないんだけど」
「それに! クロ様の記憶はまだ完全に戻った訳ではありません。そのような方をお一人で外出させるなど……」
ミラはオレの身を案じてくれているようだ。
まさかここで記憶喪失の設定が裏目にでるとは……
ぐぬぬ……とオレが葛藤していると、リリメさんがここはわたしにお任せをと、言わんばかりにぽいーんと胸を張る。
「ならばわたしが代わりにご一緒しま……」
「うん、ワタシ、ミラと一緒にお買い物に行きたいなー!」
「まぁ! 嬉しいですわ!」
「むむ? ですが荷物持ちや護衛ひつよ……」
「そうなると当然ラムダさんも荷物持ちしてくれますよねー!?」
「かしこまりました」
「んなっ!?」
リリメさんの入り込む隙を与えない。
きっとあの天然小悪魔メイドさんをつれていくと、なんか悪い方向にしか行かない気がする。
ミラもラムダさんも快く了承してくれたし、この際背に腹は代えられない。
リリメさんは何か文句を言いたげだったが、チェスターさんになだめられて引き下がってくれた。
そんなこんなで今日は町に出ることになった。
――――――
率直に言おう、オレは今たいへんワクワクしている。
「ふわぁ……」
目の前に広がる町並みは、〝ザ・RPG〟と言うほどに見事な景色だった。
中世ヨーロッパのような人々の服装、町並みもさることながら、向こうの世界では見られなかった種類の動物(飼い慣らされた魔獣らしい)や食べ物、武器や防具を売っている店に、怪しい道具屋などなど。
見たことがない、しかし誰よりも憧れていた世界がそこにはあったのだ。
眼をキラキラさせながらあっちこっち飛び回っていると、ミラに笑われてしまった。
ちょっと反省。
「むぅ、なにも笑うことはないじゃないか」
「ふふ……申し訳ありません。普段はあんなに大人びているのに、今の姿は年相応に見えたもので」
うぐ、年相応……そうだ今のオレの見た目は14歳のうら若き乙女。
ホントに14歳なら普通かもしれないが、中身はどうあがいても30手前のおっさんである。
これは自重せねば。
体のうずうずを必死で押さえようと頑張る。
「(でも見たことない物ばかりだしなぁ)」
するとずっと黙っていたラムダさんが急に咳払いする。
「ごほん。お嬢様。本日のご予定は特にないようですし、色々回って行かれてはいかがでしょうか? ひょっとするとクローディア様の記憶がお戻りになるきっかけとなるかもしれません」
「そうですわね! そうしましょう!」
「いいの?」
願ってもない提案だとオレが思っていると、ミラも両手を合わせて頷いている。
ひょっとしてオレの独り言が聞こえたのかと思い、ラムダさんを見ると、無言でダンディスマイルを見せられた。
さすが出来る執事は違うな。惚れてまうやろー!
「それでは参りましょう!」
ミラに腕を組まれ、引っ張れるようにオレは町の喧噪の中に飛び込んでいった。
――――――
町探索を満喫したオレたちはベンチのある公園でアイスを食べていた。
途中寄った雑貨屋で怪しげな壺と宝石を買わされたり、酒場のウェイトレスにスカウトされそうになったり、眼がやばい男の人にどこかへ連れて行かれそうになったりしたが、とても充実した内容だった。
「……それにしてもいいのかな? こんなに貰っちゃって?」
振り返ったオレの背後には山のように積まれたアイテムがある。
ミラと一緒に町を探索していると、町ゆく人々すべてから声をかけられるのだ。
『あら、ミラ様こんにちは。なんだい今日は可愛らしいお嬢ちゃんを連れてるね。よし、このパンはサービスだ! 持っていきな!』
とか
『らっしゃい! っとなんだミラちゃんじゃねえか! 今日はえらいべっぴんさんを連れてるじゃねぇか! そうだ待ってな、今日はいいヤモ肉が入ったんだ! 領主様に持ってってくれや!』
とか
『みらさまー、きょうはあそんでくれないのー? あー! そっちのおねえちゃんはだぁれー?』
とか。
なんか物をくれる人も多く、気づけばアイテムの山である。
それをラムダさんが軽々持ち歩いているのにも驚いたが、それ以上にミラの人気のすごさである。
ちょっとした町のアイドルだ。
「ミラって町のみんなから慕われてるんだね」
「私なんて……全部お父様のおかげですわ」
そう微笑むミラだったが、それだけではないだろう。
確かに、チェスターさんがいい領主だからと言うのもあるかもしれないが、それだけだったらあんな風に子ども達が笑顔で寄ってくるわけがない。
まぁ、あんまり言ってもミラが照れるだけっぽいし、これ以上は言わぬが花というやつだろう。
「でも、なんでかな。なんか引っかかるような……」
町の人は皆、ミラを見て笑顔で話しかけている。
ミラも町の人と楽しそうに話しているように見える。
だが、ところどころで言葉が詰まり、何かオレに隠している様な、オレを気遣っている様な雰囲気を纏っていたのだ。
「どこかお調子が悪いのですか?」
少し険しい顔になっていたらしいオレをミラが心配そうに覗き込んでくる。
「ううん、大丈夫」
オレは残ったアイスを一口で食べると、ラムダさんに笑って答える。
今はきっと聞くべきじゃない、そんな気がした。
「それでは、そろそろ服屋へ参りましょうか?」
ラムダさんがたくさんの荷物をひょい、と抱えて言う。
相変わらず出来る執事だ。
同じくアイスを食べ終わったミラに先導されて服屋へと向かった。
「……ここ?」
「はい、ここですわ」
豪華なディスプレイ、荘厳な店構え、この世界の言葉で出会いを意味する〝ラ・デュール〟と書かれた歴史を感じる看板。
うん、すごく場違いなオレ。
店違いかと思って周りを見てみるが他に服屋は見当たらない。
「本当にここ?」
「はい♪」
「チェンジで」
「何をおっしゃているんですかクロ様。この街に服屋はここしかありませんわよ?」
「……え?」
この世界における衣服事情だが、そんなに進んでいる訳ではない。
大量生産、大量販売なんて出来ないからごく一般的な家庭で衣服は1点もの、しかもお下がりだとか破れた服を何度も縫い直して着ているような状況だ。
新品の服を買うなんてよっぽど家が裕福か、それでなければ誕生日や成人式などの特別な時ぐらいなのだそうだ。
ゆえにこの世界における〝服屋〟というのはオーダーメイド専門店を指すのだ。
「特にこのお店は知る人ぞ知る名店でして、わざわざ別の領地から服を注文しに来る方もおられるんですよ!」
「えっと、ワタシが想像していたのはこういうおっしゃれーなお店の服じゃなくて……なんていうか【ぬののふく】的な?」
「装備品ですか? でしたら武具屋か雑貨屋に……」
盲点だった!
というかゲームとかでも【ぬののふく】や【たびびとのふく】は武具屋に売ってたじゃないか!
「よし、じゃあもどろ――」
「せっかくここまで来たのだから見て行きましょう」
回れ右をしたオレの首根っこがミラにがっしりと掴まれ、そのまま店内へ引きずられていく。
何故だ、何故女子はこういうときだけ驚異の行動力を発揮するのだ。
ラムダさんはお店の外で待つらしく、乗り気でないオレの心情を察してか憐憫の表情を浮かべていた。
―――――
「うぅぅ……もうおよめにいけない……」
店内に入るとオレを見てやたらテンションの上がった店員のお姉さんに服をひっぺがされ(サイズを計るため)、もみくちゃに(採寸)され、(着せ替え人形のように)弄ばれた。
こわい、女の人こわい。
採寸後やたら気合の入った店員さんが、
『最高の服に仕上げるわ! お代? そんなもんむしろこっちが払いたいくらいよ、げへへ。期日はそうね、3日いえ2日で仕上げてみせるわ! よっしゃみぃなぎってキタぁー!』
と鼻息荒げに燃えていた。
修羅のような手さばきで作業をする姿を見て、オレは戦慄すら覚えた。
結局、服は後日取りに来ることになり、代わりになぜか下着を何着か買わさせられた。
色? 白だよ純白だよ真っ白だよ!
柄? ふりふりのレースだよチクショウ笑えばいいだろ!
―――――
帰りに武具屋に寄ると〝ぬののふく,3メニエニ〟と書かれていたので5着買ったら親父さんがサービスでと髪をまとめるリボンもくれた。
大量のぬののふくの使い道を聞かれたので、縫い直して使うと言ったら女将さんが留め具用のボタンや針と糸も格安で譲ってくれた。
武具屋のご夫婦の人の良さに泣けてきた。
ちなみにやたらテンションの高かった店員さんはお店の店主さんでとてもお若いです。一昔前には冒険者として自ら世界中を飛び回って素材を採集したり、ラムダさんやチェスターさんと一緒に戦場で名を馳せたりしました。二つ名は『亡骸の仕立て屋』とかなんとか。気に入った相手の服しか作らず、お店自体半分趣味でやっている様なものです。という裏設定があったりしますが、後々出てくるかわからないのでさらっと、書いときます。
一応次回更新は日曜日くらい? を予定しております。
ご意見ご感想、質問誤字脱字報告評価などなど、ございましたらお気軽にお願いいたします。でわでわー!




