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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
101/104

黒の系譜02-40『王城招聘』

 黒猫院への来訪者。

 御大層な鎧に身を包み込んだ皇国騎士団の男に連れられて、オレたちはお城へとやってきていた。


「いいか、この先に王がおられる。失礼のないようにな。イテテテ……」


 締まりのない顔で腰をさすっているこの男。

 あの北の平原の戦いの時、義勇軍の後ろでこそこそ隠れていた情けない指揮官だった。

 そして、


「大丈夫?」

「ヒィッ!? だだだだいじょうぶだからそれ以上近づくな!」

「ねぇ、クロ。コイツムカつくから殴ってもいい?」

「だだだだ駄目に決まってるだろうが! わわわ私を誰と心得る!」

「キューシン男」

「違う! 一級市民様だ!」


 はい、そうです。

 以前ミラたちが貴族街であったという皇国騎士団の男だったんですねぇ。

 世間は狭いですねぇ。


「わわわ私に何かあれば貴様! 私は誇り高き皇国騎士団の団長様だぞ!? どうなるか分かっているのか!?」

「へぇ……どうなるのかしら? 試してみ――」

「ヒィッ!? やめぶぶぶぶぶぶぶぶぶ……………………」

「あら?」


 エミリーが拳を構えると男は、誇り高い騎士様は口から泡を吹きながら白目を向いて気絶した。

 どうやらぶっ飛ばされた事は覚えているみたいだけど、本能的恐怖からエミリーに手出しができないらしい。

 つまりこのヒトの中でエミリーはゴブリンよりも恐ろしい相手と格付けされたってことだね。

 よかったね、エミリー! 


「ふん! なっさけない男ね!」

「しょうがないよ、だってエミリーだもん」

「どういう意味よ!?」


 とはいえ、このままここに寝かしておくと邪魔だ。

 今日は通路隅に捨てておくわけにもいかないし、さっさと起きて(物理)もらおう。


「さっさと起きろっゴクツブシ!」


 オレは思いっきり腰を蹴り上げて男の覚醒を促しつつ、こっそり回復魔術で体力も回復する。

 出来る男は証拠を残さないのだよ。


「いったぁ!? ……くない? というより、どうして私は眠っていたんだ?」

「さぁ? ヒューヒュー」


 オレは素知らぬ顔で口笛を吹いた。


「それになぜだろう? なぜか腰の辺りに違和感があるのだが……?」

「気のせいじゃない?」

「キノセイデス」

「ですわね」

  

 蹴って起こす必要性があるのかって?

 え、だってコイツがミラに失礼な態度とった奴なんでしょ? あとエミリーにも。

 だったら蹴りの一発や二発入れておかないと気が済まないでしょ。


「そそそそうかわかったから近づくな! ご、ごほん! それで、準備はいいのか?」

「準備っても、ねぇ?」

「エミリーちゃんもクロさんも、やはりそのままですか?」

「もっちろん!」

「あったりまえよ!」


 ミラは一応領主の娘という立場があるのでドレスで正装しているが、オレもエミリーもいつも通りの冒険者ルックのまま。

 だってこれがオレたちの正装みたいなものだし?


「……残念ですわ」

「なぜお悔しそうなのでしょうか? ミラさん」

「…………残念でなりませんわ!」

「どれだけ残念がられても着ない物は着ないの!」

「………………無念ですわ」


 けっして、けっして!

 先日シェラさんから送られてきた純白のレースがたっぷりなフリフリドレスが着たくなかったわけじゃない。

 嘘です。ホントに着たくなかったからです。


「そういやルーミアは?」

「『ん、めんどう』」

「あぁ、オッケ。いつも通りね」

「いつも通りですわね」


 そう、いつも通りだ。

 むしろルーさんが来ると言ったら偽物じゃないかと疑うくらいだ。

 と言う訳で、騒然のようにルーさんは欠席です。もう慣れっこです。

 

「おい、準備が出来ているなら無駄話を控えろ。王がお待ちなんだぞ」

「あん?」

「ヒィッ!?」

「エミリーちゃん、今は押さえてください」

「なるほど、じゃあ後でならいいのね、ミラ?」

「いいいいいい、いいわけあるか!」

「(ニコリ♪)」

「……おい、どうして否定しないんだ?」

「さぁ、参りましょうか。クロさん、エミリーちゃん」

「そだね」

「そーね」

「お、おい!」


 オレたちは笑顔で顔を見合わせる。

 王城だとか、王の御前だとか、そんなの関係ない。

 オレたちはいつも通り、やりたい事を、やるべき事をやるだけさ。

 ゆっくりと、謁見の間への扉が開く。


「ギギギギギギギギギギ」

「クロ、固いわよ」

「ソ、ソンナコトナイヨ」

「クロさん、がちがちですわ」


 『いつも通り』って、言葉以上に難しい事だね。


  

―――――



 正直、緊張して損した。


「よくぞ参った。クロネコ。ちんも嬉しいぞ!」

「は、はぁ……」


 王の間へ通されたオレたちが(こうべ)を垂れている人物。


「ふふーん♪」


 皇都のトップ、ラック=ボン2世はどうみてもお子ちゃまだった。

 いやたしか9歳だって話は前に聞いてたし、9歳にしちゃちょっと太りすぎな感じはあるけど。

 でもやっぱり、オレよりも小さい(年齢的に)子が王冠かぶって玉座に座っているのは違和感がハンパない。

 どう頑張っても、子供が王様ごっこをしているようにしか見えない。

 いや、


「……で、よいのだな? ザッハーク?」

「これはこれは、余りに素晴らしきお言葉に、このザッハーク感動に打ち震えております」

「そ、そうであるか? よきにはからえ♪」

「ははぁ……!」


 『王様ごっこ』というのもあながち間違っていないのかもしれないな。

 だって、さっきからずっとこの調子なのだ。

 何かあればすぐに『ザッハーク、ザッハーク』とザッハークに意見を求める。

 恐らく彼はザッハークが用意した台本通りに喋っているだけなんだろう。

 これじゃどっちが国王なのかなんて分かったもんじゃない。


「では、こたびのショウシュー? は……えっと…………ザッハーク!」

「はっ! 今度(こたび)は先の戦にて多大な功労を上げたクロネコ殿に褒賞を与える為の物である! ですな? 陛下?」

「う、うむ! ザッハークの言うとおりである!」


 王の言葉に王座の間が盛大な拍手に包まれる。

 見せかけだけど。

 

「(ふん! 何故ここに獣人などがいるのだ!)」

「(まったくだ。ザッハーク殿は何をお考えなのだ!)」


 やっぱり、〝獣人=奴隷〟ぐらいにしか考えていないようなクソッたれな連中にしてみれば、見た目獣人のオレがこの場にいるだけで不愉快らしい。

 ま、それはこっちも同じなのでお相子にしておいてあげるよ、ぐるぐるメガネの文官さん。


「(獣人もそうだが、何だその飼い主も。着飾ってはいるがただの小娘ではないか)」

「(あのメス猫の格好を見てください。あんなに肌を出して……はしたない。獣人のメスなどただの淫売でしょうに)」

「(あぁ、きっとペットともどもどこぞの娼婦でもやって金を稼いでいるのだろう。でなければ、あれだけの人間を動かせるような金を工面できるはずもない)」

「(あぁ汚らわしい! 早くここから、いえ皇都から消え去ってくれないかしら? オホホホホホホ!)」


 というより、オレは〝耳が良い〟ので、さっきから全部筒抜けなんだけどね。

 とりあえず赤い軍服を着た禿親父と、その斜め後ろのケバいオバさん。

 お前等の顔は覚えたぞ。

 

「めっそーもありませんー。ワタクシごときー矮小な者に褒賞など過ぎたものですー」

「謙遜されるな。貴公の働きがなければ、この皇都までどれだけの被害がでていたか分からぬ。それこそ、皇国移都以来の大災害となっていたやもしれぬ」

「うむ! ザッハークの言うとおりだ!」

「そんなー。皇都には皇国騎士団の方々もいましたからー、我々は少し力を貸しただけにすぎませんよ-」

「(クロさん。少し棒読みすぎませんか?)」

「(しょうがないよ。建前だもん)」


 まぁでも?

 埃っぽい皇国騎士団の連中様が囁かな本気を出してれば、皇都壊滅くらいで済んだんじゃないかな?

 多分ゴブリンキングはザッハークさんが何とかしたでしょうし? 


「だとしても、だ。貴公らの働きには陛下もいたく感動されている。そうですな、陛下」

「うむ! ザッハークの言うとおりだ!」

「ほ、ホントですかー? いやぁ、それは良かった!」


 危ない危ない。

 思わず『ホントかおい?』ってツッコミそうになっちゃったよ。

 ってか、この国王さま、さっきから『ザッハークの言うとおりだ!』しか言ってないけど大丈夫なの?

 もうその辺隠すつもりもないのか。


「そこで、貴公には褒美として『爵位』を与えようと思う」


 ザッハークの言葉に周囲がざわめく。

 中にははっきりと『獣人ごときに正気ですか!』と叫んでいる者までいる。

 それを手で制して、ザッハークはオレに問う。


「どうであろうか?」


 と。

 にんまりと口角を吊り上げちゃってまぁ、悪い顔をしていやがるなぁ。

 どうも何も、答えなんて決まりきっている。


「それは大変栄誉あるお言葉、恐悦至極でありますー」

「では?」

「――が、謹んで辞退申し上げます」


 再びざわめく周囲。

 さきほど野次をとばしてた男が今度は『獣人のくせに生意気な!』と言っている。

 じゃあお前はどうしてほしいんだ。

 ちょっと黙っていてほしい。


「理由を、聞こうか?」

「理由は簡単です。ワタシはクロネコだからです」

「いや、それは知っているぞ?」

「陛下」

「す、すまぬザッハーク」


 宰相に起こられる国王ってどうなんだろうか?

 だが、国王の疑問はこの場にいる全員の総意であることは間違いないだろう。


「愚鈍な私にも分かるよう、もう少し分かりやすくいって頂きたいな」

「そうですね。ワタシは〝門外街のクロネコ〟なんです。自由な門外街が好きなんです。だから言葉は悪いですが、爵位なんてものに全く興味はありませんし欲しいとも思わないんです。だから辞退します。いいえ、そんなくだらないモノ要りません。のーせんきゅーです」


 一瞬、静まり返った謁見の間はすぐに騒がしくなる。

 もう3度目になるざわめき。

 いい加減もう聞き飽きてきた。


「貴様! 獣人の分際で口がすぎるぞ!」

「ザッハーク殿! やはりこのような無礼者は城へ入れるべきではなかったのだ!」

「衛兵! 早くこのメス猫を外へ摘まみ出し――」


 口々に喚きたてる無能な貴族たちを、ザッハークは制する。


「よい」

「しかし――」

「続けていただけるかな? 門外街のクロネコ殿」

「仰せのままにー」


 オレは禿親父へふふんと、勝ち誇った笑みを見せてやる。

 悔しそに歪んだしわくちゃの表情が実に愉快だ。

 許しも出たのでオレは続ける。

 

「それにあの戦い、ワタシ一人の力ではどうにもなりませんでした。仲間たちがいたから、戦うことが出来たし、勝利することも出来ました」


 オレはミラとエミリーを見る。

 微笑み返してくれるミラと、俯いたままうんうん頷くエミリー。

 

「そこに控えている者たちだな? よろしい。ならばその者たちにも同様の爵位を……」

「いえ。彼らだけではありません」

「なんだと?」


 そう、オレたちだけじゃない。


「門外街のたくさんの仲間たちです。ケリッヒさん、ケーンさん、ベニィさんにブーモさん、ヤガーさん、スカーさん……他にもたくさんの人たちが、街を守るために一緒に戦ってくれました」

「それは、確かに報告は受けているが」

「彼ら全員に爵位を与えてくれますか? 無理でしょう? だってそんなことしたら、ただでさえ狭っ苦しい貴族街がパンクしちゃいますもんね?」


 オレは笑う。

 まぁ、ぶっちゃけ最初からもらうつもりもないし、門外街の彼らだってきっと笑い飛ばすだろう。


『『『『爵位? それより酒をくれ!』』』』


 とね。


『そ、それより罵倒してください……!』


 お前は黙ってろ!


「――では問おう。貴公は何を望む?」


 ザッハークが探るようにオレを見る。

 とても国の功労者を称える顔じゃないって。本心から称えようとは思ってないだろうけど、もう少し演技ってもんを学んだ方がいいんじゃないかな?


「ワタシが望むものですか……そうですね」

「富か、名誉か、武力か?」



――ずっと考えていた。

 わざわざスーサまで聖女を探しに行かせるような連中が、皇都を守った英雄を放っておくわけがない。

 必ず手を出してくるだろうって。

 何かしら恩を売って、自分たちの都合のいい駒として仕立てようとするだろうって。

 

「何でも望むものを与えよう。貴公が望むものはなんだ?」


 もしそう聞かれたら、なんて答えるか。

 オレはニヤリ、と笑う。


「門外街の自治権を認めていただきたく思います」


 今まで一番のざわめきが謁見の間に轟く。

 そりゃそうだ。

 いくら門の外とはいえ、『独立させろ』と言っているような物なのだから。

 実際は全然違うんだけどね。


「馬鹿を言うな!」

「こ、この無礼者め!」

「しょせんは獣人! 分をわきまえなさい!」

「ザッハーク殿! 聞くことなどありません!」

「そんなことすれば例の計画も!」

「Zzzzzzzzzzzzzzz」

「そうです! しょせん獣の遠吠えでございます!」


 おーおー、みんな言いたい放題じゃないか。

 ってか誰だ、今一人寝てる奴がいたぞ?

 あり得ないと口々に叫ぶ中、小さな国王だけは一人首を傾げている。 


「う、うむ? どういうことなのだ。ザッハーク?」

「陛下」

「ち、ちんには別に何が問題なのかわからんぞ? じちけん? とやらを認めてやればいいではな――」

「陛下ぁっ!」

「ひっ!」

「――少し黙っていていただけますか? 今考えております」

「う、うむ…………(ぐずぐず)」


 公衆の面前で国王を叱りつけるとかとんだ臣下もいたもんだよ。

 国王さま泣いちゃったじゃないか、可哀そうに。

 ま、それだけ慎重に考えているってことなんだろうけどさ。

 

(でもご生憎)


 考える余裕なんて与えてやらない。


「何も難しいことを言っているつもりはありませんが?」

「と、申されますと?」

「元々門外街のに暮らす三級市民は納税の義務がなく、皇都の中に暮らすことも許されず、皇都の法でも守られない、そういう存在だったはずです。それと自治とで、そこまで違いが生まれますか?」

「放任と独立では訳が違いますな」

「ど、独立するという話だったのか! いかん、それはさすがにいかんだろう!」

「ごほん。門外街の独立を許せば、他の皇国領に示しがつきませぬ」

「誰も独立するなんて言ってませんよ? 他の領内の街同様、個別の代表を立てて、フィリル・ダリア領の一つの街といて扱って欲しい、というだけです」


 そうするのには当然理由がある。

 農場、牧場、アイテムの生産や販売、治療院に宿屋や居住区。

 今や門外街は一個の経済をなせるだけの場所となりつつある。

 暮らす人々の生活も徐々に豊かになり、少しずつ余裕も生まれてきた。

 そんな今、皇都の連中が突然『皇都の法が変わった、税金を納めろ』とか言い出してきたら?


「まあ、そうなれば皇都の方では守られないでしょうが、〝市民税〟も払わなくていいですよね? 門外街の住人はお貴族様ほど裕福じゃないので、その方が助かりますね」

「ば、馬鹿を申すな! 皇都に守られている以上税金を納めるのは義務であろう!」

「黙れ若は――失礼。お静かに、皇国騎士団長どの。お言葉ですがね、こちとら皇都の民一人守れないような無能な軍隊にだったら、守られなくて結構なんですよ」

「ききききき、貴様! 口が過ぎ――」

「エミ――」

「待て分かった。黙っているから、その女を寄越すのは止めてくれ」


 今まで散々ほったらかしにしておいたくせに、今更税金だの法だのと押し付けられてたまるかっての。

 だったらいっそ、門外街は皇都とは別の自治区にしてしまえばいいと考えたのだ。

  

「それは、だが……」

「ダメならそれでもいいですよ?」


 きっとオレたちを招集するのに時間がかかったのだって、門外街からいかにして税金を搾り取るか算段でもしていたせいだろう。

 だから門外街の自治を絶対しぶるだろうことも分かっている。


「―-ただしそうなった場合、有事の際に門外街の人間が貴方たちの手助けをするとは思わないことです」

「なん、だと?」

「いやぁ、優秀な皇国騎士団の方々の事だ。どんな敵が来ても、勇敢に戦ってくれるんでしょうね?」


 口をつぐんだままのザッハークに変わって喚いたのは皇国騎士団の男だ。

 黙ってるって言ったのに。

 約束が守れない大人にはなりたくないな……いや、オレももう28歳か。


「ぐ……! まさか貴様謀反を起こすつもりか!?」

「そんな気はさらさらありませんよ? ただまぁ、また今回みたいな事が起きた時、我々は自分の身を守るだけで精一杯になるだろうな、ってだけです。皇都は皇国騎士団さんが守ってくれるでしょうから、安心でしょうしね」

「そ、そんなことが認められるか! 皇都の民である以上、皇都の為に戦うのは義務だ!」

「それは横暴です。絶対そんな事ありえないと思いますが、もし万が一にでもそんな事になったら、それこそ我々は自由の為に戦うでしょうね?」


 義務だ何だと喚くなら、それ相応の権利を与えればよかったんだ。

 住む場所を、働く機会を、生きる術を。


「やるべき事を何もしないで、自分たちに都合のいい事ばっかり喚くな阿呆が!」

「ぅぐっ?」


 ……っといけない。少し感情的になりすぎちゃったな。

 散々馬鹿にされて腹を立てているだろうにまったく言い返してくる気配はない。ひょっとしたら少しは自覚はあるって事なのかな? ないか。


「さて」


 黙ってしまった騎士団長どのなんてどうでもいい。

 そもそもオレが話していたのはこの男だ。


「ご返答を。ザッハークどの」

「だが……」


 ここまで言われて、まだ渋るか。

 こちらとしては何としても首を縦に振らせたい、

 だがこちらにその気があると分かると、条件を吊り上げられる可能性も出る。


「――では、今回の話は無かったことにしましょう。せっかくこのような場へお招き頂きましたが、アレは我々が勝手にやったことです。二度目があるか分かりませんしね。だからこちらに利のない褒賞をわざわざ頂く必要はありません」


 ここはあえて、素っ気ない態度を見せてみる。

 押してダメなら、引いてみろってね。


「それでは……行こう、ミラ。エミリー」

「はい」

「Zzzzzzzzzz」


 って、寝てたのはお前か!

 エミリーにしてはやけに静かだと思っていたら……


「……エミリー、起きて!」

「ふがっ!? ……ん、終わったの?」

「ううん、終わってはない」

「そ、じゃあアタシの出番ね。で、ドイツをぶん殴ればいい?」

「ひっ!?」


 ほんとこの脳筋娘ときたら、起きてすぐ殴るって一体どんな夢を見ていたんだろうか。


「ドイツもイギリスも殴らないよ。ほら、帰ろう」

「クロはたまにいみふめーな事言うわね。イギリスってナニよ? 魔獣?」

「いえ、〝イギリス〟という魔獣は聞いたことがありませんわね。リスというくらいだから動物では?」

「イギリスは国名。料理がまずいことで有名」

「げ、そんなとこアタシ絶対行かないわ」


 オレはザッハークをわざと視界にいれないようにしながらそんなしょうもない会話で時間を稼ぐ。


(ほら、早く頷け)


 そんなそぶりはまったく見せないが、オレは内心焦っていた。


「ほら、行くよ。詳しい事は帰ったら教えたげるから」

 

 それでもオレはあえて二人を連れて謁見の間を後にしようとする。

 考えさせるを作らせないためのフェイクなのだが……


「どうせなら美味しいとこの方が良い」

「そうですわね。クロさん、料理の美味しい国はご存じないんですか?」

「そうだねー。国とかではないけど北海ど――」

「ま、待たれよ……!」


 かかった、か?


「…………何か?」

「いや……」


 焦らしてくれる。

 

(早く許可しろ……!)


 ぶっちゃけ、許可されなかったからと言って皇都のピンチに駆けつけないなんて事はない。

 自由権をかけて皇都を相手取るなんて大それた真似もしない。

 だからこの話が流れて困るのはむしろこちらだ。


(何を悩む必要がある……! 早く、早く許可を……!)


 しかしザッハークは未だに決めかねているようだった。

 わざとどうどうと歩き、歩くスピードを緩める牛歩戦術。

 それでも目の前には(おわり)が迫ってきていた。


「(クロさん、まずいですわね)」

「(まずいね)」

「(まずい国はどうでもいいのよ! それよりそのホッカイドとかの詳しい話を……!)」

「(エミリーちょっと黙ってて)」


 扉の前に立つ。

 背中に刺さる無能貴族共の視線は、オレに『帰れ』と言っている。


(さぁ、もう後がないぞ)


 門の前に立ったオレは、最後のわるあがきに振り返ってこれでもかとばかりに優雅に礼をする。


「それでは、皆様――」


 ザッハークは、固唾を飲んでこちらを見ているだけ。


(ダメ、だったか……!)


 仕方がない。

 こうなったら帰って別の作戦を――


「ごきげんよ――」

「ま――」

「ちんが許可する」


 一瞬、誰が喋ったのか分からなかった。


「へ?」


 そんな間抜けな声を出したオレに、


「だから、そのじちけん? を認める。ちんが、このラック=ボン2世が認めると言っているのだ」


 小さな王は自信満々に言った。

 その言葉に驚いたのは他でもない、ザッハークだ。

 完全に計算違いだったのだろう。

 間抜けな顔で口をあんぐり開けている。


「ふふん♪ これでいいのだろう? ザッハーク?」

「っぐ! ……陛下ぁっ!」

「ひ、ひっ!? な、なんで怒っているのだザッハーク? こ奴らは皇都を守った英雄なのだろう? 望むものを与えるぐらいの寛容さを見せなくては、国王失格ではないか?」

「そういう問題ではないっ!」

「ひっ、ゼイキン? とやらをを払わせたくて悩んでいたのではないのか? そ、そんなもの払わなくとも我が国の栄華は変わらぬであろぅ……」


 なんとも検討はずれな理由ではあるが、理由なんてどうでもいい。

 オレははっきり聞いた。

 この国の国王が『認める』と言ったのだ。

 

「国王陛下はこのように申しておりますが?」


 オレはザッハークに勝ち誇ったように笑う。


「くっ……わかりました。陛下からのお許しが出た以上、私から申し上げることは何もありません」

「やだなぁ。はっきり言ってくださいよ。どういう事ですか?」

「門外街の自治を許可すると言っています!」


 やや半ギレ気味のザッハーク。

 感情的になっちゃってやだなぁ、カルシウム足りてる?

 ともあれ、


(やったね♪ 完全勝利♪)


 オレはその場で小躍りしたいくらいの気持ちだった。

 まさかあの子ども王が援護してくれるなんて思いもしなかった。


「陛下、その寛大な御心に感謝します」

「う、うむ……よきにはからえ?」


 怒られたせいで国王はシュンとしてしまっている。

 ちょっと申し訳ない事をしたかな?

 まぁザッハークはあれだけど、この子ども王がピンチになることでもあったら、一回ぐらいは助けてやってもいいかもね。

 

「それでは皆様――」

「―-時に、クローディア殿」

「むぅ……まだ何か御用が?」


 去ろうとしたオレを再び引き留めたザッハーク。

 これ以上何の用があるというのだろうか?

 はっきり言ってこっちはさっさと逃げ帰りたいんですが?


「昨晩、教皇レイリア様の元へ、〝黒の魔導師に連なる者〟を名乗る不審者が現れたようなのですが、何か存じておりませんかな?」

「馬鹿な!?」

「ま、まさか彼の者が復活を!?」

「ありえん!」

「本日教皇猊下がおられないの気を病まれていると聞いたがまさか!?」

「おそろしやおそろしや……」


 出ました、本日最大級のざわめき。

 人々の口から溢れる不安、恐怖、絶望。

 そんな中でも、ザッハークは濁った眼でまっすぐオレを睨んでいる。

 オレの心の中を探るように。

 

「まぁ恐い。あの、黒の魔導師の再来でしょうか? 最近スーサやメイジンでも魔族騒ぎがあったと聞きますし……」

「お答えを。知っているかと聞いています」

「いいえ、まったく」


 オレは笑いだしそうになる気持ちを押さえ、答える。

 ちょっと変な顔になった気もするが、果たしてザッハークの目にはどう映った事か。


「そうですか」

「えぇ、お力になれず申し訳ありません」

「これはこれは。クローディア様が謝るようなことではございませぬ」

「それもそうですね」

「……どうぞ、道中お気をつけてお帰りください。治安が良くなったとはいえ、最近は何かと物騒なようですからな。彼の魔導師を語る不届き者も現れるほどです」

「ご心配感謝いたします。それでは皆様――」


 オレはちょこん、と可愛いらしく礼をして華が咲いた様に笑った。


「ごきげんよう♪」

 

 謁見の間のどこかから感嘆にもにたため息が聞こえてくる。

 って、子ども王よ、お前かい。

 全く別種の身の危険を感じたオレは足早に謁見の間を出た。

 そのまま振り返りもせずに一気に王城の外へ。

 門を出て周囲を[マップ]で確認、追ってや不審者がいない事を確認してからオレは二人に小声で囁く。


「(ミラ、エミリー。帰って出発の準備だよ)」

「(ホッカイドね? わかったわすぐに準備を)」

「(それはもういいから)」


 まだ言っていたのかソレ。

 残念だけど、かの地はこの世界には存在しない理想郷(エルドラド)なのだよ。

 丁寧に説明して諦めるようエミリーに告げる。


「(クロ……!)」

「(涎と涙を同時に流しても無理な物は無理だから)」

「(そんなことより、クロさん)」

「(そんなことですって!?)」

「(エミリー黙ってて。何?)」

「(また何か、やったんですね? 教皇様がどうとか言っていましたが、まさかレイリアお姉ちゃんに……?)」

「(うん、バレちゃった♪)」


 オレは懐から黒い首輪を取り出して、イタズラっぽく舌を出して笑った。

 ミラは驚きながら微笑み、エミリーはニヤニヤと笑ってオレの背中をバシバシ叩く。

 ちょっと痛い。

 レイリアさんの問題はこっそり片付けたつもりだったんだけど、やっぱりザッハーク相手に一筋縄ではいかなかったらしい。


「(多分、まだ向こうもオレがやったっていう確信はないんだと思うけど)」

「(あのタイミングでの質問、確実に疑っていますわね)」

「(じゃ、ぶっ飛ばす? 今からもっかい殴り込みに行く?)」

「(行かない。というより当分無理)」


 更神(アクセス)が使えるまではまだ数日かかるし、オレ自身ちょっと今回の更神は負荷が大きかったから次の新月の夜は大人しくしていたい。

 かと言ってあんまり悠長に構えていれば、いつザッハークが乗り込んでくるか分からない。

 道中気をつけろとか脅しにしか聞こえないから。


「(というわけで、夜逃げします)」

「(はい)」

「(またなの?)」


 素直に頷いてくれたミラと違い、エミリーはうんざりといった表情を浮かべている。

 やれやれ、


「(知ってる? 北にある島国の事を北海ど――)」

「なにやってるのよ! クロ、ミラ! さっさと準備しなさい! 30秒だけ待つわ!」

「エミリーちゃん……(単純ですわ)」

「さすがエミリー! (単純だ)」


 いやぁ、エミリーも(自分の食欲に)素直で良かったよ。

 まぁ、オレは別に説明しただけであるとは言ってないんだけどね。

というわけで今回の次回更新予定報告はここにて、

次回は水曜日! よてい! みてい! Yeh!

そして次回が2章の最終話! どうなるどうなるー? それは読んでの?

おぉーたのぉーしぃーみぃー♪

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