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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-41『皇都出発』

さて、それでは第2章の最終話となりますが、最終話にして新たな登場人物が出たりします。

 黒猫院の執務室で書類の束を渡しながら、オレは目の前の青年に頭を下げる。


「――という感じで、お願いします」

「はい、お任せください!」


 青年の名はダイサン。

 爽やかイケメン風の見た目通りの好青年で、リーフィさんの指示でシェラ商会から派遣されてきたやり手の商人でもあるというほとんど非の打ち所のない人間だった。

 ただ一つ難点があるとすれば……


「このダイサン、クローディア殿がいない間の門外街を見事に守り抜いて見せますとも!」

「おー! やる気十分ですね!」

「当然です! クローディア殿はリーフィ様のご友人、その頼みともなれば気合いが入るというものです


! そうすればリーフィ様もきっと…………ぐへへへ♪」


 事がリーフィさんにまで及ぶと、なんていうかこう……きもちわr、ごほん。

 もとい正気を失うと言うことだろうか?

 悪い人ではないんだよ?

 ただちょっと、そのきもちわr……残念なだけで。


「……ホントに好きなんですね。リーフィさんの事」

「現在25戦25敗中です!」

「な、なんの勝敗デスカ?」

「僕が求婚して、断られた回数です!」

「あぁ……」


 ……強者(もさ)だ!

 この人かなりの強者だよ!


「えっと、く……リーフィさんの性別の事はご存じなんですよね……?」

「当然です! 出身地、誕生日、好きな男性のタイプからスリーサイズまで、リーフィ様のことで知らない事なんてほとんどありませんよ!」

「そ、ソウデスカ」


 むしろ最後の方は知っている方が驚きなんですが。


「……あ! 入浴時にまずどこから身体を洗われるのかは知らないですね!」

「ソウデスカ(遠い目)」


 うん、もし知っていたらオレは全力でこの人を追い返していたはずだ。

 リーフィさんがこのヒト寄越したのって、厄介払いとかじゃないよね?


「リーフィ様の性別も当然知っています。ですがそんなのは些末なことです!」

「ソウデスカー(遠い目)」

「クローディア様もご存じでしょう? あのお方の美しさ、尊さ、そして気高さ! あの私を見る時のゴミを見るような視線を思い出すだけでもう! ……ぐへへへへへ♪」


 正直聞かなきゃよかったと後悔している。

 っていうか求婚を断られている理由って性別以前にこのきもちわr……いや、人の恋愛に口出すのはよそう。

 馬に蹴られて死にたくはないからね。


「が、がんばってください……」

「はい! 式の際には必ずご招待いたします!」

「……式に黒い服を着て行かなくていいように願っています」

「はい? クローディア様なら黒いドレスもお似合いか思いますが?」

「……いえ、式違いでした」


 式は式でもお葬式じゃない事を祈っています。  


「ごほん。それで話を戻しますが、もし何かあったらこの〝信口路珠(シンクロだま)〟で連絡をください。多分、ある程度距離はあっても使えるはずなので」

「はい!」


――説明しよう!(これ結構久しぶりだなぁ)

 〝信口路珠(シンクロだま)〟とは、[シンクロニティ]の魔術を込めた魔封珠である!


「そのまんまやん! というツッコミは受け付けません」

「誰におっしゃってるんですか?」

「ごほん。使い方は大丈夫ですよね?」

「はい。珠に魔力を注ぎながら別の信口路珠……たしか番号がふってあるんですよね?」

「はい。一応5つあるので、それぞれ1号、2号、V3、4号、(ビクトリー)、ですね」

「その番号をイメージしながら魔力を注ぎ込むと、イメージした珠へ通信できる、ですよね?」

「はい。何か質問はありますか?」

「なぜ1号、2号と来てなぜVす……」

「伝統です」

「ではどうして5号ではなく……」

「魂です!」

「……よく分かりませんが、分かりました」


 番号の呼び方はさておいて、使い方は大丈夫みたいだな。

 ダイサンさんにはオレがいない間の代表代行も務めてもらうつもりだし、何かと連絡する機会は増えるだろう。

 連絡のたびにミニパトを使っていたら、労働基準法(動物愛護法?)違反で訴えられるかもしれないもんね。


「それにしても、やはりクローディア殿はただ者ではありませんね。このような物をいともたやすく作ってしまわれるなんて……」

「たまたま、ホントたまたま作り方を知っていたからだったんですけどね?」

「たしかギルドの宝珠を参考にされたとか? あれは古代に()の魔導師によって与えられたと聞いていたのですが」

「考古学者なのでその辺の知識はあるんですよ。考古学者ですから!」

「な、なるほど」


 ごめんなさい、真っ赤な嘘です。

 実はミケさんが出張冒険者登録に来てくださっていた時に持ってきた宝珠を、なんの気なしに[アナライズ]しただけなんです。

 そうしたらなんとびっくり、


【ギルド・ストーン:

 高ランク魔物の魔核を加工して作られたアイテム。[サーチ:チェックの上位版でアナライズの劣化版][シンクロニティ][コピペ:思念を物体に転写する魔術]などが複合的に込められている汎用魔術アイテム。クロード=ヴァン=ジョーカーが制作した秘宝の一つで、再現は不可能と言われている】


 作ったのクロードかい!

 きっとギルドのシステムを機能させるためにクロード(ことティー様)が作って与えたんだろうけど。


「仕組みが分かれば何のことはないんですよ。基本構造は魔封珠と一緒ですから」


 おそらく通信機能は[シンクロニティ]が使われているんだろうと目星をつけ、つい最近手に入った魔核(ゴブリンピエロ×4、オーク・イーターなどの戦利品)で作ってみたのだ。

 効果範囲は実験(ミニパトに持たせてどの程度通信ができるか試してみた)からほぼ無制限とわかった。

 久しぶりにメイジン村の人とかスーサの人とかと話せてちょっと嬉しかった。


「ただ、魔素を介して通信する仕組みなので魔素が少ない場所だとうまく機能しなかったり通信が乱れたりするかもです」

「ということは、魔素が全くない場所や何か壁のような物で魔素のつながりが完全に遮断されたりすると通じない可能性も?」

「ですね。あとは相手が出られなかったらアウトですし……改善の余地はありそうですね」

「なんにせよ、すごい物だという事は理解しました」

「はい、かなりすごい物なのでどうかこの事はご内密に」

「御意に」


 本当なら大々的に発表すれば技術の進歩に繋がるのかもしれないけど、今現在コレを作れるのはオレだけだ。

 技術を欲しがる怪しい連中とかに目をつけられたら危ないもんね。

 その辺はリーフィさんも分かってくれてるみたいだから、〝まだ〟詳しい事は聞かないでいてくれるとの事。

 ……着実にリーフィさんへの借りが増えて言ってる気がするなぁ。

 あとでどんな請求をされたものか……考えただけでもおそろしいな。


「さってと、これで一通りの業務連絡は終了かな? すいません、こんな夜更けまでお付き合いいただいちゃって」

「お気になさらないでください」


 時刻は既に深夜。

 出立が決まってからすぐに準備を始めたのだけど、色々引き継ぎとかをしていたらもうこんな時間になってしまった。


「クローディア殿がお忙しい方だというのはリーフィ様から伺っております。なんでも今回は北大陸の調査に向かわれるとか?」

「そ、その情報はどこから?」

「エミリー殿です。なんでも、ホッカイドなる遺跡を探されるとか?」

「エミリーめ……!」


 この大陸は出るつもりではあったけど、まさか本当に北へ行くわけではなかったんだが……


「いや、じつはまだ北大陸と決めたわけで――」 

「北大陸には多くの遺跡迷宮が存在していると聞いています。古い遺跡などを研究されているクローディア殿には垂涎の地でしょうね」

「あ、そうなの?」

「あれ? ご存知でなかったのですか?」

「い、いえ知ってますトモ! アハハ、いやぁ、楽しみだなぁー?」


 そ、そうなんだ。

 オレは[マップ]を広げてみるが、北大陸に遺跡と名の付く地はそんなに多くない気がするが……


「……って、500年前の古地図だからそうに決まってるわ!」

「ひぇ!? は、はい。500年前にあった都市の多くが遺跡になったそうですね。中には〝魔族に滅ぼされた王国跡〟もあるとか……」

「そ、そうですとも! そこが目的地なんです!」

「なんと! 〝シンザニア〟ですか!? それは……やはりクローディア殿は只ならぬお方ですね。僕も調査の成功を祈っています」

「あ、あははー。アリガトウゴザイマス」


 半ば強引に行き先が決まってしまったが、まぁいいだろう。

 皇都を脱出するのは決まってたけど、別に行き先が決まってたわけじゃないし。

 目指すは魔族に滅ぼされた王国跡〝シンザニア遺跡〟だ!


『クーロー! 夜更けにうるさいわよー! もう少し静かにしなさいよー!』


 ドンドン、と執務室のドアが叩かれる。

 オレはドアが粉砕される前に、小さな破壊神を部屋に招き入れた。


「エミリーのノックだって似たようなもんじゃない?」

「しつれーね。そんなに力入れてないわよ。このドアちょっと軟弱なんじゃない?」


 どういう理屈だ、それは。

 部屋に入ってきたエミリーはケリッヒさんも連れていた。


「とりあえず、アタシの担当してた戦闘訓練は〝ケリッヒ〟にお願いすることにしたわ。一番強いし、ギルドランクも高いし、やる気もあるしね」

「うっす……」


 ケリッヒさんは数日前に冒険者登録したばかりだというのに、もうランクDになっている。

 大怪我を負っていた頃から考えれば大変目覚ましい進歩だ。

 他の仲間からの信頼も篤いみたいだし、適任と言えるだろう。

 エミリーにしては悪くない人選だね。


「どうしましたか? 浮かない顔をして?」


 しかしケリッヒさんの表情は暗い。

 プレッシャーを感じているのだろうか?


「なに緊張してんの? 大丈夫よ! 講師なんていっても、ただ魔物殴ってればいいんだから!」

「いや、それは多分違う」

「そうね。あと生徒もぶん殴るわね!」

「うん、それは絶対違う」


 こんなんでよく講師が勤まっていたなぁ。

 

「そういうわけじゃないんす」

「じゃあ、何? 食べ過ぎ? それともお腹減ってんの?」

「エミリーじゃないんだから」

「しつれーね!」

「……ははは。お二人のこういうやりとりが見れなくなるのがちょっと寂しかったんす」


 オレたちは顔を見合わせて笑う。


「なーに辛気くさくなってんのよ!(スッパーン!)」

「あべし!?」

「何も根性「今生ね」の別れってわけじゃないんだから、また帰ってくるわよ!」

「……姐さん。痛いです」


 床に顔をめり込ませながら、ケリッヒさんは言う。

 心なしか、声が上ずっている気がする。

 泣くほど痛かった、ってわけではないだろうね。


「でも、そうだね。エミリーの言うとおりだよ。ワタシたちはちょっと留守にするだけで、必ずまた戻ってきますから」

「クロネコさん……ズビっ!」

「だから、ワタシたちが戻ってくるまで、ここを守っていてくださいね。ケリッヒさん」

「は、はい!」


 ケリッヒさんは立ち上がって胸に手をおく。


「皆さんが戻ってくるまで、いえ戻ってきてからも! オレの命がある限り一生! 黒猫院は、クロネコ


さんの家はオレが守ります! このギルドタグにかけて!」

 

 ケリッヒさんは胸に輝くギルドタグ。

 猫の形をした特注のギルドタグを掲げて、声高々に宣言した。

 ……なんか門外街出身の冒険者の一部でオレが着けている物と同じ猫のタグが流行っているらしい。

 オレをリスペクトしてくれているのかもしれないが、ちょっと複雑な心境である。


「じゃあ、オレは戻ります! お二人とも、お気をつけて! ミラさんやルーさんにもよろしく言っておいてください!」


 ケリッヒさんは僅かな毛髪を誇らしげに風になびかせながら足早に去っていった。

 頼もしい限りじゃないか。

 でも別に一生をかけなくてもいいんだけどなぁ。

 自分の大事な人ができたらその人とか自分の命も大事にしてもらいたいし……ケーンさんとベニィさんたちみたいに?

 

「まぁ、それぐらいここが大事だって思ってくれてることだよね?」

「いや、アイツどう考えてもアンタの事……」

「何? ケリッヒさんがどうかし――」

「おえちゃー!」

「わふーっ!」

「わっぷ!?」


 首を傾げるオレに突撃してきたのはミミちゃんとクロマルだ。

 いつもならもう寝ている時間だろうに、一体どうしたのだろうか?

 しかもよく顔をみれば泣いているじゃないか。


「どうしたの? 怖い夢でも見た? それともあの眼鏡になにか酷い事でも言われたの?」

「だってぇ……えっぐ」

「わふぅん……」

「……ワリィ、クロネコのネーチャン。ミラネーチャンと話してたの聞かれちまって……」

「飛び出していっちゃった、です」

「あのね、おしっこしたくておきたの。そしたらね。おねちゃたちがはなしてたの!」

「申し訳ありません……少し不注意でしたわ」

「おねちゃ! どっかいっちゃうの!?」

「あぁ、そっか」


 申し訳なさそうに話すリュースとセリとミラ。

 ミラにはオレたちが旅立った後の黒猫院運営を二人に頼みに行ってもらっていたのだが……

 そっか、オレたちが旅立つって聞いちゃったか。


「やだよ! おねちゃ、いっちゃやだぁ!」

「お姉ちゃんもね、ホントはミミちゃんを置いては行きたくないよ」

「じゃあいっちゃやだ! おねちゃとせんせとみみとくろまるでずっといっしょにいようよ!」


 やだもうこの子可愛いすぎる!

 別にギースはいらないけど、オレだって出来る事ならずっとこの子のそばで成長を見守っていたい。

 オレはこの子の命に責任を持つって誓ったから。


「でも、ゴメンね。お姉ちゃんがここにいたら、ミミちゃんたちに迷惑をかけるかもしれないんだ」

「そんなことないよ! ずっといっしょにいようよ!」


 オレは静かに首を横に振る。

 オレがザッハークに目をつけられた以上、その毒牙が黒猫院や門外街に伸びないとも限らない。

 いずれ充分に準備を整えて帰ってくるつもりではあるが、しばらくは身を隠そうと思っている。


「でもね、ちょっとだけだから。悪いヤツをぶっとばしたら、すぐに帰ってくるから」

「ほんと?」

「もちろん!」

「やくそく!」

「うん、やくそくだ」


 オレはミミちゃんと小指を繋ぐ。

 オレが教えてあげた、人と人を繋ぐ魔法の呪文。


「ゆーびきりげんまん!」

「――嘘ついたらアース・ニードル千本飲ーます!」

「「指切った!」」

「わふっ♪」


 オレはミミちゃんとクロマルを抱きしめて微笑む。


「じゃあ、行ってくるね」

「うん、いってらっしゃい」

「わふっ!」


 アース・ニードル千本飲むなんて絶対にゴメンだからね。


「おい、ミミに物騒な呪文を教えるな。ミミの成長に悪影響が出たらどう責任を取ってくれる」

「ほほぉ? なんだかんだ文句言いながらちゃんと保護者してるじゃない? せんせ♪」

「ち、ちが! ミミに何かあったら、貴様の姉からどんな恐ろしい目に合うかわかったもんじゃないから僕はしょうがなくだな!?」


 必死で照れ隠しするツンデレメガネに、オレ以外の面々からも生暖かい視線が送られる。

 

「じゃあ、そういう事にしておくよー(ニヨニヨ)」

「ギースさんも素直じゃないですわね(ニコニコ)」

「ツンデレね! ツンデレだわ!(ビシッ!)」

「エミリーネーチャンがそれ言うか?」

「リュースも人の事言えない、です」


 まったく、どの口がいうんだか。

 ホントにツンデレと言う人種は手間がかかるよね。

 誰かさんもそうだけどさ。


「ぶえっくしょい! ……ずず、風邪でも引いたかしら?」

「んーん、エミ、風邪ひかない」

「まぁそうね。生まれてこの方風邪なんてひいた事ないわね!」

「やっぱり?」


 何とかは風邪ひかないって言うもんね。

 

「……というか、ルーお姉ちゃんも戻ってきてたんですね?」

「ん、説明してきた」


 ぼいーん、と胸を張るルーさんだが、それならどうしてこの眼鏡の男はこんなにうんざりした顔をしているのだろうか?


「あれが説明だって……?」

「……ルーお姉ちゃん。なんて説明を?」

「懇切丁寧に」

「嘘だ! お前、『クロ、旅出る。空気よめ』としか言わなかったじゃないか!?」

「ルーお姉ちゃん?」

「一部割愛。時間の都合?」

「割愛ってレベルじゃないですから!」


 しょうがないのでオレは改めてギースに説明する事となった。

 教会の暗部とか込み入った話になるので、ダイサンさんやリュース、セリには先に帰ってもらった。

 ミミちゃんは残ると言って聞かなかったが、まぁ難しい事はわからないだろうから別に問題はないだろう。


「――というわけで、事態が落ち着くまでしばらく皇都を離れようと」

「……ザッハークがレイリア様を、か。にわかには信じがたいが、禁術の事もある。信じる他ないのだろうな」

「やけに物分かりがいいじゃない? てっきり『ありえん!』って言われるかと思ってた」


 あの口を開けば文句や嫌みのでてくるツンデレメガネ君にしてはやけに聞き分けがいい。


「世界には僕の理解が追い付かないような話が存在すると理解しただけだ」

「それは結構」


 教会にいた時の石頭具合からすれば随分柔らかくなったじゃないか。

 少しづつだけど、ギースも変わってきているって事だろう。

 

「それに、前に禁術の出所に関する噂についてお前に話したことがあっただろう?」

「教えてくれなかったけどね」

「ぐっ、意外に根に持つ奴だな。不確かな情報だから取引には使えなかったと言っているだろう!?」

「で、それが今更なんだって?」

「…………あの術は旅の考古学者からザッハーク殿が入手し、レイリア様に寄進したという噂があった」

「それはまた……」

「あくまで、噂だと思っていたが……」


 ビンゴ。

 噂どころか、ほぼ間違いなくそれが真実だろう。


「その考古学者について他に情報は?」

「ない。だから僕も噂を知っている程度だと言っているだろうが!」

「ちっ、使えない眼鏡だ」

「本当にお前ら姉妹は人の神経を逆撫でする天才だな!?」

「いやぁどうもどうも♪」

「褒めていない! いいかミミ。お前はあんな風になるんじゃないぞ?」

「あんなふー?」

「そうだ、ああいうのを悪女と言うんだ」

「あくじょー?」

「ぐふっ!?」


 ミミちゃんは絶対意味を理解していないだろう。

 だが純粋な幼女からそんな言葉を言われ、オレのガラスのハートはブロークン寸前だ。


「ミミちゃんに何言わせてるんだこの鬼畜メガネ!」

「ふん! 僕が鬼畜だったら、人に面倒事を押し付けるだけ押し付けて顔一つ見せもしないお前の姉はどうなる!? 鬼畜どころか悪魔じゃないか!」

「なんだと器の小さい眼鏡だな! 何度も相談に乗ってやったり、飯奢ってやったりしただろうがこの恩知らず!」

「ふざけるな! 誰が貴様に相談などするか! 飯だって一度しか奢られていない!」

「そんなわけあ……れ? そうだっけ?」


 オレの記憶の片隅にぼんやりと、誰かに飯を奢ってやった記憶があるのだが? 


『オレ一生ついてきます!』

『寄るな馬鹿野郎!』



 ……こんな殊勝なセリフをこのツンデレメガネが言う訳ないか。

 あっれー? おかしいなぁ……じゃあ誰に言ったんだっけ?


「むむむむむ……?」

「なんだ真面目な顔をして似合わない。便秘か?」

「そう言う事は女性に言わないの。モテないよ?」

「なっ!? うるさい! 別に貴様にモテようなどとは思っていない!」

「そりゃありがたい」


 うーん、ダメだ。思い出せない。

 結構仲が良かった人だった気もするんだけど……まぁ、思い出せないならしょうがないか。

 案外、どうでもいい会話だったのかもしれないしね。

「……くそっ! 気分が悪い! もう帰らせてもらうぞ!」

「かえれかえれー。あ、ミミちゃん、またねー♪ クロマルも!」

「またねー♪」

「わふー♪」


 もうしばらく会えないので少し名残惜しい気もするが、まったく会えない訳じゃない。

 元気に戻ってこれるよう頑張ってきますか。


「そうだ」

「……まだ何かあるのかね?」

「何だその喋り方は……お前の姉にもたまには帰ってくるよう言っておけ。ミミが会いたがっている」


 若干頬を染めながらそんな事を言いやがるギース。

 背筋が少しぞわり、とした。

 え、ちょっと待って。

 ななななな、なにかなその反応は!?


「べ、別に僕は会いたいとも思わないんだが、ミミが目を治してくれた礼を改めてしたいと……」

「どうしてー? おねちゃなら、そこにいるよー?」

「え゛?」

「いや、あっちのちんちくりんな方ではなくだな。お前の目を治した……」

「えー? おねちゃでしょ?」

「見間違えたんだろう。あの時は目が治ったばかりだったし、辺りも暗かったしな」

「えー? ちがうよー! あれはおねちゃだったよー!」


 ま、まさかとは思うけど、ミミちゃん。

 あっちの姿もオレだって気づいてる?


「よ、幼女おそるべし……!」

「そうではなくて……」

「ふあぁぁぁぁぁ…………」


 ミミちゃんが大きな欠伸をする。

 気づけばもうすっかり夜更け、子どもが寝る時間はとっくに過ぎていた。


「あぁ、もうこんな時間か。ミミ、帰って早く寝よう」

「えぁ? ミミ、まだ眠くないよぉ……?」

「……はぁ。早く寝ないと、お前の大好きなお姉ちゃんみたいになれないぞ?」

「せんせ! 早くかえろう!」


 目をぱちくりさせてその場で駆け足を始めるミミちゃん。

 今のでまた完全に目が覚めちゃったんじゃないだろうか?

 まぁ、可愛いから何も問題はないけどね!


「あはは♪ じゃあおやすみ、ミミちゃん」

「おねちゃ、おやすみなさーい!」

「わふぅ……Zzzzzz」

「……気をつけろよ」

「そっちも。ミミちゃんは頼んだよ」


 ミミちゃんの教育方針にはオレも色々言いたいことがあるが、まぁ当分は任せて大丈夫だろう。

 散々親馬鹿っぷりを見せてもらったしね。


「言われるまでもない。ミミは僕が立派に育ててみせる」

「ミミねー。おっきくなったら、おねちゃみたいな〝あくじょ〟になるんだー♪」

「「それは絶対にダメ!」」

「わふぅ?」

 

 だ、大丈夫だよね?

 ……うん、小まめに連絡を取るようにしよう。


「一気に静かになったわね」


 みんなが帰って、部屋に残ったのはオレたち4人だけ。

 もう前みたいに『ホントに一緒に行くの?』なんて野暮な事は聞かない。

 だって、オレたちは仲間だもんね。


「そうですわね。賑やかな方ばかりですから」

「ん、おめでたい連中」

「お姉さま、その言い方はちょっと毒が……」

「ん、じゃあ。変わり者?」

「ルーお姉ちゃんが言いますか?」

「バカばっかよね! 良い意味で」

「エミリーに言われたくはないけど……そだね。それが一番しっくりくるかも」


 バカみたいに笑い合える仲間たち。

 最高の褒め言葉じゃないか。


「……名残惜しくなっちゃうし、そろそろ行きますか」

「はい。行き先はお決まりですか?」

「んーと、北大陸に決まってしまいました」

「煮えきらない言い方ねー」

「誰のせいだ誰の」

「何よ。アタシのせいだっての?」


 おおよそエミリーのせいだよ。


「でもまぁ、いいわ。目指すはホッカイドね!」

「違うよ!?」


 まだ言ってるよこの胃袋娘!?


「北大陸と言えば、遺跡が多い事でも有名ですわね」

「さっすがミラ! そうです、そっちがメインですから!」

「北の遺跡、魔術遺産ある」

「魔術遺産!? すごくロマン心がくすぐられるワードですね!」


 魔術って頭に付く辺りにそこはかとない中二臭がしてクロードの影に不安を覚えるが、遺跡にある遺産とか超男のロマンじゃない?

 きっとこう、魔力で動く人型巨大ロボとか、意思を持って言葉を喋る伝説の剣とか、そういうのに違いない!

 やばい、超楽しみになって来た!


「ロマンと言えば、そういやアタシもお母さんのマロンケーキが恋しくなってきたわね……一回家に帰ってみようかしら?」

「そういや家出中だったよ、この娘! って帰る理由がケーキかい!」

「魔術遺産、ふふふ。俄然興味……ふふふふふふふふふふふふふ♪」

「る、ルーお姉ちゃんがあんなに笑顔に!?」

「く、クロさん。気をつけてください。この顔、ゴブリンピエロを蹂躙していた時と同じ笑顔ですわ……!」

「蹂躙!? そういやリーフィさんに写真見せられただけでちゃんと聞いてなかったけど、ワタシがいない間に何があったの!?」

「あ、アタシは耳としっぽが生えたわ」

「どーいうこと!?」

「そんなのアタシの方が聞きたいわよ! クロ、アンタアタシに何したのよ」

「待って! その言い方はものすごく誤解が……!?」

「……クロさん」


 オレの後ろで、ミラの冷たい声が響く。

 冷や汗が、止まらない。


「みみみみミラさん? ちょっと落ち着いて……」

「エミリーちゃんに何をしたのか、詳しく私も聞きたいですわ(ニコリ)」

「目が恐いよ!? まずは落ち着いてお話をしよう……」

「クロさん?」

「……正座ですか?」

「はい」

「……あい」


 大人しく正座するオレにお説教するミラ。

 それを指さして笑っているエミリーに、我関せずを貫くルーさん。

 いつも通りの、変わらない仲間たち。

 皆でならどこへだって行けるし、どんな奴にだって負けない。

 絶対に。


「ふふふ♪」

「クロさん。お話はまだ終わっていませんよ? 何がおかしいんですか?」

「いや、あの……だから誤解ですと」

「クロさん?」

「ですからその……」

「ク・ロ・さん?」

「……あい」


 とりあえず、まずは出発の前に誤解を解くのが先みたいだ。


――誤解が解けた頃にはもうすっかり朝になっていた。

 結局出発は昼まで延期、軽くひと眠りしてバートンの泊まり木で遅い朝食を取ってから行くことなった。

 ティムには『なんでいんのよ?』と言われた。ごもっともである。

 まったく相も変わらずぐだぐだなパーティである。

 ともかく、目的地は決まった。

 次なる目的地は北大陸。

 待ってろよ、魔術遺産の眠る遺跡とやらめ!

はい。出発……しませんでした。

いつものクロたちですね。

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